【作品#0423】ベイビー・ブローカー(2022) | シネマーグチャンネル

【タイトル】

 

ベイビー・ブローカー(英題:Broker)

 

【Podcast】 

 

Podcastでは、作品の概要、感想などについて話しています。


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【概要】

2022年の韓国映画
上映時間は129分

【あらすじ】

赤ちゃんポストに預けられた子供を非合法のルートで売買するベイビー・ブローカーのサンヒョンとドンスは、ある日預けられた子供を売買しようとしていたら預けた子供の母親がそれを知ってしまい…。

【スタッフ】

監督/脚本/編集は是枝裕和
音楽はチョン・ジェイル
撮影はホン・ギョンピョ

【キャスト】

ソン・ガンホ(ハ・サンヒョン)
カン・ドンウォン(ユン・ドンス)
イ・ジウン(ムン・ソヨン)
ペ・ドゥナ(アン・スジン)


【感想】

是枝裕和監督にとっては、フランス映画となった前作「真実(2019)」に続いて海外で製作することになった韓国映画。第75回カンヌ国際映画祭に出品され、ソン・ガンホが韓国人としては初の男優賞を受賞し、エキュメニカル審査員賞も受賞した。また、ペ・ドゥナにとって、是枝監督作品には「空気人形(2009)」以来の出演となった。

是枝監督作品としては、「誰も知らない(2004)」「そして父になる(2013)」「万引き家族(2018)」の系譜にある作品と言えよう。主に5人が疑似家族を形成していく流れからすると、「万引き家族(2018)」の派生作品とも言えるだろう。話としてはやや出来すぎた印象もなくはないが、是枝監督らしい良作に仕上がっているのは間違いない。製作国やスタッフが変わっても是枝作品という雰囲気は過去作から通づるものがある。

まず、オープニングは夜の雨の降る中で、階段や坂道をムンが登る様子が映される。本作に主演したソン・ガンホが出演した「パラサイト 半地下の家族(2019)」を思い出さないわけがない。また、そもそも是枝作品にはよく坂が登場し、本作でも坂や階段を登ったり下りたりする場面が幾度となく画面内に登場する。赤ちゃんポストがあるキリスト教の教会が運営する赤ちゃんポストは坂の頂上にある。韓国の超が付くほどの学歴社会とそれが生み出す格差。しかも高学歴であっても就職できない若者がたくさんいることはニュースの通りである。

血の付いたワイシャツを持ってきたサンヒョンの知り合いの息子はチキン屋をやると言っている。韓国ではコンビニやマクドナルドよりもチキン屋が多いことでも知られている。チキン屋は定年後に始める仕事として定番だったが、禁煙の韓国では就職難から若者がチキン屋を開業するケースが増えてきている。このチキン屋に関する話は「パラサイト 半地下の家族(2019)」でもチラっと触れられていた。

韓国ではサムスンやヒュンダイといった大型企業の上位10社の時価総額が国内全体の時価総額の半分を占める。そういった企業を目指して厳しい就職戦争を勝ち抜けるのはごくわずかな人間だけである。その就職戦争に敗れた若者の一部は海外を目指し、近隣の日本へ来るケースも少なくない。高学歴でも就職できないという比較的能力の高い人ですら韓国で就職できずに海外に流出してしまう。これとは意味は異なるが、ヘジンが憧れるのはイギリスのプレミアリーグで活躍するサッカー選手のソンフンミンである。サッカー選手になるのでさえごくわずかな人間であり、さらにその中で海外サッカーで成功するのも一握りの人間だけである。そんな海外で活躍する人間に憧れている。

 

そのそも韓国では養子縁組制度が朝鮮戦争以降に作られ、孤児が海外の夫婦に養子として迎えられていたが、韓国の子供が海外流出するのを防ぐために養子縁組の制度は厳しくなってきている。そして、その仕組みを利用できない貧困層が赤ちゃんポストに赤ちゃんを預けたり、非合法のルートで売買したりされている実情があるようだ。中でもそれを象徴するのが、ラブホテルののれんのある駐車場内の場面である。サンヒョンは赤ちゃんと車の中にいて、外にサンヒョンの知り合いの息子がいるという状況である。サンヒョンは何としてもこの場から赤ちゃんを出したくはないというところが、人物配置で表現されており、これこそ映画らしい映像表現であると感じる。

また、本作で特に印象に残るのは洗車する場面である。洗車というは車の外側についた汚れを取るためにするものであるが、本作ではヘジンが窓を開けたことで車内まで水浸しになってしまう。嘘をつき、罪を犯してきた彼らの汚れた心を洗い流すようである。こういった共通の経験が彼らの間にどことなくあった距離感を縮めていくことになる。そして皺も汚れもない他の誰かの服に着替えることで、彼らが今までの自分ではない他の誰かになろうと気持ちを新たにすることが表現されている。

一方で、彼らを追跡するペ・ドゥナ演じる刑事のアンは「育てられないなら産むな」と言い放つ。もちろんそれには一理あるし、最悪の場合中絶をすることもできる。ちなみに韓国の中絶は、病気やレイプなどの理由以外のものは不法とみなされていて、医師と中絶をした女性が罰せられるそうである。だから、最初の依頼人からもしかしてレイプじゃないだろうなと言われているのだろう。その堕胎罪を廃止にする動きもあるのだが、特に韓国のカトリック教会は反対を表明するなど、韓国内でも意見が二分されている印象だ。

 

アンのような理性ある人間の意見も分かる。でも、人間も動物であり、繁殖活動だってする。そして仮に生んだとしてもネグレクトや虐待もある。そういった問題は「誰も知らない(2004)」でも描かれてきた。人間は弱い生き物である。誰かと誰かが支え合って生きている。それはごくごく当たり前のことなんだが、でも日本でもそもそも結婚しない人も増えたし、シングルマザーやシングルファザーだって増えており、すぐに助けを求められる状態でない人もたくさんいる日本も決して侮れないところだろう。

また、アンは後輩の刑事と2人が車でサンヒョンらが現行犯で赤ちゃんを売買する現場を押さえるために後を追っている。冒頭近くから彼女たちの場面はかなりの頻度で食事をしているが、中盤以降は食事をする場面はなくなっていく。最初は彼女たちは食事しながら追う余裕があったが、徐々に彼らのことを真剣に考え始めたとも取れる。

そして、偽カップルに用意した「大切に育てます」という言葉をアンも独り言として言っている。これが後にウソンを引き取るということになる伏線になっている。

それから特にソヨンが全員に「生まれてきてくれてありがとう」という場面も印象に残る。人間は誰しも自分の意思で生まれるわけではない。でもそこに生まれてきてくれただけで感謝される尊いものである。そんなことを言われたこともなかったであろうサンヒョンやドンスが変わっていくのも納得できるものがある。

「万引き家族(2018)」と同様に、悪いことをした奴らは捕まる。ただ、サンヒョンは暴力団と関係を持つ知り合いの息子を殺して逃亡生活になっているが、金に手を付けていなかったことからサンヒョンが金目当てではなく、ウソンを助けるためにしたことが分かる。

そして話は3年後。最後にアンがウソンを引き取る展開はちょっと出来すぎた話にも見える。ソヨンがウソンと会える日が決まっていたのに、ほんの少しの時間差で会えなかった。ソヨンが中盤サンヒョンらに「こうなる前に会っていれば」と言う場面があった。ほんのわずかなボタンの掛け違えとかタイミングとかで事は大きく異なる。

「万引き家族(2018)」でも感じたが、SNSがあるとはいえ、人と人との繋がりは決して誰しもが許容できるものではない。コロナとか戦争とか悲惨な出来事があった時に最終的に支えられるのは生身の人間であると感じる。

 

 

 

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【予告編】

 

 

【配信関連】

 

 

<Amazon Prime Video>

 

言語

├オリジナル(韓国語)

 

【ソフト関連】

 

<DVD>

 

言語

├オリジナル(韓国語)

映像特典

├予告編集

 

<BD(スタンダード・エディション)>

 

言語

├オリジナル(韓国語)

映像特典

├予告編集

├キャスト・スタッフ プロフィール(静止画)
├プロダクション・ノート(静止画)

 

<BD(コレクターズ・エディション)>

 

言語

├オリジナル(韓国語)

音声特典

├是枝裕和(監督)による音声解説
映像特典

├来日記念舞台挨拶
├カンヌ映画祭ダイジェスト
├ソン・ガンホ カンヌ国際映画祭受賞会見
├キャストグリーティング
├予告編集
├キャスト・スタッフ プロフィール(静止画)
├プロダクション・ノート(静止画)