インフルエンザ流行期においては、インフルエンザが強く疑われる場合を除き、できる限り季節性インフルエンザと新型コロナウイルス感染症COVID-19)の両方の検査を行うべき──。厚生労働省の新型コロナウイルス感染症対策推進本部が2020年10月2日に公開した「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)病原体検査の指針(第1版)」では、インフルエンザ流行期に実施するインフルエンザ・COVID-19の各検査方法と使用する検体について方針を示している(表1)。

 

 同指針では、鼻咽頭ぬぐい液検体および唾液検体に加えて、鼻腔ぬぐい液についてもCOVID-19のPCR検査および抗原検査の検体として使用可能とする方針を示している(関連記事)。これを踏まえて、インフルエンザ流行期に鼻咽頭ぬぐい液または鼻腔ぬぐい液を採取する場合は、季節性インフルエンザの抗原定性検査と、COVID-19のPCR検査および抗原検査(定性・定量)をそれぞれ行うことを推奨している。

 鼻腔ぬぐい液は、医療従事者の管理下であれば患者が自己採取できる。医療従事者が飛沫に曝露するリスクは限定的であり、サージカルマスクと手袋を装着すれば感染防護が可能となる。一方、鼻咽頭ぬぐい液は医療従事者が採取する必要があり、その際に医療従事者の曝露リスクが高い。このため、サージカルマスクと手袋に加えて、フェイスガードやガウンなどによる厳重な感染防護が必須となる(表2)。

鼻咽頭ぬぐい液または鼻腔ぬぐい液を用いる検査のうち、抗原定性検査は大規模な検査機器を必要としないため、場所を選ばず実施可能であり、短時間で結果を得られる。ただし、無症状者への抗原定性検査は推奨されていない。また、抗原定性検査によるCOVID-19の確定診断が可能なのは、発症2~9日目の有症状者に限られる(関連記事)。発症10日目以降の患者が抗原定性検査で陰性と判定された場合、確定診断のためには追加でPCR検査を行う必要がある。

 こうした背景から、同指針の公開に際して厚労省が発出した事務連絡では、「抗原定性検査はインフルエンザ流行期における発熱患者などへの検査に有効である」と指摘している。その上で、各医療機関における迅速かつスムーズな診療につなげるため、抗原定性検査の簡易検査キットを最大限活用した検査体制の整備を求めている。

 一方、鼻かみ液・唾液を採取する場合は、インフルエンザの検査としては鼻かみ液による抗原定性検査、COVID-19の検査には唾液によるPCR検査または抗原定量検査を実施する。鼻かみ液および唾液は、鼻腔ぬぐい液と同様に患者自身が採取可能なため、医療従事者の曝露は限定的であり、サージカルマスクと手袋による感染防護が可能だ。

 ただし指針では、PCR検査を実施する場合、結果を得るのに数日を要すること、COVID-19のPCR検査キャパシティーを消費することを指摘している。なお、唾液検体を用いたCOVID-19の検査として、抗原定性検査、および発症10日目以降の有症状者に対するPCR検査・抗原定量検査は推奨されていない(関連記事)。また、鼻かみ液をCOVID-19の検査に使用することはできない。

同時検査が原則も、流行状況によりインフル検査を先に実施

 指針ではインフルエンザ流行期の対応として、インフルエンザが強く疑われる場合を除いて、季節性インフルエンザとCOVID-19の両方の検査を行うことを推奨している。ただし、COVID-19の検査体制が限られていることを踏まえ、流行状況によっては先にインフルエンザの検査を行い、陽性であればインフルエンザの治療を行って経過を見ることも考えられるとしている。

 この方針は、日本感染症学会が8月に公開した提言「今冬のインフルエンザとCOVID-19に備えて」に基づくもの(関連記事12)。この提言では、インフルエンザとCOVID-19の鑑別が必要な患者に対する外来診療検査のフローチャートを示している(図1)。

 

インフルエンザにおける突然の高熱発症、COVID-19における味覚障害といった特徴的な症状がない場合、臨床症状のみでインフルエンザとCOVID-19を鑑別することは難しい。このような場合、インフルエンザとCOVID-19の両方の検査を実施し、それぞれの陽性・陰性を踏まえて治療選択を行う。なおこの際、検体はなるべく同時に採取する。

 インフルエンザ患者との接触がある患者や、突然の発熱、筋肉痛などのインフルエンザを強く疑う症状を呈する患者には、鼻咽頭ぬぐい液、鼻かみ液、鼻腔(鼻前庭)ぬぐい液のいずれかを用いた抗原定性検査で、インフルエンザの診断を行う。インフルエンザの抗原定性検査キットと比べて、COVID-19の簡易検査キットの供給量は限られることから、インフルエンザ流行期でCOVID-19の流行レベルが低ければ、鑑別が難しい場合もインフルエンザ検査を先に実施し、必要に応じてインフルエンザの治療を進めることが想定される。

 一方、COVID-19の流行レベルが高い場合、COVID-19患者との接触がある場合、嗅覚・味覚障害などのCOVID-19に特徴的な症状を呈している場合には、鼻咽頭ぬぐい液、唾液、鼻腔ぬぐい液のいずれかを用いた抗原検査(定性・定量)またはPCR検査を実施し、COVID-19の診断を行う。