青年団 「火宅か修羅か」
2007年12月21日(金)~2008年1月14日(月) こまばアゴラ劇場
作/演出:平田オリザ
出演:山村崇子、志賀廣太郎、兵藤公美、島田曜蔵、高橋縁、能島瑞穂
しんそげ、古屋隆太、鈴木智香子、古舘寛治、井上三奈子、大竹直
山本雅幸、荻野友里、堀夏子、村田牧子
開場時から舞台には役者がおり、途中に暗転は無く、重なる台詞、湯気の立つお茶。
やはり、現代口語演劇なのです
もはや「ただ一つの物語」の退屈さは言うまでもないのですが
その解決の手段の一つとして「重層的な物語」が挙げられるのです。
しかし、それとも異なり、一つの空間において複数の異なる物語
を同時に語る事が可能な「現代口語演劇」は、いまだ「ただ一つの物語」
を語る劇が多い現時点においては、有効だと思われるのです。
面白いのです。
劇団鹿殺し 「2008改訂版・百千万」
2008年1月11日(金)~1月21日(月) 下北沢駅前劇場
作/出演:丸尾丸一郎
演出/出演:菜月チョビ
出演:オレノグラフィティ、岸本啓孝、橘義一、丸山知佳、谷山知宏(花組芝居
)
菅野家獏、坂本けこ美、佐藤輝一、しのだ藍郎、高橋戦車、傳田うに、道園僚一
山岸門人、政岡泰志(動物電気
)
オーディションに合格した新メンバーを加えた再演。
福井県の美浜が舞台となる物語となっており
主人公を「エンゲキ」と名付けていたり、これまでにも増して
重層的な物語が感じられるのです。
また、歌やダンス、客いじりの他にも、歌舞伎や
ボブ・ディラン、ディズニーなど、非常に多様な表現となっており
その劇の構造は、とても乱暴な事を言ってしまうと
先に書いた「デス電所」と非常に似通っているのです。
ついでに言ってしまうと、先日観た「クロムモリブデン」
に関しても非常に似ていると言えるのです。
それらの共通点は、ひどく乱暴に括ってしまうと
全て「関西出身」の劇団なのです。
その特徴は、「デス電所」でも書いたのですが
笑いを中心としたエンターテイメント的な表層であり
重層的な物語の構造であり、表現の多様性なのです。
では、何故、関西でこの様な構造の劇が多く観られるのかと言えば
これまた、乱暴な推察をしてしまうと
関西はその土地柄、やはり「エンターテイメント的な表層」
が非常に重要なのではないかと考えられるのです。
その「エンターテイメント」を保ちながら、作者の表現
を同時に劇に盛り込もうとすると、必然として重層的な物語
となる様に思われるのです。
実は(私が知らないだけなのかもしれないのですが)
関東では、現代口語演劇の影響が強すぎた事も
あるかと思われるのですが、この様な劇を行う団体は
見あたらないのです。
あえて言えば「ナイロン100℃」なのですが
当然、その成り立ちは異なるのです。
本公演における「劇団鹿殺し」の表現には、これまでと異なり
ある強い意志が感じられ、非常に興味深いのです。
面白いのです。
デス電所 「残魂エンド摂氏零度」
2008年1月11日(金)~1月14日(月) ザ・スズナリ
作/演出/出演:竹内佑
出演:丸山英彦、山村涼子、豊田真吾、田嶋杏子、福田靖久、米田晋平、松下隆
音楽/演奏:和田俊輔
やはり、印象としては「雑然としている」のですが
それは、笑いを塗したエピソード群や、ダンスや
歌などの多彩なエンターテイメント的な表現から物語を
間接的に語ろうとする、その構成にあるように思われるのです。
また、かなり極端な抽象表現が多い事も「雑然さ」の
一つの要因だと思われるのです。
ただ結果的に、様々な表現から物語が間接的に語られるために
劇は重層性を帯び、多様性が感じられるのです。
面白いのです。
次回公演は「青山円形劇場」で行われるとの事なのですが
「デス電所のテーマ」で「青山円形劇場にやってきた~」
は字数が多すぎる気がして、今から心配なのです。
スロウライダー 「手オノをもってあつまれ!」
2008年1月4日(金)~1月7日(月) THEATER/TOPS
作/演出/出演:山中隆次郎
出演:數間優一、日下部そう(ポかリン記憶舎
)、芦原健介、金子岳憲(ハイバイ
)
町田水城(はえぎわ
)、山口奈緒子(明日図鑑
)田中慎一郎、松浦和香子
石川ユリコ(拙者ムニエル
)、山田伊久磨(EHHE
)、多門勝(THE SHAMPOO HAT
)
無機質な舞台装置上で語られる、近未来の物語。と、思いきや
おそらくは、現代の物語なのです。
ほぼ全編を通して、ネットゲームの世界を描いているのですが、その中に
一カ所だけリアルなシーンが挿入されているのです(「松坂世代」という
キーワードとも言える台詞が丁寧にも挿入されている)
つまり、そのリアルな現代のシーンを基点としたネットゲームの世界を描く
現代の物語と言えると思われるのです。
また非常に印象的なのは、これまでのスロウライダーではありえない程の
非常に極端な抽象表現が散見されることなのですが、それは、もちろん
何らかの意図に基づいていると感じられるのです。
その意図とは、実は、この劇は具象表現によって語られているのではないかと
考えられるのです。
つまり、そもそもネットゲームとは、当然、抽象的な表現によって構成されている訳で
それを具象表現として舞台で表現すると、結果的に極端な抽象表現になる。と考える事が
出来ると思われるのです。
(そもそも具象表現劇で、ネットゲームの世界を表現する事は不可能であるとも
言えるのですが)
石川ユリコ演じるサダコさんはNPCと考えられるのです。
面白いのです。
クロムモリブデン 「スチュワーデスデス」
2007年12月28日(金)~2008年1月8日(火) 下北沢駅前劇場
脚本/演出:青木秀樹
出演:森下亮、金沢涼恵、板倉チヒロ、奥田ワレタ、久保貫太郎、渡邉とかげ
板橋薔薇之介、葛木英(メタリック農家
)
いつもの様にエンターテイメント的とも言える、ポップでコミカルな
表層となっているのです。
物語は、現実の世界と登場人物の夢の世界との重層的な構造となっており
なおかつ、SとMや、被害者と加害者といった二項対立の要素がちりばめられ
さらに、マイケル・ジャクソンやヤッターマン、うる星やつら、エヴァンゲリオン
葛木のありそうで無かった女王様などのネタから、死刑存廃と被害者救済
問題やいじめ、印象的な音楽やダンス衣装や小道具など現在性と共に
多様な要素が詰め込まれており、正に多様性の劇となっているのです。
ちょっとビックリする程、面白いのです。
新年工場見学会08
2008年1月2日(火)~1月4日(金) アトリエヘリコプター
■ザ★天井 「珍徳丸」
作/演出/出演:岩井秀人(ハイバイ
)
出演:浜田信也、墨井鯨子、平原テツ(reset-N
)、師岡広明
坂口辰平(ハイバイ)、木滝りま
■劇団黒田童子 「思いやりをすて、母を出でよ」
作/演出/出演:前田司郎(五反田団
)
出演:黒田大輔(THE SHAMPOO HAT
)、安部健太郎(青年団
)、斎藤庸介
菊川朝子(Hula-Hooper
)、中川幸子(五反田団)、立蔵葉子(青年団)
内田慈、西田麻耶(五反田団)、浅井浩介、鈴木正吾、盛岡望、肥田知浩(劇団hako
)
坊薗初菜(カムカムミニキーナ
)
■ザ・ノーバディーズ(歌・演奏)
昨年の新工場見学会は「能のニセモノ」だったのですが
今年は「アングラのニセモノ」なのです。
いまいちピンとこないのです。
それはある意味当然で、昨年の「能」では比較的明確に様式や形式が存在した
のですが、「アングラ」には決まった様式や形式は存在しないのです。
従って、岩井、前田それぞれの個人的なバックボーンからアングラ的要素の
抽出に終始している印象なのです。
そして、二人のそれぞれの「アングラ」へのイメージは(分かり易く誇張されているとしても)
かなり偏ったものと感じられるのです。
ちなみに「ザ★天井」は「天井桟敷」、「珍徳丸」は「身毒丸」
「思いやりをすて、母を出でよ」は「書を捨てよ、町へ出よう」(寺山修司)
「劇団黒田童子」は「劇団桟敷童子」なのです。
面白いのです。
2007年
あけましておめでとうございます。
何となく2007年を振り返ってみます。
いろんな意味で感銘を受けた演劇等を挙げてみます。
■パズノーツ パズノーツのマクベスPPR こまばアゴラ劇場
■ひょっとこ乱舞 銀髪 吉祥寺シアター
■ITOプロジェクト 糸あやつり人形芝居「平太郎化物日記」 ザ・スズナリ
■指輪ホテル YIN&YAN 森下スタジオ
■クロムモリブデン マトリョーシカ地獄 サンモールスタジオ
■ハイバイ お願い放課後 こまばアゴラ劇場
■シベリア少女鉄道 永遠かもしれない シアターグリーン BIG TREE THEATER
■財団法人せたがや文化財団 国盗人 世田谷パブリックシアター
■ブラジル 天国 中野ザ・ポケット
■POTALOVE 駒場編Vol.2 こまばアゴラ劇場周辺
■ミクニヤナイハラプロジェクト 青ノ鳥 吉祥寺シアター
■THE SHAMPOO HAT その夜の侍 ザ・スズナリ
■ペンギンプルペイルパイルズ ゆらめき 吉祥寺シアター
■五反田団 生きてるものはいないのか こまばアゴラ劇場
■メジャーリーグ 野鴨 シアター1010
■SPAC 転校生 静岡芸術劇場
■M&O Plays 死ぬまでの短い時間 ベニサン・ピット
以上、16/146
PARCO 「ビューティ・クイーン・オブ・リナーン」
2007年12月7日(金)~12月30日(日) PARCO劇場
作:マーティン・マクドナー
訳:目黒条
演出/出演:長塚圭史
出演:大竹しのぶ、白石加代子、田中哲司
マクドナー×長塚圭史、三作目となる公演。
まず、感じられるのは白石加代子演じるマグというキャラクターの
過剰ともいえるデフォルメのされ方なのです。
確かに、実年齢と離れている役であることや
物語として、マグが強烈なキャラクターでなければ
後半が生きてこない。という意図はわかるのです。
だとしても、あそこまでのデフォルメが必要だったかどうか
疑問であり、違和感が感じられるのです。
とはいえ、マクドナーのスゴさは相変わらずであり
マクドナーの作品全般に言える事なのですが、背景にあるアイルランドの
その歴史的、地理的、政治的な要素が作品に奥行きをもたらしているのです。
あるシーンで、大竹しのぶの仕草がチェルフィッチュの様に
感じられたのは、そこに、ある意味で彼女の凄さの一端が
在るように思われるのです。
面白いのです。
マンションマンション 「人間フィルハーモニー」
2007年12月21日(金)~12月26日(水) 下北沢駅前劇場
脚本/演出:福原充則(ピチチ5
)
出演:嶋村太一(親族代表
)、高木珠里(劇団宝船
)、チョウソンハ(ひょっとこ乱舞
)
富岡晃一郎、根上彩、三浦竜一、横畠愛希子、菊地明香、小森理
野田秀樹の言うところの「富士山を太平洋にブン投げる一派」
の公演。
こういったナンセンスな物語による劇作は、往々にして
劇の中心が「物語」になりがちなのですが、本公演では
そうはなっていないのです。
それは「類い希な濃い役者」が集っていた事にあると思われるのです。
役者が物語をある意味で凌駕しているのです。
高木珠里とチョウソンハがカップルなんていう恐ろしい設定が
実現されている事からも、明らかなのです。
また、仕掛けの奇抜さ(バカバカしさ)も、それに拍車をかける事で
結果、この様な劇としては、これまで観たことの無い絶妙な
バランスの取られ方により、成立していたのです。
面白いのです。
NODA・MAP 「キル」
2007年12月7月(金)~2008年1月31日(木) Bunkamuraシアターコクーン
作/演出/出演:野田秀樹
出演:妻夫木聡、広末涼子、勝村政信、高田聖子(劇団新感線
)、山田まりや、村岡希美(ナイロン100℃
)
市川しんぺー(猫のホテル
)、中山祐一朗(阿佐ヶ谷スパイダース
)、小林勝也、高橋惠子
1997年以来の再々演となる公演。
本公演で気付くのは「広末の露出が多めだ」という事だったり
「妻夫木の喉が気掛かりだ」や「美術の豪華さ」という事では決して無く
やはり野田のテキストの多義性とメタファーの豊かさなのです。
例えば、タイトルの「キル」をとってみても「着る」であり
「切る」であり「斬る」であり「生きる」であり英語の
「キル」でもあるのです。
この多義性とメタファーを基点に重層的な構造の物語が立ち上がる様は
正に「多様性の劇」以外のなにものでもないのです。
劇パンフレットで、野田の言う「富士山を太平洋にブン投げる一派」は
言うまでもなく、野田を含む「抽象表現劇」を行う一派であり、野田が「敵」と呼ぶ
「等身大の人生を描く一派」は「具象表現劇(=現代口語訳演劇)」を行う一派なのです。
ここまで書いて、この事を事細かに書く行為は「事を荒立てる」事にもなりかねない
気がしてきているので、あえて書かないのですが、最後に少し言うと、本公演に客演している
役者の所属劇団は全て「抽象表現」を軸とした劇を行う劇団ばかりなのです。
面白いのです。