★1957年リンカーン 縦目の恐竜 ~ 自動車カタログ棚から 236  | ポルシェ356Aカレラ

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1985年の日航機墜落事故から今日で丸29年です。つい昨日のことのように感じるのですが時が経つのは本当に早いものです。
東京は台風が過ぎたと思ったら、また猛暑、と思ったら今日は雨が降ったあと夜になって急に涼しい風が吹いています。今週はお盆休みというところも多いようで道路も電車もいつになく空いています。私はお盆休みはないのですが、通勤電車が空いているのはありがたいです。

今回の「自動車カタログ棚から」は日本人には夢の存在だった1950年代のアメ車「リンカーン」です。
自動車歴史研究の第一人者だった五十嵐平達氏の著書「リンカーン」(二玄社1971年発行)の記述を参考にサクっと記事にしておきます(>_<)
 



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★リンカーンの歴史は1917年(大正6年)に遡り、既に100年近い時を刻んで現在も存続している車名である。キャデラックと共にリンカーンはアメリカを代表する高級車としての長い歴史を持つ。
今回は1956年(昭和31年)~1957年(昭和32年)のリンカーンをご紹介。



●1957年 リンカーン4ドアHT 雑誌広告
全長6m弱、横幅2mを超える巨体にギラギラ輝くクロームに囲まれた縦目デュアルヘッドライトと尖ったテールフィンが特徴の57年型。日本車の4ドアHTの誕生は15年も後の1972年230セドリック/グロリアまで待たねばならなかった。1957年当時、この派手で巨大な赤い4ドアHTというセンスは普通の日本人には想像も出来ない夢の世界のクルマであっただろう。

広告赤


●1956年 リンカーン4ドアセダン 写真
ニュー・エンパイア・モータース輸入した国内登録車の珍しい写真(モーターファン「自動車図鑑1956年版」より)。五十嵐平達氏の著書によれば、東京ではスウェーデン大使公用車の黒塗りの56年型リンカーン・プレミア4ドアセダンが見られたとのことで、この写真も黒塗りの4ドアセダンだが地区名なしの普通の都内登録の3ナンバーが付いており外交官ナンバーではないので別の車両だろう。
56年黒写真


1956年(昭和31年)型 リンカーンは戦後3度目のフルモデルチェンジとなり、1955年(昭和30年)に公開されたショーカー「リンカーン・フューチュラ」をアイドルとする未来的とも言えるスタイリングデザインに生まれ変わった。
シリーズはカプリと新設された上位グレードのプレミアの2つ、ボディは4ドアセダン、2ドアHT、2ドアコンパーチブルの3種が造られた。エンジンは6リッター(368 cu in)V8の285馬力でこの年、軒並み300馬力以上が用意されたGMやクライスラーの上位車種には及ばなかった。ボディカラーは明るい色が多くなり、ルーフを白系としたツートンカラーが標準となった。1956年型ではリンカーンを含むフォード系各車が一斉に電装系を12Vとしたほか、室内の衝撃吸収パッドやすり鉢型ステアリングなど安全装備が強化された。ライバル・キャデラックとは異なる都会的なセンスを持ったリンカーン1956年型は47670台(月販4000台前後)が売れ、アメリカ車中のシェア0.84%を得てリンカーン最良の年となった。それでも年産10万台と言われたキャデラックの半分にも届かなかった。

1955年 リンカーン・フューチュラ (1955 LINCOLN FUTURA)
1955年1月のシカゴショーでデビューしたフューチュラ。ボディデザインは当時リンカーン・マーキュリー・ディビジョンのチーフ・スタイリストであったウィリアム・M・シュミット。ボディ製作は伊トリノのカロッツェリア・ギア。デビューから10年以上を経た1966年にバットモービル(バットマンカー)として蘇ったことでも有名。上掲の1956年リンカーンの写真と比べるとヘッドライトやグリル周辺の造形など1956年型リンカーンのスタイリングに影響していることが判る。なお、FUTURAとはラテン語で未来の意味。このクルマは人気がありアルプス製のブリキ玩具やレベル製のプラモデルもリアルタイムに造られた。
フューチュラカラー



1957年(昭和32年)型 リンカーンはマイナーチェンジだが、1955年5月にフォード社初のスタイリング担当副社長に就任したジョージ・ウォーカーの影響で大胆な縦デュアルヘッドライトと尖ったテールフィンを持つ派手なスタイリングデザインとなった。マイチェンとはいえ、前後の印象が大きく変わりビッグマイナーチェンジと言えた。
ボディは新たに4ドアHT「Landau」が追加され計4種となった。エンジンは圧縮比を10:1まで高め遂に300馬力を超えた。派手に装いを変えた1957年型リンカーンだったが、生産は37426台に止まり、シェアは0.61%に落ちた。一つにはアメ車の過剰な馬力競争の中にあって公表馬力が控え目だったリンカーンは、リンカーンの車両重量との良好なバランスなど馬力の本当の意味を理解していないユーザーには受け入れられなかったためと言われる。



※リンカーンについては過去の自動車カタログ棚シリーズに以下の記事がありますので御参照ください。

1) 1936年 リンカーン・ゼファー
自動車カタログ棚シリーズ第26回記事 

2) 1958年 リンカーン・コンチネンタル・マークⅢ
自動車カタログ棚シリーズ第206回記事 



【主要スペック】 1957年リンカーン プレミア ランドウ4ドアHT (LINCOLN PREMIERE LANDAU 4-DOOR HARDTOP)
全長5705mm・全幅2040mm・車高1529mm・ホイールベース3200mm・車両重量1940kg・FR・水冷V型8気筒OHV6040cc・最高出力300ps/3000rpm・最大トルク55kgm/2800rpm・変速機3速コラムAT・乗車定員6名・最高速180km/h・日本国内輸入代理店:ニュー・エンパイア・モータース


●1956年 リンカーン 本カタログ (縦20×横45cm・20頁)
超横長大判カタログ。トヨタが1955年12月に出したトヨペットクラウンデラックス(RSD)の最初のカタログも似たような判型だったのはトヨタがリンカーンを真似たのかもしれない。
56本表紙黒

中頁から
概略解説
56(1)解説

プレミア・クーペ(2ドアHT)
56(2)プレミアクーペ青

プレミア・クーペ(2ドアHT)
56(3)プレミアクーペ赤

分厚いシートで乗り心地のよさそうな室内
56(4)応接間のような室内

プレミア4ドアセダン
56(5)プレミア4ドアセダン

プレミア・コンバーチブル
56(6)プレミアコンバチ

カプリ・クーペ(2ドアHT)。プレミアとカプリのボディは同じで外観上はエンブレム類、ホイルキャップが異なり、標準車種のカプリでは上位グレードのプレミアに比べて内装も簡素化されている。
56(7)カプリクーペ緑

カプリ4ドアセダン
56(8)カプリ4ドアセダン

6リッターV8エンジン
56(9)V8エンジン

応接間のような後席、広大なトランク他
56(10)後席とトランク

パワーステアリング、パワーブレーキ、パワーシート、パワーウインド等の解説。既に58年前のクルマながら現代のクルマにある快適装備は殆ど備えていた。
56(11)パワステ他

自動点灯式ヘッドライト他アクセサリー
56(12)自動点灯ライト他アクセサリ

スペック
56(13)スペック




●1956年 リンカーン 簡易カタログ (縦20×横45cm・4つ折8面)
折りたたんだサイズは上掲の本カタログと全く同じで表紙のデザインも似ているが、本カタログの黒地に白文字に対してこちらは卵黄色地に黒文字。内容は本カタログの抜粋。
56簡易表紙(クリームイエロー)




●1956年リンカーン本カタログ(黒)と簡易カタログ(卵黄色)
手前に置いたボールペンと比べてカタログのサイズが大きいのが判るでしょうか。大きなカタログは長期保存が難しいため一般に良い状態で残っていることが少なく、この2部も折れてしまっています。
56+57大きさ比較




●1957年 リンカーン 簡易カタログ? (縦31×横35.5cm・12頁)
LPレコードのジャケットより大きなカタログですが頁数が少なく紙質も薄目なので簡易カタログと思われます。折れ目があり保存状態はよくないのですが、残念ながら1957年式リンカーンのカタログはこれ1部しか手元のカタログ棚にありません。
57表紙

中頁から
1957年型の特徴である4ドアHT「Landau」の追加、縦目デュアルヘッドライトの採用等が冒頭にアピールされている。
57(1)ランドウ縦デュアル解説

プレミア4ドアHT「Landau」
57(2)プレミア4ドアHT

プレミア・クーペ(2ドアHT)
57(3)プレミアクーペ

プレミア・コンバーチブル
57(4)プレミアコンバチ

プレミア4ドアセダン
57(5)プレミア4ドアセダン

パワーステアリング、オートドアロック、6ウェイパワーシート等の解説。日本では初代クラウンや初代スカイラインが漸くデビューしたこの時代、アメリカの高級車は日本車の遥か彼方をいっていた。
57(6)6ウェイパワーシート他

スペック掲載箇所
57(7)スペックその1
57(8)スペックその2

裏表紙は4ドアHT「Landau」の後ろ姿。五十嵐平達氏によれば、当時の日本の新聞等のジャーナリズムがテールフィンについて「近頃のアメリカの自動車は尖ったものが出っ張っていて危険きわまりない」と真面目に怒っていたという。
57(9)裏表紙





★オマケ(その1): 増田屋齋藤貿易/イチコー 1/18スケール 1957年リンカーン4ドア
全長32cm。当時定価:都内550円・地方600円。前回の記事でご紹介した「イチコー」が製造メーカーだった時代の製品で販売ブランドは増田屋齋藤貿易(現 増田屋コーポレーション)。箱の左下にイチコーロゴのプリントがある。コンバーチブル、人形や犬の乗ったバージョンなどバリエーション多数あり。箱の57年型の文字は前のオーナーの書込みでノンオリジナル。
57増田(1)
57増田(2)
57増田(3)

箱絵の左下には製造メーカー「イチコー」のロゴ
57増田(4)箱左下イチコーロゴ



★オマケ(その2): 増田屋齋藤貿易/イチコー 1/30スケール 1956年リンカーン2ドアHT
全長19cm。当時定価:不明(同等の他製品の定価からすると恐らく70~80円程度)。これもオマケ1と同様、販売は増田屋で製造はイチコー。室内も省かれたチープな造りだが、1956年型リンカーンの特徴は出ている。
56増田(1)
56増田(2)
56増田(3)



★オマケ(その3): 1957年リンカーン テレビCM
画質が悪いですが、この時代で既にパワーウインドやパワーシート等をフル装備していることに驚きます(1:40位から)。




★オマケ(その4): 「ハウンド・ドッグ」 (Hound Dog) 1972年ジョン・レノン・ライヴバージョン
今回紹介したカタログの1956年のヒット曲といえばエルヴィス・プレスリーのハウンド・ドッグ。このジョン・レノン・バージョンの迫力はオリジナルのエルヴィス・バージョンを遥かに超えている気がします。




★オマケ(その5): 「ダイアナ」 (Diana) 1957年 ポール・アンカ
最後に1957年のヒット曲。日本でもよく知られた曲でカバーも多いですが、これはオリジナル。ポール・アンカ、弱冠16歳での大ヒット。