IT企業のPR -14ページ目

米HSBCの取り組みから見るブランドジャーナリズムの事例

David Meerman Scottのブログで、世界規模で展開している銀行・金融サービス会社の米HSBCが取り組みを始めたブランドジャーナリズムの事例が紹介されていました。ブランドジャーナリズムとは、企業自らがメディアのような役割を持って、読者の立場にたった価値のあるコンテンツを発信していく取り組みを言います。

つい先月、米HSBCでは、海外市場へのビジネス展開を検討している米国企業を対象にして、海外でのビジネス慣習や海外展開で気をつけなければいけない点など、海外市場でのビジネス展開に関して専門的な知見や情報を提供する英語サイト「BUSINESS without BORDERS」をたちあげました。コンテンツをみると分かる通り、まさにブランドジャーナリズムを実践するサイトです。そのサイトのタイトルを訳したとしたら「国境なきビジネス」であり、そのネーミングでこのサイトがどんな情報を提供することに主眼を置いているか分かります。

このサイトでは登録なしで見られるコンテンツと、登録して見れるようになるコンテンツがあり、実際にいくつかコンテンツを見てみましたが、海外市場の専門家による知見や、最新のリサーチ情報など、まさに海外市場でのビジネス展開を検討している企業が必要とするであろうコンテンツをふんだんに提供しています。それらのコンテンツの中では、HSBCの自社サービスについては、ほとんど触れられていなくて、あくまでも企業の海外展開で役立つ情報を首尾一貫して提供していました。例えば、SASのCEOのビデオインタビューが紹介されていましたが、その中では、SASがこれまでどのようにして海外展開を行ってきたのが、スタートアップ企業はどんなどころに気をつけてビジネス展開を拡大していったらいいのかなどの体験が語られていました。

IT企業のPR


もし、私が海外市場への展開を考えている立場だとしたら、このサイトのコンテンツをみる限り、HSBCが提供するサービスを知らなくても、これほど企業の海外展開の知見をふんだんに提供していれば、HSBCは海外展開のエキスパートであるという信頼をすることができ、ここに相談してみようという気になると思います。頭ごなしに自社のことを語るのではなく、相手が必要としているであろう情報を相手の立場にたって提供していくブランドジャーナリズムがますます注目されていくと思います。


記者が記事を書きやすくするには

記者の方と記事の書きやすさについて話をする機会がありました。先日この記者に私が担当するクライアントのスポークスパーソンとの個別インタビュー取材をお願いしたのですが、当初記者が期待していたような情報が得られず、今回は記事として書けないと言われてしまいました。

広報のコンサルタントして、もっと事前にスポークスパーソンに取材時に気をつけるポイントをブリーフィングしておけばよかったと悔やまれます。反省の意味を込めて、基本的なことではありますが、記者が記事を書きやすくするには、スポークスパーソンがどのようなお話をしたらいいのか確認したいと思います。

企業のスポークスパーソンが記者にお話をする機会は、大きく分けて基本的に二通りの機会があります。一つ目は企業として大きな発表案件があるとき(例えば、新製品・サービスの発表や決算発表など)です。この時は、記者や読者の興味は、その企業が発表する製品やサービス、戦略などにあるので、そのままストレートに企業自身の発表内容や戦略を率直にお話することが好まれます。

二つ目は、今回設定した取材のように特に大きな発表案件があるわけではなく、海外から重役レベルの偉い人が来日したときや、最近の状況をアップデートするためにインタビューを設定する場合です。この時は、記者や読書の興味は、その企業自身というよりは、基本的に一般的なテーマ(例えば技術動向やノウハウ、市場動向)に関心をもっているので、一般的なテーマに基づいた話を中心にして、そのうえで「だから弊社はXXの技術開発をすすめている」とか「だから弊社は○○戦略をとっている」といった形で説明したほうが、記事を書きやすくなります。

今回、ある分野の専門家として取材を設定したのですが、そのスポークスパーソンから説明する内容が最初から自社の戦略、製品やサービスのお話に終始してしまい、その分野における一般的な課題や市場動向の説明がなく、自社製品のセールストークになってしまいました。記者に感想を聞くと、現場での課題、問題点をしっかり説明したうえで、実はこうした市場の課題を解決する製品をもっていますと、自社の製品・サービスにフォーカスしない形で説明したほうが、記事を書きやすくなると言われていました。

もちろんすべてがそうだとは限りませんが、お互いに大事な時間を割いて取材の場を設定しているので、お互いがハッピーになるように準備を整えて取材に臨む大切さを改めて実感しました。




ブランドジャーナリズムの実践が求められる時代

以前もブログに書きましたが、企業自らがメディアのような役割を持って、読者の立場にたった価値のあるコンテンツを発信していく取り組みをブランドジャーナリズムと言います。スマートフォンやソーシャルネットワークなどを通じて、人々が共感する情報がシェアされる習慣が今後更に根づいていくにつれて、企業は従来のマスメディアを通じた情報伝達だけでなく、自らがメディアとなって情報の受け手にとって価値のある情報を発信していくブランドジャーナリズムを実践していかないと、人々に情報を届けることが難しくなりつつあると言えます。

ブランドジャーナリズムを実践するには、企業内のエンジニアや最前線で顧客に接している営業担当の方など、顧客の課題や現場をよく知っている社員にお願いしてコンテンツを作ってもらうのが一番良いのですが、どうしても自社の売りこみのようなメッセージが全面にでてしまい、読者が求めている情報を提供できていないケースが多いのではないかと思います。

記者と同じようなマインドで、業界のトレンド、現場での課題などをしっかり踏まえて、自社のことはできるだけ客観的に分析しながら、読者や業界全体にとって価値のあるコンテンツを作り出すことができるメンバーを社内で探し出して編集チームを作ることが大切だと思われます。読者は敏感に宣伝色のあるコンテンツを見極めるので、「読者に役立ててもらいたい」という誠実な心で良いことも悪いことも客観的に伝えるコンテンツを作り出すことが求められます。

業界全体のトレンドを語るなかで、当然競合の動きについても触れることになるので、社内からそんなことしたら「敵に塩を送る」ことにならないかという声もあがると思いますが、読者にとっては必要な情報であり、それをあえてすることで読者からの信頼を得ることができるのだ思います。

また、社内の中でどうしても記者のような視点でコンテンツを作れる人材を見つけられないというケースもあると思います。社内で見つけられない場合は、例えば、David Meerman Scottが勧めているように、マスメディアで働いていたジャーナリストを企業内に雇って、専属でコンテンツを作ってもらう方法があってもいいと思います。または、米国のシスコが実践しているように、社内の中にジャーナリストを雇わなくても、マスメディア出身のフリーランスライターなどで構成される編集チームを作り、それぞれがシスコに関連するトレンドや業界動向などについて寄稿する取り組みを行っています。企業がお金を払ってフリーランスライターに依頼をすることで客観性がなくなるのではないかという議論もあると思いますが、客観性があるかないかは読者側で判断できると思いますし、逆に客観性がなかったら企業のブランドジャーナリズムの取り組みは失敗してしまうと思います。

これまでメッセージをいかにしてコントロールするかということに専念してきた企業にとって、ブランドジャーナリズムに求められるような透明性のある情報提供は非常にハードルが高いと思いますが、個人でコンテンツを発信している人が実感しているように、読者にとって価値のあるコンテンツを生み出していかないと見向きもされません。企業も遅かれ早かれこのような体制を整えてコンテンツを発信していかないと、相手にされなくなる時代が来ていると感じています。