2023年5月にGrassRoots(ESP系列のブランド)からTVアニメ「ぼっち・ざ・ろっく!」の後藤ひとりが使用するギターそっくりな仕様で限定生産で発売されることとなりました。しかし、実際の劇中で使用しているギターはYAMAHA PACIFICAの改造品であるため、インターネット上では「パクリじゃん!」という批判がチラホラ。
 
 まぁ、確かに見た目そっくりですし、吉田も「な~に!?やっちまったなぁ!」とは思いましたが、正直、これに特段問題があるとは思いませんでした。しかし、アニメきっかけでギターを手に取った人や、ギターにあんまり興味がない人は、一端のギターメーカがコピー品を堂々と売ってるのことに対して悪く思うかもしれませんね。今回は、日本のエレキギター産業の成立ちと、コピー品の是非についてお話ししたいと思います。

 

  1.エレキギター産業とコピー品

 まず、他社製のそっくりなギターを作る文化というのは昔からありまして、日本のエレキギター産業はFender、Gibsonのギターのコピー品を作ることで発展を遂げてきました。国産メーカのギターカタログがあれば見てほしいんですけど、Fenderのストラトキャスターや、Gibsonのレスポールの形をしたギターが絶対に載っているはずです。そして、今回の取り上げたYAMAHA PACIFICA、GrassRoots SNAPPERも、いずれもFender社のストラトキャスターのコピー品です。そう、今回パクり元であるYAMAHA PACIFICAでさえもコピー品の例に漏れないんです。

 

 では、昔からコピー品を作っている国産ギターメーカは、FenderやGibsonの権利を侵害する悪者なのか?という話しになりますが、端的に言えばそうです。ですが、当時はFenderやGibsonは高価でしたから、楽器を始めるハードルが高かったわけです。そんな中、安価なコピー品は多くの人が手軽に買うことができたため、エレキギターに触れる人たちの裾野を広げ、楽器人口の増加に貢献しました。そして、それは結果的にFenderやGibsonの利益に大きく寄与することとなります。つまり、コピー品によって市場がそのものが活性化されたのです。


 こうした背景もあり、他社にコピーされまくったFenderやGibson製品のギターのボディシェイプはディファクトスタンダード(事実上の標準)となりました。そして、2000年代にはFenderやGibsonがボディシェイプの商標登録を申請し棄却されています。棄却理由は発売から50年以上経過し、それらがギターシェイプのパブリックイメージとなっているからです。つまり、現代においてはFender、Gibson製品のボディシェイプを真似しても法的になんら問題ないんですねぇ。

 

   2.GrassRootsのパクリは問題なのか?

 GrassRoots SNAPPERが後藤ひとりモデルそっくりに寄せている仕様は以下の2点です。

 

■後藤ひとりモデルの特徴的な仕様

・フレイムメイプル柄のシースルーカラー

・フロントP90、リアハムバッカーのレイアウト

 

 上記の仕様はPACIFICAの専売特許でも独自ものではありません。そのため、仮にYAMAHA PACIFICAにP90が載った後藤ひとりモデルを販売していたとしても問題ないのです。これは前述のとおり、後藤ひとりモデルの仕様が既存のアイディアを踏襲したものに過ぎないからです。

 

  3.PACIFICAとSNAPPERは同じギター?

  見た目上凄く似ている二つのギターですが、実際のところどれくらい同じなのかもう少し仕様を見てみましょう。

 

YAMAHA PACIFICA 612VIIFM

ボディ:フレイムメイプル/アルダー
ネック:メイプル
指板:ローズウッド、22F
ペグ:Groverロッキングチューナー
ナット:Graph Tech Black TUSQ
ブリッジ:Wilkinson VS50-6
ピックアップ:Seymour Duncan SSL-1、Seymour Duncan SSL-1RwRp、Seymour Duncan Custom5

 

GrassRoots G-SN-CTM/P(SNAPPER)

ボディ:フレイムメイプル/バスウッド
ネック:ハードメイプル
指板:ローズウッド 、24F
ナット:牛骨
ブリッジ:BS 203
ピックアップ:P-90 Type 、GH-1HB

 

 中身について言えば結構違います。PACIFICAはピックアップや、ブリッジ等のパーツをサードパーティ製のパーツで固めているコンポーネント指向のギターとなっているのに対し、SNAPPERは自社製の汎用的なパーツが用いられています。これが悪いとは思いませんが、やはりサードパーティ製のパーツの方が品質的な担保がとられていますし、安心感はあります。また、PACIFICAは7万5,000円でこのスペックを実現しており、非常に優れたコストパフォーマンスとなっています。

 

  4.モラルの話かなと

 YAMAHA PACIFICAは販売価格が7万5,000円とエレキギターの中では比較的手頃な部類です。そして、GrassRootsはそれを模したものを5万円で販売しています。これ、微妙に価格帯が棲み分けできておらず、競合しています。これだと純粋にYAMAHAの利益を掠め取るかたちとなります。

 

 仕様をパクるのは駄目だとか、便乗商法はいけないだとか、今更言うつもりはありません。これは今までみんなやってきたことですし、法的にも問題ないですから。しかし、現代のモラルと照らし合わせて良いか悪いかで言ったら、当然良くはないんですよね。そのため、これによってESPの企業イメージが悪くなってしまう事に関しては、正直あまり擁護できないなといったところです。ちょっと歯切れ悪いですけど、まぁ、そんな感じでご容赦ください。(汗)

 

 

おしまい☆

 

 

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