第5章 可愛い子には旅をさせよ?
(第49~54回)
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第49回
星野) 怒らせるようなこと言ったの?
のぞみ) 言ってないわよ! 「ほっとい
てください。自分の力でやり遂げてみ
せる」って、赤松さんに言っただけよ。
星野) 何やり遂げるの?
のぞみ) 私うち出たんです。
星野) へえ~。…で?
のぞみ) だから、「一人でちゃんと暮
らしていける」って言ったんです!
星野) フフッ、
ハハハハ…ハハハハハ!
のぞみ) 何です?
星野) 全くよく笑わしてくれるよ。
君さあ、24だろう? 一人で生きてく
なんて当たり前じゃないか。大きな
声で言うことじゃないよ。
のぞみ) 本当によく人を傷つけて
くれますよねえ! もう慣れました
けど。じゃあ、失礼します!
赤松) おい、どこ行く?
のぞみ) どこでもいいでしょう?
「赤の他人」なんですから!
赤松) 気を付けろよ。
のぞみ) 分かってます!
**********
第50回
のぞみ) 実を言うと、
名前が気に入ったんです。
内海) 名前?
のぞみ) さっきの、「ひまわり荘」。
内海) ひまわりが好きなのか?
のぞみ) いえ。
私、弁護士目指して勉強中なんです。
内海) ほう~弁護士!
あっ、それで赤松先生んとこに?
のぞみ) はい。弁護士になれたらの話
なんですけど、そのバッジのデザイン
がひまわりなんです。それで、あそこ
に入ったら、受かりそうな気がして…。
あづさ) のぞみ。
のぞみ) お母さん…。
あづさ) コソコソ行くのはやめなさい。
のぞみ) 別にコソコソなんてしてない。
あづさ) お母さんにひと言あってしかる
べきでしょ。24年間、育ててきたんだ
から。
薫乃) ちょっとそんな…。
今生の別れみたいに。
あづさ) 今生の別れかもしれませんよ。
うらら) 何言ってんだべない、
あづさまで!
のぞみ) 行ってきます。
とにかく、頑張ります。
あづさ) 気を付けてね。自分でやり
通すって出てくんだから、最後まで
自分を大事にしなさい。
のぞみ) はい。じゃあ、行ってきます!
のぞみ) お母さんにも言われました。
「下着も自分で洗濯しないのに、
偉そうなこと言うな」って。
赤松) フフフフ…。
のぞみ) 笑わないでください。私だっ
てこれじゃ駄目だなって思ってたん
ですけど、でも、それ指摘されると、
腹が立っちゃって…。
赤松) うん?
のぞみ) 何か言ってください。
赤松) 何を?
のぞみ) 小難しいこと。
赤松) 例えば?
のぞみ) う~ん…例えば、「親と子が
争うのは、当たり前だ」とか、「それ
で意地張ってるなんて、愚の骨頂だ」
とか…。
赤松) ほう…言わなくてもちゃ~ん
と分かってるじゃないか。
のぞみ) 分かってるんです。
私、逃げてきたんです。
赤松) うん?
のぞみ) とにかく、パ~ッと逃げて、
パ~ッと新しい所へでも行かないと、
もう落ち込んじゃいそうで。はあ…。
結局、彼氏と別れちゃいました。
赤松) そうか…。
**********
第51回
あづさ) そろそろ限界。
あ~もういろんなこと限界!
来月、達也が二十歳になるの。
そしたら私、会いに行ってくる。
はっきり気持ち聞いてくる。
別に、二十歳になったから
どうってわけじゃないけど、
もうウジウジはおしまい! フフフ。
のぞみ嬢ちゃん弁護士を目指して
ちょうど半年。まだまだ弁護士っ
て仕事が、人間様のどす黒い憎し
みや、張り裂けるような悲しみを、
丸ごと引き受けなきゃならねえも
んだとは、ちっとも分かっており
ませんでした。
**********
第52回
午前四時。のぞみ嬢ちゃんの長い一日
が始まります。少しばかり、ご紹介申し
上げますと…朝の5時から9時まではビ
ル掃除のアルバイト。午前9時半から午
後4時半までは司法試験の予備校。そし
て残りの時間は、またアパートで寝るま
で勉強。これが月曜日から土曜日まで繰
り返される。…ってなわけで、スーパー
マンも真っ青の、涙ぐましい一日なので
ありますが。
内海) 子供を亡くすっていうのはさ…
とってもつらいことなんだよ。何年
たっても…昔話にはなれねえんだよ。
赤松) しかし死んだ人間は、喜びも
しなければ悲しみもしない。だっ
たら、生きている人間のことを考
えてあげたらどうですか?
内海) 「生きてる人間」だと?
赤松) 奥さんのことです。
奥さんが和解を受け入れたがって
いるのは知っていますね?
あいつは冷てえんだ。
女はあっさりしてんだよ。
赤松) 冷たいんじゃない。あなたのこと
を心配してるんですよ。奥さんはあな
たが復讐の鬼みたいになって、先方を
追い詰めることによって、逆に、あな
たが重いものを背負うんじゃないかっ
て心配してるんですよ。そりゃ、裁判
が終わった当座はいいでしょう。しか
し月日がたって、たとえば、あなたが
死ぬかもしれないっていう時、「ああ、
あの時、あんなに追い詰めなければよ
かった。一個の人間を、潰さなければ
よかった」。そう後悔して苦しむのを
心配してるんですよ。
内海) 俺はそんな後悔絶対にしねえ。
いや仮に後悔してのたうち回るほど
苦しんだって構わねえ。それだけ、
娘を思ってるってことだ。
赤松) そうですか。分かりました。
だったら、しょうがありません。
内海) フフッ…何だよ…見捨てる
って言うのかよ、先生。
赤松) 弁護人にとって、あなたは、
依頼人です。だったら最終的に、
決めるのは、依頼人であるあなた
なんですよ。
内海) フフフ…だったら俺は迷いな
んか…しねえよ。いや…どうだい?
ねえちゃんにあんた。
弁護士の卵としちゃ、どう思う?
のぞみ) はい…よく分かりません
けど、奥さんの気持ちも…。
星野) 僕は判決まで闘った方がいい
と思います。何でも白黒つけた方
がいいに決まってます。
赤松) 「何でも」っていうのは取り
消せ。白黒つけりゃいいってもん
じゃない。白黒つかないこともあ
るし…白黒をつけてほしくないっ
ていう人間も世の中にはいる。
星野) どういう意味ですか?
赤松) 意味などない。言葉どおりだ。
**********
第53回
大変なことになりました。
家を出て1か月ののぞみ嬢ちゃんと、
家を出て20年のパパさんが、ばったり
鉢合わせ。知らせを受けたあづさ先生
と、薫乃ばあちゃんが駆けつけること
になったのです。
あづさ) しばらくです。
徹) しばらく…。
薫乃) それだけ?
優) 母さん。
あづさ) 達也は、連れてきませんで
した。あんまり急なので、驚いてる
みたい。ひととおり話が終わるまで、
うちで待つように言ってあります。
徹) うん…。
薫乃) 「しばらく」に「うん」じゃな
いでしょう!謝りなさい! まず謝り
なさい!人を何だと思ってるの!
徹) ごめんなさい。すみません!
(土下座する徹)
のぞみ) ひきょうよ!
スタンドプレーよ。
そんなことされたら、誰も何も
言えなくなっちゃうじゃない。
徹) それもそうだな…。よし…。
いやすまん! 今日会うとは
思ってなかったから何にも
用意してないんだよ。
金も…それから、言葉も…。
いやもっと日を改めたところで
威張るほどの財産も何もない
けどね。ハハハ…あっ…いや
せめて…正直になるしか、
できないってわけです。
何でも言ってください。
あづさ) じゃあ…言わせてもらうわ。
徹) あっ…どうぞ。
あづさ) 私が一番苦しかったのは、
いつか分かる?
徹) さあ?
あづさ) 簡単に、答えないで。考えて。
徹) いやそれは…出てった時だろう?
あづさ) 違うわ。この半年よ。
あなたの居所が分かってからの
半年。手紙、読んだ?
徹) はい。
あづさ) どうして半年も、
返事くれなかったの?
徹) いやそれは…書けなかった。
帰るのか帰らないのか、すぐには
決められなかったんだよ。
のぞみ) 「すぐには」って、
半年もあったじゃない!
徹) いやもちろん「すぐ帰ろう。今す
ぐ帰ろう」そう思う気持ちもあった。
でも…それと同じだけ、「帰るのが、
怖い」って気持ちもあったんだよ。
のぞみ) また「怖い」?
徹) ああ、怖いね。怖いんだよ。
責められるのが怖い。居場所のない
のを知るのが怖い。それから…いっ
ぺんに4人もの家族を抱えるのが怖
いって。
薫乃) 何がいっぺんになの? あなた
はね、戸籍上はず~っと家族を抱え
てるのよ。連れ子ババつきの、未亡
人と再婚するってわけじゃないのよ!
徹) すみません…。いや情けないけど、
今日はせめて、正直に、誠実に答え
ようと思ってさ。
のぞみ) 離婚届はどうなの?
お母さんが言ったとおり、無事を知ら
せる便りだったの? はっきり答える
んでしょう?
徹) ああ、半分はそうだ。お母さんが、
いつまで俺を待っててくれるか、試し
たいような気持ちがあった。
あづさ) 残りの半分は?
徹) うん…。「別れるんなら、もうさっ
さと、引導を渡してくれ」って気持ち
だった。もうさっさとややこしいこと
なしに、もうすっきりしてしまいたい
って気持ちだったんだ。
あづさ) そう…。
優) いいんじゃないのかなあ。
あの…完璧に何の曇りもない気持ち
なんて…ないもん。なあ?
桃子) うん! そうよ。洋服一つ買うの
だって、「欲しいけど、似合わなくな
っちゃったらどうしよう」とか、「お
金もなくなるしな」とか、いろんな
こと考えるもの…。
薫乃) 洋服と一緒にしなさんな! あな
たはね、いつもたとえが変なのよ。
桃子) はい。はいすいません。
のぞみ) 私…嫌!
お母さん嫌じゃない!?
こんなにはっきりしないの。
あづさ) のぞみ!
のぞみ) はっきりしてよ!
お父さんはどうなの?
帰りたいの? 帰りたくないの?
どっちかにして。
徹) 「はっきり」か…。
のぞみ) 出てって! すぐに「帰りたい」
って言えないような気持ちなら、もし
帰ってきたってうまくいきっこないわ。
その程度の気持ちなら、何かあったら、
またすぐに出ていくに決まってるもん!
なにが「正直に」よ! 「正直に答える」
って、開き直ってるだけじゃない! ちょ
っとでも私たちのこと思う気持ちがある
なら、ウソでも強がりでも、「お父さん
は、お前たちのことを、20年分守ってや
るぞ」ってぐらい言うべきでしょう!?
それぐらいじゃないと、ついていけない
わよ! 行ってよ! 行っちゃってよ!
徹) 分かった…。それじゃあ…。
薫乃) 待ちなさい! 逃げ出すの?
娘にちょっと言われたぐらいで
逃げ出すの!? だったら、さっき
の土下座は何だったの!?
格好だけだったの!?
優) 母さん。
(ドアが開く音)
達也) 達也です。
徹) そうか…。いやせっかく来ても
らったのに、申し訳ないけどな…。
今…お母さんと、お姉ちゃんと、お
ばあちゃんに怒られてな…逃げ出す
ところなんだ…。じゃあな、またな。
うらら) なじょしたんだい?
何かあったのかい?
のぞみ) お母さん、離婚して!
優) のぞみ…もういいよ。
お前の気持ち分かったから。
のぞみ) お願い、離婚して! たった
のひと言も、はっきり「帰りたい」
って言えないような人、待ってても
無駄よ! 私、もっとマシな人かと
思ってた。お母さんが待つくらい
だから、もっともっと、男らしい
人かと思ってた。あんな人、待つ
価値ない。20枚の離婚届、
全部にハンコ押して出して!
優) そこまで言うな!
決めるのは、お母さんだよ…。
のぞみ) もう決着つけて!
向こうがはっきりしないなら、
お母さんがはっきりさせて!
さんざん鋭い言葉をみんなにぶつけて
きたのぞみ嬢ちゃんでしたが、その言
葉の一つ一つは、全て自分の胸の奥も、
深く、傷つけていたのでありました。
**********
第54回
あづさ) のぞみ…。
のぞみ) うん?
あづさ) お母さん、出してきた。
のぞみ) えっ?
あづさ) 離婚届。
のぞみ) ええっ!?
あづさ) もちろん20通は出さ
なかったわよ。1通だけ。
のぞみ) お母さん…。
あづさ) 心配しないで。のぞみに言われ
たから出したわけじゃないの。お母さん
も、それからおばあちゃんも、もう限界
だって思ったの。待ってた時間が無駄に
なるのが怖くて、今まで、決断できなか
ったの。何としても、その元取り返した
いっていうようなとこ、あったの。でも
…そんなのおかしいわよね。そんなこと
してたら、これから先まで、無駄になっ
ちゃうもんね! まだ何も先のことは考
えてないんだけど、とりあえず名前は、
病院もあるから、今までどおり、南田を
名乗ることにしたわ。お父さんには、優
叔父ちゃんから連絡してもらうつもりよ。
のぞみ) 本当に出したの?
あづさ) 今その帰り。
のぞみ) だって今日日曜じゃない!
あづさ) 休日でも受け付けてくれる
窓口があるの。
のぞみ) そんな…そこまでしなくても…。
あづさ) これ以上、迷ったり、考えたりす
るの嫌だから、決めてすぐ出してきたの。
出したらスッキリしたわ! おしまい…
おしまいよ!
のぞみ) 私…。
あづさ) なんて顔してんの~。大丈夫よ!
別に何が変わるってわけじゃないわ。
うちもそのまま。病院も今までどおり。
誰もいなくなったわけじゃないわ。ねっ?
戸籍が抜けただけ。
のぞみ) お母さん…。
**********
超簡単感想で♪
清々しいほど甘ちゃんで、青臭いのぞみ。
でもそこがいい。ちゃんと未熟なのがw
父親も未熟なままだし、おかげでようや
く離婚届を出せたあずさ。うんうん、あ
れは駄目だ。待ち過ぎたね、あまりにも。
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