19人が外来受診、うち6人がリハビリ実施
開設から1年5カ月の間に運転外来を受診したのは19人。平均年齢は81.1歳で、男性15人女性が3人だった。運転免許更新時に「第一分類」と判定された人だけではなく、「テレビで外来開設を知り、家族が気になって受診させるケースも多い」(朴氏)。このうち、リハビリを受けたのは6人。平均年齢は80.8歳、リハビリ前のMMSEは21~25点、ACE-Rは53~74点で、4週間のリハビリの結果、全例で認知機能と運転機能の改善が見られ、運転する際の心構えが変化したケースも多く観察された(表1)。「自己の運転能力を客観的に知ることで、『急発進や急ブレーキの回数が減った』『スピードを出さなくなった』『標識に気が付くようになった』など、運転態度を見直すきっかけにもなるようだ」とリハビリテーション部副部長で理学療法士の沖田学氏は説明する。
自動車運転外来のリハビリテーションを担当するチーム。左からリハビリテーション部主任の佐藤誠氏、副部長の沖田学氏、鎌倉航平氏。
表1 運転リハビリテーション実施前後のインタビュー結果(提供:愛宕病院)
朴氏は現在、本田技研と連携して高齢者の運転中のデータを収集している。認知機能検査やドライブシミュレーターの結果との関連性について研究するためだ。「今後、実車とドライブシミュレーターの相違点・類似点を明らかにした上で、より効果的なリハビリメニューを検討していきたい」と朴氏は話す。
問題は、認知機能の低下だけでは保険上、リハビリが認められないこと。これまで同病院の運転外来でリハビリを受けた患者は、いずれも脳梗塞や末梢神経障害、廃用症候群といった病名が付いていたからこそリハビリを実施できたという事情がある。朴氏は今後データを収集し、軽度認知障害を対象にしたリハビリが保険適用されるよう活動していきたい考えだ。
白質病変をリハビリメニュー決定のキモに
写真 MRI画像における白質病変
白質病変とは大脳白質内にある隙間のことであり、MRI画像では高信号域(矢印)を示す。(提供:朴氏)
愛宕病院でリハビリのメニューを考える際に、ポイントとなるのが大脳の白質病変の状態だ(写真)。白質病変は大脳に起こる虚血性の変化で、認知障害や感情障害との関連性が多く報告されている。
朴氏は2013年に、脳ドックを受けた健常者21~87歳までの3930人のデータから、白質病変がある人はない人と比べ、交差点での交通事故を起こすリスクが3.35倍高くなることを報告。さらに朴は、白質病変や脳萎縮などの所見がある部位別に、どのような危険運転をする傾向があるかについても明らかにしている。例えば空間認知に関わる頭頂葉の働きが低下すると、アクセル・ブレーキの踏み間違いや車線変更時の衝突事故を起こしやすいこと、見たもののパターンを認知する側頭葉の機能が低下するととっさの認知ができないこと、判断や遂行機能、抑制などに関わる前頭葉の機能が低下すると無謀や乱暴な運転につながる可能性があること、などの傾向があるという。また、「白質病変のある人が免許センターなどで実車すると、病変がない人と比べ、一旦停止無視などの危険運転行動が多く、試験監督官からの運転評価も低かった」と朴氏は話している。