米軍は,第二次世界大戦末期の昭和20年(1945)8月6日に広島,9日に長崎に原子爆弾を投下し,両都市は原爆の爆発とその後の火災で壊滅状態となり,大量の死傷者を出した。その戦争による歴史的悲劇から79年。9日の「原爆の日」には,長崎市の平和公園では,長崎原爆犠牲者慰霊平和祈念式典が営まれた。同式典には,被爆者や遺族ら約3100人が集まり,平和への祈りを捧げた。式典では、7月末までの1年間に死亡が確認された3200人の名前を記した原爆死没者名簿3冊が奉安され,名簿は合計で203冊となり、死没者は累計19万8785人となった。

また,式典には,岸田首相のほか,国連の中満泉事務次長・軍縮担当上級代表らが出席し,核保有国の米中英仏など,過去最多となる約100か国の代表約2300人が参列したが,長崎市がイスラエルを招待しなかったことをきっかけに,先進7か国(G7)のうち,日本を除く6か国(米英独仏伊カナダ)及び欧州連合(EU)の大使が欠席するという異例の事態で波紋を広げそうだ。なお,ロシアとベラルーシは3年連続で招待されていなかった。

現地で取材したジャーナリストは,「長崎市長(鈴木史朗)は,アメリカやイギリスなど6か国とEU=ヨーロッパ連合の大使らによるイスラエル不招待への抗議の書簡の存在を明らかにするとともに,『政治的な理由で招待しないのではなく,あくまでも平穏で厳粛な雰囲気の下で式典を円滑に実施したいというのが理由だが,その真意が十分に伝わっていない』と語り,引き続き関係各国に理由を説明していく方針とのことである。ロシアによるウクライナ侵攻が長期化し,中東情勢が緊迫する中,パリオリンピック同様,一方だけを招待するということはダブルスタンダードではないかとの思いもあるのだろうか。市長にイスラエルを排除しようなどというお考えは全くないであろうが,欧米各国の歴史的な観点からみれば,今回の市長の判断はかつてナチスの同盟国であった日本による『反ユダヤ主義』とも受け取られかねない非常に難しい対応であったように思う。日本は唯一の被爆国で,最初で最後の被爆国でなければならない。そのような思いから『核兵器廃絶』を世界に発信したかったのだろうが,今回の対応を国際社会に理解してもらうにはまだまだ時間がかかりそうだ。個人的には招待国をそもそも選択するのではなく,世界中の国々の代表に参列してもらってはいかがだろうか。特に核保有国や戦争当事国,紛争地域の国々の代表にこそ,被爆地である『広島』や『長崎』を実際にその目で見てもらうことで,核兵器の危険や悲劇,人類の愚かさを実感してもらえれば,人類共通の願いである核兵器のない平和で安全な世界の実現に向けて一歩近づけるのではないだろうか」と語った。

来年は広島,長崎に原爆が投下されてから80年となる。歴史的に見れば,まだ80年である。広島,長崎の被爆者は今も後遺症に苦しめられており,その人たちにとっての戦争はいまだに終わっていない。私たちは絶対に広島,長崎のような残酷な悲劇を繰り返させてはならない。