【作品#0475】アス(2019) | シネマーグチャンネル

【タイトル】

 

アス(原題:Us)

 

【Podcast】

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【概要】

2019年のアメリカ映画
上映時間は116分

【あらすじ】

1986年の夏、アデレードは両親とビーチの行楽地を訪れる。鏡でできたアトラクションで迷子になったアデレードはそのトラウマから失語症になってしまう。その後、成人したアデレードは失語症を克服し、夫と人の子供を持つ母になっている。夫の提案でかつて迷子になった浜辺に行くことになる。

【スタッフ】

監督/製作/脚本はジョーダン・ピール
音楽はマイケル・エイブルズ
撮影はマイケル・ジオラキス

【キャスト】

ルピタ・ニョンゴ(アデレード・ウィルソン)
ウィンストン・デューク(ゲイブ)
エリザベス・モス(キティ)
ヤーヤ・アブドゥル=マティーン2世(ラッセル)

【感想】

ゲット・アウト(2017)」で華々しい監督デビューを飾ったジョーダン・ピールの監督2作目。全米公開初週末の興行収入は、オリジナルホラー映画としては過去最高で、さらにオリジナル実写映画としても「アバター(2009)」に次ぐ記録を打ち立てた。

1986年のシーンが終わり、現在のシーンでの上空からのカメラで車を捉えるショットは多くの指摘があるように「シャイニング(1980)」を思わせるものがある。後に友人一家に双子の姉妹がいるところも同じである(年齢は異なるが)。

1986年の場面でアデレードが目撃した男が掲げていたボードに記されていたのは、「エレミヤ書の11章11節」である。その中身は「見よ。私は彼らに災いを下す。彼らはその災いから逃れることはできない。彼らは私に向かって叫ぶだろうが、私は彼らに耳を貸さない」である。そして本作には「1111」という数字が、そのまま数字としてまたイメージとして幾度も表現される。デジタル時計が「11時11分」を刻むところ、ビーチを俯瞰ショットで4人家族を捉えると彼らの影が「1111」と並んでいるように見えるところ、また、夜に家の前にテザードの4人が手を繋いで並んでいるのも「1111」に見える。それから主人公の車に貼ってあるハンズクロスアメリカのシールも4人の家族が手を繋ぐ「1111」を連想するものである。

多くの人が同じ志を持ち、手を繋ぎ何かを主張する。アフリカの飢餓を救うために始まったUSAフォー・アフリカはアメリカ国内の飢餓を救うために「ハンズクロスアメリカ」というチャリティイベントを行った。それがライブエイドなどにも繋がり、1980年代のチャリティーイベントの代名詞ともなった。以降ももちろんチャリティイベントなど多数行われているが、あれほど国民が貧困で困る人たちに目を向けているだろうか。ちなみにアメリカの上位1%の所得シェアは1980年が10%だったのに、2008年で21%までに増加している。チャリティイベントやったって、格差はどんどん開いているじゃないか。その貧困にあえぐ人たちがこの束になったときの力強さと怖さは十分に表現されていた。

地上に生活する人間の複製「テザード」たちは「はさみ」を持っている。はさみは2つの刃があり、繋がっているものを2つに切るものである。一方のオリジナルの方が武器として持つものは、金属バットであり、火くべ棒であり、ゴルフクラブであり、置物であり。つまりすべて1つで完結する物である。また息子に関して言えば、テザードがマッチという側薬とよばれる場所をマッチ棒の先端でこすることで火が付く、2つで1つのものを持っているのに対し、息子は手品用のそれだけで火を点けることのできるライターを持っている。ちなみに、その時に息子の来ているTシャツが中にマジシャンのような蝶ネクタイのスーツがプリントされているのも面白い。あと、ビーチに行く時にジョーズと書かれたTシャツを着ているなど、Tシャツに何がプリントされているのかを見るのも楽しめる。

そのエレミヤ書の書かれたボードを持っていた男は、現在のシーンで一家がビーチに向かう途中で救急車に搬送されている男であると分かる。どこかへ向かう途中で不吉な予感を感じるのは、前作「ゲット・アウト(2017)」で彼女の実家に向かう途中で鹿を轢くシーンと重なる。

そしてビーチに行くと、友人一家と合流する。アデレードがキティと話していると、キティから「大丈夫?」と聞かれ、「会話が苦手なの」と答える。これも伏線になっている。初見時だと、かつてのトラウマで一時的な失語症になり、それが影響しているのかと思うが、実はアデレードがテザードであり、こちらの世界に来てから徐々に言葉を覚えていったという事実がある。また、友人一家には高校生くらいの双子の姉妹がいる。彼女たちはビーチで側転ばかりしている。後に友人の別荘に行くと、その姉妹のテザードも側転とか高い身体能力を生かした攻撃をしてくる。これは「ブレードランナー(1982)」でダリル・ハンナが演じたブリスを連想する。「ブレードランナー(1982)」はレプリカントと呼ばれる人間の見た目をした人造人間が登場する物語であり、ブリスもレプリカントの1人で、側転だけでなくバク転などしていたキャラクターである。

ちなみに、ウィルソン一家はどう見ても金持ちである。別荘があり、ボートまで買えるのだから。また、ゲイブが初日の夜から来ている服には「HOWARD」と書いてあり、これは「ハワード大学」のことを指している。このハワード大学は「黒人のハーバード」と言われるくらいの超名門校である。黒人初のノーベル文学賞を受賞したトニ・モリスン、バイデン政権の副大統領カマラ・ハリス、俳優ではチャドウィック・ボーズマン、タラジ・P・ヘンソンなどを輩出したことでも知られている。

そして、その日の夜にテザード一家が夜の街頭で照らされる中、4人が手を繋いで直立不動でただただこちらをどうやら見ていることが分かる。このカットの気味の悪さ。すると、テザードらにあっという間に家の中まで侵入されてしまう。ここで、アデレードのテザードだけが擦れた声でも話せるところも伏線になっている。

そんな頭も良いはずのゲイブが、いろいろ話すテザードたちに「金が欲しいんだろう。ボートもやろうか。何ならATMまで行って…」言っている。金のない奴は金が欲しいから、金をやれば解決すると思っているという浅はかさ。所詮は貧困層のことを何も考えていないことが分かる。何なら娘の方がよっぽど状況を理解している。

地下にはテザードと呼ばれる全く同じ容姿をしたもう1人の自分がいる。冒頭に「地下に多くのトンネルがあるがその存在は知られていない」と字幕が表記され、ここにテザードたちがいるのだろうということが推察できる。その存在が知られていないというのは、額面通りの意味ではなくて、「そういった貧困層がその存在すら認識されていない」という意味合いだろう。

終盤にこのテザードがどういう存在かを説明する件があるが、やや説明的な印象はある。ただ、一応そういう理屈ということにしたいという意図は理解できる。特に遊園地のジェットコースターが映ってその後地下に行くとジェットコースターに乗る真似をしているテザードたちがいる。ここはコメディとして演出したかった箇所じゃないだろうか。また、貧困層の金持ちへの憧憬として見れば、金がないから何か他のもので我慢する、あるいは何かで代用して真似することってある。地上の人間たちがクリスマスに七面鳥を食べる代わりにテザードたち生のウサギを食べていた。だからクレジットが出るところで大量のウサギを映すショットになっている。さらにウサギは感情を表に出さない動物として知られている。

また、印象的なのは友人一家の奥さんのキティがテザードに殺され、そのテザードが彼女の化粧品で鏡を見ながら満面の笑みで化粧をする場面だろう。当然テザードなので、地下にいたから当然化粧なんてしたことがなかった。そしてついに化粧できただけで満面の笑みを浮かべている。一方の本物の方はプチ整形なんてしたことを自慢している訳だからなかなか皮肉が効いている。

アデレードはかつてのトラウマの場所へ行く。そこの看板に「Find Yourself」と書かれているのが良い。あのテザードと出会った場所へ行くと、扉があり、そこを進むといくつもの下りの階段がある。そして、最後にはエスカレーターで下ることになる。下りの階段はいくつもあるし、ある程度のところまで来るとエスカレーターに乗って自動的に下ってしまうというのも表現としてうまいと感じる。さらにここで面白いのは登りのエスカレーターがないところである。一度貧困層になれば這い上がることはできないのだ。テザードがどうやって登って来たかの説明は省略されているので分からないが…。

最終的に一家4人がそれぞれ自分のテザードを自分の手で殺して助かり、救急車に乗り込み、おそらく中盤で友人の別荘で話していたようにメキシコに向かうのだろう。そこで過去にフラッシュバックして、実は今のアデレードがテザードだったことが分かり、助手席に座る息子に微笑む。すると、息子は「あれ、もしかして」と思い仮面を被る。

ラストは冒頭と同様に空撮になり、先を進んでいくと数えきれない人数のテザードが両手を繋いでおり、その先にはヘリコプター2機と煙が上がっている。どうやらとんでもない衝突があったことが示唆されて終わる。金持ちが悠々自適な暮らしをして貧しい人たちを気に掛けていないと突然とんでもない目に遭うかもしれないぞという強烈なメッセージだろう。

前作の「ゲット・アウト(2017)」から比べると映像的にもテーマ的にも広がりを見せた。設定や小道具だけで意味を持たせ、ホラーサスペンスとしてもなかなかの仕上がりだと感じた。やはりオリジナル脚本でここまで勝負できる作家としても大きく評価したい一本。




取り上げた作品の一覧はこちら
 

 

 

【予告編】

 

 

【配信関連】

 

<Amazon Prime Video>

 

言語

├オリジナル(英語)

 

<Amazon Prime Video>

 

言語

├日本語吹き替え

 

【ソフト関連】

 

<BD>

 

言語

├オリジナル(英語)

├日本語吹き替え

映像特典

├“私たち”に潜む魔物

├共につながれて:2パターンの撮影

├ジャンルの再定義:ジョーダン・ピールのホラー

├“私たち”の二元性

├レッド役へのアプローチ

├撮影の裏側

├未公開シーン

├みんな死ぬ

├地上と地下:グラン・パ・ド・ドゥ