【作品#0473】ゲット・アウト(2017) | シネマーグチャンネル

【タイトル】

 

ゲット・アウト(原題:Get Out)

 

【Podcast】


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【概要】

2017年のアメリカ映画
上映時間は103分

【あらすじ】

クリスは恋人ローズの実家へ遊びに行くことになったが、黒人の自分が白人のローズの家に行くことをクリスは心配していた。

【スタッフ】

監督/脚本/製作はジョーダン・ピール
音楽はマイケル・エイブルズ
撮影はトビー・オリヴァー

【キャスト】

ダニエル・カルーヤ(クリス・ワシントン)
アリソン・ウィリアムズ(ローズ・アーミテージ)
キャサリン・キーナー(ミッシー・アーミテージ)
ブラッドリー・ウィットフォード(ディーン・アーミテージ)
ケイレブ・ランドリー・ジョーンズ(ジェレミー)

【感想】

コメディアンとして長らく活躍してきたジョーダン・ピールの初監督作品。比較的低予算で製作されながらも大ヒットを記録し、アカデミー賞では作品賞含む4部門でノミネートされ、脚本賞を受賞した。

本作製作のきっかけはオバマ大統領就任とその後の人種問題であるそうだ。アメリカで黒人初の大統領が就任し、人種問題も解決に向かうと思われていたが、そんなことは全くなく、次の大統領は人種差別発言もしているドナルド・トランプが就任した。人種問題に限れば、程度の差こそあれ日本だって決して無関係ではない。

クリスはどうやらカメラマンの仕事をしていることが冒頭の場面だけで分かる。彼の撮っている写真はモノクロである。つまり白と黒である。そしてそカメラを持つクリスのカラー写真がオークション会場で登場するのもインパクトがある。

白人女性が黒人男性を両親に黒人であることを知らせることなく実家に連れてくるというのは、「招かれざる客(1967)」を思わせる。「招かれざる客(1967)」の黒人男性シドニー・ポワチエと違い、本作のクリスは、自分が黒人であることを相手の両親が知らない状態で行くことを心配している。「銃で追い返されるかもしれない」というセリフは、それを言っているローズが実際にそうすることでそのまま返ってくる。ただ、初見の観客にはローズが非常に頼もしくあり、確実にクリスの味方であることを観客に信じ込ませることに成功している。また、「招かれざる客(1967)」では両親のスペンサー・トレイシーとキャサリン・ヘプバーンはリベラルだが本当はバリバリの保守で、子供にリベラルな教育をしたら本当に黒人の男性を連れて帰って来て、それをとても簡単に受け入れられないという感じだった。「リベラルだが本当は保守」なんて人はたくさんいるだろう。思っているけど口に出せないことや、口に出したら犯罪になるから言わないことは世の中たくさんある。これは人種差別に限らず、ある程度の倫理観や法治国家であることの抑止力で問題になっていないだけかもしれないという非常に不安定なものであると感じる。そういったところを突っつくところがジョーダン・ピールの出自や彼のやってきたコメディ番組に通づるところがあるのだろう。

ローズの運転で彼女の実家に向かう田舎道で飛び出した鹿を轢いてしまう。そこでは、不吉な予感を感じさせるとともに、轢いた鹿をクリスがゆっくりと見に行くところもどこか居心地が悪い。もちろん初見時は、轢かれた鹿が目も当てられない状態かもしれないという意味での恐怖があるのだが、後に振り返ると、クリスが過去に母親を助けなかった話とリンクしてくる。また、事故現場にやって来た白人警官は、運転していないクリスにまで運転免許証の提示を求めると、ローズは「運転していないクリスに運転免許証の提示を求める必要はないはずだ」と言う。トラブルを起こしたくないクリスは運転免許証を提示しようとするが、ローズはこの白人警官がクリスを黒人だからと言って意地悪しているように見えてクリスを守っているように見える。このようなローズがクリスの味方であることを示すような描写の積み重ねが非常にうまい。また、この場面も後に振り返ると、クリスの運転免許証をこの白人警官に見られたという事実を残したくなかっただけだと言うことも分かるのだから、非常にうまい脚本であると感じる。

そして、ローズの実家に到着すると、管理人らしき黒人が車のガラス越しに少し映るが顔までは映らない。なかなか顔を映さないという焦らし方もホラー映画らしくて良い。また、ローズの両親もなかなかはっきり顔を映してくれない。家に到着して彼らが最初に言葉を交わす場面は家の正面を捉えるロングショットである。家の中に入ってからも玄関を捉える遠めのショットでそこから彼らが応接間に入るところまでカメラは捉えるが、次のカットでようやく両親の顔がはっきり画面に映る。ローズが言っていたよりも良い両親に見えるが、娘のボーイフレンドを家に迎えるというには両親ともに黒い服を着ているのも後に振り返ると奇妙には感じる部分である(当人が口に出すほどの違和感ではないところがミソである)。

両親ともに明るく話しかけてくれるのでクリスも出発前の不安はそこになかっただろう。家の庭で紅茶を飲みながら談笑していると、喫煙者のクリスはそれを我慢していてつい机を指先で小刻みに叩いてしまう。それを見たローズの父親ディーンがクリスを喫煙者だと見抜く。また、同時にその指先で小刻みに叩いていた音と、ローズの母親ミッシーが紅茶の入ったグラスにスプーンをカンカンと当てる音が重なる。さりげない描写で後の重要な仕草を印象付けるあたりも見事である。

そして、ローズの弟ジェレミーが帰って来てから雲行きが徐々に怪しくなってくる。ジェレミーは思ったことを口に出さずにいられないタイプである。気になることは遠慮せずに聞くタイプなのだろう。4人の白人一家に1人きりの黒人クリス。ジェレミーの遠慮ない質問にクリスは口を詰まらせてしまうが、これもジェレミーに怒ったり注意したりする程度のものでもない。ちなみに、こちらも振り返ると、ジェレミーはクリスの身体能力が優れているかどうかを率直に確認したいだけだったのが分かる。

その晩、なかなか眠れずにいたクリスは家の外に出てタバコを吸おうとする。すると、暗い庭の奥から何かがこちらに全速力で向かってくるのが分かる。すると、管理人のウォルターがクリスの目の前まで全速力で走って来て方向を変えてどこかへ走り去っていく。クリスは何が起こっているのかは分からず動けなくなってしまう。咄嗟の状況に動けなくなってしまうのも彼が母親を半ば見殺しにしてしまった過去と重なる。さらに家を見ると、使用人のジョージナが窓際に立っている。こちらを見ているのかと思ったら窓を鏡代わりにして髪を整えているだけだった。

とてもタバコを吸っていられる状況でないとして家の中に戻ると、ミッシーから声を掛けられ、催眠術にかけられてしまう。そこで観客向けにもクリスが少年時代に、助けられたはずの母親を見殺しにして家でずっとテレビを見ていた過去が明かされることになる。何かをしなければならない状況下で、家でテレビばかり見ている。それこそなかなか人種問題に公明が見えずに何もしない人たちとも重なるし、あらゆる人間に響く間接的なメッセージである。

さらに翌日には親睦会が開催されると言われ、その件をローズも知らなかったと驚く(もちろんこれは演技なのだが)。客がやって来たと言って窓から外を眺めると、黒塗りの車が続々とローズの家にやってくる様子だけでも気味が悪い。その親睦会ではぱっと見では感じの良い白人夫婦が続々と現れ、庭で親睦を深めていることが分かる。その人たちと話をしていると、「あっちの方も強そうね」とかスポーツの話題が中心である。ちなみにヒトラーの話も出てくるのだが、特に1936年に開催されたベルリンオリンピック関連の話である。ナチスドイツによる人種差別ならびに「アーリア人」至上主義の心配がある中、参加したアメリカはその前のロサンゼルスオリンピックよりも多くの黒人選手出場させ、中でも黒人のジェシー・オーエンスが陸上4種目で金メダルを獲得するという快挙を成し遂げた。ちなみにジェシー・オーエンスの話は「栄光のランナー/1936ベルリン(2016)」で映画化されている。スポーツにおいて、特に陸上やバスケなど、黒人の方が総合的な身体能力に長けており、白人よりも活躍する選手が多いのも周知の事実である。こういったスポーツだけに関する会話も「まぁこんな人たちもいるか」と思い過ごすことができる程度ではある。ただ確実に居心地は悪い。

ついにその場を抜け出したクリスはカメラを撮影しているフリをしてあちこち見まわしていると、自分と同じ黒人を発見して声をかける。ところがその黒人(冒頭で誘拐される黒人)は明らかに普通ではないことが分かる。今までの映画で見て来たいわゆる黒人っぽくも、そして生きた人間である感じもしない。クリスが挨拶としてグータッチをしようとすると、彼は握手してくる。後に分かるが、彼の中身は中高年の白人なのだからしょうがない。

そしてクリスは再び家の中に戻ると、差し込んでいたスマホの充電器が外れていることに気付く。すると使用人のジョージナが現れて、「掃除していたらコードが外れてしまいお客さんの物に触るのは失礼かと思ってそのままにしていた」という、「そんな訳あるか」と突っ込みたくなる言い訳をするが、でも彼女の「あの笑顔」とそれから突如として涙を流すという展開に呆気に取られて何も言えなくなってしまう。同じ黒人同士くらい仲良くできると思っていたのに、こいつらはどう考えてもおかしい。この使用人を演じた女優ベティ・ガブリエルの見事なまでの演技と存在感。本作で一番印象に残る場面と言っても過言ではない。

そして外に出ようとすると再び声を掛けられ、さっきの黒人に無理やり話を振って、証拠にと思ってスマホで彼を写真に収める。すると、その黒人はカメラのフラッシュに突然動きを止め、鼻血を出し、突然クリスに襲い掛かり「Get Out!!」と言って暴れ出す。これも後に分かるが、彼の中にあるまだ黒人としてのまともな部分の叫びである。そしてミッシーの催眠術を再び受けてさっきの状態に戻ったことがこれも後に分かる。

ローズの実家の出来事の合間に登場するのがクリスの友人ロッドである。彼は友人を何とか助けようと色々行動するキャラクターである。ロッドは異変を感じて警察に相談に行く。真剣に聞いてくれていると思ったら相手の警官3人ともが揃って笑ってロッドをバカにする。この「間」が完全にコメディになっている。自分も相手の警官も同じ黒人なのに、「お前馬鹿じゃないの」と言わんばかりである。

明らかに異常な状態でこの場から立ち去りたいとクリスはローズに伝える。荷物を整理していると、部屋の小さな扉が開いており、そこにはローズがかつて関係を持っていた男性の写真が次々に出てくる。自分が最初の黒人男性だといっていたのに、何人もの黒人の写真が出てきて、なんと管理人の写真と、それから使用人の女性までもが出てくる。突然の出来事にクリスは信じられず、何事もなかったかのように家を出ようとするが、ローズは車のキーが見つからないと言ってもたもたしている。クリスはあれほど決定的な証拠を見たのに、いつも自分の味方をしてくれたローズをいきなり悪者にもできずにほんのわずかな希望を見出そうとするが、遠慮しないジェレミーによって通せんぼされ、あのミッシーのティーカップをスプーンで叩く音で落ちてしまう。唯一の味方だと思っていた女性から裏切られたことでクリスは完全に奈落の底に突き通されてしまう。

また、クリスが催眠術にかかった途端に、ローズは髪を束ねて、まるで人相まで変わってしまう。今まで髪の毛でおでこや顔の輪郭を隠していた彼女が髪を束ねることで、おでこや顔の輪郭が露になり、まるで本性を現したという意味にも取れる。また、使用人のジョージナも管理人のウォルターも手術をした過去を隠すために、ジョージナはウィッグをして、ウォルターは帽子をしている。

すると、クリスは地下室に閉じ込められ、椅子に手足を拘束され、目の前にはテレビ画面がある。あの少年時代と同じ状況だ。クリスは少年時代に交通事故に遭った母親を助けることなく家でテレビを見続けていた。母親は即死ではなかったために、すぐに助けを呼べば助かったかもしれない。その過去がクリスを苦しめている。これぞアメリカにおける人種問題と言える。アメリカは人種問題がありながらもそれをずっと放置してきていることに重ね合わせているのだろう。そして、クリスは椅子の手元の革を剥ぐと中から綿が出てくる。これも各所で指摘があるように、黒人はかつて奴隷だった頃、特に南部では綿のプランテーションで労働させられていたわけである。

その綿を耳に詰めたことであの「音」を聞かずに済んだクリスは、そこからこの一家の連中を次々に殺していく。ちなみに閉じ込められた部屋の壁に鹿の頭が飾られていた。音声解説を聞いて知ったことだが、雄ジカを英語で「Buck」と言うらしく、また「黒人男性」という意味合いもあるらしい。その鹿の角でディーンを殺し、ミッシーは向かい合った時に、机の上にティーカップが置いてある。いつものサスペンス映画なら拳銃とかナイフとかなのに、ティーカップというバカバカしさ。そして殴り殺したはずのジェレミーが家を出られないように何度もドアを足で閉めようとする。つまりゲットアウトさせてくれないわけだが、ジェレミーも何とかやっつける。

そして車に乗って屋敷を出ようとすると、ローズが気付いてショットガンを構えてくる。ある種の狩りをしているわけだから、ただの拳銃じゃなくてショットガンというところも良い。そして車を発進させるとジョージナを轢いてしまう。そのまま立ち去ろうとしたが母親のことを思い出してジョージナを乗せて車を発進させると目を覚ましたジョージナが襲い掛かって来て車は柱に衝突する。ローズがショットガンでこちらを狙い、さらに管理人のウォルターまでもが襲い掛かって来る。馬乗りになったところでクリスがスマホのカメラで撮影し、フラッシュでウォルターは目を覚まし、ローズの銃を奪い、ローズを射殺し、さらに自らの頭を撃って自殺する。

そこへ友人のロッドがやって来る。TSA(運輸保安庁)で働いている。駆けつけた車には「AIRPORT」と書かれている。空港での保安業務をやっているから車に「AIRPORT」と書かれているのだが、ロッドがここに辿り着く過程を端折っているのでまるで空を飛んできたの如く感じるのもセンスだろう。ちなみに当初のエンディングでは、ローズの首を絞めているところで警察が到着し、クリスは逮捕され、刑務所にいるクリスにロッドが面会に来る場面で映画が終わるものだった。ところが救いのないエンディングからこちらに切り替えた。DVDやBlu-rayの特典で別エンディングは見ることができる。

差別してはいけないから差別せずに接するのと、純粋に分け隔てなく接するのは傍から見たら同じである。これはアメリカ国内における黒人、白人、またラテン系やアジア系などの話に通じるが、これって多くの考えにももちろん当てはめることはできる。特に近年ポリティカルコレクトネスと言われる、政治的妥当性。人種とか性別とかによる偏見や差別をしない表現を用いることであり、昔からある言葉だが特に近年によく使われるようになった。根本的な差別や偏見があるからこそ、ポリティカルコレクトネスという考えが出てくる。で、ポリティカルコレクトネスを優先して物を考えること自体が差別じゃないかという議論ももちろんある。結局、差別や偏見は環境や教育によって助長されるもの。ある瞬間にゼロにならなくてもいつか徐々になくなっていくはず。そういった希望を実現するためにも本作が作られた意義は大きいと感じる。もちろんエンターテイメントとしても十分に楽しめた。

【音声解説】

参加者
├ジョーダン・ピール(監督/脚本/製作)


監督/脚本/製作のジョーダン・ピールによる単独の音声解説。初監督故に失敗した話、ダニエル・カルーヤへの演技指導の話、オーディションを勝ち抜いた俳優たちの話、シチュエーションやアイテムの意味すること、作品を通して伝えたかった事、影響を受けた作品(「ステップフォード・ワイフ(2004)」など)や映画監督の話など幅広く話してくれる。



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言語

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音声特典

├ジョーダン・ピール(監督/脚本/製作)による音声解説

映像特典

├もう一つのエンディング(監督/脚本 ジョーダン・ピールの音声解説つき)

├未公開シーン(監督/脚本 ジョーダン・ピールの音声解説つき)

├「ゲット・アウト」の恐怖の本質

├ジョーダン・ピールとキャストによるQ&A

 

<BD>

 

収録内容

├上記DVDと同様

 

<4K ULTRA HD+BD>

 

収録内容

├上記DVD/BDと同様