【作品#0479】NOPE/ノープ(2022) | シネマーグチャンネル

【タイトル】

 

NOPE/ノープ(原題:Nope)

 

【Podcast】

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【概要】

2022年のアメリカ映画
上映時間は130分

【あらすじ】

OJ・ヘイウッドは亡くなった父親から引き継いだ牧場を経営していたが、ある日、空に浮かぶ謎の存在が人々を吸い始める。

【スタッフ】

監督/製作/脚本はジョーダン・ピール
音楽はマイケル・エイブルズ
撮影はホイテ・ヴァン・ホイテマ


【キャスト】

ダニエル・カルーヤ(OJ・ヘイウッド)
キキ・パーマー(エメラルド・ヘイウッド)
スティーヴン・ユァン(ジュープ)
ブランドン・ペレア(エンジェル・トレス)
マイケル・ウィンコット(アントラーズ・ホルスト)
キース・デヴィッド(オーティス・ヘイウッド・Sr)

【感想】

ジョーダン・ピール監督の「ゲット・アウト(2017)」「アス(2019)」に続く監督3作目。全米公開初週末の成績では1位となり、「アス(2019)」のそれには及ばなかったが、オリジナル作品ではその「アス(2019)」以来の成績を叩き出した。

字幕2D、字幕IMAXと2回見てきたが、ジョーダン・ピールの監督作品3つの中で一番難解な映画だったとは思う。前2作品と同様に痛烈な社会批判が含まれているが、ある程度観客を突き放した映画で、観客側の歩み寄りもかなり必要な映画であろう。特に近年の1から10まで全部説明してくれる映画とは違い、貴重な映画体験ができる。

かつてのSF映画の伝統を踏襲した作品であるとも言える。ジョーダン・ピール監督は「キング・コング(1933)」や「ジュラシック・パーク(1993)」、「サイン(2002)」といったSF映画を参考にしたことは語っている。また、空を見上げてはいけないというと類は異なるが「ドント・ルック・アップ(2021)」、その対象を見てはいけないというと「バードボックス(2018)」なんかと思い出す。

まずは伝統への回帰、また見知らぬ歴史の紹介という位置づけから語っていきたい。世界初の映像と言われる、騎手の乗る馬が疾走するという2秒間の映像(1878年の「The Horse in Motion」)が出てくる。その馬に乗っている騎手が黒人であることは知られておらず、それをエメラルドが観客向けに説明してくれる。また、ヘイウッド兄妹がその騎手の子孫であることはフィクションだが、これだけ見ても伝統への回帰や見知らぬ歴史の紹介という側面が感じられる。

また、そういった伝統への回帰という観点から考えると、本作にはスマホに対する携帯電話(ガラケー)や無線機、デジタルカメラに対する手動カメラ、バイクに対する馬、それからレコード(これはUFOの象徴)といったアイテムが登場するのも頷けるあたりだろう。

飛行機からの荷物が衝突したという「最悪の奇跡」によってヘイウッド兄弟の父親は亡くなったということで警察には処理されてしまった。父の死後、半年が経過してもOJはかつての陽気さを取り戻せずにいた。CM撮影の現場に馬を連れて行っても現場のスタッフが忠告を無視したことで馬が暴れ出し、現場を追い返されることになる。また、OJが現場に来たことで「前の人が良かった」とまで言われている。かつてOJが行った現場の話で「スコーピオン・キング(2001)」(「ハムナプトラ2/黄金のピラミッド」に登場した悪役を描いたスピンオフ映画。)の話が出てくる。その現場では馬が使われずにラクダが使われることになったと言っている。本来、馬を使う予定だったのを諦めてラクダにしたということだ。今までに培われて来た伝統が失われつつあるとも言える。

また、ジョーダン・ピール監督は「ブラック・ライダー(1972)」という作品についてもインタビューで触れている。これはシドニー・ポワチエが監督、主演した西部劇である。シドニー・ポワチエはアフリカ系アメリカ人としては初のアカデミー賞主演男優賞を受賞するなど評価されたが、70年代に入るとブラックスプロイテーション映画が作られ、黒人が白人をやっつける映画も増えて行き、いわゆる彼の演じてきた白人好みの黒人というのも受けが悪くなってきた。そして、シドニー・ポワチエはポール・ニューマンと製作会社を立ち上げ、「ブラック・ライダー(1972)」で黒人が主演の西部劇を監督、主演したのだ。ジョーダン・ピール監督は黒人が主演の西部劇は「ブラック・ライダー(1972)」が初めてだろうと語っている。この作品以降に黒人が主演の西部劇は決して多く作られたわけではない。ただ、近年では「ジャンゴ 繋がれざる者(2012)」でジェイミー・フォックスが主演し、「荒野の七人(1960)」のリメイク「マグニフィセント・セブン(2016)」ではデンゼル・ワシントンが主演した。また、2021年にはNetflix映画「ザ・ハーダー・ゼイ・フォール:復讐の荒野(2021)」ではジョナサン・メジャースが主演した。そして、本作では馬に乗ったOJが新たな黒人ヒーローの誕生として描かれているのだ。

その西部劇も本作の1つのテーマだろう。かつて量産された西部劇はすっかり廃れてしまい、近年ではヒットする西部劇なんて年に数本あれば良い方である。本作中に縄張りの話が登場するが、西部劇に登場するカウボーイは雇い主の土地の牛を守るために雇われた用心棒である。地図に印を付けながら計画を見せる過程は後の西部劇にも多大な影響を与えた「七人の侍(1954)」を思い出す。終盤の戦いでは、スカイダンサーが各所に配置され、かつての西部劇なら案山子や仕掛けとなる存在だろう。そして、このスカイダンサーはバッテリーで動いているのでスカイダンサーが倒れたら「UFO」が来たことが分かる。また、西部劇で欠かせない銃が本作では登場せずに、多くのカメラが登場する。銃で「ショット」するのではなく、カメラで「ショット」して、その様子をカメラで捉えることに意味があるのだ。そのカメラで撮影することが映画になっていくという入れ子構造のようだ。また、エンドクレジットで流れる曲なんて往年の西部劇映画のエルマー・バーンスタインが作曲したような音楽に感じる。

その「UFO」の撮影に招聘されるのが伝説のカメラマンと称されるホルストである。彼の家の場面では、どうやら動物が捕食しているモノクロの粗い映像を編集していることが分かる。おそらく家族もおらず、好きなことをずっと続けているのだと推測できる。また、この伝説のカメラマンを呼び寄せることこそ、本作の撮影でSF映画の撮影ではトップクラスのホイテ・ヴァン・ホイテマを招聘したことと重なる気もする。と同時に前作までの撮影監督はちょっと気の毒ではあるが。ホルストのカメラにはIMAXと書かれている。さらに彼はリールを回すタイプの手動カメラも持参しており、「UFO」が来ても電源が落ちることがない。そして彼は求めていた映像を撮ることができると考えてエメラルドのところへやって来る。彼の登場シーンがいかにも古いヒーローの登場シーンであるところも意図的だろう。ホルストはある程度撮影できた後、「光だ」と言って斜面を登り始めてあの「UFO」を単独で撮り始め、逃げることなく吸い込まれていく。これぞ「未知との遭遇(1977)」のラストで、妻子のいる現実世界を捨てて宇宙船に乗り込むリチャード・ドレイファスと重なる。

また、本作の見世物への批判の話に映りたいと思う。本作の序盤、ヘイウッド牧場の馬がCM撮影に使用されている。よく見ないと気付かないかもしれないが、主人公と馬のラッキーがグリーンバックの前に立っているのを遠目から映すショットで、右側の画面に合成後の映像も映っており、そこには海の大きな波がある。合成後の映像は登場しないので推測になるが、おそらく大きな波の中かその前を馬が走るという合成映像なのだろう。OJはおそらくこんなものに馬は必要ないと呆れているのだと思う。当然、CMは企業が儲かるための広告であり、そのCMに自分たちの馬が利用されているとも感じているのではないだろうか。

そして、ヘイウッド牧場の馬を売り渡すことになるジュープ。彼はかつて放送されていたホームコメディで息子役を演じていた。その番組の設定では、白人の両親と白人の姉とジュープが演じた弟の4人家族である。このジュープは韓国人(もしくは韓国系アメリカ人)である。どう見ても養子という設定だろう。「ベイビー・ブローカー(2022)」の項でも触れたが、韓国は特に朝鮮戦争後に子供が海外に特別養子縁組で渡っている。おそらくそういったマイノリティをただの白人家族の中に入れることでのギャップをコメディに昇華させることが狙いだったのだろう。また、チンパンジーという動物をも入れることで視聴率アップを目論んだのだろう。ある「普通」の中に「異物」を混ぜ込むことで生まれるギャップ、面白さ。その番組収録中に1匹のチンパンジーがガス風船の破裂音を契機に暴れ出し、両親役の俳優を襲って殺し、姉役の女優にも襲い掛かった。後にジュープがショーで観客向けに話している際に紹介する「初恋の人」はこの姉役の女優だろう。彼女の来ているTシャツにかつての少女時代の顔がプリントされている。また、ジュープの奥の部屋に飾ってある靴もその女優があの現場で履いていた靴であることが分かる。ジュープはあの現場に居ながら自分だけが助かった。他の3人は襲われたのに、チンパンジーは自分にはグータッチをしようとしてきた。その手と手が当たる直前に、やってきた警察によってチンパンジーは撃ち殺されてしまった。あそこではテーブルクロスの網目越しに見ていたからチンパンジーの目を直視していなかったから襲われなかったのだろう。その時の体験がまだ彼の脳裏を過る。あの時のつらい体験こそが彼を苦しめ、そして今の彼を動かしている。自分にはコントロールできるのではないかと。そしてジュープはあの「UFO」の正体を知っている。彼の行うショーでは毎週金曜日の夕方にどうやら馬をあの「UFO」に差し出して金儲けしているのだろうということが想像できる。彼のオフィスに行く際にマスコミの取材許可に関する話を奥さんがしているからそれが人気なのだろう。しかも、金のないOJから馬を買い取り、その馬を「UFO」に差し出しているのだ。その場面では馬のラッキーだけが助かる。まさにラッキーなんだが。

そして、そういったアトラクションへの警鐘も本作のメッセージだ朗。動物などを見世物にして金儲けをする。なので、ジュープの遊園地は襲われることになる。さらにこのUFOは金は要らないから(消化できないから)硬貨を地面に撒き散らし、それが主人公の父親の頭に直撃して死んでしまうのだ。主人公の父ならびに先祖代々がハリウッドの映画撮影用の馬を提供してきたのも事実だ。そして、その批判を映画というアトラクションで見せるわけだ。もちろん映画には広告も必要だし、何ならアトラクションを楽しむようなものである。だからこそ、本作はただの娯楽作に仕上げなかったのだろう。

また、本作は家族の物語でもある。OJの母らしき人物の写真が家に飾ってあったが、おそらくかなり前に亡くなっているのだろう。そして父も失った。OJは結婚もしていないし、おそらく彼女もいない。エメラルドは「彼女が云々」と言っているので同性愛者もしくは両性愛者という設定なのだろう。ただ、その彼女と連絡する場面などは出てこない。エメラルドは回想シーンでGジャンという馬を調教できると言われたのに兄が調教することになった。おそらくそれが決定打となってエメラルドはこの牧場にあまり興味をなくしている。だから冒頭の父親が死ぬシーンも、OJがCM撮影に来るシーンも遅刻している。予告編には使われていたが、彼女がバズり動画を撮ろうとニューヨークを歩くシーンもある。さらに彼女は副業であれもこれもやっている。馬に興味をなくしたエメラルドがラストでバイクに乗って疾走するというところも意味がある。

ハリウッド映画の撮影用の馬を調教してきた一家が、自分たちだけでUFOをやっつけて、それを映像に収めようとする。ここに登場する人間たちの目的は皆バラバラだ。OJは父親の死の真相を明らかにしたい、エメラルドはそれを撮影したらいい、ホルストは不可能を映像に収めたいのだ。本作の兄妹2人、エンジェル、ホルストという4人が仲間になる。別に疑似家族的でもないが、「ゲット・アウト(2017)」も主人公が向かう家は4人家族だったし、「アス(2019)」も4人家族だった。本作のエンジェルとホルストも親子というか師弟関係に近いものを感じる。

OJがUFOを引きつけた隙に、エメラルドがバイクのエンジンをかけて遊園地まで走っていく。その時彼らは目と目でアイコンタクトをする。回想シーンにもあるが、彼らがちゃんと目と目で医師を確認するところに意味がある。UFOや動物は直視してはいけないから。

ラストは、ラッキーに乗ったOJがエメラルドの前に姿を現す。ただ、砂ぼこりの舞う中でOJの姿ははっきりと映らない。もしかしたらエメラルドの見た幻想なのではないかと余白を残して映画は終わる。

どう考えても馬の必要が感じられないCM撮影から、どう考えても馬が必要な展開となるラストの構造は見事である。それをかつての西部劇風にIMAXで見せていくのだ。

また、本作にはジョーダン・ピール監督印がたくさん登場する。エンジェルの乗る車の後ろの扉の右側に書かれているのが「FE1111」だが、これは前作「アス(2019)」のエレミヤ書11章11節と同じである。あと、ジュープのオフィスのテーブルの上にはさみが置かれていたし、主人公の名前のOJだが、前作「アス(2019)」にO・J・シンプソンの話題が出ていた。また、主人公の家に鹿の頭だけの置物が飾られていたが、これは「ゲット・アウト(2017)」を思わせる。それに、ジョーダン・ピール監督印と言えば、登場人物がこちらを向いて左目から涙を流すというものが過去2作品であった。本作ではエメラルドが唯一涙を流すのだがが、彼女は右目から流していた。

このある程度突き放した難解さこそ、観客が歩み寄るべきところである。それこそ単純な見世物で喜ぶのではなく、本作のアトラクションとしての単純な映画への痛烈な批判こそ、映画を観ながら、あるいは見終わった後に咀嚼しながら考えるべきではないか。中盤ちょっと退屈には感じたが、退屈な映画として簡単に片づけてしまうにはとてももったいない映画である。また、監督デビュー作から3作品続けてオリジナル脚本で勝負しているところはもっと評価されるべきだと感じたし、すでに次回作が楽しみである。



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├マイブリッジの謎の男

 

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収録内容

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