バレエ「眠れる森の美女」の豆知識をご紹介する雑学シリーズ第五弾

 

過去4回はこちらから。

 

 

 

今回は、第3幕で登場する「白い猫」のお話をご紹介します。

バレエでは、「長靴を履いた猫」のガールフレンドとして登場し、ちょっとおすましさんの白い猫。

 

オーロラ姫とデジレ王子の結婚式には、様々な童話の登場人物たちが招待されることになっています。

これは、脚本を書いたフセヴォロシスキーが、大のフランスかぶれで、このバレエをルイ14世とフランス絶対王政へ捧げる作品としたかったからです。

その結果、「赤ずきん」「シンデレラ」「長靴を履いた猫」といった童話以外からも、「美女と野獣」「ロバと王女」(カトリーヌ・ドヌーヴ主演で映画化も)「青髭」といった登場人物たちが、初演版では招待されています。

 

↓初演版の赤ずきんちゃんと狼

 

↓美女と野獣

 

↓青髭とその妻

 

「白い猫」も、そのように童話から選ばれた登場人物の1人。

ただ、有名な「長靴を履いた猫」に白い猫は登場しませんよね。

 

彼女は、その名も「白い猫(La Chatte Blanche)」という童話の主人公なのです。

作者は、「青い鳥とフロリナ王女」と同じドーノワ夫人

 

 

 

 

では、そのストーリーを見ていきましょう。

 

3人の息子をもつ国王は、自らが王位を失う日が来ることを恐れ、到底不可能な課題を与えることで、王子たちの気をそらせようとします。

最初の課題は、「1年後までに、世界で最も小さく、美しい犬を見つけてくること」

そして、課題を達成した息子へ、王位を譲ると告げます。

 

 

末の息子は、旅を続けるうち、森の奥深くの古城へ辿り着きます

扉を開けると、宙に浮かぶ燭台を持った手が、驚く王子を大広間へと導きます。

 

↓ここは、コクトーの「美女と野獣」へ影響を与えたともされる記述です。

ベルが辿り着いた野獣の城には、手の形をした燭台が沢山飾られている設定。

 

 

その大広間には、有名な猫が描かれており、「長靴を履いた猫」の姿も描かれていることになっています。

バレエで、「白い猫」が「長靴を履いた猫」とカップルで登場するのは、ここからきているのかもしれません。

更に、この古城の外壁には、様々なお伽話が描かれており、その中には、「眠れる森の美女」の一場面もあるのです。

フセヴォロシスキーは、ここから着想を得たのでしょうか。

 

さて、大広間では、言葉を話す不思議な猫たちが出迎え、音楽を披露し王子をもてなします。

そして、この城の主である「白い猫」は、たいそう美しく上品な猫でした。

王子は、猫たちの歓迎を受けて楽しい日々を過ごし、1年があっという間に過ぎてゆきます。

 

 

1年後、王子が自分の城へ戻る際、「白い猫」は、王子へ1粒のドングリを渡します。

そして、国王の前で、その実を割ると、たいそう小さく可愛らしい犬が現れます。

 

明らかに末の王子は、課題を達成したのですが、王位が惜しい国王は、2番目の課題として、「世界で最も薄いモスリンの生地」を課します。

こちらの課題も、末の王子が、白い猫の力を借りて、見事に成し遂げます。

 

3番目の課題は、「最も美しい王女を連れてくること」でした。

約束の期限がきた時、白い猫は、末の王子へ、自分を愛しているのであれば、「ある行動」をとるように告げます。

(この答えは、是非、実際の本で確かめてみてください。)

王子が従うと、白い猫の姿は、美しい王女へと変わります

驚く王子に、王女は、自分にかけられた魔法のことを説明します。

 

王女は、広大な国を治める国王の娘でしたが、王妃が、妖精の庭園から果物を盗った代償として、塔の上で妖精たちに育てられました。

ある時、通りかかった若者と恋に落ち、一緒に塔から脱出を試みますが、妖精が差し向けたドラゴンに若者は殺されてしまいます。

妖精は、醜い妖精の王様と王女を結婚させようとしますが、王女が断ると、罰として彼女を白い猫へと変えてしまいます。

そして、その魔法を解くことができる唯一の方法は、「あの若者とうり二つの男性から愛されること」でした。

 

 

バレエで登場する「白い猫」の正体、それは魔法で姿を変えられた王女様だったのですね。

どこかお高くとまって見えますが、実は愛する人を失った悲しい過去の持ち主でもあったのです。

 

↓キーロフバレエ(1982年)公演より

 

 

「白い猫」の邦訳は、「青い鳥」と同様、アンドルー・ラング世界童話集で読むことができます。

 

〇東京創元社からの邦訳 「白い猫」は、第1巻「あおいろの童話集」

 

 
〇偕成社からの邦訳 「白い猫」は、「ちゃいろの童話集」