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雨の朝パリに死す スコット・フィッツジェラルド


創作ラボ2-雨の朝パリに死す




スコット・フィッツジェラルドの『雨の朝パリに死す』のDVDを観ました。


実は、この作品のDVDが発売さているとは全く知りませんでした。DVDというよりは、映画化されているとは知りませんでした。1954年の作品です。


スコット・フィッツジェラルドの作品は彼の死後、いくつもの作品が映画化されています。


原作と映画がどの程度設定が違うのか、気になって、原作をまた読んでみました。原作は短編です。


原作とは設定がやや違っているのですが、映画のほうが、悲しく美しい物語に、うまく出来上がっていると思います。


原作は読んでいるだけで、心臓がちくちくしてくるのですが、映画では、ロマンチックで、そして、物悲しい作風になっています。


原作では、なぜ、ヒロインが小雪交じりの雨の降るパリの朝に死亡したのかあまりはっきりとは想像できなかったのですが、映像にすると、よく分かります。


映画のヒロインは、エリザベ・ステイラーです。ほんとに美しい。主人公の男優は、どことなくスコット・フィッツジェラルドに似ています。


原作よりは、映画のほうが分かりやすくて、楽しめます。



人生の勝者

うまく寿命まで生きて、せいぜい、八十を少し過ぎる程度です。


単純に、それまで、生きられたら、まあ、悪くない人生だと思うべきだろう。


とにかく、寿命まで生きられたらそれでいいのだと満足してみる。


世間的な名声を手に入れて、華やかな人生を送ったとしても、誰にも気づかれることなく、孤独のうちに死ぬ者は多くいる。


ほとんど意識がはっきりしないまま、何年も施設で、あるいは病院で暮らし、臨終には誰も立ち会う者もいないままに、人知れず死期を迎える者もいる。


畳の上で、家族に看取られながら最期を迎えることができたなら、幸福な人生だというべきだろう。


彼こそが、人生の勝者である。

聞き違い

駐車場に止めてある車に向って、私はゆっくりと歩いた。ビルの地下にある駐車場には私の靴の足音が鈍く響いていた。


私はちらっと、後ろを振り返った。誰の姿もなかった。私の足音以外は何も聞こえなかった。


車の運転席のドアに手をかけた時、左前方から銃声が聞こえた。

反射的に私は身を伏せた。また、銃声がした。銃弾は明らかに私を狙ったものだった。二発目の銃弾は私の右足の三メートルほど先のコンクリートの床にに着弾して跳ね返った。


敵は、左斜め前方の黒塗りのセダンの影から撃っていた。こちらからは相手の姿を確認することはできないが、むこうからはこちらの姿が見えているはずだ。


私は、伏せたまま、すばやく車の後方に移動して、さらに助手席側に回り込んだ。私は上着の内側のホルスターから、リボルバーを取り出した。


こちらからは相手の姿が見えない。むやみに撃つのは、弾のむだになる。


敵の三発目の銃弾が車のフロントガラスを貫通した。


私は腕をのばして、ボンネット上に乗せて敵のいる方向に一発発射した。


敵の動きを見るためにほんの少しだけ頭をボンネットの上の高さに上げた。


敵が左方向に移動するのが見えた。私は、敵の動く方向に、二発発射した。敵に当たったかどうかは分からない。


敵は、車の陰に隠れながら移動して、私の背後に回るつもりだ。この場所にじっとしてはいられない。


私は敵がいると思われる方向に一発発射しながら車の運転席側に移動した。そして、ドアを開け車の中に入った。そして、素早くドアを閉めた。


私は車のエンジンを始動し、出口に向かって車を急発進させた。甲高いスリップ音を残して車は発進した。


その時、左前方から、彼が現れ、こちらに向かって発砲した。私は運転席から腕を出して、彼に向って、二発つづけて撃った。彼には当たらなかった。


彼は、車の陰に身を潜めて、私の車をやり過ごし、今度は背後から発砲した。


ルームミラーで彼の姿を確認した私は、とっさに身をかがめた。次の瞬間、車はコンクリートの柱に激突した。


フロントガラスは粉々に飛び散った。エアバッグはあまり効果がなかたった。私は頭をハンドルぶつけた。頭の中で巨大な鐘が鳴り響ていた。


全身の筋肉が一瞬にして萎えてしまった。私は、助手席側に仰向けに倒れた。


朦朧としている意識の私の目には、オートマチック拳銃の銃口をこちらに向けている男の顔がぼんやりと見えた。私は亡霊のように見えている男に無意識にリボルバーを向けていた。


「もう七発撃っている。その銃には弾は入っていないはずだ」男は、にやにや笑いながら言った。


男は、私がゆっくりと引き金を引くのを眺めていた。そして、銃口が火を噴いた。


彼は、聞き違いをしていた。私の車の運転席のドアが閉まる音を発砲音と思ったのだ。



彼が個展を開く理由

彼は何度めかの個展を開いていた。


海と、山の幻想的な光の作り出す瞬間を切り取った写真が、全紙サイズで30枚ほど展示されていた。


彼の写真は、業界では、少しずつ評価が高まってきていた。


写真を撮ることによって、生活ができるだけの収入があったが、彼は自分自身のことをアマチュアカメラマンだと思っていた。


「よう、大盛況だな」個展を見にきた彼の友人が声をかけた。


あまり広くもない会場には10人ほどの来場者がいた。彼は、来場者の署名に目を通していた。


「おまえは、ポートレートが専門だと思っていたけど、風景ばかりだな」

 と、彼の友人が展示してある写真をぐるっと見回しながら言った。


「もともと、生まれた娘を撮るために写真を始めたんだ。最初のポートレートの写真展は、娘の写真と決めているんだ。いつになるか分からないけど」


「そうだなぁ、もう何年になる?」彼の友人がきいた。


「娘が1歳になる前だったから、16年になる」彼が答えた。


「その後は、娘さんとは一度も会ってないのか」


「ああ、一度も会ってない。こうやって個展を開いていれば、いつかは娘が来てくれるんじゃないかと思うんだ。娘のポートレートを撮るまでは、俺はアマチュアさ」











天気予報が外れた日

彼女は、憂鬱そうに、窓の外の雨を眺めていた。


雨が降るとは彼女は思ってはいなかった。


海の見える、レストランの窓際の席に彼女はいた。


レストランは、丸太を積み上げた、ログハウスのような外観だった。


このレストランを待ち合わせの場所として彼が指定した。


約束の時刻をすでに15分過ぎていた。


彼女は、彼のケイタイに電話をしてみたが、電源が切られていた。


これが、彼の答なのだということを彼女は理解した。


彼女はコーヒーを飲み干した。そして、タンクバッグとヘルメットを持って、レスランを出た。


レスランの外に出て、彼女は、惜しみなく雨の降る空を見上げてみた。雨が降り止む気配はなかった。天気予報は見事にはずれていた。


彼女の視界には650CCのオートバイが見えていた。雨の中を彼女はオートバイまで走った。


ブルージーンズにライディングジャケット姿の彼女はオートバイにまたがり、タンクバッグをタンクの上に乗せ、ヘルメットを被った。


オートバイは駐車場から海沿いの国道に出ていった。


ギヤチェンジをしながらオートバイは加速していく。


彼女の左手には海が見えていた。


海沿いの国道には次々にコーナーが現れた。


晴れていれば、海を見ながらコーナーを楽しむことができる。


しかし、雨の日はライディングに集中しなければならない。


ストレートが現れたかと思うと、その先はコーナーになっている。


前方を走っている車が突然彼女の視界から消えた。


ストレートの先で車が消失したように見えた。


ブレーキランプも点灯していたようには思えなかった。


彼女が、前方の車の消失ポイントに達したとき、国道は、ヘアピン状に右に曲がっていた。


反射的に彼女は、リアブレーキのペダルを右足で踏み込んだ。


彼女はブレーキングミスをした。


パニックブレーキングでは、リアタイヤをロックさせてはいけないという基本的な原則を彼女は守らなかった。しかも、雨の日だった。


リアタイヤをロックさせたオートバイは、リアタイヤのグリップを失いあっさりと、オートバイの右サイドを路面に激しくこすりつけながら滑った。


右側のリアウインカー、フット・ステップ、バックミラーがばらばらに飛び散った。


彼女は、オートバイのハンドルを握ったまま、オートバイと、路面に挟まれるようにして路面の上を引きずられた。


制動力を失っているオートバイはガードレールにぶつかり、センタライン側に跳ね返され、1回転して止まった。


彼女は、体の右半身を下にして、走行車線の中央で動かなくなった。


「天気予報・・・・」彼女はフルフェイスのヘルメットの内側でうめくように言った。