「大豆田とわ子と三人の元夫」
第２話～明かされる離婚の秘密と男の本音
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八作） 3、4、5。
鹿太郎） うん･･･何？
八作） 恋の6秒ルールです。
6秒間見つめ合ったら、それはもう
恋に落ちた証拠なんですって。
鹿太郎） まだ5秒だったよね。
慎森） ギリセーフでしたね。
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
鹿太郎） ほんとはこの男と会社で
顔合わせんの気まずいよね？
とわ子） べつに。ただの過去なんで。
鹿太郎） 過去だってさ。
慎森） あなたもですよ。
鹿太郎） 過去だって。
八作） 女性の過去になれるって
幸せなことじゃないですか。
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
慎森） 人を幸せにしたら、自分も
幸せになれることは知ってます。
翼） だったら･･･。
慎森） 洗濯機でご飯が炊けますか？
洗濯機で髪の毛乾かせますか？
人間にもそれぞれの機能がある。
僕には人を幸せにする機能は
備わってません。
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
かごめ） めんどくさいっていう気持ちは、
好きと嫌いの間にあって、どっちかって
言うと好きなほうに近いんだよ。
とわ子） それはないな。
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
慎森） えっ、何？ 俺めんどくさい？
えっめんどくさかったら言って。
とわ子） めんどくさいっていうか･･･。
慎森） 太陽さんとつきあうの？
とわ子） めんどくせぇ。
慎森） つきあうかもしれない？
とわ子） つきあいません。
慎森） いや違う違う、
祝福してるんだよ僕は。
とわ子） じゃあほっといてくれませんか？
慎森） えっ何で怒ってるの？
祝福してるのに。
とわ子） 怒ってないけど。
何で離婚した夫に怒るの？
慎森） こいつ最悪だなって思ってる？
とわ子） 私が言ってないことは、
わかった気になるくせに、
私が言ったことは
わからないふりするよね。
えっ何で離婚した夫が離婚した妻に･･･。
慎森） いやいちいち離婚したって言う
必要あるかな。お寿司食べてる時に
いちいち、死んだまぐろおいしい、
死んだエビおいしいねって言う？
言うかな？
とわ子） はっ･･･。
怒ってもないし、めんどくさくもないよ。
だってもう他人だもん。関係ないもん。
慎森） うん、他人だね、関係ないね。清少
納言とステーションワゴンくらい関係ない。
他人だけど、関係ないけど、
早く他の人とつきあってほしいんですよ。
とわ子） 何で？
慎森） じゃないとこっちが終われないん
ですよ。あっごめん、ま･･･待って。
ふぅ～僕は今冷静です。一時的な感情
に流されてるわけじゃない、うん。はい。
僕と君は、話し合って離婚したわけじゃ
ないよね。いろんなこと話さないまま、
ほったらかしのまま別れたから、まだ
終われてないと思うんだ。紙は出した
けど、さよならは言ってない。
とわ子） そうだっけ？
慎森） つまり、まだ過去じゃない･･･。
過去にできてないんだよ。
ある意味、離婚はまだ続いてる。
とわ子） そう？
慎森） だから僕は思うの。
いっそ幸せになってくれたら、幸せに
してくれる人に出会ってくれたら。
とわ子） そうかな？
慎森） 僕も君とのことを思い出にでき
るのではないだろうか。さよならが
言えるのではないだろうか。
とわ子） そうかな？ 私は･･･。
慎森） （おでことおでこを合わせ）
ごめん。本当は思い出にできない。
さよならが言えない。
またあのソファに君と座って、
なくした時間を取り戻したい。
とわ子） なくしたんじゃないじゃん、
捨てたんじゃん。
捨てたものは帰ってこないよ。
私はもう思い出にしたし、
さよならも言った。
結婚も恋愛も、
契約とは違うから、
一人が決めたら、
それで終わりでしょ。
異議はありますか？
慎森） ううん、ありません。
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
翼） 過去にしがみつく惨めな男だ。
慎森） そうですね。
翼） 弱い犬ほどよくほえる。
慎森） そのとおり。
翼） 性格悪い友達とは会わなければ
いいけど、性格悪い自分とは別れら
れない。ひねくれて嫌われて。
慎森） 言い過ぎじゃない？
翼） 先生のパラメーター攻撃力は100な
のに防御力は1だね。弁護士でしょ？
それがルールなんだって思えばいい
でしょ。どうして割り切れないの。
慎森） 幸せだったからでしょ。
いいことだってあったからでしょ。
お正月っていると思う？
運動会っていると思う？
何でかな。子供の頃からイベントが嫌
いだった。クリスマスも節分も、みんな
が楽しんでるものに居場所がなかった。
あいつら何はしゃいでんだって言って、
隅のほうで悪態ついてた。でもね･･･。
彼女との結婚式だけは幸せだった。
めっちゃ楽しい、めっちゃ最高。幸せ
ハッピー。この人に出会えた俺･･･。
世界一幸せだって思えた瞬間が
あった･･･。はぁ、はぁ･･･。あったのに。
自分で捨てちゃったよ。
翼） スポーツの世界の一番は、
勝った人じゃないよ。
金メダル取った人でもないよ。
グッドルーザー。負けた時に
何を思ったか何をしたかで、
本当の勝者は決まるんだよ。
慎森） グッドルーザー。
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
（回想）
とわ子） いいんだよはみ出したって。
嫌なものは嫌って言っておかないと、
好きな人から見つけてもらえなく
なるもん。
慎森） ありがと。
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
とわ子） この店で社長になること
決めたんだよね。
慎森） そうなんだ。
とわ子） オーナーから、君に引き受け
てもらいたい、受けるかどうか1時間
以内に決めなさいって言われてさ。
とりあえずここに来て。
さてどうやって断ろうかって。
慎森） ふふっ、まあそうだろうね。
君が社長なんて。
とわ子） でしょ。
慎森） ここでどんな心境の変化が
あったわけ？
とわ子） 大したことじゃないんだよ。
めんどくさいなと思いながらコーヒー
飲んでたらさ、あそこ、あの席に、
高校生の女の子がいたの。
慎森） うん。
とわ子） その子ね、目の前にタルト、
いちごのタルト一個置いて、受験勉強
してたの。分厚い数学の問題集を、頭
抱えるみたいにして、うなりながら一生
懸命解いてた。
慎森） うん。
とわ子） でね、解き終わったら、彼女、
ずっと目の前に置いておいたいちご
のタルトを食べ始めたの。
おいしそうだった。それをね、見てね、
社長を引き受けることに決めたの。
まあべつに意味はないんだけどさ、
何となく。
慎森） わかるな。
とわ子） わかる？
慎森） （頷く）
とわ子） ははっ。私もね、いつかあの
いちごのタルト食べようと思って、
会社に戻って、お受けしますって、
オーナーに伝えたの。
慎森） そっか。
とわ子） ふふっ。
まだまだ全然だめな社長だけどさ。
慎森） 頑張ってるよ。
すごく頑張ってると思う。
君は、昔も今もいつも頑張ってて、
いつもきらきら輝いてる。
ずっとまぶしいよ。
とわ子） やめてよ。
慎森） ごめん。ごめんごめん。でも･･･。
それをずっと言いたかったんだ。
とわ子） 今の言葉が私の
いちごのタルトかも。
慎森） いやいやそんなにすごくないよ。
とわ子） そうか、そうだね。
慎森） ん？
とわ子） 別れたけどさ、今でも一緒に
生きてると思ってるよ。
慎森） 僕までタルトもらっちゃったな。
とわ子） ふふっ。
慎森） 司法試験受かったときの話
聞かせてよ。
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
慎森かわえぇ～～～！ 知ってたけどね、こう
なるって知ってたけど。知ってたけどかわえぇ。
めんどくさいけど、めんどくさい以上に可愛さ
を持ってるキャラなんだろうなって、キャスティ
ングで分かってたよ。脚本家さんが中の人の
使い方をよ～く分かっていらっしゃる。うひゃｗ
すっごくめんどくさくて、顔がよくても絶対無理
と思ったけど･･･まだまだ変われる、成長する
可能性ありなんじゃない？ それなら話は別！
３人の中では慎森が一番いいのでは～？と
思っちゃったよ。めんどくさいけど可愛いし～。
私が言ってないことは、
わかった気になるくせに、
私が言ったことは
わからないふりするよね。
こういう人、いるよね～。わからない、じゃない。
わからない「ふり」をするっていうね。あるある
だし、更には、聞こえない「ふり」もするよね～。
なくしたんじゃないじゃん、
捨てたんじゃん。
捨てたものは帰ってこないよ。
私はもう思い出にしたし、
さよならも言った。
結婚も恋愛も、
契約とは違うから、
一人が決めたら、
それで終わりでしょ。
異議はありますか？
てっきりとわこが面倒くささから逃げたのかと
思ってたら、慎森が逃げて、捨てた･･･のねえ。
若さゆえのあやまちか･･･。分かるよ。駄目な
時はあるよね。「出来ない」時は誰にでもある。
おでこで充電する慎森が可愛くってね～。憎
たらしくても許せちゃってたんだろうにね、とわ
こは。でも離れないと、なくさないと、気付けな
いってこともあるんだよね。そういうタイミング
も含めての、縁があったり、なかったりするわ
けで。うまくいく人とはうまくいくのも人生で･･･。
いつか食べようと思ういちごのタルトがある時
が、一番楽しい時かもしれないなあと。いつの
まにか縁遠くなってしまっていた自分に気づく。
「カルテット」の時もそうだったけど、今回もまた、
ただひたすら、この世界を眺めていたいと願う。
まずはすき焼きで味わう卵を手に入れなくちゃ。
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