皆さま

 

陰陽寮(おんようりょう)は、日本の律令制において中務省に属する機関の一つでした。この組織は占い、天文、時刻、暦の編纂を担当していました。

陰陽寮の構成は以下のとおりです。

1.陰陽頭(おんようのかみ)…… 陰陽寮の長官であり、陰陽寮全体を統括し、天文、暦、風雲(気象)、気色(自然観察)などを監督していました。異常発生時には極秘に記録を密封し、上奏する役割も担っていました。


2.陰陽博士…… 陰陽道の主担当者で、陰陽師を指導・養成する役割を果たしていました。

 

3.陰陽師……占いや方角の吉凶を判断する技官。定員は6名と定められていました。
 

4.天文博士……天文道の主担当者で、天文学的な観測を行い、異常があれば天文奏や天文密奏を行いました。


5.暦博士……暦の作成・編纂・管理を担当し、暦を教授していました。


6.漏刻博士……時間管理の主担当者で、水時計(漏刻)を管理し、時報を司っていました。
 

6.学生(陰陽生)と得業生(陰陽師の後任候補)…… 陰陽、天文、暦の三道を学ぶ学生と、博士職や陰陽師職の後継者として修行する得業生が学んでいました。

 

ちなみに、安倍晴明は40歳の時に陰陽師となり、51歳の時に天文博士を兼任しています。遅咲きの方です。


陰陽寮は飛鳥時代(7世紀後半)に天武天皇によって設置され、明治2年(1869年)に廃止されました。陰陽寮は日本の陰陽師の重要な組織であり、天文や暦の編纂に大きな役割を果たしていました。

 

 

山林修行者との接点

陰陽師の中には、山や森林などの自然環境での修行や実践を通じて呪術的な力を養っていた者もいました。彼らは自然の力や神秘的なエネルギーを調和させるために、自然環境での実践を重視すしました。このような陰陽師は、山林修行者としての側面を持つといえます。

6世紀前半に仏教が公式に伝来して以来、それ以前に存在していた古代氏族たちの神祇信仰と民間の山岳信仰との間で、牽引反発の力学が作用しました。

古代氏族たちの神祇信仰は精霊信仰&自然崇拝を受け継いだもので、これが後世において整備され9世紀には神道になりました。この流れは、朝廷や貴族の利害に一致する正統となりました。

一方、在野、民間の山岳信仰は7世紀後半に登場した役小角の伝説に見られるように、朝廷が脅威を感じるほどの験者がいたようです。

8世紀には中国や韓国から伝来してきた密教の行法(雑密)、仙道道教の呪術が混ざり合いながら、山岳信仰は宗教的実践のエネルギー源となっていきました。陰陽道をめざすも者の中にも、その影響があったと考えるのが妥当です。

南都六宗を中心とする奈良仏教は、精霊信仰、タマ崇拝などのアニミズム、シャーマニズムと一線を画するもので、受戒した仏教僧と山林修行者の交流は勅命によって禁止されていました。

しかし、光仁天皇(在位770-781)の世になって、10年以上の山林修行を行った者の公的な出家が認められるようになり、山林修行者が仏教僧になる道が開かれたのです。

このことは、山林修行者の体得した験力や各種の体験的知識が仏教の将来にとって有益であることを示すものであり、事実空海も若い頃、山林修行者(沙門;国家非公認の私的な僧)から密教の呪法の一種、虚空蔵菩薩求聞持法を伝授されています。

9世紀に空海や最澄によって確立された密教は、山林修行による霊的な実践的知識の裏打ちによって、旧来の仏教にとってかわるものになりました。それは密教における神仏習合の契機にもなり、日本流にアレンジされた国風密教の確立を意味していたのです。

たとえば、高野山の壇上伽藍西には御社があり、丹生明神、狩場明神など高野山土俗の神々をまつる社が建っています。

 


和歌山県 高野山 
地主神に向かって読経する専修学院の僧侶たち。これこそが神仏習合の風景である。



また、奥高野には立里荒神社(三宝荒神を祀る)があり、ここは空海が高野山に大伽藍を建立するにあたり、高野山の山の神に伽藍繁栄と密教守護を祈願して作った神社です。

 


奈良県 立里荒神社


荒神岳からの眺望

 


一方で、日本土俗のシャーマニズムは密教や修験道とも結びついて、稲荷(荼吉尼)信仰や八幡信仰の興隆にもつながっていきました。

少し話はそれますが、空海も最初は山林修行者からキャリアを形成していきました。

 

四国霊場八十八カ所は空海が修行した場所に寺院が建てられた場所もありますけれども、それよりも昔から山林修行者が行場として使っていた場所が多くを占めています。

 

四国山脈は険しい山々をいただいていますが、尾根伝いに移動した方が速く目的地へ着きます。山林修行者の活躍した場所、修行のための自然の道場があちらこちらにあったのです。

 

修験道との接点

すでに述べたように、陰陽道は、古代中国の陰陽思想に基づく日本の霊的実践であり、陰陽師がその実践を行います。

陰陽師は、自然界の力や神秘的なエネルギーを調和させるために、占いや呪術を行うのが仕事です。

彼らはまた、山や森林などの自然環境を重視し、そこで修行や実践を行うことがありましたが、これは特に修験道の行者との関連性があります。これも重要なポイントになります。
 

修験道は仏教伝来以前から存在した日本古来の山岳信仰が、密教、道教、儒教などの外来宗教の影響を受けつつ、平安時代(9世紀)に宗教的な体系となったものです。

修験道では山岳修行によって「あの世」になぞらえられた山の神霊の力を体得することによって験力を修め、その験力を持って呪術的活動を行う修験者(山伏)を中心に構成されています。

修験道の特徴は、薬草など医学・薬学的技術、金石関連技術、などの科学技術に通じる側面も持っているところに加え、神道系の鎮魂帰神の技術、道教系の修法や方術、密教系の加持祈祷術といった霊的技法が習合した教義・実践体系をもっているところにあります。

 

修験者は山神、鬼、天狗、眷属、護法、動物霊などの精霊を意のままに使役するための技法をマスターします。

たとえば、修験道の元祖とされる役小角は鬼神を使役して水をくみ、薪を採らせており、命令に従わないときには呪縛するという記述が「続日本記」には見えます。平安時代になると、修験者たちが護法童子を使役して、託宣、憑き物落とし、調伏などの修法を行いました。

中世の験者はもっぱら天狗や飯綱を使役しています。そして近世になると、伏見稲荷や金峰山から眷属のオサキを受けてきてこれを使役し、占いや憑き物落としをしたり、さらには他人にこれを憑けて障りをもたらす験者も現れました。当時使役された動物霊には、狐、蛇、狸、犬などがあります。

護法とは陰陽道でいう「式鬼」(式神)に対応する使役神霊の概念で、通常は童子のイメージでとらえられているものです。一種の想念体としてみなすことのできるものです。

役小角の前鬼、後鬼。剣の護法を使った信貴山の命蓮の剣鎧童子などがこれに含まれます。広い意味では神仏の眷属全般も含まれ、天狗(天狐)、龍神などもその分類に入ります。


また、飯綱呪法とは修験者の行う呪法の一種で、密教の荼吉尼天法が加味され、それに山岳信仰から形成された天狗修験道として体系化されたものです。

戦国時代、上杉謙信と武田信玄は共に飯綱権現を信仰していたことが知られています。飯綱権現は摩利支天、三宝荒神、地蔵、不動明王、宇賀大神などに変化して現れ、行者に仇をなすものに攻撃を加える神仏です。

飯綱使いというのは、この飯綱修験系の流れにあるもので、「管狐」、「おさき狐」などの動物霊を使役して、人に憑けたり落としたりする験者を意味する言葉です。

 

 

修験行者の使役する<狐>のイメージ

 

 

修験者の中には、自分の家で飼育していた本物の狐を伏見稲荷山まで連れて行って放ち、一定期間後に連れ戻して「霊狐」として使う者もいました。その他、自分の念を呪法によって強め、「天狐」、「地狐」として飛ばす「狐飛ばし」の術を実行する者も飯綱使いにはいたのです。

このように、修験道は近世以後、動物霊の「憑き物信仰」と強く結びついていくのです。


もう一つのポイントは、修験道が稲荷信仰=霊狐=密教の荼吉尼天のイメージ統合にも一役買っているところです。

 

稲荷-狐-化け狐-取り憑く-恐いものという連想が今でも生きているのは、一つには飯綱使いなどの験者の存在を見過ごすことはできないのです。

 

賀茂忠行、安倍晴明は、こうした山林修行者や修験道の験者の顔ももっていて、陰陽道における呪術体系を確立していった人たちだったといえるでしょう。

 

実際、現代でも四国の巫師には石鎚山系の修験の流れを汲む人々がいます。その流派にも色々とあって、中には陰陽道と習合した技法を伝えているところもあります。

 

ここまでの話を図にまとめておきます。

 

 

つまり、密教、陰陽道、修験道は、山林修行をとおして呪術的実践を積み重ねていき、それぞれの霊性の枠組みの中で「術」を発展させていったのです。

 

陰陽道は本来、天文・暦などの側面が主なのですが、日本の場合、天変地異、土地家屋と方角(方忌:方違え)、穢れ、健康などに関わる呪術が重んじられたという経緯もあります。

 

これが日本の陰陽道を考える上で見逃してはならない重要なポイントです。

 

(パート4へ続く)

 

参考文献

 

村山修一 1981 日本陰陽道史総説 塙書房

立川武蔵 1998 最澄と空海 講談社


大森崇(編) 1993 修験道の本-神と仏が融合する山界曼陀羅- 学習研究社


加藤久祚(編)1984 日本のシャマニズムとその周辺 日本放送出版協会

 

 

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