週末シアターゴアーの傾く日常 -4ページ目

ONEOR8 「ゼブラ」

2007年11月2日(金)~11月11日(日) THEATER/TOPS
作/演出:田村孝裕
出演:弘中麻紀(ラッパ屋 )、星野園美、今井千恵、吉田麻起子(双数姉妹
瓜生和成(東京タンバリン )、冨塚智、平野圭、冨田直美、恩田隆一、和田ひろこ
野本光一郎 津村知与支(モダンスイマーズ


再演。


具象表現をベースとした抽象劇。といえると思われるのです。


具象表現では、表現の手段が制限されてしまう部分があるのは
確かであり、そのため、最近では(特に2007年から顕著)
具象表現劇であっても、時間や場所が飛ぶなどの表現を様々な劇で
観る事ができるのです。


その例に漏れず、本公演でも、過去に時間が飛ぶなどの表現が
観られるのですが、それらは、違和感、もしくは表現の統一感に
欠けるように感じられるのです。


具象表現に抽象表現を組み入れているのはわかるのですが

特に、子供時代を描く部分や、一部の登場人物のキャラクターなどの部分は

組み会わせるべき表現の枠を超えていると感じられるのです。


結果、語られる物語とその手法に乖離が感じてられてしまうのです。


時間堂 「月並みなはなし」

2007年10月19日(金)~10月29日(月) 王子小劇場
脚本/演出:黒澤世莉
出演:雨森スウ、河合咲、木村美月(クロムモリブデン )、こいけけいこ(リュカ. )
境宏子(リュカ.)、池田ヒロユキ(リュカ.)、鈴木浩司、中田顕史郎


近未来を描いた、具象表現演劇。という事ができると思われるのですが

一つ問題点が感じられるのです。


それは、そもそも具象表現で未来を描くのは
困難が伴うからなのです。


具象表現劇では、台詞のやりとりから物語を進行させながらも同時に状況などを

観客に説明する必要があるのですが、現代や近過去が舞台となっている
場合は観客は同時代という共通の認識が前提となっているため最小限の情報からでも
語られる内容について類推する事が可能となっているのです。


しかし、舞台が本公演の様な近未来の場合は状況は異なるのです。


近未来での出来事は当然、観客は共通の認識が無いために
比較的多く、説明をする(もしくは観客の想像力に任せる)
必要が出てくるのです。


この部分に、説明的な台詞だったり、説明の不足などの

違和感が拭えないのです。


タイトル通り。と言わざるを得ないのです。


ペンギンプルペイルパイルズ 「ゆらめき」

2007年10月17日(水)~10月28日(日) 吉祥寺シアター
作/演出:倉持裕
出演:小林高鹿、ぼくもとさきこ、玉置孝匡、内田慈、近藤智行、吉川純広
坂井真紀、戸田昌宏



「大宮から湘南新宿ラインで1本」


といった台詞に象徴されるように

これまでの倉持の作品と比較して、とても現実に近い
世界観が感じられるのです。


かと言って、抽象劇で無いのかと言えば
そうではなく、「冒頭の独白」や「鳩サブレ」「ジャム」
「ナイフ」などに抽象的な表現が見受けられるのです。


つまり、現実的な世界観をベースに所々で
「抽象的」な表現が挿入されている印象なのです。


そのため、もちろん、登場人物たちの感情も「ゆらめいて」
いるのですが、現実と夢想との間でも「ゆらめいて」
いると言えると思われるのです。


参りました。のです。


cube presents 「犯さん哉」

2007年10月6日(土)~10月28日(日) PARCO劇場
作・演出/ケラリーノ・サンドロヴィッチ(ナイロン100℃
出演:古田新太(劇団新感線 )、中越典子、犬山イヌコ(ナイロン100℃)、姜暢雄

大倉孝二(ナイロン100℃)、八十田勇一、入江雅人、山西惇



ケラを称して「ナンセンスの旗手」と言われて久しいのですが
近年では比較的物語を中心とした作劇がほとんどなのです。


もちろん、それらの一部にナンセンスの要素を見つける事は
容易ではあるのですが、ここまで物語をなおざりとした劇で
あることには、ある意志が感じられるのです。


当たり前の事なのですが、この劇のデタラメさは
本当の意味でのデタラメでは無いのです。


表面的にこそ、デタラメに見えるのですが、非常な精緻さが
感じられるのです。


それは、これだけデタラメな劇が、(細かなニュアンスも含めて)
客に伝わるように表現されている事実からも明らかだと思われるのです。

また、近年、ここまで痛快な「無駄さ加減」が感じられたのは

「シベリア少女鉄道」による一連の劇以外には無かったのです。


全くもってくだらないのです。




全く関係無いのですが


この劇を製作している「cube 」というのは、今回の出演者の全員が
所属している芸能事務所なのですが(他に「藤木直人」「いきものがかり」なども所属)
何気なくクロムモリブデンの「森下亮」「板倉チヒロ」「奥田ワレタ」
の3人も所属しているのです。


どこまでアンテナを広げているのか、恐ろしい会社なのです。
しかし、それは正しい判断と思われるのです。



毛皮族 「おこめ」

2007年10/13(土)~10/21(日) 本多劇場
作/演出/出演:江本純子
出演:町田マリー、羽鳥名美子、高野ゆらこ、武田裕子、延増静美
平野由紀、高田郁恵、柿丸美智恵、金子清文、米村亮太朗(ポツドール
澤田育子(拙者ムニエル


「おこめ」「おこめ外伝」の二本立てによる公演。


これまでと比較して大きく異なるのは
物語を語る事に大きく振った劇となっている事なのです。


これまでも、物語が語られる劇はあったのですが
より、物語を前面に押し出すために、他の要素
(露出や引用、舞台美術など)を控えめ、もしくは
シンプルにしている印象なのです。


つまり、従来からの毛皮族の特徴と言える要素の
一部を削いだ劇となっていると言えるのです。


それで何を表現したかったのかと言えば


とても平たく言ってしまうと

「毛皮族によるポツドール的劇」

と言えると思われるのです。


そして、それはおそらく客演の米村の存在と無関係では無いのです。


おそらく「おこめ」は従来の毛皮族と異なる劇だという自覚が
あったために、「おこめ外伝」という、従来の手法や引用
(スチュワーデス物語+007など)を駆使した劇を追加したものと
思われるのです。


大きな意味では「ポツドールを引用している」と
言えるのかもしれないのです。


東京デスロック 「演劇LOVE」

2007年9月30日(日)~10月9日(火) リトルモア地下
作/演出:多田淳之介


■「社会」
出演:夏目慎也、佐山和泉、多田淳之介、海津忠、永井若葉(ハイバイ )、ギリコツカサ

■「3人いる!」
出演:夏目慎也、佐山和泉、岩井秀人(ハイバイ)

■「LOVE」
出演:夏目慎也、佐山和泉、石橋亜希子、髙橋智子、坂本絢、宮嶋美子(風琴工房
白神ももこ(モモンガ・コンプレックス)


「社会」

ある企業の昼休みのスケッチを、現代口語演劇的に描いて
いるのですが、3作品の中では、比較的ノーマルなのです。


「3人いる!」

劇は同時に複数の視点を持つように創られており
もちろん、同時に複数の視点を提示する事は不可能であるために
観客へ提示する視点をくるくると変化させる事により成立しているのです。


観客は、視点が変わった事をテキストから読み取る他は無く
テキストに依存した、非常にテクニカルな面が強く感じられるのです。


脚本の「巧さ」が際だった劇と言えるのです。


「LOVE」

「現代口語演劇」の「関係性」の要素を基点とした劇だと思えるのです。


物語性の排除や、後半の男性(夏目)に対する、複数の異なる問いかけを

均質に行う事より、多様なメタファーを生み出していると感じられるのです。



「現代口語演劇」を拠り所とした、様々な可能性を示した公演
という事が言えると思われるのです。


面白いのです。


THE SHAMPOO HAT 「その夜の侍」

2007年9月29日(土)~10月8日(月) ザ・スズナリ
作/演出/出演:赤堀雅秋
出演:野中隆光、日比大介、児玉貴志、多門勝、黒田大輔、滝沢恵

吉牟田眞奈、梨木智香


ひき逃げで妻を失った男は。


舞台美術に象徴されるように、これまでと比較して
劇全体の抽象度が高くなっているように感じられるのです。


その抽象度の高さは、どこへ向かったのかといえば
贅肉を削ぎ落としたかの様なシャープな物語の語られ方
へと向かったと思われるのです。


結果、具象表現的な文学的奥行きは残しつつ
より、シンプルな骨太な表現となっているのです。


また、その緻密な脚本には脱帽するしか無いのです。


赤堀×ブラは定番になりつつあるのです。


大傑作なのです。


遊園地再生事業団 「ニュータウン入口」

2007年9月21日(金)~9月30日(日) シアタートラム
作/演出:宮沢章夫
出演:若松武史、齋藤庸介、佐藤拓道、鎮西猛、鄭亜美、時田光洋
南波典子、二反田幸平、橋本和加子、三科喜代(ブルドッキングヘッドロック

山縣太一(チェルフィッチュ )、杉浦千鶴子、上村聡、田中夢


「東京/不在/ハムレット」に続き、「ある特定の場所」が舞台
となっているのです。


物語は、ニュータウンという特異的な(人工的にノイズが排除された)場所に
まつわる様々な現実の事件や出来事と接続しながら語られてゆくのです。


・「神戸連続児童殺傷事件(酒鬼薔薇聖斗)」
・「旧石器遺跡捏造事件」
・「パレスチナ問題」
・「ギリシャ悲劇」など


手法的にも、異化であり、メタであり、ライブ映像であったり
イスラエルの映像であったりするのです。
また、役者に関しても、若松武史の特異な身体や、だらしない身体であったり
現代的な身体や、素人的な身体など様々なのです。


これらの非常に多様な要素が重層的に立ち上がる劇は
「宮沢章夫らしい」としか言いようの無い刺激に満ちているのです。


非常に面白いのです。


ひょっとこ乱舞 「トラビシャ」

2007年9月23日(日)~10月3日(水) こまばアゴラ劇場
作/演出:広田淳一
出演:チョウソンハ、伊東沙保、中村早香、橋本仁、高橋恵、西光カイ
笠井里美、草野たかこ、松下仁、根岸絵美、西川康太郎(劇団コーヒー牛乳


物語は、観客の携帯電話へのメールや、ラジオからの音声などの
仕掛けを絡めながら語られるのです。


以前、ラジオ音声に関しては「庭劇団ペニノ/ダークマスター」
でも観られた仕掛けなのですが、特徴的なのは、その使われ方なのです。


本公演での仕掛けの使われ方は、メタ的に、物語と現実を接続するために
使用されていると感じられるのです。
また、観客役として、チョウソンハと伊東沙保を配しているのも
同様の理由によるものだと思われるのです。


そのため、劇は、多層的な構造を持つ事になるのですが
さらに物語においても、子供殺しが行われる日常世界と
「トラビシャ(=2ちゃんねる)」を舞台とするネットワーク掲示板世界
について描かれており、物語自体も多層的となっているのです。


しかし、それらの手法が(物語への距離感が曖昧になるという意味で)
有効だったかと言えば、微妙なのです。


それは、各層が比較的明確に分かれている様に見えてしまう
事にあると思われるのです。


役者陣は相変わらず魅力的なのです。


面白いのです。


ミクニヤナイハラプロジェクトVol.3 「青ノ鳥」

2007年9月21日(金)~9月24日(月) 吉祥寺シアター
作/演出/振付:矢内原美邦
出演:足立智充、有坂大志、稲毛礼子、柴山美保、鈴木将一朗、高山玲子
長谷川寧、渕野修平、光瀬指絵、矢沢誠、山本圭祐


昨年行われたプレビュー公演の本公演


相変わらずの疾走感を伴いながら、映像、音楽、背景としてのテキスト、影
つぶやく様な台詞、身体、そしてダンスなど、多彩な表現の洪水状態
となっており、圧倒的とも言える密度感を生んでいるのです。


物語においても、様々な示唆は感じられるのですが
ある意味、テキストを深く理解する事を放棄せざるを得ない程
の情報量とスピードは、ついには、まるで(音楽の)ライブを
観ているかのような高揚感が得られるのです。


確かにそれぞれの要素は演劇的であり、作者自身が「演劇プロジェクト」
と銘打っているのですが、これまで観たことのない「何か」
が感じられるのです。


脱帽なのです。