レトロショップ成穂堂ケンの苦悩と爆笑の日々 -525ページ目

成穂堂閑話~プルプルッ症候群~

唐突にそれはやってきた。

「根(コン)がつまる」という言えばいいのだろうか?

同じ作業を続けていると、プルプルッと身震いするあれである。

機嫌よくパソコンでの作業をしていると

そのプルプルッがやってきた。

この所、疲れてくると、なぜかプルプルッとなってくる。

少し休憩をとろうと思って、寝転がったが治まらない。

結局、半日ほど疲れ果てたまま仕事をした。

去年も同じような時期に同じような事が続き、

体がすっきりするのに1ヶ月近くかかったような気がする。

結局、疲労である。

去年の二の舞は踏むまいと、少しゆっくりするようにしている。


そんな風に店でダラダラとしていたら、

「こんにちは」と張りのある女性の声がした。

よく本を譲っていただく方だ。

今日もダンボールに3箱ほど本を詰めて持って来られていた。

「電話を頂ければ伺いますのに」と言ったら

「適度な運動をするほうがいいのよ」

と、大きな目を優しく細めて女性は言った。

初老と言うには失礼だ。ご職業は小児科医である。

「この間から体がだるくて、しゃあないんです」

と、僕はダンボールを店内に入れながら言った。

女医さんは「梅雨時期の湿度の高さで体が参るのよねえ」と。

「僕はお医者にセロトニンが不足しているって言われましたよ」

と言ったら、

「全然、そういうタイプにはみえないわねえ」と大笑いされた。

「いやいや、ほんとなんですよ。結構、細やかな神経をしておりまして・・・」

「セロトニンと言うのはね、過度にストレスが溜まったり、

睡眠時間帯がおかしかったりすると、不足してくるのよねえ」

「僕は、その睡眠時間帯に問題があるんですよねえ」

と、困った顔をした。

「じゃあ、ちゃんと寝なきゃ」と言って、女医さんは笑った。

そして、少しお話してあげるからメモを取りなさいと言った。

僕は女医さんに事務所に入ってもらって、メモを用意した。

まるで、出来の悪い生徒が先生に懇々と諭されているような感じだ。

以下、メモを元に書いた。

「セロトニンの元になる『トリプトファン』というのがあるのよね。

この『トリプトファン』がほう線核に入らない限り、セロトニンは生まれないのよ。

でもね『トリプトファン』は、体内では作られないの」

僕は分かった風に「ほぅ」と言った。

「じゃあ、どうするかっていうと食物から、摂るしかないのよね。

『トリプトファン』だけでは、『セロトニン』は生成されないの。

『ビタミンB6』が必要なのよ。この二つが合成されて『セロトニン』になるの」

何だか難しい話になってきた。

もう僕には何の事だか訳が分からない。

「わっかりました」と、僕はメモを置いて

元気はつらつオロナミンという感じで言ってみた。

「適当に頷かないの。じゃあ、メモをとって」と言って、女医さんは続けた。


お~い、今までのはよかったんかい。必死で書いたじゃないか!


「感単に言うとね。

赤身の魚、肉類、乳製品、香辛料をうまく組み合わせて食べるといいの。

例えば、カツオ、マグロ赤身、牛肉赤身、牛レバー。豚肉も良いわよ。

お豆腐にショウガをのせて食べるとか」

最初から簡単に言ってくれよと、僕は心の中で呟いた。

それからウォーキングをしなさいと、いう事だった。

一定のリズムで歩くと、

それが心地よい刺激として脳に伝わるのだそうだ。

仕事場で動けない場合は適度に手足を動かしたり

首をゆっくりまわすのもいいらしい。

意識して腹式呼吸をしなさいと。

色々な方法があるものだ。

女医さんは

「まず、生活のリズムをちゃんと考えないとだめよ。ちゃんとメモとったわね」

と、言って出て行こうとした。

僕は「有難うございました。あの、買取り代金をだしますから」と言ったが

振り向かず、「またね」と言って帰っていた。

僕は毎度、適当に代金を封筒に入れて置いておく。

初めて、女医さん宅に伺った時に、

必要とする方に渡っていけばそれでよいとおっしゃった。

以来、ついでだからと言っては、本を持ってきて下さる。

どちらかと言えば、僕の方が無理に代金を渡しているといった感じだ。


僕の店には、おかしな人々が、当たり前のようにやってきて、

応接セットもない狭苦しい事務所で、一時を過ごしていく。

商売を超えたいい時間が流れる。

いやあ、古本屋ってほんとにいいですねえ。

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