【作品#0751】誰かに見られてる(1987) | シネマーグチャンネル

【タイトル】

誰かに見られてる(原題:Someone to Watch Over Me)

【Podcast】

Podcastでは、作品の概要、感想などについて話しています。

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【概要】

1987年のアメリカ映画
上映時間は106分

【あらすじ】

妻と息子と3人暮らしをしている刑事のマイクは、殺人現場を目撃したことで護衛が必要な大富豪のクレアの護衛を任されることになる。

【スタッフ】

監督はリドリー・スコット
音楽はマイケル・ケイメン
撮影はスティーヴン・ポスター

【キャスト】

トム・ベレンジャー(マイク)
ミミ・ロジャース(クレア)
ロレイン・ブラッコ(エリー)
アンドレアス・カトスラス(ヴェンザ)

【感想】

トム・ベレンジャーは「プラトーン(1986)」での演技をリドリー・スコット二評価されてキャスティングされた。また、モデルや舞台で活躍していたロレイン・ブラッコにとって映画では初の大きな役での出演となった。そして、シャロン・ストーンはクレア役をテストされたが落選し、後に彼女が主演した「氷の微笑(1992)」でミミ・ロジャースは落選している。

同時期製作の「危険な情事(1987)」や、後の「プリティ・ウーマン(1990)」「ボディガード(1992)」を予感させる内容ではある。

ちょっとミスリードな邦題。確かに犯人から監視されている可能性もあるので、このタイトル自体は間違いではないが、原題の「Someone to Watch Over Me」を直訳すれば、「私を見守ってくれる/監視する人」という意味になる。

何度かニューヨークの貿易センタービルのツインタワーと、クレアが住んでいるクライスラービルが続けて映るというのが本作中に何度か登場する(よく見ていないと見逃すと思う程度だが)。ツインタワーがマイクとエリー夫妻、そしてクライスラービルティングがクレアを表しているのだろう。

リドリー・スコット監督にとってはSFでもファンタジーでも歴史映画でもない初めての現代劇。オープニングは夜の摩天楼を映しながら、青色のクレジットで、バックにはスティングの歌うタイトルにもなっている「Someone to Watch Over Me」が流れる。美しい映像にスティングの美声。これほどうっとりするオープニングもない。クレジットのフォントはシンプルで色は青で統一されており、このどこか素っ気ないシンプルさも際立つ。

空撮の映像はニューヨークの摩天楼から高い建物のないエリアへ行く。すると、画面はマイクの家に切り替わり、うっとりした雰囲気をあえてぶち壊すかの如く激しい音楽が流れるパーティシーンになる。主人公のマイクは妻と息子との3人暮らしをしており、仕事では刑事に昇進し、家庭ではそれに伴い新たな家探しをしている状況だ。一方で、金持ちのクレアはパーティでヴェンザが知人のウィンを殺害する現場を目撃してしまい、マイクが彼女の護衛をすることになる。比較的質素な暮らしをしていながらも幸せなマイクと、金持ちで社交場できらびやかな生活を送るクレアを対照的に描いていく。

ここから徐々に、クイーンズ地区育ちで下品な言葉遣いをする妻を持つ決して金持ちではないマイクと、どう見ても金持ちで育ちも良いが男付き合いの趣味がいまいちのクレアという普段は決して交わらない二人のドラマ、ロマンスを描いていく。

マイクの車を弄っているエリーが汚れのついた手袋を夫の顔に当てて夫の顔には黒い汚れがついている。エリーがマイクを自分のものだと示すまるでキスマークのようなものだろう。新聞でクレアが美人だを知ったエリーがマイクにその話をして、マイクは「実物はもっと美人だ」と言った。彼女の嫉妬を煽るようなジョークだろうが、徐々に笑えない展開になっていく。

特にクレアが行くパーティに護衛で参加する前に、クレアは今マイクが付けているネクタイがパーティに不向きとして、立ち寄った店でネクタイをプレゼントする。妻のエリーが購入した高くないであろうネクタイを否定されたが、パーティに参加する以上恥をかきたくはない。痛し痒しの状況だが、目の前にいるのは妻のエリーではなく護衛しなければならないクレアであり、何と言っても彼女(の方)が美人だし、護衛相手の機嫌を損ねるわけにもいかない。男を追いつめるのがうまい設定であると感じる(後にマイクが妻のエリーにフォローを入れることはできたはずだが)。

妻のエリーのお膳立てで刑事に昇進したマイク。そして、そのおかげで殺人の目撃者を警護する仕事に任命され普段付き合うことのない金持ちの美人の相手をすることになるマイク。クレアはマイクに対して最初は警部補と呼んでおり、マイクが刑事だと訂正する場面がある。クレアからすれば警部補クラスの人間が来ると思っていたのかもしれない。一方でもしかしたら実力はそこまででもないのに妻のおかげで刑事に慣れたマイクと考えればお互いのギャップは相当なものだ。

それもこれも、妻のエリーにはない魅力をクレアが持っているからである。クレア演じるミミ・ロジャースの魅力を最大限発揮すべく、ヘアスタイルから衣装、そしてカメラがとらえる表情とその角度、すべてが計算されつくしているように思える。「彼女だったら仕方ないか」と思わせる要素は確実に揃っているように思うし、マイクが思い留まろうとするたびに、彼女の美しい顔のアップが映し出され、「勘弁してくれ」と思ってしまうほどである。

また、マイクは身分としてはどう考えても上に当たるクレアの護衛をすることになるが、その身分の違いを肌で感じていく(部屋の広さや金払いの良さなど)。もし仮にマイクが独身であっても口説くことなどできない存在だろう。ところが、このクレアも一人の人間であり一人の女性である。どうやら男を見る目はあまりなさそうで、派手な部屋やファッションとは裏腹に孤独を抱えて生きている。何といってもクレアが脅迫を受けるパーティの場面で、マイクはとある女性から声を掛けられ、「銃を撃つ時って固くなるの?」とド下ネタの会話を仕掛けてくる。もちろんクレアの知り合いがこんな奴ばっかりではないのは理解できるが、きらびやかな社交界でもこんなことを言う奴がいるとは。クレアからすると、マイクは気取っていなくて普段付き合っている連中にはない魅力があったのだろう。

不当逮捕だったことでヴェンザが釈放されたことにマイクは怒り、俺の責任だと言って再びクレアの警護任務を再開することにする。ヴェンザが釈放されたからこそマイクは再びクレアに近付くことができるわけだ。もしヴェンザが捕まったままで刑務所送りにされていればもう再会することはない関係だったかもしれない。何とも皮肉な話である。

そして、再びクレアの警護任務に就くと今度はマイクの家の周りを不審者がうろついており警察が家に見回りにやって来ることになる。元警官であり妻のエリーは自分を情けなく思ってしまう。不審者がマイクの家の周りをうろついていた翌朝、エリーが窓掃除をしている。窓の外側を掃除することで窓の外側から、あるいは内側から両者が見やすくなってしまう。まして、夜になれば家の中の様子をきれいにした窓越しに見やすくなってしまうかもしれない。

ついにその時は来る。エリーからクレアとの関係を聞かれて馬鹿正直な反応を示してしまうマイク。怒って家に帰って来ないでと泣き叫ぶエリーに愛してると言いつつ、マイクはクレアのもとへ行く。不審者が家の周りをうろついてくれたおかげで妻のエリーと息子のトミーはエリーの姉の家に行くことになり、やはり守らなければならないのはクレアになってしまうのだ。

住人になりすましてクレアの部屋に侵入した男はTJを銃で撃つが、後にマイクが射殺することになる。この男はヴェンザの指示でクレアを殺しに来たのだろう。だとしたらヴェンザはクレアをトイレでなぜ殺さなかったのか。犯人側の描写がサスペンス映画にしてはえらく貧弱である。

ついにクレアの警護任務を解かれたマイクはヴェンザが逮捕されるまでクレアとの接触を禁止される。ところが、クレアの父親が創立した学校の記念パーティの席にマイクはのこのことやって来る。そして、その現場でマイクの妻エリーと息子のトミーが誘拐された連絡を受けることになる。この流れは本作の中で一番違和感があり理解しがたい展開である。

ラストは拒否していた夫のマイクを妻のエリーが「愛している」と言って受け入れるものである。これほど酷い目に遭い、息子まで巻き込まれて、最後の最後に妻が夫を受け入れる結末はやはり古びていると感じなくもない。結局、マイクはエリーの家に忍び込んでTJを撃った男を射殺しただけであり、ヴェンザも殺したのはエリーである(アシストしたのは息子のトミー)。

あらゆる意味で元通りの生活になるはずだ。マイクは警護すべき女性と体の関係を持ち、同僚は撃たれて死にかけた。マイクの昇格はなかったことになり、今まで通りの階級での仕事を余儀なくされるだろう。また、マイクにはクレアのようなお金持ちのお嬢さんは不相応でエリーの元へ戻ることになるだろう。

クレアは友人がヴェンザに殺されるところを目撃して、さらにヴェンザが不当逮捕で釈放されたが原因でこの町を去る決断を下した。ところが、その前日にヴェンザがマイクの妻エリーと息子を誘拐し、エリーがヴェンザを射殺したことでヴェンザからの脅威はクレアにはなくなった。だが、その現場でマイクが妻のエリーと息子を抱きかかえる姿を見てクレアはその場を立ち去る。クレアはヴェンザが死んだことでこの町を去る必要は亡くなったのに、同時にヴェンザが死んだことでマイクが一家の絆を取り戻してやはりクレアが町を去ることになるという皮肉。

結局、ヴェンザは何がしたかったのか。もはやマイク、クレア、エリーの三角関係を動かしていく狂言回しでしかない。目撃者のエリーを殺せる状況でも脅迫するだけだし、マイクの妻エリーと息子を誘拐したところで何がしたかったのか。結論ありきで、ヴェンザの行動原理がさっぱり分からないのが本作の最大の弱点じゃないだろうか。また、ヴェンザがクレアの友人を殺したのは物的証拠も出ているはずだから不当逮捕で釈放なんてされるはずがない。

話の筋だけを追えば目新しい話でもないのだが、役者の魅力、主題歌、演出でそれなりに魅力ある作品に仕上がっている。何事も身の丈に合った生活がある。主人公が元居た場所に帰って来るという王道の物語として見れば理に適っている。一度の火遊びがとんでもない結末をもたらす映画としては奇しくも「危険な情事(1987)」の方がよっぽどインパクトがあったのは否めない。



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