最近免許証の更新をしました。普通免許を取得して、まもなく40年になるのですが、初めてゴールドになりました。

今まで無事故無違反が続いても、なぜか4年半を過ぎると、何らかの違反切符を切られる😭、ということが続いてきました。

せっかく頂いたゴールド免許なので、今日も安全運転で、浜松駅までやって来ました。


今まで色々な製品を作ってきましたが、自分で思い立って始めて、今も続いているのは、おそらくピアノ本体くらい。ほとんどはお付き合いのある技術者の方々から、ご提案いただいたものばかりです。

技術者の方とは、調律師としてのお仕事をしつつ、修理や中古ピアノの販売を手掛けている方々です。


自分で考えたもののほとんどが、やってはみたものの上手く行かず、どのような製品が求められているのか、どうすれば商売として成り立つのか、周りの技術者から教えてもらって、ここまで継続することが出来たのだと、つくづく思います。


今日はご提案いただいた、これから作るかも知れない製品について、わからないことがたくさんある為、それらについて色々と教えていただく為に、こうして電車に揺られています。

果たして、僕にできるのかどうかわかりませんが、精一杯努力してみたいと思います。

先週は、最近サボりがちだったblogを久しぶりに投稿したのですが、よく見たら1ヶ月半もの長い期間が空いていました。

あまりご無沙汰すると、そのうち忘れられてしまう訳で、また以前は休みの日など、のんびりと本を読むのが好きだったのですが、最近はそういった習慣も無くなって、ネットで動画ばかり観ています。

近頃どうも頭の回転が鈍い感じがするのは、物を読んだり書いたりしていないせいかも?と思い、早速近所の書店に行って来ました。


引っ越したばかりで初めて行く本屋さんですが、小説コーナーがとっても小さい💦

やはり最近は、こういったものもネットで買うのだろうか?

個人的には、あの空間はとても好きなのですが…。




ピアノ製作が珍しい職種となってしまった現在は、必要なパーツを入手するのもなかなか困難である事は、今までの投稿でも度々取り上げて来ました。


先月は久し振りに、鍵盤蓋に埋め込む真鍮製のエンブレムを作りましたが、実際の製作してくれる業者さんが見つからず、連日に渡って日本中の業者さんへ問い合わせをして、その間ほとんどの仕事が出来ませんでした。


一般的なピアノのエンブレムは、厚さが0.5mm程度の真鍮文字を貼り付けて、そのまま塗装し、研磨して研ぎ出します。

塗膜と文字をまとめて研磨する事で、あのような鏡面になる訳です。


話を戻しますが、真鍮マークの製作は、業界の問屋さんが取り継いでくれていたので、この件で困るような事態は、全く想定していませんでした。

業者さんから、この手の面倒な案件を拒否されているのが理由なのですが、「ああ、またか😑」と言った感じです。

安すぎるから拒否されるのでは?と言いたいが、通じないのはわかっているので、いうだけ無駄だと思ってます。


過去に何度か、修理のためにヨーロッパメーカーのエンブレムを取り寄せましたが、台紙から剥がして、そのまま貼り付けられる、とても作業性の良いものばかりでした。中国のメーカーも同様のタイプでした。

どこのメーカーでも同じタイプなので、割とすぐに業者さんが見つかりそうなのですが、簡単ではないらしく、実際前回作ったものはバラバラで、小さな文字を一つ一つ、今もネチネチと貼り付けています。


↓   ↓ コレをチマチマと貼り付けます ↓   ↓



今回も何十社と問い合わせましたが、その対応は様々でした。

検討した上で、断りの連絡をしてくれるのは普通の事ですが、折り返し連絡すると言いながらそのまま放置、再度の問い合わせも無視、と言ったところもありました。仕事にならないと決まれば、断りの連絡をするのも無駄な時間と捉えているのだろうか?

一方で、自社で作れなければ、関連先や同業他社まで問い合わせて、なんとかしようと努力してくれる、なんとも有難く、親切な業者さんもありました。

しかし驚いたのは、他社で断られたと聞いた時点で、出来ません、データを見るまでも無い、と言われた事。

理由は、加工機械のレベルはどこも一緒なので、それは誰がやっても出来ないもの。更には、加工できない物をデザインした、デザイナーの資質にまでケチをつけられました。


加工機械のことはわかりませんが、ヨーロッパや中国で、普通に出回っているものが日本では絶対に出来ない!と言い切ってしまった訳で、こちらは構わないが、同業他社に対してあまりにも失礼なのでは?と感じました。



まあこんな具合ですので、もう途中からは、文字がバラバラでも作ってくれさえすれば御の字😫といった心境でした。


最後は、オーダー製作で真鍮製の表札や切り文字を手掛けている、30歳を過ぎたばかりの若い作家さんと話しをしたのですが、「普通に作れるレベルなので、幾つかのキーワードを入れて検索すれば、おそらく辿り着けます」と言われ、早速実行したところ最初の電話で「はいはい、大丈夫ですよ」とのお返事をいただけました。しかもデザイン通りの文字配置で、透明なシートに貼りついた状態での納品になるとの事で、思いがけず、ほとんど理想通りの製品を作ってもらえました。


時間は掛かりましたが、終わってみればほぼ満額回答!といった感じで、これから先良いお付き合いができそうです😃😃


↓文字の太さを変えた、4種類のサンプルが届きました↓


  ↓   ↓   実際に塗装をした試作  ↓   ↓


同じ目標に向かうときでも、年齢層によってアプローチの仕方は様々です。それぞれに違う手段の、いわゆる「良いとこ取り」が出来れば最強かも知れませんが、それらを采配するのは、なかなか難しい事です。

 

 

そしてウチ(ピアノ技研工業)は、会社と言っても、僕一人の実質個人事業なので、古い知識に偏らない様にする事は結構大変で、若手技術者の仕事に接する機会は、とても貴重な時間で大切にしたいと思っています。

 

少し前のことですが、ピアノ購入のお申し込み頂いた方から、興味深い資料をいただきました。

 

若手技術者ではありませんが、国立中学に通う男子生徒の論文で、その内容は、グランドピアノに対し、アップライトピアノが、正確なピアニッシモができない理由を、音響学と物理学の両面で検証した記録です。

自分なりに想定した仮説をもとに、発音するものと打弦するもの、それぞれの構造物を作り、オシロスコープを用いて音の波形を測定する、と言うもので、読んでいてもなかなか面白いものでした。

響板の形状をグランドは三角形、アップライトは長方形としてしまったのは惜しい所でしたが、外見からではそう見えてしまうので、これは仕方がない所です。

 

製品は結果が全てですが、実験や試作は、その過程が重要です。実際、この論文を執筆した生徒さんも、構造が変わってしまったのでは?、と気づいています。

そして驚いた事は、この実験によって得られた結果によって、かなり正確に、グランドとアップライトの違いが理解できている事です。

頭で理解するだけでなく、実際に体感する事は、とても大切だと思います。

 

 

製品ができあがった時、そこに至る過程が困難であったり、逆にとてもスムーズに事が運んだりすると、実際のクオリティ以上に良いものができたと、錯覚してしまう事があります。

次に試作を作る際は、この《オシロスコープ》を使って、客観的に音の違いを検証したいと思います。

また同時に、この論文と同ような実験をしてみたいのですが、さすがにそんな時間は無いか😅😅

生まれて最初に見たものを親と認識してしまう事を、ひな鳥現象と呼ぶそうですが、人間にもそんな、ひよこみたいな人はいます。


さすがに親は間違えませんが、仕事などで、最初に教えてくれた人が絶対で、その後どれほどの年月や経験を重ねても、それが変わらない状態のことを、僕が勝手に“ひよこ状態”と呼んでいます。


この“ひよこ状態” の人は、最初に運良く優秀な人に付いて学べば、一途な性格も相まって、とてもよく仕事を覚えます。

但しそれ以外の、外部からの情報には耳を貸さないので、決して師匠を超える事は無く、進化をすると言う、人間が持つ貴重な特権を否定した生き方は、やっぱり“ひよこ” みたいだなぁ、と感じてしまします。

そんなタイプの人が居たのですが、やはりそんな性格のせいか、通信手段も前時代的で色々面倒で、でもそれもまた面白いと思ってました。

ただ気付けば、僕自身も似たような感じかも?…、と、ある時気付いて危機感を覚えたわけです。


スマホが普及し始めた頃、たまたま若くて優秀な社員がいた為、これらの活用は全部丸投げすれば万事OK😆😆、のような感じになってました。

結局最後は、退職届を突きつけられるのですが、今にして思えば、愛想を尽かされていただけの事です。

僕は、ダメ男ぶりを発揮すると同時に、とても貴重な人材を失いました😓


そして袋井にいた頃、既に7〜8年前ですが、ホームページをリニューアルした際、Google地図での工場の位置が微妙にズレていて、ページに表示される工場の外観が、近所の民家の軒先に干された、おっさんのステテコになっていると言う、大惨事がありました。

「こりゃえらい事だ!なんとかしなければ」と思いつつ、この衝撃的な光景に手も足も出せずに地団駄を踏んでいる状況に、おっさんのステテコ以上に、このままでは僕自身がヤバいぞ😱❗️と気付いたのです。

なにしろ、ピアノ技研工業の工場外観として、世界に向けておっさんのステテコ映像を発信・・・(クドいか?)



何でもかんでもネットの時代に、生きづらい世の中と嘆く人もいますが、人それぞれ使い方次第だと思います。

技術者の端くれとして、微々たる能力でも精一杯貢献したいと、色々勉強しているつもりですが、若い技術者たちが投稿している、無料で視聴できる動画でも、とても多くのことを学んでいます。

要するに、これらの情報を利用しない事は、とっても大きな損をしていると思うのです。


僕の親が、今の僕くらいの年齢の頃、「老いては子に従えと言うし、気をつけないとね」と、よく言っていましたが、まさにその通りだと思います。

僕よりも若くて、遥かに優秀な技術者達が、とても参考になる動画を投稿してくれている訳で、こんなにありがたいことは無いと思います。


技術力の向上について、最近ある女性医師が、アップデートという単語を使っているのを聞いて、コレは良い😃❣️と感じました。

日本語にすると、おそらく“更新” が適当かと思いますが、若い人にはアップデートの方が、スムーズに入ってくるのではないでしょうか。

 

仕事のクオリティの向上には、ただひたすらに突き詰めるだけではなく、日頃の意識や価値観の更新も、大切だと思います。

先週目にした新聞に、国会の議事録などをペーパーレス化する検討会で、タブレットの持ち込みについては認められず持ち越しになった、という記事がありました。

理由は「品位を欠く」だそうです。(ヤバいだろ😳)

 

馴染みのない光景というものは、最初は抵抗があって不思議ではありません。僕自身10年以上前に、仕事相手の香港人がずっとスマホを操作している事に、少なからず不快に思った事を覚えています。そして今では、そのように感じた自分を恥じています。

どれほど強い思いを持って、古い時代を愛でていても、周りはどんどん進化していきます。個人の趣味であれば、それらに抗うのも良いと思いますが、仕事である以上、そんなものはお客さんにとって、ただの迷惑でしかありません。

 

 

30年以上前から目に疾患があり、以来多くの眼科に通い、たくさんの先生方の診察を受けて来ました。そして今現在は、初めて女性の先生の診察を受けています。

30年余りも通院していて、一度も女性医師に当たらなかったのも、考えてみれば不思議ですが、それが眼科医の男女比にあるのか、ただの偶然なのか、僕にははわかりません。ただ、とても信頼のおける方であるという事は、間違いありません。

 

その理由が何なのか?と考えると、まずはわかりやすい説明能力にあると思います。常に新しい医療技術や治療法を学ぶ事は、現役の医師なら当たり前の事だと思いますが、それらを如何に、患者にわかりやすく解説できるのかは重要な事で、結果としてたくさんの患者が付いて、安定した収入にも繋がり、それがさらに、安定した医療提供に繋がるのではないかと思います。

そして、個人的に最も大きな理由は、その患者にとって最良の治療法を考えた上で、自分が最適ではないと思えば、それをはっきりと言える事だと思います。

 

同じ事は、ピアノ業界にも言えると思います。

 

最近、まだお会いした事がない女性調律師から、結構大掛かりな修理を請け負う事になりました。

必要な修理であるのは間違いないのですが、国産のピアノで、これほどの高額修理を請け負うには、かなりの技術力と知識、そして説明能力がなければできない事です。

このような仕事を請け負う場合、ウチの仕事は限られた部分になる事が殆どですが、「私は何もできないので、全部お願いします」との事。

謙遜なのか、本当にできないのか?

不思議に思いながらも見積もりを出したところ、そのままの条件でお客様の了承を得ましたと!

正直、ビックリしました。一体この人は何者なのだろう?

繰り返しになりますが、この手の商談は、その場しのぎの暗記の知識ではできない事です。

 

 

ピアノ工場をやっていて、とても残念なのは、できる確信もない修理を「面白そうだからやってみたけど、おかしな事になっちゃったから、後はよろしく!(テヘッ😝)」みたいな事を、平気で言ってくる調律師がいる事です。

日本は、人命に関わらない仕事には、色々やらかしても罰則が無い場合が多いです。想像力がない輩がこういう業界に来ると、自分のやっている事の重大さを理解せず、手錠をかけられる心配がないのを良い事に、やりたい放題という訳です。

 

去年、それに近いと思える職場に、疑問を感じたという方から連絡があり、当時の沼津の工場で、研修会を何度も行いました。

諸事情により、今は研修をお断りしていますが、本人はとても能力が高く、僕自身かなり熱心に取り組んでいました。

で、以前Instagramで発見した、とても良い仕事をする調律師がいるのですが、いつも投稿を楽しみにしていた事もあって、その研修生に、この調律師を尋ねてみては?、と提案しました。

同じ女性同士、僕では分からない事も、色々学べるのではないかと思ったのですが、

本人があまり乗り気ではなかったようなので、その後は残念ながら、話題になりませんでした。

調律師の仕事のほか、修理の投稿もあり、自宅の庭と思われる場所での塗装や、グラインダーを改良しての鍵盤磨きなど、僕自身が独立した頃と同じような事をやっていたり、限られた条件での工夫がとても面白く、楽しく拝見していました。

 

そして今朝、大変驚いた事がありました。

その投稿者が、今回の修理の依頼人だった😳😳という事です!

 

それくらい気づけよ!

と言われそうですが、全然気づかなかった😅

スミマセン…

第二の故郷である埼玉に、久し振りにやって参りました。

今回は、以前叔父が住んでいた事で、とても頻繁に訪れていた、越谷という街です。


ピアノ技術者としてのスタートが埼玉だったせいか、東京に住んでいた頃も、静岡で創業してから東京に出張した時も、実際の滞在時間は都内よりも、埼玉の方が長かった気がします。

いつもなら、ここへ来るのはとても嬉しいことなのですが、今日はとても悲しい訪問になってしまいました。


一部のメディアでも報じられているので、ご存知の方も多いと思いますが、とても偉大なピアノ技術者が、先週お亡くなりになりました。

僕のような者が、この方についての投稿など恐れ多いので、お名前は出しません。

しかしながら光栄な事に、僕のことを以前から認識して頂いていたそうで、二年前から工場にもお越し頂き、ピアノ作りについて多くの助言やご指導を頂いておりました。


国内外を問わず、多くの演奏家からの信頼も厚い調律師でしたが、ピアノの構造から加工法にも精通した、本物のピアノ技術者でした。

《静岡音楽館AOI》での、ピアノメンテナンスをされていた関係で、静岡にも毎月お出掛けになっていたそうです。


調律や整調・整音の技術については言うまでもなく、多くの方々が敬意を抱いていましたが、ピアノの製造過程や、木工機械の機能や使用法についても、かなり精通された方でした。

支柱や響板加工に用いる接着剤が、適切であるかにも目を配っていただきましたが、華僑剤を理解している調律師に出会ったのは、さすがに初めてだったので、大変驚きました。

そして、構造を理解せずに、幻想的感覚で技術論を語る事を嫌い、難しい技術でも如何にわかり易く説明できるかを探求し、それを自らやって見せる方でした。


ピアノ技研の《JF Hessen》について、材料や加工法などを見直す中で、「この際新しいブランドを作ってしまおうか!」という事で、とても素敵な名前も考えて下さいました。その時のブランド名は、異業種で既に商標登録されていて、使用することが出来なかったのが、とても残念でした。


二年ほど前、沼津へ引っ越して間もない頃の、狭すぎる工場に苦悩していた頃にお越し頂いたのですが、当時のウチの体制に懸念を抱いていたそうです。

まさに、その懸念が当たってしまい、作業効率の悪い工場が原因で、仕事に遅れが生じ、新品のピアノも完成が遅れ、出来上がったピアノをお見せする事が、とうとう叶わなくなってしまいました。




お世話になった期間は短いものでしたが、とてつもなく大きなインパクトと、今まで考えもしなかった事を、たくさん教えていただきました。ピアノ作りの資料も、たくさんいただきました。

まだまだ、教わりたい事が山のようにありますが、叶わなくなりました。

同じ事を思っている方も、大勢いらっしゃることと思います。


毎日、とてもお忙しい方だったと伺いました。

これからは、ごゆっくりお休み下さいませ。

静岡県の浜松とその周辺が、ピアノ産業が盛んな地域だった事で、関連する部品等を作るメーカーや個人も多かったのですが、皆さん年齢を重ねていくに従って次々と引退し、今はその殆どの方が、姿を消してしまいました。

いずれこうなることは分かっていましたが、遂に自分より上の世代が、ほぼ居ないという状況になった訳です。


この一年程の間に、「特注サイズの鍵盤製作は可能か?」とか、「六郷にあったメーカーについて取材したいので、当時の職人を紹介して欲しい」と言った問い合わせが、なぜか僕のところにありました。


東京・大田区の六郷という街も、ピアノメーカーが沢山あったそうで、その中に《キャッスル》というピアノを作っていたメーカーがありました。

六郷を離れた後は、茨城県土浦市に移転してピアノを作っていたそうですが、長くは続かず、そこにいた木工職人が、そのまま土浦で工房を営んでいたのです。

(土浦にピアノメーカーがあった事など、知っている方は殆どいないと思います。)

その木工職人が、前述の問い合わせに応えられる唯一の方なのですが、工房の電話は解約されており、ご自宅はずっと留守電のまま連絡は取れず、何度かお邪魔したご自宅も、尋ねる勇気が無いままです。


僕自身その方とは、浜松のメーカーの研究生時代に知り合い、独立後も度々、土浦の工房を訪ねたのですが、遠方ということで実際に仕事をお願いしたのは、アップライトの前土台を作ってもらったのが唯一でした。

しかも、届いたものに請求書は入っておらず、電話したところ「請求書なんかめんどくせェな❗️独立のお祝いだ😄」 で済ませてしまう、そんな感じの方でした。

個人的な感覚ですが、昭和のピアノ職人と言えば、遠州弁が強いイメージですが、この方の東京訛りむき出しの喋りは、とても心地良いものでした。


そして、東京近辺でピアノのケースを作れる方は、恐らく唯一だったはずで、特に塗装屋さんなどにとっては、とても貴重な方だったようです。


木工の中でも、特に突き板に精通していたそうで、キャッスルのピアノは、ケースの木目の美しさに定評があったそうです。

ご自分の工房を始めてからは、鍵盤作りが中心で、オルガンの業者さんに鍵盤を供給していたようですが、詳しい供給先のことは分かりません。

こういうタイプの木工職人は、今後現れることは無いと思います。



日頃から、木工や塗装などの作業を投稿していますが、自分で工房を始めた当時は、どちらも全くの未経験でした。

元々専門外だった分野が、今では一番受注が多い業務な訳で、先の事はわからないものです。


この仕事をやっていると、よくありがちなのが、災害に遭ったピアノの修理です。

その種の仕事を初めて引き受けた時の事。

外装は腐食していたり、燃えてしまっているので、新たに作るしか無かったのですが、せっかく作るなら少し凝ったデザインにしたい、とのご希望がありました。そして、屋根の形状や開き方を変更した絵を描いて、木工屋さんに持って行ったのですが、「この形状だと、調律のハンマーが入らんよ」と言われました。

要するに、”チューニングハンマーが入らなくなるので、調律ができませんよ!“ という意味です。


ピアノ作りにおいては、当然それぞれ役割分担があり、普通ならケースの加工屋さんは貰った図面に従って淡々と作るだけ。その形状が演奏や調律に何らかの悪影響があっても、加工屋さんに責任はありません。問題があれば、それは設計者・図面作成者の責任です。

ケースの製作と調律は、ピアノの製作過程において一番遠い関係な訳で、その加工職人が、調律の作業性について認識している事に、大変驚くとともに、この方がとても凄い実力の持ち主なのだと知りました。


ピアノのケース加工は、今ではNC加工が当たり前で、図面がしっかり出来ていれば完璧に作ってもらえます。ですが少量生産では、とてつもなく高い工賃になってしまう為、ケースの設計から加工まで出来る木工屋さんは、ウチのような小規模メーカーにとって、大変重要な存在です。

しかし、これらの事全てが出来る方は、たった一人しか居ないというのが、日本のピアノ業界の残念なところです。

この方もいつかは引退する訳で、その時になって困らないように機会がある度に教わってはいるのですが、なかなかあのレベルの仕事はできません。





異業種の方との名刺交換や、自己紹介をする場面では、ほとんどの方々は好意的な対応してくださるので、この仕事に携わる人間は、世間的には概ね印象は良いのだろうと感じています。

僕自身は調律師ではありませんが、初めて訪問したお宅でも、ピアノの蓋を開けることへの抵抗感を感じた事はなく、仕事としての訪問でなくても、「ウチにもピアノがあるので是非!」という感じになることが多く、逆にこちらが遠慮させて頂く、という場面は多々あります。

恐らく調律師の方も、似たような感じではないかと思います。

 

要するに、ピアノの技術者が蓋を開けて手を加えれば、何かしらピアノに良いセッティングをしてくれるもの、と信じているのです。

ですが個人的には、結構胡散臭い連中が多い業種だとも思ってます。

そう思う理由は、昭和60年にこの業界に入り、昭和時代の凄まじいやっつけ仕事を散々見てきた事。その最初の職場も、けっこう酷い仕事をしていた事です。

“類は類を呼ぶ” と言いますが、そんな所にいた為に、似たような類のピアノと出会う機会を引き付けていたのかも知れません。

 

ただそれも、昔の話です。去年の秋ごろに、自称“整音師” の、お粗末な整音を写真付きで紹介する投稿をして、かなり大きな反響をいただきましたが、昭和の時代もそんな奴はいた訳で、破壊的行為ではあるものの、個人的には想定内というか、「今でもこんな奴がいるんだなぁ」くらいにしか感じませんでした。

 

しかしながら、さすがに昨日見せてもらったものは、凄かった❗️

僕自身は現場に行ってないのですが、実物を見た渡辺さんから、かなり詳細に教えて頂きました。

鍵盤はうねってしまって、弾こうとしても動かない。しかしながら動いてはいけない方向には動いてしまう。

繊細な調整が求められるバランスホールは、これでもかっ💢、というくらいの大穴になってしまっている。

仮にキーコジリを根元まで貫通させても、ここまで大きな穴にはならないだろうと思えるレベルです。

ここまで行くと、修理の費用は、新たに鍵盤を作った時の何倍も掛かってしまいます。言い換えれば修理不能という事です。

 

 

仕事をするにあたり、まずは代金先払い。

鍵盤が動かなければ当然クレームですが、対処してもらえないのなら、仕方なく別の調律師に見てもらうのは当然のことです。しかしこれも当然ながら「修理不能なので、最初の業者に責任取ってもらって」となります。

すると、他の調律師に見せたから、という理由で、“修理破棄勧告書” なるものが送りつけられ、カネは返さないのだとか。

この点については、ホームページにも記載されていました。

 

 

恐らくこのような屁理屈での被害届など、警察が受理するとは考えられないのですが、女性が一人、もしくは小さな子供と過ごす時間に、腕に彫り物がある女性調律師と、いかにもチャラそうな旦那の、ハッピーセットが訪ねてくれば、結構な威圧感だと思います。(僕は見てませんが、そんな感じらしい)

同じ地域の修理屋などは、「あそこが手を付けたお宅には関わりません」と言っているそうです。

 

実際ピアノ業者は、おとなしい方が多いです。

訴えるぞ!というものに対し「上等だテメェ💢、出るとこ出てケリつけてやろうじゃねーか‼️」みたいな人は、滅多にいないのです😂

 

この件については、昨日からツイッター等で投稿しているのですが、こういう事案について特に調律師の方々は、かなりお怒りになってますが、それは当然の事だと思います。

しかし、やったとされる作業内容は、真面目な人であれば初心者でも十分にできるレベルのもの。例え指導者がいなくても、長年経験を積んで人並みの想像力があれば、それなりにはなるはず!

その程度の想像力すら持ち合わせていない、という状態があまりに滑稽で、不謹慎ながら僕は、笑ってしまいました💦

「大切なピアノこんなにされて、奥さん泣いちゃってんだからさ、西尾さん笑っちゃダメだよ」と、嗜められたほどです。

 

調律師ではないので、所詮は他人事なのかも知れません。但し所詮他人事だからこそ、若干違う想像をしているのかも知れません。

 

僕は、こういった業者を放置する事は、周りの業者が将来、不利益を被ることになるのでは?と、危惧してます。

ウチにとって、調律師の方々はお客さんなので、その人たちが不利益を被る事態は、看過できません。

 

最初に長ったらしい前置きをしたのは、大半のピアノユーザーは、ピアノの技術者がピアノを破壊してしまうかも知れないなどとは、恐らく想像した事もないだろう、という事です。

 

今のスタンダードは、お客さんは依頼した調律師が初対面であっても、ピアノがある部屋に案内して「では、よろしくお願いします」となるはずです。

僕が危惧する事は、この当たり前のことが、困難になってしまうのではないか?という事です。

 

実際にあった一つの事例ですが、ある地域の調律の入札で、新参業者が格安で落札しました。そして安い仕事は費用に見合った時間内でとの理由で、一台15〜20分程度で調律をしていきました。

自治体は安さを強要しているのでは無く、新参業者が勝手に値段と品質を下げているだけ。

当然ですがこの事態は問題となり、この業者は入札から排除されました。それだけでは無く、再発防止を目的に入札における手続きが煩雑となり、自治体も業者も大きな負担を強いられることになりました。

一定レベル以上の仕事をする上で、無理のない価格で入札するという、暗黙の信頼関係の上で成り立っていたものが、たった一人の“俺だけハッピー” 的な思想によって、崩壊してしまった訳です。

 

今回の業者は、遅かれ早かれ誰かが取り上げて、拡散されて行ったと思います。業界のものとして怖いのは、彼らが大暴れすることよりも、彼らの行為を取り上げて拡散する人が、一般ユーザーやインフルエンサーだった場合です。

世間的に「調律師って、何だかヤベー奴なんじゃね?」みたいな風潮になって、今まで当たり前だった、お客さんとピアノ業者の、暗黙の信頼関係が崩れてしまったら、そもそもこの業界が、成り立たなくなってしまいます。

まともな調律師かどうかを判定する、謎のチェックリストみたいなものが出回ったら、もうお手上げなのではないだろうか?

 

最近、度々投稿して来た巻線の話ですが、今回お願いしたのは、所謂“巻線屋さん” ではありません。

かなり大きな修理工場を持っていて、販売店としてショールームも運営しているところです。

かれこれ15年くらい前から、「いつか、フルコンの修理が受注できるようになったら、ウチの巻線を使ってみると良いですよ」と、度々言われていたのですが、ちょっと違う形で、遂に依頼をする事になりました。

 

寸法を計算して作成したデータを送り、それを検証してもらった上で、懸念事項があれば指摘してもらう。何が問題なのか、それによってどのようなトラブルが想定できるのかを教えてもらう。

これらのことは、とても貴重な経験になりました。

 

ピアノ技研工業は、仕事の大半が業者さん相手で、一般ユーザーの方の仕事が無いのが、長年の悩みなのですが、日頃の業者さんとの繋がりで、今回のようなオリジナルパーツを作ってもらえる事は、大きな役得と言えるのかもしれません。

 

このような経緯で、二度目のオリジナル品を作ってもらう事ができました。

 

一応メーカーでもあるので、全ての部品がオリジナル品で、実際は二種類だけという事はありません。しかし、一見難しそうに感じるアクションや鍵盤などは、基本的な規格は各部品メーカーのもので、セクションの割り振りを変えるだけで作れます。その他のパーツ製作も、全て揃えるまでやり遂げるのは、大変なエネルギーを要しますが、ひとつひとつは、それ程大変な作業にはなりません。

 

初めてのオリジナルパーツはハンマーヘッドでした。これを作る事になった経緯は、長いブランクの後に、独立して間もない頃でした。

当時、手がけたアクション修理で、以前から疑問を感じていたパーツを使う必要が生じた為、実際にアクションを製作しているメーカーの見解を訊きたいと思い、訪ねてみたことがきっかけでした。

技術者として業界に携わる人なら、誰もが知っている“今出川アクション” を訪問したのですが、「ここがあの有名なIMADEGAWAか〜😮」と、かなり緊張していた事を覚えています。

アクションとハンマーが別会社になっている事も、この時初めて知りました。

 

疑問だった部品は、思っていた通りサイズが合っていない為、使える訳がないという事でした。けっこうテキトーな業界なので、商社から支給されたものであっても、自分がしっかりしていないと、とんでもない目に遭うというのは、昔と変わっていないようでした。

 

その後は、ハンマーの事で度々訪問する事になります。当時の社長は、今の社長のお兄様だったのですが、多くの事を教えていただきました。

 

実際その頃は、今以上に無知でした。

例えばハンマーの硬化剤。コレを使うのは、あまり良くない事だと思い込んでいました。しかし、硬化剤を使う前提で作るハンマーもある事を とても丁寧に教えてもらいました。この頃は、その程度のことすら知らなかった訳です。

 

同時に、既製品ではないオリジナルのハンマーの製作もできるのだとか。

もちろんメーカー限定ですので、全ての人に対応できる訳ではないのですが、当時は製品どころか、図面すら出来ていない相手に対して、随分と思い切った対応をしてくれたものだと思います。

また、せっかく近くにいるのだからと、注文したハンマーをわざわざ取りに行き、その度長時間に渡り、いろいろな事を質問しては、丁寧に教えて頂きました。

僕が訪問する度に、長時間作業の手を止めてしまっていた訳で、随分と迷惑を掛けたはずですが、面倒がらずに丁寧に教えていただけた事は、今でも感謝しております。

 

 

 

 

昔の中小メーカーは、とにかくドイツ製のハンマーやアクションを使い、つぎはぎだらけのピアノを作っておきながら、高級なものであるかのような印象を与える商売をする所が、たくさんありました。

しかし、設計段階で求める音色に合わせたハンマーを作るのが、本来の手順だと考えていたので、この時の経験はとても意義のあるもので、製作をする上で、とても恵まれた環境を与えてもらったと思います。

 

オリジナル品を作るには、当然試作から始めるわけですが、出来上がったハンマーは、最初から既製品よりもクオリティが高く、中古ピアノの修理に使っても何ら問題の無いものでした。試作でありがちな、実験後に廃棄するような事も無かったのは、経済的にも大変助かりました。

このような事がなければ、今頃は輸入品の良さそうなものを見繕って、何となく妥協する事になっていたはずです。

 

長年仕事を続けていく中での、ほんの一場面の事で、相手に大きな影響を与えてしまうこともあります。

今の自分がそのような時、その場に最も相応しい対応が出来るのかは甚だ疑問で、残念ながらまだまだとても無理、といった感じです。