【作品#0531】レイジング・ブル(1980) | シネマーグチャンネル

【タイトル】

 

レイジング・ブル(原題:Raging Bull)


【Podcast】


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【概要】

1980年のアメリカ映画
上映時間は129分

【あらすじ】

ボクシングミドル級チャンピオンだったジェイク・ラモッタの半生を描く。

【スタッフ】

監督はマーティン・スコセッシ
製作はロバート・チャートフ/アーウィン・ウィンクラー
脚本はポール・シュレイダー/マーディク・マーティン
音楽はレス・ラザロビッツ
撮影はマイケル・チャップマン

【キャスト】

ロバート・デ・ニーロ(ジェイク・ラモッタ)
キャシー・モリアーティ(ビッキー)
ジョー・ペシ(ジョーイ・ラモッタ)

【感想】

マーティン・スコセッシ監督はロバート・デ・ニーロから本作の企画を度々持ちかけられていたが、暴力もボクシングも嫌いなために断っていた。ただ、前作「ニューヨーク・ニューヨーク(1977)」が興行的に失敗に終わり、コカイン中毒に陥り、自身がジェイク・ラモッタのような酷い人間になっていることに気付いて本作の映画化を決心した。ロバート・デ・ニーロは本作のためにボクシングのトレーニングと、引退後の太った体を表現するために25キロ以上の増量も行い、アカデミー賞では「ゴッドファーザーPART2(1974)」の助演男優賞に続いて、初の主演男優賞を獲得した。

当時のカラーフィルムは早ければ6年ほどでピンク色に退色してしまうらしく、色彩に拘った「ニューヨーク・ニューヨーク(1977)」が後のリバイバル上映時に意図した映像が残らないのではないかとマーティン・スコセッシ監督は危惧していた。また、ビデオのなかった当時にロバート・デ・ニーロの訓練風景を撮影したモノクロフィルムを見せたところからモノクロ映画で撮影するように考えていったそうである。

ジェイク・ラモッタはとんでもなく暴力的な男で、すぐに手が出てしまう男である。そんな男に共感なんてできないのだが、何度か見ていると彼なりの素直な表現だったんじゃないだろうかと思えてくる(もちろん暴力を肯定する気はさらさらないが)。最初の奥さんとの場面ではステーキの焼き加減で喧嘩になり机はひっくり返すは叩くはとにかく酷い。たまたまやってきた弟のジョーイに制止されるが、今度はジョーイに「俺のことを本気で殴れ」と嗾ける。挑発に乗ったジョーイがジェイクの顔を何発も殴るとジェイクは満足し、さらに隣の部屋で怒っている妻を見て笑顔になり、「仲直りしようぜ」と話しかけている。自分が本気になった分、相手にも本気で返してきてほしいと思っているんじゃないか。

また、冒頭の映像に戻ると、リング上のジェイク・ラモッタがフードを被ってシャドーボクシングする様子をスローモーションで捉えるという非常に印象に残る映像である。そこで流れる音楽はピエトロ・マスカーニが作曲した「カヴァレリア・ルスティカーナ間奏曲」という小説をもとにしたオペラである。ちなみにこの曲は「ゴッドファーザーPARTⅢ(1990)」のラストでも使用されている。そして、ラストがこの冒頭と対になっている。スローモーションで試合前のシャドーボクシングをするジェイク・ラモッタで始まる冒頭に対し、ラストでは舞台直前に高速のシャドーボクシングを繰り返すジェイク・ラモッタの映像が突然切れるようにして終わるというように対になっている。他にも、ビッキーとの関係も車に乗せてあげた出会いから、ビッキーが車に乗って走り去るところが対になるなど、何かの始まりと終わりがうまく連動している。

ジェイク・ラモッタの気分が不機嫌な状態で次のカットがボクシングシーンになると、その鬱憤を晴らすべくとにかくこれでもかとパンチを浴びせまくり、彼の心情がボクシングシーンに直結するようになっている。ビッキーがジェイクの対戦相手の容姿を褒めたらその対戦相手の顔をボコボコにしたり、スパーリング中にジョーイの呼んだマフィアが来ると、それに腹を立ててスパーリング相手のジョーイをボコボコにしたりする。ちなみに、弟のジェイクも昔はボクサーだったためにスパーリング相手をすることもあったらしい。また、この場面でジョー・ペシはデ・ニーロのパンチを浴びまくり、悲鳴を上げているが、その場面で肋骨を骨折してしまったようだ。

それから、不当な判決の末にシュガー・レイ・ロビンソンに敗れ、控室にカットが映ると弟のジョーイが椅子をぶっ壊している。八百長に加担して負けた後はブチ切れているのかと思えば男の胸の中で泣いている。音声解説でもジェイク・ラモッタは八百長に加担した後に泣いたと話しているのでそれは事実だろう。あれだけ暴力的な男が人の胸でわんわん泣いているのもおかしいし、気に食わないことがあると、次の場面で誰かを殴ると言う暴力に走っていたジェイク・ラモッタがここで泣いているのは良いオチになっている。

そして、このジェイク・ラモッタは嫉妬心や独占欲が異常なまでに強い人物でもあった。特にビッキーが他の男性と話す場面ではジェイク視点でスローモーションになり、ジェイクにとってビッキーが少しでも他の男性と話しているとそれがしっかりと脳裏に焼き付けられているのがうまく演出されている。中でも、ジョーイを問い詰めるシーンが面白い。テレビの調子が悪くて直そうとしている時に、ジェイクはジョーイに対して、レストランでの事件について問い詰める。ジェイクはジョーイに対して試合前のトレーニングの際に、遊びに行くビッキーを見張っておくように頼んでいた。すると、レストランで男たちと飲んでいるビッキーに「それは止めろ」と言うが、サルというフランク・ヴィンセントが演じた男と喧嘩になってしまう。そのことをジョーイはジェイクに話していなかったがその話を聞きつけたジェイクがジョーイに問い詰める。ここでジェイクはビッキーのしたことを問い詰めるのではなく、「そこまでして喧嘩したということはビッキーのことが好きなのか」と問い詰め始める。ついにはジョーイに「ビッキーとやったのか」とまで聞いてしまう。嫉妬心もここまで来ると呆れてしまうが、傍から見ると笑えてくる。ちなみにあの酒場でジョー・ペシもサルをボコボコにするのだが、後の「グッドフェローズ(1990)」や「カジノ(1995)」で本領発揮されることを考えると、この暴れっぷりでもまだマシに見える(ジェイクがもっと酷いというのもあるが)。

すると、今度はビッキーも問い詰め、呆れたビッキーがキレて「イエス」という言葉を引き出すことに成功する。ジェイクは家族で食事中のジョーイのところへ殴り込みをかけ、ジョーイを馬乗りになってボコボコにする。ついてきたビッキーとジョーイの奥さんが二人がかりでジェイクをジョーイから引き離すと、今度はジェイクはビッキーに右ストレートをかます。この場面の最後はジョーイの小さな子供2人のリアクションを映すことになるが、呆然と立ち尽くしている。泣いてもおかしくない場面だが、たとえ子どもであっても目の前で大の大人が暴力を振るっていれば、何もできずにいるしかない。まさに泣く子も黙るとはこのことか。

ジェイクはまだ直っていないテレビの前に座っていると、ビッキーが帰ってくる。家を出る準備をしようとするところで二人は仲直りする。ボクサーの夫から右ストレートを喰らったのにまだ一緒にいようとする。いくら夫が妻に暴力を振るっても大きな問題に捉えられなかった当時であってもこの暴力は異常である。それでも一緒にいることを決意する側の気持ちもある意味理解できかねるものがあるが、これはこの2人だからこその関係であり、後に離婚するが、本作が公開されると元夫婦の2人で本作を見に行くくらいなのだから他者が理解できるとかそういう関係ではないのだろう。

異常な嫉妬心から弟のジョーイをボコボコにしたジェイクは、映画的に次のボクシングシーンに当たるシュガー・レイ・ロビンソンとの対戦で、無抵抗のまま相手のパンチを受けまくっている。まるで自分の犯した罪に対する罰を受けているようである。ジェイク・ラモッタの暴力性やサディスティックな面は相手にだけでなく自分にも向いているのだ。試合前であれば、ビッキーと良い雰囲気になっても直前で思いとどまって股間に氷水をぶっかけるなど到底正常とは思えない行動を自分にも課している。

そして、ジェイクは酒場に未成年の少女を入れたことが原因で逮捕されて刑務所入りとなってしまう。公衆電話から電話する場面では、彼のお腹の脂肪はシャツから完全にはみ出ている。彼のうちにある暴力性を外に出す場所がボクサー現役時代にはあったが、引退後に太ったことで彼の中にあるものが収まりきらなくなっているようにも見える。また、その収まりのつかないジェイクが公衆電話という箱の中にいるというのも、その次の場面で刑務所の独房に閉じ込められるところを予感させていて良い。

その独房に閉じ込められると、ジェイクは泣きながら壁を殴り続け、「俺はケダモノなんかじゃない。悪い人間ではない」と泣きながら言う。これは本作と同年のモノクロ映画「エレファント・マン(1980)」の主人公と同じようなセリフである(内容やテーマは異なるが)。

ラストは、ジェイク・ラモッタが舞台に立つ前のリハーサルを鏡に向かってしているところである。そこで話しているのはエリア・カザン監督の「波止場(1954)」のマーロン・ブランドのセリフの引用である。「波止場(1954)」は「ロッキー(1976)」に影響を与えた作品としても知られるが、その「ロッキー(1976)」とは正反対とも言える本作も同じ「波止場(1954)」からインスピレーションを得ており、「ロッキー(1976)」も本作もアーウィン・ウィンクラー/ロバート・チャートフというプロデューサーのコンビが世に送り出したというところも面白い。

当時のマーティン・スコセッシが監督としても人間としても絶望の淵に立たされていたことを考えると、すぐに暴力に走り、他者を思いやらない人物について描き、最後に主人公が罰を受け、三流の酒場の舞台に上がるために練習する様子はなるほどと思わせるものがある。スコセッシ自身も本作を「ジェイク・ラモッタの伝記映画としては作っていない」と下記の音声解説でも語っているところがまさにそういうことなのだろう。カラーが主流になってからのモノクロ作品としては最上位に分類されるであろう傑作。

【音声解説1】

参加者

├マーティン・スコセッシ(監督)

├セルマ・スクーンメイカー(編集)


上記2名による音声解説。ジェイク・ラモッタの自伝を元にしているが伝記映画ではなくフィクションとして撮ったという話(監督自身の体験も盛り込まれている)、カラーではなく白黒にした理由、すでに40手前のジョー・ペシを何か月も口説いてキャスティングした話、アドリブを多用するロバート・デ・ニーロとジョー・ペシの演技を編集する困難さ、ボクシングシーンごとに異なる撮影をした話、スローモーションの小間数の違いと使用した箇所と撮影手法、スコセッシが影響を受けたかつての作品の話やラストで引用される「波止場(1954)」に関する話など、本作の理解を深める上で重要な話を多くしてくれる。

【音声解説2】

参加者

├アーウィン・ウィンクラー(製作)

├ロバート・チャートフ(製作)

├ロビー・ロバートソン(音楽プロデューサー)

├テレサ・サルダナ(レノア役)

├ジョン・タートゥーロ(ノンクレジットでの出演)

├フランク・ワーナー(音響効果編集)

├マイケル・チャップマン(撮影)

├シス・コーマン(キャスティング)


数多く残る「カヴァレリア・ルスティカーナ」の録音からより良いものを選んだ話、ボクシングシーン以外の殴るシーンの話、映画初出演になったジョン・タートゥーロが感じた当時の話、ロバート・デ・ニーロからアーウィン・ウィンクラーに企画が持ち込まれて5年越しに実現した話、「ロッキー(1976)」の成功と続編製作をユナイテッド・アーティスツに匂わせてうまく交渉した話、テレサ・サルダナはジェイク・ラモッタの妻役のオーディションを受けたが落ちてジョーイの妻役に抜擢された話、ジェイクがジョーイの家に殴り込みに行く場面で、ビッキーを演じたキャシー・モリアーティは最初のテイクで遠慮したらデ・ニーロから遠慮はいらないと言われ、次のテイクで髪を引っ張ったりひっぱたいたりしたが、デ・ニーロから本気でやれと言われ、次のテイクで本気で襲い掛かった話など興味深い話が多い。

【音声解説3】

参加者

├マーディク・マーティン(脚本)

├ポール・シュレイダー(脚本)

├ジェイク・ラモッタ(主人公のモデル)

├ジェイソン・ラスティグ(ジェイク・ラモッタの甥)


脚本家の2人、ラモッタの2人のそれぞれ別撮りの音源を組み合わせた音声解説。80歳になるジェイク・ラモッタへ甥っ子のジェイソンが質問して答えていくような形になっている。

 

喧嘩に負けて帰って来ると父親から殴られアイスピックを渡され、それを見せると周囲の人は逃げ、次第に強くなっていった結果アイスピックは必要なくなった過去の話や、映画公開当時、別れたビッキーと映画を見に行って、ラモッタ本人は映画の主人公を嫌な人間だと思い、映画が終わってからビッキーに「映画よりも酷かった」と言われてショックを受けた話などは面白い。また、ジェイク・ラモッタ自身は人を身体的にも精神的にも傷つけてはならないと語っているが、過去の反省から語っているのではなく本当にそう信じて生きてきたという語りぶりなのも「なるほどそういう人なのか」と思わせるところがある。また、脚本家の2人は、当初の脚本からどう変化していったかや、ラストの聖書の引用などについて語ってくれる。

 

 


取り上げた作品の一覧はこちら

 

 

 

【配信関連】

 

<Amazon Prime Video>

 

言語

├オリジナル(言語)

 

【ソフト関連】

 

本作のソフト関連は消費者にとって好ましい状況ではない。まず、そもそも日本語吹替は製作されていないので、ソフトを探しても見つかることはない。

 

それから音声/映像特典もソフトによってバラバラである。音声特典に関しては、DVDの2枚組アルティメット・エディションでは1種の収録だが、後に発売されたDVD2枚組「新生」アルティメット・エディションでは3種収録されている。

 

また、映像特典はDVD2枚組のアルティメット・エディションも「新生」アルティメット・エディションも同内容を収録しているが、BDに関しては音声特典も映像特典も収録されていない。もしフルで本作の特典を味わいたいなら「新生」アルティメット・エディションを購入しなければならない。

 

<DVD(2枚組/アルティメット・エディション)>

 

原語

├オリジナル(英語)

 ※日本語吹き替え版は収録されていません

音声特典(3種)

├マーティン・スコセッシ(監督)、セルマ・スクーンメイカー(編集)による音声解説

├アーウィン・ウィンクラー(製作)、ロバート・チャートフ(製作)、ロビー・ロバートソン(音楽プロデューサー)、テレサ・サルダナ(レノア役)、ジョン・タートゥーロ(ノンクレジットでの出演)、フランク・ワーナー(音響効果編集)、マイケル・チャップマン(撮影)、シス・コーマン(キャスティング)による音声解説

├マーディク・マーティン(脚本)、ポール・シュレイダー(脚本)、ジェイク・ラモッタ(主人公のモデル)、ジェイソン・ラスティグ(ジェイク・ラモッタの甥)による音声解説

映像特典(Disc1)

├ジェイクのジョーク集

映像特典(Disc2)

├メイキング・オブ・「レイジング・ブル」

├ドキュメンタリー:「“ブロンクスの雄牛”の伝説」

├ニーロ対ラモッタ(2人の比較映像)

├ジェイク・ラモッタの防衛戦(ニュース映画)

├オリジナル劇場予告編

├MGMタイトル・プロモーション

 

<BD>

 

原語

├オリジナル(英語)

 ※日本語吹き替え版は収録されていません

映像特典

├オリジナル劇場予告編