ロードバイクを待ちながら -172ページ目

「猿猴」 田中敬文




なんとなく、書店で手に取って買った一冊。いわゆる伝奇ホラーアクション小説。古代からつながる「猿」にまつわるあれやこれやが出てきて、それに巻き込まれた集団が謎の集団と対決する、というよくあるパターンです。

このジャンルはいかにもっともらしくホラ話をリアルに語ることが大事なんですが、ちょっと軽すぎですね。お話もあまりに主人公に都合よく進む。

この分野の大名作、半村良の「石の血脈」レベルは難しいでしょうが、せめて高橋克彦の「総門谷」シリーズや「竜の棺」シリーズなみには掻き込んでほしかったものです。

ネタの発想はいいとおもうんです。でも、xxx教団のみんなで「猿の惑星」の映画をありがたそうに見てる、とか安易すぎ。まじめに嘘は書きましょう。




「夢幻諸島から」 クリストファー・プリースト




「逆転世界」などの独自の世界を描くSF作家クリストファー・プリーストの短編集。


といっても単なる短編集ではなくて、ある架空の惑星にある「夢幻諸島」(ドリーム・アーキペラゴ)と呼ばれる島々それぞれについての観光ガイドになっています。島一個に短編一篇。


この架空の惑星は、なにか時空がおかしなことになっていて、地図を作成することができなくて、それぞれの島の正確な位置は誰もしらないけれど、フェリーを乗りついでいくとたどりつくことができるのです。もう、この辺の設定からプリースト節炸裂です。しびれます。


さらに、各島の物語には、ちょっとづつ共通の登場人物が出てくることに1/4ぐらいあたりまで読んだところで気が付きます。それらの人物はどれも画家、小説家、彫刻家、役者だったりして、この世界の「セレブ」みたいなのです。そしてそれらの人物の物語が複雑に交錯しはじめる。


一回読んだだけでは全体の構成が把握できません。誰かこの本を解説した Wiki立ててくれませんでしょうか?


なんとなくブラッドベリの「火星年代記」を思い起こしました。


非常に困難だと思いますが映画化されたりしないでしょうかね。「奇術師」は映画化されましたが、あれは普通の小説でした。


名作ぞろいの新ハヤカワSFシリーズです。次は「ブラックアウト」かな。


「繁栄 明日を切り拓くための人類10万年史」 マット・リドレー




以前分厚い上下巻の単行本だったのが文庫化。値段が1/3に。600ページの長い本です。

著者の主張は種としての現生人類が繁栄するにいたったのは「分業」「交換」の能力を取得したことにあり、その後の現代にいたるまでの文明史をその視点で解読するのものです。

農業、エネルギー、都市化、発明、などについて、多くの例、数字を挙げて説明していて、説得力があります。

政治支配が専制化して、縦に硬直的になると、産業が自給自足志向になり生産性が下がり衰退し、交易を推進する勢力に覇権を奪われるというサイクルで歴史が動いている、という説は現代社会をみてもなるほどと思います。

農業については、そもそも、20世紀初めに窒素合成による化学肥料により飛躍的に生産性が高まったことでマルサスの「人口論」による人口破綻はおこらず、その後の様々な農業技術で現代文明は維持可能になっている、ということが説明されています。遺伝子組み換えへの反対がアフリカの農業の疎外要因になっていることも指摘しています。

ともすれば、現代文明は自然を破壊しつつあって、人類の未来は暗い、昔を見直そう、みたいな話に日本でも海外でもよく言われるようですが、実際に100年前,200年前の平均的な人間の生活を想像するととても好ましいものとは思えません。映画とかに出てくるのは恵まれた人たちの生活が大半でしょう。

ということで、人類はこのまま、本能の赴くまま、新しいことをやりつづけている限り繁栄は続く、という結論です。

ちょっと資本主義社会をもちあげる意図もあうような気もしますが、数値的な根拠なしに「自然回帰」とかを主張するよりは説得力のある一冊です。