刑事への復讐のためニトログリセリンを持った男が刑事部屋に立て籠る「恐怖の時間」を観て | パンクフロイドのブログ

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ラピュタ阿佐ヶ谷

ミステリー劇場へ、ようこそ《2014》 より

 

製作:東宝

監督:岩内克己

脚本:山田信夫

原作:エド・マクベイン

美術:育野重一

音楽:別宮貞夫

出演:山崎努 加山雄三 星由里子 黒部進 土屋嘉男 佐田豊 志村喬 田村奈巳 小林哲子

1964年2月1日公開

 

冬の夕方、宮益署に一人の皮ジャン姿の青年・次郎(山崎努)が署内に入って行き、受付で山本刑事の所在を確かめていました。その頃、二階の刑事部屋では、山本刑事(志村喬)が、子供にせがまれたジャガーの玩具を、新婚の稲垣刑事(土屋嘉男)や、独身の新米刑事の若林(黒部進)、佐野係長(佐多豊)らに披露していました。

 

山本が部屋を出ようとした時、次郎がドアの前に立ち、「山本刑事は?」と尋ねて来ます。山本は自分だと名乗ると、いきなり拳銃を突きつけられ、部屋に押し戻されます。次郎は今朝の新聞で、恋人の圭子(田村奈巳)を撃った刑事が、山本であることを知り、その報復に警察署を訪れたのです。

 

しかし、圭子を撃ったのは目の前にいる山本伊三郎ではなく、同姓の山本和夫(加山雄三)でした。次郎は警察手帳を取り上げ、銃を突きつけている相手が、復讐する人物でないことを知ります。彼は他の刑事の拳銃を取り上げた上で、机の引き出しに鍵をかけてしまい、それぞれ警察手帳を出させて標的でないことを確認します。

 

ところが、新人の若林は若さゆえに次郎の言動に血が上り、うっかり山本和夫刑事が6時30分に帰ってくることを口走ってしまいます。次郎はしばらくの間、刑事たちを人質にして待とうとしますが、山本伊三郎は、拳銃が本物か確かめるために部屋を出ようとします。すると次郎は、ガラス瓶に入った液体を出しながら、この液体がニトログリセリンであることを明かし、刑事たちを牽制します。

 

一方、当の和夫は、妻の節子(星由里子)がつわりで調子が悪いと言うので、本庁での取り調べの後、警察病院に付き添っていました。和夫は幸せそうな若い女性を目にするたび、自分が撃った女性のことを思い気が塞ぎます。そんな夫を元気づけるように、節子は食事に誘おうとします。

 

その頃刑事部屋では、次郎が時間になっても和夫が戻って来ないことに苛立っていました。やがて、坂本刑事部長(富田仲次郎)が一人の女を引っ張って、部屋に入って来ます。次郎は拳銃を突きつけ、警察手帳で標的の人物でないことを確認します。女は売春婦のあかね(小林哲子)で組関係の人間を殺した容疑により、刑事部屋で取り調べを受ける矢先の出来事でした。

 

坂本は次郎に取り調べをする許可を取り、稲垣が書記を務めます。稲垣は調書を取るフリをしながら、刑事部屋で起きていることを書いて、次郎の隙を見て窓から用紙を投げて、外部に知らせようとします。その意図に気づいた伊三郎は、次郎に煙草を勧めて、次郎の目を逸らそうとします。その甲斐あって、稲垣は同じ内容を書いた3枚の用紙を外に投げることに成功します。

 

ちょうどその時、新聞記者の吉岡(小山田宗徳)が部屋に入って来て、今朝起きた麻薬密売に関する銃撃事件の取材を行おうとするものの、普段と違う雰囲気に包まれていることに違和感を覚え、やがて次郎の存在に気づきます。

 

その頃、和夫は節子と一緒に、夫婦水入らずの夕食を摂っていました。和夫は服を脱ごうとして、拳銃を携帯していたことに気づき、再び暗い表情になります。節子は麻薬の運び屋をしていた女性に同情しながらも、和夫が撃ったことは自分や同僚を守るための防衛であり、運悪く女性に当たったに過ぎないと弁護しますが、和夫の気持ちは晴れません。節子はケーキを買って、明日、亡くなった娘の家に焼香に行ってはどうかと取り成すものの、和夫がさっきは正しいと言ってくれたじゃないかと拗ねます。

 

一方、刑事部屋では稲垣が窓辺に立ち、落とした用紙を見ています。その用紙を酔っ払いが拾いますが、丸めて捨てて去ってしまいます。新聞記者の吉岡は、刑事を人質にして立て籠もった次郎の取材をしていました。次郎は圭子が事件とは無関係の犠牲者であることを強調し、警察に殺されたのだと主張します。

 

それに対し伊三郎は、麻薬組織のボスが彼女の関与していたことを認めていると訂正します。しかし、次郎は聴く耳を持たず、ストーブの火で部屋全体が暑くなり、ニトログリセリンも次第に変化が起きます。和夫は宮益署に戻ってくるものの、受付で今朝の事件について砂町署の黒木課長から会いたいと連絡があったと聞かされ、そのまま砂町署へと向かいます。

 

刑事部屋では電話が鳴り出し、佐野が応対します。交番の巡査が、ニトログリセリンと拳銃を持った男に占拠されたと書かれた紙を拾ったと言う人物が現れたことを報告し、その確認のために電話をかけてきたことを話します。佐野は近くで次郎が受話器から漏れる声を聴いている手前、異常はないと答えるしかありません。そうした配慮にも関わらず、警官が用紙に稲垣という署名があり、その人物の所在を確認したことから、次郎は稲垣が外部に知らせたことに気づき、銃で稲垣の顔を殴りつけます。

 

砂町署を訪れた和夫は二人の刑事に会い、麻薬密売時の射撃が緊急避難か過剰防衛かを判断するための事情聴取を受けます。和夫は、本庁でも話した事を、もう一度繰り返し話し始めます。和夫と同僚の杉山刑事が麻薬の取引場所を突きとめ、現場に向かったところ、麻薬組織が発砲してきて、杉山が負傷したため、応戦した和夫の撃った弾が、車の背後に隠れていた圭子に当たり即死したのでした。話を聞いた黒木課長(佐々木孝丸)は、和夫の発砲はやむを得ない措置と判断し彼を慰めます。

 

その頃、刑事部屋ではスクープを手に入れた吉岡記者が記事を朝刊に間に合わせようと、次郎に部屋から出してもらうよう頼みますが、聞き入れてもらえません。吉岡とあかねが部屋の暑さに文句を言い出し、ようやく次郎はニトログリセリンの変化に気づきます。

 

伊三郎は、あかねにタバコを勧めながら、坂本と目で合図をして、坂本は隙を見て部屋の電灯のスィッチを消します。一瞬部屋は暗闇に包まれるものの、次郎は何とか身を守り、何も知らずに部屋に入ってきた秋山刑事(山本廉)を人質に加えます。ところが、続けて入って来た石崎刑事(山田彰)に慌てて、発砲し怪我を負わせてしまいます。

 

佐野は拳銃の発砲した音に駆けつけた警官を、暴発があったが、怪我人はなかったと言いくるめ、引上げさせます。刑事たちは負傷した石崎を医者に見せるよう頼みますが、次郎は聞き入れません。次郎が和夫と連絡を取る方法はないかと思案していた時、刑事部屋の電話が鳴ります。電話をかけてきたのは、夫の帰りが遅いのを心配した和夫の妻節子でした・・・。

 

本作は2014年と2019年にラピュタ阿佐ヶ谷で鑑賞したものの、記事にする機会を逸していました。良作にも関わらず長い間ほったらかしにしていたこともあって、そろそろこの辺りで記事にしておかないとまずいと思い紹介した次第です。立て籠もり事件を扱った点では、同じ東宝作品の黒沢年男主演の「死ぬにはまだ早い」の先駆けと言えるかもしれません。

 

ほぼ警察署内の一室で進行されるため、限定された空間の中で、籠城した男と刑事の間で様々な駆け引きが試みられ、そのことが映画を面白くしています。特に刑事たちの連携プレイによって、相手の注意を逸らすあたりが見どころとなります。しかも、刑事部屋には刑事だけが出入りするわけではなく、新聞記者や容疑者も入ってくるため、次郎も刑事たちも不測の事態に対応する羽目になり、更に緊張感が高まります。

 

物語を更に活性させているのが売春婦のあかねを演じる小林哲子で、次郎や刑事たちをイラつかせる言動をして、不穏な空気がより増してきます。その一方で、彼女を逮捕した坂本刑事部長役の富田仲次郎がいい味を出しており、この二人がコンビとなって、場の緊張感を和らげる役割も果たしています。坂本が次郎のことを“若旦那”と呼ぶのも、さり気ないおかしみがあります。また、最初に人質となる刑事を4人にしたのも絶妙で、各刑事のキャラクターをある程度観客に浸透させた上で、次第に人質を増やしていく形にしています。

 

一方標的となる山本和夫は蚊帳の外に置かれた感じで、せっかく加山雄三が演じているのに、もったいない使われ方のような気がしないでもありません。ただし、『若大将』シリーズの能天気な加山のキャラクターを活かし、籠城事件が一段落した後に、何も知らないまま発砲が不問に付された件を係長に報告するのは微笑を誘い、同僚たちが彼に何事もなかったかのように振る舞うのも、物語の締めとしては心地よく感じられました。

 

岩内克己は私には馴染みのない監督ですが、非常にサスペンス溢れる密室劇を演出しており、量が質を生むプログラムピクチャーの良い面が表れています。これだけ質の高い作品に映画化されているならば、原作者のエド・マクベインも本望でしょう。