エレキギターの教則には、定説的に言われている”推奨されない練習方法”というものが多く存在します。その中の代表的な例に「生音で練習してはいけない」というものがあります。これにはれっきとした根拠があり、初心者向けの教則においては「絶対にダメ!」と言われることもあるくらいです。

 

 しかしながら、こうした定説は、しばしばお題目ばかりが取り上げられてしまい、本質的な部分を見落とされがちです。そして、本質抜きの表面的な教則によって、目的を履き違えた練習を続けてしまう人が多いように思います。これらを省みると、理想的な教則とは安易に簡単に説明しようとせず、本質の理解を深めることが重要と言えるでしょう。

 

 今回はエレキギターの教則における「生音で練習してはいけない」という定説について、紐解いていきます。

 

  1.生音で練習してはいけない理由

 なぜエレキギターは「生音で練習してはいけない」と言われるのでしょうか?家で大きい音を出せない人の中には、生音で練習している方もいらっしゃると思いますが。まず、デメリットについて解説します。

 

ピッキングに力が入りやすい

 生音はアンプの出音と違い、音量が小さいです。小さすぎる音量での練習は、十分に音量を得ようとして、強く力んでピッキングしてしまいがちです。強く力んだ手は、精細なピッキングコントロールが難しくなってしまいます。つまり、音響環境によって非効率なコントロールに導かれてしまう状況が発生しやすくなります。

 

ミュートの処理が甘くなる

 エレキギターは、音を歪ませることが多い楽器です。歪ませたサウンドは倍音を付加するとともに、ノイズも増加します。そして、それに伴って、”手”を用いたミュート処理が必要になります。しかし、生音での練習ではノイズは発生しませんので、ミュートを考慮した練習ができません。

 

実際のトーンコントロールと異なる

 クリーンでもオーバードライブサウンドでも、生音とアンプの出音ではトーンが異なります。すなわち、実態に即したエレキギターのフィーリングが得られません。ニュアンスの変化を伴った練習が困難である状況が発生します。

 

 

 このように、全般的に本番との環境が乖離しているために、練習の弊害になりやすい事が挙げられます。また、ピッキングの強さに関しては、ギター演奏全般に影響する根本のお話なので、アンプでのピッキングの感覚が掴めていない状態だと悪い癖を定着させてしまう恐れがあります。初心者向けの教則において「絶対にダメ!」と言われてしまうのも納得できます。

 

  2.生音で練習したほうがいい場合

 前章では生音での練習のデメリットを解説しましたが、生音での練習でしか分からないこともあります。つまり、アンプの出音からでは分からない情報を使った練習を行うのです。

 

精度の低いピッキングの確認

  前章で説明した通り、アンプは増幅装置なので生音よりも音量が大きいです。特に歪ませていると、弾きが弱い怪しいピッキングも、なんとなく弾けているように聞こえたりします。ここで言う「弾きが弱いピッキング」とは、「力いっぱいピッキングができていない」ということではなく、ピッキングの力が弦に十分に加わっていない(ピッキングの精度が低い)ということです。生音での練習では精度の低いピッキングを聞き分けやすいので、ピッキングの矯正に繋がります。

 

力んでいるフィンガリング(運指)の確認

 エレキギターにおいて、力んだフィンガリングは身体の使い方が誤っています。力んだ状態での演奏は、押弦時に「パチン!」とフレットに叩きつける大きめのハンマリング音が鳴ります。この音はアンプからは聴きとれません。逆に、生音での練習は力んでいるフィンガリングが気づきやすく、矯正しやすいメリットがあります。

 

 このように、生音での練習は、演奏のプロセス(弾き方)に問題がないか?という、確かめ算的な用途として、有効な練習方法となっています。

 

 

  3.生音とアンプでは練習の性質が異なる

 前章までの内容から、お気づきの方も多いと思いますが、「生音」と「アンプ」では、練習から得られるものが異なります。しかしながら、現代の教則では「課題曲が弾けるようになる」という観点の上で、「生音」と「アンプ」の練習を一緒くたんに優劣をつけています。そして、「生音での練習」は有効性を持ちつつも「課題曲が弾けるようになる」ための必要条件ではないため、否定傾向にあるのです。

 

 そうした背景から、「生音で練習してはいけない」は定着しつつも、実は「生音でも練習したほうがいい派」も少数ながら存在しており、ちょっとした論争になることがあります。が、前述の通り、これらの練習は性質が異なるため、分けて考えるべきです。全く同じ観点を持ち寄っても、さして意味がありません。

 

  4.生音での練習のまとめ

 少しお話が長くなりましたが、生音での練習についてまとめると、以下のようになります。

 

 ・課題曲を弾くための練習として必要条件ではないが、有効性もある

 ・アンプでのピッキングの感覚が掴めていない場合は、お勧めできない

 

 一概にやってはいけないということでもなく、状況によって上手く使い分ければよいということですね。そのため、練習は「得られるものを考えて、理解して取り組みましょう」ということを申し上げたく。どんなに優れている練習方法であっても、目的や用法を履き違えたら無駄になってしまいますから。

 

 言われるがまま従いがちな”定説”ですが、実は有効性が怪しいものも結構あります。あまり鵜呑みにするようなことはせず、教える側も、教わる側も取扱注意です。

 

 

おしまい☆

 

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