1.はじめに

 今回は右手編となり、前回からの続きになります。

 

前回同様、筋肉の使い方のお話にしようかと思いましたが、ギターにおける右手は左手よりも遥かに高度な動きになるため、そのまま文章で解説すると複雑すぎて腑に落ちず、かいつまんで解説すれば非常に感覚的でこれもまた腑に落ちないことが想像に難くありません。

 

 また、人によって体格に個人差があり、弾きやすいと思えるフォームやプレイスタイルが各々異なります。こうした複雑かつ不確定な要素を持ち合わせるため、「1:多(発信者:受信者)のネット教則は基本的に無理がある」ということ、「発信された情報が自分に適しているかを見極めるのは自分である」ことを承知の上、読み進めていただけると幸いです。

 

  2.速弾きが出来ない原因とは?

 ギターを弾く際にピッキングに使用する筋肉、それは肘周り、手首、指先の3箇所と言われています。私の場合、小指をピックガードにつけて間合いを調整し、軽い肘の回転と手首の極軽いスナップを使い、その勢いと親指の屈伸運動を合わせてピッキングのコントロールを行っています。また、トップスピードになると肘周りの筋肉に力を入れた、いわゆるエルボーピッキングになることがあります。(当ブログではピッキングフォームに関する記事ついても書いていますので、以下も併せて参照ください。)

 
 しかしながら、「皆さんも私と同じようにピッキングしてくださいね」とは言いません。それは冒頭でも述べたようにプレイスタイルは十人十色、画一的なピッキングなど存在せず、速弾きできない原因も多岐にわたるからです。(そもそもこんな細かい挙動は文章だけでは殆ど伝わらないですよね)。今回はそれらを踏まえてより多くの方に共通し、演奏時の制約が発生しにくい以下の2点の要素をを掘り下げて解説します。

 

・速いピッキングを行うための所作

・ピッキングのジャストタイミングの意識付け

 

   3.速いピッキングを行うためには?

(1)筋力は関係ない?

速くピッキングするにはどうすればいいでしよう?巷では「筋肉を鍛える」と言われることがあります。確かに弦をハジくのは筋肉の力で行われます。その動作を高速で行うのですから、より大きいエネルギーが必要じゃないか?というのは想像しやすいでしょう。しかし、特別な筋トレが必要になるほど大きなエネルギーは速弾きにとって本当に必要なんでしょうか?

 

皆さん。いわゆるスーパーキッズと呼ばれている子供達をご存知でしょうか?彼らは10代前半で速いピッキングができています。しかし右腕だけ大人並みに発達しているわけではありません。普通の子供の体格です。速いピッキングに大きいエネルギーが必要ということであれば、子供の体格で速弾きは不可能であると言えるでしょう。筋肉が発達した大人が弾けない一方、筋力が未熟な子供でも弾けてしまう。このことから、フルピッキング時における「筋力」という要素は絶対的なものではないということが分かると思います。

 

※2024/08/11追記

 前述で筋肉量は関係ないと書きましたけれども、その後勉強する機会があり、筋肉量ではなく速い動作は神経系の発達具合によって変わることが分かりましたので、効果的に鍛えることをお奨めします。新たに解説記事を起こしましたので、詳細は以下をご参照ください。

 

 

(2)弦に対するピックの先端の深さ

では、速弾き出来る人、出来ない人の決定的な違いは何か?これは弦に対するピックの先端の深さが大きく関係していると考えます。とりわけ、高速にピッキング出来ない方はピックの先が弦に対して深く出ていることが多いです。ピックが弦に対して深く出ていると、ピックのから弦が離れにくくなり、より大きく弦を引っ張ることになります。そうすると、右手のピッキングに要するエネルギーが大きくなり、より大きなエネルギーが必要であると判断した脳は右手の指先や手首を力ませます。力みすぎて柔軟性とコントロールを失った右手は、弦を上手くさばけずに失速します。

 
 どうしても速いピッキングが出来ない方、それはピックが弦に対して深く入りすぎたことによって強制的に力ませられている可能性が高いです。このような場合、弦に対してピックの先端を浅くしてみてください。弦を大きく引っ張ること無くコンパクトにピッキングを終えることが出来、速く、正確に、安定的にピッキングを行うこと可能です。

 

 また、ピックの先端を浅くして弾くと、粒立ちが悪いことに気付くと思います。これは弦振動が極端に弱くなり、低音が出ないためです。最初はこれでOKです。この所作に慣れればもう少しピックを深く入れた時の動作も楽に弾くことが出来るはずです。速弾きに限らずピッキング時の弦に対するピックの深さは、ギターのダイナミクスコントロールにおいて重要な要素なので押さえておきましょう。

 

 普遍的な教則では「右手は脱力してください」という「脱力 → 弾ける」の解説がなされます。私はそれに加え、「力まずに弾けるようなピックの深さで弾いてください」を提唱します。脱力しているから弾けるのか、力まなくてもピッキングできる状態を作るから弾けるのか。似ているようですが全く別のアプローチとして考えてください。また、使用するピックによって弾きやすさや、トーンも変わってきますので、以下の記事も併せてご参照ください。

 

(3)ピックを持つ指は力を入れてはいけない

 前項ではピックを深く出すと、弦を大きく引っ張ることとなり、弦を上手くさばけないと解説しました。弦を大きく引っ張ってしまう原因はもう一つあります。それはピックを持つ(挟む)指の力です。この話をする前に、そもそもピッキングがどのように行われているのか?を説明します。ピッキングは以下の一連の動作により成り立っています。

 

■第一段階:ピックが弦を引っ張る

 

■第二段階:ピックに傾斜がつき、弦が滑る

 

■第三段階:ピックから離れた弦は振動を始める

 ピッキングというのは第二段階でピックに傾斜がつくことで、弦が指板方向滑り、さばくことが可能となるのです。試しに、硬いピックで、弦に対して平行に、ゆっくり、傾斜がつかないように指先に力を入れてピッキングしてみてください。どうでしょうか?恐らくピッキングできないと思います。

 

 これは、ピックに傾斜がついていないと、弦はピックから離れることができずに引っ張られ続けてしまい、いつまでたっても弦をさばくことができないからです。普段意識することが少ないと思いますが、ピッキングというのはピックが弦を引っ張る際、弦が元の状態に戻ろうとする力(テンション)に指の力が負ける、またはピック自体がしなることでピックに傾斜がつくことで成立します。そして、ピックを持つ指の力が弱いほど、ピックに傾斜がつくタイミングが速くなり、より高速に弦をさばくことが出来ピックを持つ力が強いほど、ピックに傾斜がつくタイミングが遅くなり、弦をさばくのが遅くなります。

 

ピックに傾斜があるため弦が離れやすい図

 

■ピックに傾斜がつかないため中々弦をさばけない図

 

 上記のことから、ピックを持つ手に力が入っている方は、ピックを持つ指の力を意識的に抜きましょう。そして、ピックを持つ力の違いによって、弦をどのくらい引っ張るのか?どのタイミングでピックに傾斜がつき始めるのか?どれくらい速く弦をさばけるのか?自身で確認してみましょう。

 

(4)速いピッキングを上達させる練習

 速いピッキングができない方はカッティングも苦手な人が多いです。いわゆるアップダウンのストロークを交えたコード弾きのことです。これ、ピックが弦に対して深く入りすぎていたり、指先に力が入っていると、フルピッキングと同様に非常に弾きにくくなります。思い当たる方はピックの先端を弦に対して浅く出し、ブラッシング交えてカッティングの練習を数分間してみてください。ワンコードでOKです。いろんなリズムパターンで手首を小さく振ってカッティングがキレよく手首が滑らかになるまで。

 

 できたらまた速弾きの練習に戻りましょう。どうでしょう?急に弾きやすくなった!なんて人もいるんじゃないでしょうか?なぜ、速弾きの練習でカッティングが有効なのか?それは深めのピッキング、強い力でのピックを持った時のカッティングは単弦よりも弾きづらさが顕著に出るため、右手の誤っている所作を無意識に理解しやすく、矯正できるからと考えます。カッティングが上達すれば、おのずとフルピッキングでのコントロールも上達します。ちょっとした矯正の裏技ですね。練習前のウォームアップとして大変お勧めします。また、これとは別にウォームアップの本当の意味について書いた記事もありますので、併せてご参照ください。

 

  4.左右の手のシンクロのタイミングとは?

 速弾きの練習の際、どこを見ていますか?左手の運指を見ている方が多いのではないでしょうか?通常、ピッキングにおいてはメトロノームなど用いた「一定のリズムに音を乗せる」という感覚的な練習が多いため、右手を目視しながら練習しているという方は実はあまり多くないのではないかと思います。本章では右手における、ちょっとした意識のお話をします。

 

 速弾きは左右の手をシンクロさせることが理想です。ざっくり言うと、押弦とピッキングをジャストに行うことなんですが、もう少し具体的に掘り下げましょう。左手の押弦のジャストタイミングとは「フレットと弦が接地する瞬間」というのは想像できると思います。ではピッキングのジャストタイミングとは具体的にどのタイミングでしょうか?

【問題】 左右の手をシンクロさせるうえで、ピッキングのジャストタイミングはどこでしょう?

1.ピックが弦に当たる寸前

 

2.ピックが弦に当たる瞬間

 

3.ピックが弦を引っ張っている瞬間

 

4.ピックが弦から離れる瞬間

 

5.ピックが弦から離れた後

 

 

 

さて、どーれだ?

 

 

 

 

 

 

【正解】 4.ピックが弦から離れる瞬間
 

 何故4が正解なのか?それはピックが弦に触れている3の時点では弦振動が始まらないからです。ピックが弦を離れて弦振動が始まる4をジャストでとらえることが肝要です。弦の抵抗がピークに達する(指に負荷がかかる)3のタイミングをジャストとしている方は演奏がモタっていたり、フレーズの途中で遅れに気付いてリズムが崩れやすかったりしないでしょうか?4のタイミングをジャストであると意識づけすることにより、左右の手のシンクロ精度を向上させることができると考えます。

 

  5.弾きやすい弦のテンション感を探ろう

 冒頭ではギタリストの体格は個人差があるとお話しました。これは弾くギターのテンション感においても同様です。特に弦のテンション感の違いによって3章、4章で述べたような右手のピッキングのコントロールのしやすさ、タイミングの合わせやすさが大きく変わります。以下に弦のテンション感による音質と演奏性の変化を簡単にまとめました。自身の「弾きやすいテンション感」を探るうえで参考になれば幸いです。

 

項番 テンション感 音質 弦ヒット時の感覚 ピックの弦離れ
1 弱い 柔らかく低音が弱い 柔らかい 遅い
2 強い 鋭く低音が強い 硬い 速い

 

また、多くのギタリストは「狙った音」を出そうとピッキングのパワーをコントロールしていると思います。例えば、柔らかいテンション感だと低音がでないため、強めに弾こうとしたり。強いテンション感だと鋭さを抑えるために柔らかく弾いてみたり。

これを踏まえると「弾きやすいテンション感」というのは「狙った音を出しやすいテンション感」であり、それは「パワーコントロールしやすいテンション感」であると考えます。パワーコントロールしやすいということは省エネルギーということですから、演奏面に余裕が出るという大きなアドバンテージがあると言えます。そのため、ギターを弾きやすいテンション感に調整することをお勧めします。これは弦の太さ変更、弦高、フローティングの調整により変化させることが可能ですので、以下の記事も併せてご参照ください。

 

 

  6.まとめ

 ギターという楽器は音を出すタイミングは右手によって支配されています。したがって、右手のコントロールがよれると、当然リズムもよれます。このちょっとした「よれ」はフレージングを予期せぬ方向へと変えてしまいます。ピッキングのコントロールを安定させ、どのタイミングで音が鳴っているかをしっかり認識することにより自身の思い描く演奏にグッと近づけると考えます。

 

次回は考え方編です。