バレエ「眠れる森の美女」の豆知識をご紹介する雑学シリーズ第四弾

 

過去3回はこちらから。

 

 

今回は、有名な「青い鳥とフロリナ王女」についての雑学です。

発表会やコンクールでも定番の「フロリナ王女のヴァリエーション」ですが、彼女がどのような人物かはご存知でしょうか?

チルチルとミチルが出てくる「青い鳥」じゃないよ、くらいは分かっていても、ストーリーは知らない方も多いかもしれません。

 

「青い鳥って元から鳥じゃないの?」

「あれって、2羽の鳥の踊りじゃないの?」

と思われている皆様、実は違います!!

 

振付は習っても、その意味まで説明されることって意外とないかもしれないバレエ界隈。

背景を知って踊れば、フロリナ王女のヴァリエーションも、また違った気持ちで踊れるかもしれません。

ということで、早速、「青い鳥とフロリナ王女」のストーリーを見ていきましょう。

 

↓パリ・オペラ座バレエ公演より 

 

「青い鳥とフロリナ王女」の原作は、ドーノワ夫人という17世紀フランスの貴婦人が書いた「妖精物語(contes de fées)」という物語集の一話である「青い鳥(L'Oiseau bleu)」

 

ちなみに、ドーノワ夫人、15歳の時に30歳のドーノワ男爵と結婚、夫が反逆者として告発され裁判沙汰、逮捕状を出されて逃亡、スパイ活動に従事した可能性もあり…と、まるで映画化できそうな経歴の持ち主です。

 
さて、その「青い鳥(L'Oiseau bleu)」のお話は…。
 
昔々、王妃を亡くした喪失感を抱えた国王がおりました。
先の王妃の忘れ形見である王女は、花の女神「フローラ」を思わせることからフロリーヌと名づけられた通り、「世界の8つの不思議」と称えられる美しさと気立ての良さで知られていました。
 
ある時、国王は、自分と同じように、夫に先立たれた女性と再婚します。
この女性にも、先の夫との間に娘がいましたが、彼女はトリュトンヌと呼ばれていました。
トリュトンヌとは、「鱈」にちなんで付けられた呼び名で、それというのも、顔中が鱈のようにそばかすに覆われ、たいそう不格好だったからです。
(原文では、トリュトンヌの容姿がいかに醜悪であるかが、具体的に記述されていますが、今の時代ではアウトなくらいです💦)
継母は、フロリーヌが、あらゆる面で自分の娘よりも優れていることが気に食わず、毎日のようにトリュトンヌと2人で彼女に嫌がらせをしますが、優しいフロリーヌは、じっと耐えていました。
 
 
ある日、シャルマン王(フランス語でチャーミングという意味)が城を訪れます。
継母は、ここぞとばかりに、フロリーヌから奪ったドレスや宝石でトリュトンヌを飾りたてますが、シャルマン王は、部屋の隅に佇むフロリーヌに一目惚れ
 
 
いら立った継母は、フロリーヌを塔へ幽閉し、シャルマン王の滞在中、2人が会えないようにしてしまいます。
更に、どうしてもフロリーヌと会いたいとせがむシャルマン王を騙し、暗闇でフロリーヌのふりをしたトリュトンヌと引き合わせ、あろうことか騙された王様は、トリュトンヌへ永遠の愛を誓ってしまいます
(あれ、バレエで度々出てくるダメ男がここにも笑)
 
 
策略が成功し、シャルマン王を手にしたトリュトンヌは、顔を隠したまま、守護妖精であるスーシオの元へ王様を連れて行き、そこで結婚を取り持ってもらおうとします。
しかし、トリュトンヌとスーシオの様子を、ダイヤモンドでできた壁越しに見てしまったシャルマン王は、自分が騙されたことを知り、結婚を拒否
スーシオは、20日間、シャルマン王を説得しようとしますが、彼が言うことを聞かないことに腹を立て、罰として7年間、青い鳥の姿でいるよう命じ、魔法をかけてしまいます
 
バレエで登場する青い鳥、それは魔法で姿を変えられたシャルマン王だったのです。
 
一方、塔へ閉じ込められて悲しみにふけるフロリーヌの元へ、青い鳥が通い詰め、愛を囁くようになります。
何年もの間、青い鳥はフロリーヌのいる窓へ宝石を運び、2人は愛を確かめ合うのでした。
 
しかし、怪しく思った継母は、フロリーヌへスパイをつけて見張らせ、青い鳥とフロリーヌが一緒に過ごしていることを突き止めます。
(原文では、けっこういちゃついていることになっております😅)
そして、青い鳥が休んでいる木の枝へ、ありとあらゆる刃物をとりつけ、青い鳥は大怪我を負ってしまい、2人は離れ離れになってしまいます。
 
原作では、ここから更に紆余曲折あるのですが、バレエで描かれているのは、まさに塔へ閉じ込められたフロリーヌの元へ青い鳥(シャルマン王)が通い続ける場面
 
愛する青い鳥がやって来るのを心待ちにしているフロリナ王女は、青い鳥のさえずりへ耳を傾け、辺りに危険がないことを確かめると、青い鳥へ歌って呼びかけます。
(原作では、「空のように青い鳥よ、今すぐ私の元へやってきて」という台詞があります。)
すると、その声に応えるように、青い鳥が王女の元へ羽ばたいてやってきます。
ここが、パ・ド・ドゥの冒頭、アダージョで表現されている部分ですね。
 
↓キーロフバレエ「眠れる森の美女」より、ナタリア・マカロワのフロリナ王女

 

 

プティパは、2人のパ・ド・ドゥを、「青い鳥がフロリナ王女へ飛び方を教え、一緒に塔から飛び出そうとする」という設定で振付しました。

フロリナ王女の振付も、塔の部屋で、王女が青い鳥が教えてくれたことを思い出しつつ、飛び方を繰り返し練習しているようにも見えます。

 

↓ボリショイバレエのリュドミラ・セメニャカによる、台詞が聞こえてきそうなフロリナ王女のヴァリエーション

 

 

そして、最後のコーダでは、フロリナ王女は青い鳥と共に大空へ羽ばたき、ついに自由の身になります。

青い鳥と一緒に、ブリゼ→アラベスク→パ・ド・シャを繰り返し、舞台を横切る箇所が、フロリナ王女が幽閉の身を解かれた様を表現しています。

 

↓ワガノワ・メソッドのお手本のようなイリーナ・コルパコワ。コーダの足さばきの美しさは必見です。

 

最近では、まるで2羽の鳥を思わせる衣装や振付も増えましたが、オリジナルでは、フロリナ王女は明確に人の姿のままで、唯一鳥を思わせる動きをするのが、コーダでのシークエンス。

背景を分かって観ると、発表会やコンクールでよく見かける踊りでも、また違った見え方ができるかもしれませんね。

 

おまけ映像で、バレエ界のレジェンド達の青い鳥

 

若き日のルドルフ・ヌレエフの青い鳥(抜粋映像)

 

キーロフバレエで、ヌレエフのライバルであったユーリー・ソロヴィヨフの青い鳥。大空へ飛び立ちそうです。

 

 

 

ちなみに、「青い鳥とフロリナ王女」の続きが気になる方は、邦訳も出版されていますので、是非一度手にとってみてください!

 

↓アンドルー・ラング世界童話集に収録されています。出版社・バージョンによって収録巻が異なるのでご注意を!

 

〇東京創元社からの邦訳 「青い鳥」は、「第3巻:みどりいろの童話集」に収録

 (Amazonでは、びっくりする価格だったので、図書館を探していただく方がいいかも)

 
〇偕成社からの邦訳 「青い鳥」は、「あかいろの童話集」に収録

 

参考HP