彼が個展を開く理由
彼は何度めかの個展を開いていた。
海と、山の幻想的な光の作り出す瞬間を切り取った写真が、全紙サイズで30枚ほど展示されていた。
彼の写真は、業界では、少しずつ評価が高まってきていた。
写真を撮ることによって、生活ができるだけの収入があったが、彼は自分自身のことをアマチュアカメラマンだと思っていた。
「よう、大盛況だな」個展を見にきた彼の友人が声をかけた。
あまり広くもない会場には10人ほどの来場者がいた。彼は、来場者の署名に目を通していた。
「おまえは、ポートレートが専門だと思っていたけど、風景ばかりだな」
と、彼の友人が展示してある写真をぐるっと見回しながら言った。
「もともと、生まれた娘を撮るために写真を始めたんだ。最初のポートレートの写真展は、娘の写真と決めているんだ。いつになるか分からないけど」
「そうだなぁ、もう何年になる?」彼の友人がきいた。
「娘が1歳になる前だったから、16年になる」彼が答えた。
「その後は、娘さんとは一度も会ってないのか」
「ああ、一度も会ってない。こうやって個展を開いていれば、いつかは娘が来てくれるんじゃないかと思うんだ。娘のポートレートを撮るまでは、俺はアマチュアさ」