張弦に関する投稿で前回予告していた、時々見かける修理投稿に思う事。

今回は技術的な内容で専門用語が多く、部品名や用語が技術者でないとわかりづらいかも知れません。また分かりやすいように、イラストは少々極端な形状で書きました。


弦を張り替える作業に於いて、「弦圧を測定したら圧が無くなっていた」または「響板のクラウンが失われ、駒が沈んでしまっている」という事で、それを改善する加工を施した、というものがあります。

(クラウンとは所謂業界用語。ピアノの響板は、中央部分が盛り上がるよう反らせる加工をしますが、その状態をクラウンと呼びます。※1図)


※1図


なぜそう呼ばれるのか、理由はわかりません。どなたかご存知の方がいらしたら、教えていただけると嬉しいです。


では、どのような加工をするのか?ですが、弦を一直線に張ったラインから、駒がしっかりと高い位置になるように、フレームの位置を下げる事で、”響板にしっかりと弦の圧力が掛かる。それによって音が良くなる“ という事です。

昭和時代にたくさんのピアノメーカーが存在していましたが、結構多くの方々が、とにかく張力を上げて駒を高く突き出す事で、音が良くなるのだと信じていました。そういった影響があるのかも知れません。

「張力を上げて、フレームが折れる直前ギリギリの状態で、ピアノは最高の音色になるのだ!」と言う昔のピアノ職人の熱弁を何度か聞かされた事があります。


では、その加工方法とはどのようなものなのか?

ピン板をオリジナルよりも薄く加工する、またはフレームの枕木を薄く削る、そうする事でフレームの位置を下げ、相対的に駒が高い位置になるようにする。(※2図)図のA〜B〜Cの順に加工。


※2図



しかし、少し考えればわかる事ですが、響板のクラウンが失われて駒が落ち込んでいるのなら、もう一度響板を反らせる加工をしなければなりません。フレームを低くしたところで、何も改善していないことは明きらかです。

さらに言えば、本当に響板は沈んでしまっているのか?


ネットで見かける修理の工程では、弦圧計という物を使って測定している方が多いのですが、糸を張って駒の高さを確認しているものもあります。

僕はこの弦圧計という物を持っていませんので、ちょっとだけ使ってみたい気もします(笑)


しかし各ピアノメーカーは、出荷時の弦圧の数値を公表しているのだろうか?

恐らくですが、巷で良いとされる数値に加工しているのだと思います。

響板の反りというか膨らみが、出荷時にどの程度だったのか、正確には分かりません。ですが、ある程度想像することは出来ます。

グランドでは難しいのですが、アップライトであれば、底板を外す事でうち回しが露出しますので、中央部にどれだけの膨らみを持たせているのか、正確に測定出来ます。更にピン板の交換があれば、底板との反対側も測定出来ます。

現在ウチで修理中のピアノのように、親板が接着不良で外れてしまえば、うち回し全体を見ることも出来ます。


前述に戻りますが、経年劣化で響板は沈み込んでしまうのか?ですが、それはもしあったとしても、極めて稀なケースだと思います。

ピアノについてよく語られている、弦を張った状態の張力は20トンにも及び云々、そのような事を聞くと、それだけ大きな力が掛かれば、響板が沈んでしまうのも仕方ないのだろうと何となく思ってしまいますが、支柱やうち回し、そして響棒や響板の構造をよく見れば、響板を沈ませることなどほぼ無理だろう、と言うことです。

また、張力が20トンと言っても、響板に対して20トンの力がのし掛かっている訳ではありません。


次回後編では、何故響板が沈まないのか?、また張力が掛かった時の力の掛かり方や変化について、響板とその周辺部の構造を交えて話していきたいと思います。





最近久しぶりに弦を張りましたが、その様子を動画に撮っていたので、ピアノの張弦について少し解説してみます。


張弦の作業手順では、最初にチューニングピンを打ち込んでから弦を張っていく方法と、チューニングピンに弦を巻いてから打ち込む方法があります。

日本のピアノメーカーは前者を採用しているので日本式、一方ヨーロッパのメーカーは後者の方法を用いているのでヨーロッパ式と、日本の業界では呼ばれてます。


  ↓   ↓  日本式   ↓   ↓



↓  ↓ヨーロッパ式の先に弦を巻くやり方(慣れないので手際が悪い😂)↓  ↓



最近は、多くの修理屋さんが作業動画を公開していますが、僕の印象としてヨーロッパ式の張弦をしている方が多いと感じます。

どちらが優れているという訳ではなく、それぞれの考え方や理由があって、良いと思う方法をとっているはずです。


↓  ↓ 先にチューニングピンを打ち込む日本式 ↓  ↓


作業の手順として、機械化を進めるにはヨーロッパ式は不向きで、大量生産の現場では、所謂日本式の手順で機械化されています。

ちなみに僕は、日本式の手順で張弦をしてます。

理由としては、ネジ山を切っているチューニングピンをしっかりと回転させ、ピン板に馴染ませる事で、調律でのハンマー操作が滑らかに感じたからです。(ピンを回して張り終えることで、張弦直後からピン味が滑らかに仕上がる)

但し、ヨーロッパ式の巻いてから打ち込む方法でも、調律を繰り返す事で、しっかりとネジ山は馴染んでいくので、あまり意味はないのかも知れません。

また、低音部の巻線は、弦を捻って張る事が多いので、その作業が均一で容易にできるのは明らかにヨーロッパ式の手順です。


このような書き方をすると、自分が採用する作業手順には、優位性が乏しいと感じてしまう解説になってしまいましたが、どちらにしても、仕上がりに大きな差を感じる事がないという事でした。


今回、このような解説をしてみましたが、多くの方々の修理における張弦について、実は少々思うことがあり、次回はその辺りの事を批判を覚悟して投稿してみます。


以前、チューニングピンを抜く動画を投稿して、Twitterのフォロワー数がガクッと減ってしまいましたが、もしかすると同じことが起こるのかも💦

単純に売る人と作る人だけの間柄に於いて、その時々の雰囲気で、ウケの良さそうなものと、そうで無いものを出したり引っ込めたりする。

そんな場面を度々目にして来ました。

すでに述べていますが、何となく売れ筋と言われるピアノを展示していれば、なんとなく売れていく、といった時代はすでに終わってます。

昔なら、音楽教室を展開し、店にはお手頃な商品を並べていると、ピアノは勝手に売れていく。流行とはそんな感じの現象です。

ですが、世の中の流行とは関係なくピアノを必要とする人は、そういった事を求めていないし、このような方が求めている技術やサービスの提供に、日頃から取り組んでいる事が大切だと思います。



カルペディエムについて、山下達也さんが独立起業を宣言してから、まだ直接向き合ってお話を伺ってはいませんので、ここからは僕の憶測も含まれます。


ピアノに対する弾き手の好みは様々で、これさえ押さえておけば万事OK!、などと言うものはありません。

カルペディエムでは、弾き手によって様々な好みや要望に対し、最高の仕事ができる技術者が誰なのか?、要求に対して最も適したピアノとは?、といった事に応えていきたいのだと思います。


ネットで検索すれば、これらの事全てに対応します!とアピールしている楽器店など、それこそ日本中に存在しますが、言うだけなら簡単です。

お店では、会社としてこのピアノを売って行こう!、といった方針があるものです。仮にそんな方針が無くても、一店舗、もしくはその会社内で、あらゆる事に応えられる技術力や商品、それらを実際に提供し続ける事は、並大抵のレベルでは出来ません。

その為、どうにかして店のラインナップの中から選んで貰えるよう、あらゆるセールストークを駆使して、契約に繋げる努力をしなければなりません。

ピアノは、繰り返し何度も買うものではありません。一度逃せば次は無いと考えるのは自然な事で、仕方がない事です。


カルペディエムのホームページには、ピアノの購入やメンテナンスの相談、と言う事が書かれています。

恐らく、今までのスタインウェイの販売や納品の立ち合い、メンテナンスを通じての技術者との交流経験を活かし、お客様から求められる要求に対し、最高の仕事ができる技術者とは誰なのか、またその弾き手にとってどのピアノが良いのか、それらを紹介し、繋げていくことを目指しているのだと思います。

山下さんには、これまで全く交流を持つ事がなかった調律師を紹介してもらったり、青山のショールームで多くのピアノに触れる機会を頂きましたが、例えば今後、ウチの製品の演奏動画を撮りたいといえば、必ずこのピアノの魅力を引き出してくれるピアニストを紹介してくれるはずです。


カルペディエムは自前のお店があるわけでも、抱えている技術者が居るわけでもありません。売らなければならないピアノのノルマも無いので、その分しがらみの無い、的確な紹介や繋がりを構築できる筈です。

もちろん、おかしな忖度があれば長続きするはずもありません。

ピアノ販売は、恐らくスタインウェイが中心になると思いますが、ピアノ技研工業の製品が、カルペディエムとして紹介できるピアノの一つとなれるよう、僕自身も努力してみたいと思っています。


山下さんに協力する技術者が、各地にいる事はもちろんですが、ピアノの販売や試弾などで、場所を提供して協力してくれるショールームも、すでにあるようです。


ピアノ営業で、こんな人が現れる事、出会えることを心待ちにしていたので、これからさらに、この業界で仕事をする楽しみが出て来ました。



独立してからしばらくの間は、仕事が大量に詰まっていないと不安で、どんな事でも抱え込んできました。

しかし数年前から、仕事欲しさの営業活動をやめて、工賃を大幅に値上げして、ピアノにとって理に叶っていない仕事は受けない事にしました。

その結果、大幅に仕事は減りましたが、つまらないストレスを感じる事が無くなりました。

また、それまでの仕事のほとんどが、自分で営業活動をして得ていたものでしたが、業者さんからの紹介で依頼が来るようになりました。


そんなある日、埼玉在住の方からカタログ請求のメールが届き、「おお、懐かしい埼玉からだ!」などと思いながら郵送したところ、後日、そのカタログをお送りした山下達也さんという方から、お礼のお電話がありました。

そして購入の検討では無く、ピアノ業界人としての興味だった事、ピアノ事業を解散した松尾楽器商会で販売をしていた事、直接工場に出向いて実物を見せて欲しい、というお話がありました。


大変驚きました。その理由は、松尾楽器のような所は、技術者だけで無く修理や加工業者など、関連するあらゆるネットワークが構築されていて、ウチのような後発業者が入り込む余地は無いからです。

そして何よりも、僕自身が東京で調律の仕事をしていた頃、松尾楽器に応募して不採用になっている💦(それは関係ないか😅)


とにかくそのような話し合いがあり、当時沼津にあった工場で初めて会う事になりました。更に、懇意にしてもらっている技術者にも紹介したいとの事で、再び沼津まで来ていただき、その技術者には継続的に、様々な助言をしていただくようになりました。


製品を作っても売る人がいなければ成り立たず、作る人がいなければ売る事はできません。それは営業職と技術職の関係では当たり前のことです。ですがさらに発展的に、お互いの持つ人的なネットワークを活かした繋がりを持つ事で、より一層高いレベルの商品や、サービスの提供が出来るのだと考えます。

前述で紹介した山下さんとは、こういった考え方が近いと感じているので、いつか一緒に仕事がしたいと思っていました。

その山下さんが起業すると聞いた為、いよいよ始動するか!、と期待を込めて、先月紹介する投稿をしました。

https://www.instagram.com/p/C9bFTa3S-Ci/?igsh=MWVrNjRlMjA2cTZrOA==


本当は、今年の初めにスタートするはずでしたが、心強い協力者となるはずだった方が突然お亡くなりになると言う、大変残念で悲しい出来事があり、半年以上の時間をかけて計画を練り直し、改めてスタートする事になりました。

https://ameblo.jp/pianogiken/entry-12841618807.html


次回は、山下達也さんが始めた「ピアノカウンセラー カルペディエム」について、僕なりに感じた事を綴っていきたいとと思います。

ピアノの営業マンについて、今までに何度もここで投稿してきましたが、その内容が好意的だったことはなかったと思います。

しかしそれは、営業マンが不要などということではありません。出来ればお互いに協力しあって、一緒に仕事がしたいと思ってます。


ピアノ業界はとても変わった常識があり、大半の大きな楽器店では、営業担当者が技術的な内容を話すことは、ほとんどありません。そこは調律師の仕事という考え方のようです。

発言を控えているというより、わかっていない、もしくは理解する気が無いといった印象です。ピアノについての説明内容は、ほとんど外観の美しさや物語、そして耳触りの良い話術、と言った所です。


こういった現状について「そうじゃねえだろ」と、常々思っているので、辛辣なことを書いてしまうのです。


ピアノの購入を考えている人は、“楽器” を求めている訳で、欲しい情報はそこでは無いはずです。また、製作者がアピールしたい事も同様です。

最も重要なのは、弾き手の好みに合う音色やタッチ感、弾きやすさです。

見た目の美しさは大切ですが、それが最重要項目ということは、あまり無いと思います。

作り手も、外装の加工や塗装に多くの時間を割き、大変気を遣いますが、個人的な考えですが、塗装など見た目の美しさは、僕はマナーだと思ってます。リサイタルに臨むピアニストが、たとえ演奏に全精力を注ぎ込んでいても、起き抜けの身なりと寝ぐせ頭で出てきたりしないのと、同じ事だと勝手に思ってます。


ピアノ作りは、どのような音色の楽器を目指すのか?、と言った目標に向けて設計するところからスタートします。

それに対して、弾き手の好みも人それぞれです。

自分の作るピアノが、全ての人の好みに合う事などあり得ません。

弾き手の好みや要望を汲み取り、それらを叶えるピアノと技術者を引き合わせる事が、営業マンの仕事なのではないかと、僕は常々考えてます。

それらの要望に、ワンストップで応えることが出来る楽器店は存在しますが、とても少ないです。

多くの楽器店は、店の方針として売りたいピアノがあって、それが如何にお客さんの要望にかなったものであるのかを、得意の話術で刷り込んでくる訳です。

ピアノの販売台数は今も減り続けており、昔のように周りの雰囲気に流されて、なんとなく買ってくれる人は少なく、割と安いピアノであってもかなり真剣に検討して買っている印象です。


個人で独立して仕事をしている調律師で、多くのピアノ指導者からの信頼が厚い方が、特にたくさん売れる事もないけれど、景気に左右される事もなく、いつも普通にピアノが売れているというのは、いつも普通に、弾き手の好みや要望に応えるピアノが提供できているはずで、それが安定的に販売に繋がる大きな要因なのだろうと感じています。

独立した頃、木工や塗装は全くの素人だったのですが、間違いのない仕事ができるようサポートしてくれる、木工職人がいました。

加工技術も工作機械も持っていない僕でも、修理のピアノが組み立てられる様さまざまな工夫をし、手順を間違わぬようそれぞれのパーツにメモまで付けて、出来上がった製品を届けてくれました。

その仕事ぶりは常に完璧で、火災や水害などで、正確な採寸すらできなくなったピアノでも、支柱の寸法と棚板の位置だけを頼りに図面を描き、アクションや鍵盤が正確に収まるケースを作ってくれました。

僕が木工の仕事を始めてからは、ご自分が働けなくなっても困らないようにと、大変多くのことを教えていただきました。


以前まとめて作ってもらったケースを、最近使い切ってしまったので、製作の事で久しぶりにお会いしたのですが、想像以上に年老いており、若干の不安を覚えました。

というのもここ数年、それまで常に完璧だった仕事が、勘違いなどで微妙なのを作ってしまう事が度々あり、そろそろ引退を考えても良いのでは?と思っていたのです。


僕自身は、製作をお願いできる業者さんは、もう何年も前に見つけているのですが、ご本人が現役を続ける限りは、お願いし続けるつもりでした。そして引退される時は、引き止めたりせず、これまでの感謝の気持ちをお伝えできればと思ってます。

しかしながら、次を確保することなく、いつまでも昔のままの状態で、先の見えない関係を続けたい人もいるのです。


この時は、すでに事前の連絡で依頼していたので、不安を感じながらも、予定通り製作をお願いしましたが、残念ながら出来上がったものは、製品として使える代物ではありませんでした。

何も言わずに受け取りましたが、とても悲しくなりました。


無理をして働かねばならない人ではありません。むしろ悠々自適に老後を楽しめると思います。


この20年間、こう言った「引退させない」という場面を度々見てきました。

たったの3万円で、死ぬまで鍵盤を作り続けたお爺さんがいましたが、また同じことを繰り返すのだろうか?

こういう所が、どうしても好きになれないし、共感する日も来ません。

最近免許証の更新をしました。普通免許を取得して、まもなく40年になるのですが、初めてゴールドになりました。

今まで無事故無違反が続いても、なぜか4年半を過ぎると、何らかの違反切符を切られる😭、ということが続いてきました。

せっかく頂いたゴールド免許なので、今日も安全運転で、浜松駅までやって来ました。


今まで色々な製品を作ってきましたが、自分で思い立って始めて、今も続いているのは、おそらくピアノ本体くらい。ほとんどはお付き合いのある技術者の方々から、ご提案いただいたものばかりです。

技術者の方とは、調律師としてのお仕事をしつつ、修理や中古ピアノの販売を手掛けている方々です。


自分で考えたもののほとんどが、やってはみたものの上手く行かず、どのような製品が求められているのか、どうすれば商売として成り立つのか、周りの技術者から教えてもらって、ここまで継続することが出来たのだと、つくづく思います。


今日はご提案いただいた、これから作るかも知れない製品について、わからないことがたくさんある為、それらについて色々と教えていただく為に、こうして電車に揺られています。

果たして、僕にできるのかどうかわかりませんが、精一杯努力してみたいと思います。

先週は、最近サボりがちだったblogを久しぶりに投稿したのですが、よく見たら1ヶ月半もの長い期間が空いていました。

あまりご無沙汰すると、そのうち忘れられてしまう訳で、また以前は休みの日など、のんびりと本を読むのが好きだったのですが、最近はそういった習慣も無くなって、ネットで動画ばかり観ています。

近頃どうも頭の回転が鈍い感じがするのは、物を読んだり書いたりしていないせいかも?と思い、早速近所の書店に行って来ました。


引っ越したばかりで初めて行く本屋さんですが、小説コーナーがとっても小さい💦

やはり最近は、こういったものもネットで買うのだろうか?

個人的には、あの空間はとても好きなのですが…。




ピアノ製作が珍しい職種となってしまった現在は、必要なパーツを入手するのもなかなか困難である事は、今までの投稿でも度々取り上げて来ました。


先月は久し振りに、鍵盤蓋に埋め込む真鍮製のエンブレムを作りましたが、実際の製作してくれる業者さんが見つからず、連日に渡って日本中の業者さんへ問い合わせをして、その間ほとんどの仕事が出来ませんでした。


一般的なピアノのエンブレムは、厚さが0.5mm程度の真鍮文字を貼り付けて、そのまま塗装し、研磨して研ぎ出します。

塗膜と文字をまとめて研磨する事で、あのような鏡面になる訳です。


話を戻しますが、真鍮マークの製作は、業界の問屋さんが取り継いでくれていたので、この件で困るような事態は、全く想定していませんでした。

業者さんから、この手の面倒な案件を拒否されているのが理由なのですが、「ああ、またか😑」と言った感じです。

安すぎるから拒否されるのでは?と言いたいが、通じないのはわかっているので、いうだけ無駄だと思ってます。


過去に何度か、修理のためにヨーロッパメーカーのエンブレムを取り寄せましたが、台紙から剥がして、そのまま貼り付けられる、とても作業性の良いものばかりでした。中国のメーカーも同様のタイプでした。

どこのメーカーでも同じタイプなので、割とすぐに業者さんが見つかりそうなのですが、簡単ではないらしく、実際前回作ったものはバラバラで、小さな文字を一つ一つ、今もネチネチと貼り付けています。


↓   ↓ コレをチマチマと貼り付けます ↓   ↓



今回も何十社と問い合わせましたが、その対応は様々でした。

検討した上で、断りの連絡をしてくれるのは普通の事ですが、折り返し連絡すると言いながらそのまま放置、再度の問い合わせも無視、と言ったところもありました。仕事にならないと決まれば、断りの連絡をするのも無駄な時間と捉えているのだろうか?

一方で、自社で作れなければ、関連先や同業他社まで問い合わせて、なんとかしようと努力してくれる、なんとも有難く、親切な業者さんもありました。

しかし驚いたのは、他社で断られたと聞いた時点で、出来ません、データを見るまでも無い、と言われた事。

理由は、加工機械のレベルはどこも一緒なので、それは誰がやっても出来ないもの。更には、加工できない物をデザインした、デザイナーの資質にまでケチをつけられました。


加工機械のことはわかりませんが、ヨーロッパや中国で、普通に出回っているものが日本では絶対に出来ない!と言い切ってしまった訳で、こちらは構わないが、同業他社に対してあまりにも失礼なのでは?と感じました。



まあこんな具合ですので、もう途中からは、文字がバラバラでも作ってくれさえすれば御の字😫といった心境でした。


最後は、オーダー製作で真鍮製の表札や切り文字を手掛けている、30歳を過ぎたばかりの若い作家さんと話しをしたのですが、「普通に作れるレベルなので、幾つかのキーワードを入れて検索すれば、おそらく辿り着けます」と言われ、早速実行したところ最初の電話で「はいはい、大丈夫ですよ」とのお返事をいただけました。しかもデザイン通りの文字配置で、透明なシートに貼りついた状態での納品になるとの事で、思いがけず、ほとんど理想通りの製品を作ってもらえました。


時間は掛かりましたが、終わってみればほぼ満額回答!といった感じで、これから先良いお付き合いができそうです😃😃


↓文字の太さを変えた、4種類のサンプルが届きました↓


  ↓   ↓   実際に塗装をした試作  ↓   ↓


同じ目標に向かうときでも、年齢層によってアプローチの仕方は様々です。それぞれに違う手段の、いわゆる「良いとこ取り」が出来れば最強かも知れませんが、それらを采配するのは、なかなか難しい事です。

 

 

そしてウチ(ピアノ技研工業)は、会社と言っても、僕一人の実質個人事業なので、古い知識に偏らない様にする事は結構大変で、若手技術者の仕事に接する機会は、とても貴重な時間で大切にしたいと思っています。

 

少し前のことですが、ピアノ購入のお申し込み頂いた方から、興味深い資料をいただきました。

 

若手技術者ではありませんが、国立中学に通う男子生徒の論文で、その内容は、グランドピアノに対し、アップライトピアノが、正確なピアニッシモができない理由を、音響学と物理学の両面で検証した記録です。

自分なりに想定した仮説をもとに、発音するものと打弦するもの、それぞれの構造物を作り、オシロスコープを用いて音の波形を測定する、と言うもので、読んでいてもなかなか面白いものでした。

響板の形状をグランドは三角形、アップライトは長方形としてしまったのは惜しい所でしたが、外見からではそう見えてしまうので、これは仕方がない所です。

 

製品は結果が全てですが、実験や試作は、その過程が重要です。実際、この論文を執筆した生徒さんも、構造が変わってしまったのでは?、と気づいています。

そして驚いた事は、この実験によって得られた結果によって、かなり正確に、グランドとアップライトの違いが理解できている事です。

頭で理解するだけでなく、実際に体感する事は、とても大切だと思います。

 

 

製品ができあがった時、そこに至る過程が困難であったり、逆にとてもスムーズに事が運んだりすると、実際のクオリティ以上に良いものができたと、錯覚してしまう事があります。

次に試作を作る際は、この《オシロスコープ》を使って、客観的に音の違いを検証したいと思います。

また同時に、この論文と同ような実験をしてみたいのですが、さすがにそんな時間は無いか😅😅

生まれて最初に見たものを親と認識してしまう事を、ひな鳥現象と呼ぶそうですが、人間にもそんな、ひよこみたいな人はいます。


さすがに親は間違えませんが、仕事などで、最初に教えてくれた人が絶対で、その後どれほどの年月や経験を重ねても、それが変わらない状態のことを、僕が勝手に“ひよこ状態”と呼んでいます。


この“ひよこ状態” の人は、最初に運良く優秀な人に付いて学べば、一途な性格も相まって、とてもよく仕事を覚えます。

但しそれ以外の、外部からの情報には耳を貸さないので、決して師匠を超える事は無く、進化をすると言う、人間が持つ貴重な特権を否定した生き方は、やっぱり“ひよこ” みたいだなぁ、と感じてしまします。

そんなタイプの人が居たのですが、やはりそんな性格のせいか、通信手段も前時代的で色々面倒で、でもそれもまた面白いと思ってました。

ただ気付けば、僕自身も似たような感じかも?…、と、ある時気付いて危機感を覚えたわけです。


スマホが普及し始めた頃、たまたま若くて優秀な社員がいた為、これらの活用は全部丸投げすれば万事OK😆😆、のような感じになってました。

結局最後は、退職届を突きつけられるのですが、今にして思えば、愛想を尽かされていただけの事です。

僕は、ダメ男ぶりを発揮すると同時に、とても貴重な人材を失いました😓


そして袋井にいた頃、既に7〜8年前ですが、ホームページをリニューアルした際、Google地図での工場の位置が微妙にズレていて、ページに表示される工場の外観が、近所の民家の軒先に干された、おっさんのステテコになっていると言う、大惨事がありました。

「こりゃえらい事だ!なんとかしなければ」と思いつつ、この衝撃的な光景に手も足も出せずに地団駄を踏んでいる状況に、おっさんのステテコ以上に、このままでは僕自身がヤバいぞ😱❗️と気付いたのです。

なにしろ、ピアノ技研工業の工場外観として、世界に向けておっさんのステテコ映像を発信・・・(クドいか?)



何でもかんでもネットの時代に、生きづらい世の中と嘆く人もいますが、人それぞれ使い方次第だと思います。

技術者の端くれとして、微々たる能力でも精一杯貢献したいと、色々勉強しているつもりですが、若い技術者たちが投稿している、無料で視聴できる動画でも、とても多くのことを学んでいます。

要するに、これらの情報を利用しない事は、とっても大きな損をしていると思うのです。


僕の親が、今の僕くらいの年齢の頃、「老いては子に従えと言うし、気をつけないとね」と、よく言っていましたが、まさにその通りだと思います。

僕よりも若くて、遥かに優秀な技術者達が、とても参考になる動画を投稿してくれている訳で、こんなにありがたいことは無いと思います。