レトロショップ成穂堂ケンの苦悩と爆笑の日々 -527ページ目

アーネストボレル

カードを買いに来ていたちびっこ達も帰り、

本の整理の方も一段落ついた。

よしっ、おいら一眠りするぜ、とニンマリした所に、

「居るかえ?」と店入り口から聞き覚えのある声がした。

師匠ですな、あの言い回しは。

僕は間の抜けた声で「あ~い」と、返事をした。

事務所のドアを開けながら、

「あれっ、今、寝ようとしてたんちゃう? 技は見て盗めと言ったけど、昼寝を盗んだか」

と、高笑いをしている。

あかんがな、正味、寝損ねた。

師匠が「ちょっとばかり、本と面白いものが、入ってん。本はあとで取りにおいで」

と言って、ポケットから腕時計を取り出した。

「分かるかえ?」

僕は、その腕時計を受け取って、

上げたり下げたり、透かしたりしてみたが、分からない。

「ファンシーショップで売っているような腕時計にみえますわ。

ん~、それにしては凝ってますね」

「30年以上前のものや。スイス製のアーネストボレルという時計や」

僕は頷いた。

「花びらが無限に広がっていっているように見えるやろ。

で、花びらの先端にいくつもの光る石があるやろ」

再び、ボクは頷いた。

「ダイヤモンドや」と、師匠が言った。


花びらのよなものは開きながら、くるくる円を描いて動いているようにみえる。キラキラとほんとにきれい。
疾走する古本屋!成穂堂〔なるほどう〕店主の苦悩と爆笑の日々-アーネスト1


裏面はこのようにスケルトンになっている
疾走する古本屋!成穂堂〔なるほどう〕店主の苦悩と爆笑の日々-アーネスト2


「おお~」と、僕は驚いた。

「ウソやがな。そんな奇妙に光るダイヤあらへん」

「ほな、何ですの?」

「あはは、石なんて入ってへん。よう見てみ」

僕は宝石屋が使うようなルーペで時計盤をのぞき込んだ。

ガラス面自体に整然と丸く小さな凹をつけて、

それがきれいな円を描いている。

そして、花びらの先端が凹に収まるように細工してある。

それが一瞬大きく映し出されて、きれいに光るのである。

なんと緻密な工作だろう。

師匠は笑いながら

「まあ、色々勉強しなはれ」

「はい、きばります」

「その腕時計、好きにさばいてええで。小遣い程度にはなるわ。

ほな、ご機嫌さん」

いつもふらっときて、何かしら商売のヒントをくれる師匠。

やはり、追いつけるような人ではない。

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