先月22日,インドとパキスタンの両国が領有権を争うカシミール地方で発生した観光客襲撃事件で,インド人25人とネパール人1人が死亡したことを発端に,両国が互いを痛烈に非難する展開となっている。1947年にインドとパキスタンが分離してイギリスから独立して以降,カシミール地方はインド,パキスタン及び中国により実効支配されているが,インド,パキスタン両国はどちらも互いにカシミール全域の領有権を主張して,これまで2度の戦争と限定的な紛争を繰り返してきた。インドとパキスタンは共に核保有国で,同事件にはパキスタンを拠点とするイスラム過激派ラシュカレ・タイバの分派組織である抵抗戦線が関与したと報じられている
インド・ニューデリー在住の日本人ジャーナリストは,「インド実効支配地域へのインド人観光客が年々増加していることで,カシミール地方でのインドの影響力が拡大するのを阻止するため,イスラム系過激派が今回のテロ事件を起こしたのだろう。背景には、ヒンディー教とムスリム(イスラム教)の深刻な宗教対立もある。パキスタンはテロ事件への関与を否定しているが,インド国内ではテロ組織と関係のあるパキスタンに対する国民の憎悪が膨らんでいるように思える。このため,インド政府としては戦争にまで発展させる意図はないものの,世論を無視することはできず,ある程度の報復は行わなければならなかったということだろう。インド政府は『シンドール作戦』を開始したと発表し,7日にはパキスタン国内及び同国と領有権を争うカシミール地方のパキスタン支配地域の計9カ所を攻撃した。『シンドール』とは既婚女性が額や髪に塗る赤い粉で,今回のテロ事件で未亡人となった女性の思いを込めた作戦名だろう。これに対して,パキスタンは『主権の侵害』などと猛反発し,報復を宣言している。両国の報復の連鎖が繰り返えされることになれば,紛争地域も拡大し,また多くの市民が犠牲になることだろう。イギリスを仲介国として期待する声も多くなっているが,先行き不透明な状況で今のところ打開策が全く見えていない」と,核保有国であるインドとパキスタンによる軍事的緊張の高まりに緊迫した状況を語る。
インド政府は,「我々の行動は,焦点を絞り,計算された,事態をエスカレートさせない性質のものだ。パキスタンの軍事施設は標的にしていない。インドは標的の選択と実行方法において,かなりの自制を示している」と発表している。
一方,パキスタン政府は,「インドが民間人が暮らす地域を攻撃している」とし,「テロリストの拠点を標的にしたとするインド側の主張は虚偽だ」と主張し,「「犠牲者が流した血の一滴一滴のために我々は復讐する」と報復宣言している。
カシミール地方での報復の連鎖により,大規模紛争に拡大する可能性が高くなっている。国際連合がその機能を十分に果たせない今,共に核保有国であるインドとパキスタンの自制に期待するしかないのだろうか。