張弦に関する投稿の、最終編です。
まず、響板の沈み込みが、通常起こらない理由について。
前回投稿のイラストにもありますが、響板は中心部が盛り上がるように湾曲してます。ここに弦を張って張力が掛かってくると、どのような事が起こるのか?
(イラスト※1、響板を反らせる仕組み)
(イラスト※2、フレームを乗せて、弦を張った時の状態)
ピアノ全体の張力が20トンというのは引く力の事で、響板を押さえつける力ではありません。
目に見えてわかりやすい例として、修理をやっている方なら、ヤマハのグランドピアノのフレームを外した事があると思います。その特徴的なものとして、低音部と中音部の境目に、下方向に向かって角?が出ています。その出っ張りと本体の間に、スペーサーを挟み張力を支える仕組みですが、フレームを設置しただけではスカスカの状態で、スペーサーは脱落してしまいます。ですが、弦を張っていくうちに間隔が詰まっていき、やがてガッチリと固定されます。
強い張力で引っ張られて間隔が詰まってくるので、中央部が持ち上がった状態で湾曲している響板は、上に持ち上がることはあっても、下に向かって沈むことは、物理的にあり得ません。(イラスト※3)
もし本当に沈み込んでいたら、それは支柱の強度不足によって、ピアノ全体が歪んでいるという事です。(イラスト※4)それを直すには、支柱を組み立て直す必要があり、フレームの位置を修正した位では、何も改善しません。
(イラスト※3)
(イラスト※4)
また、駒を高くする加工ですが、それによってピアノの音色に良い影響があるとは思えません。駒が高く突き出す事で、強い力で駒や響板に振動が伝わりそうに感じますが、楽器であるピアノは音階があるので、駒が高くなった分は弦を緩める事になり、そこに強い力は発生せず、結局何も変わりません。
駒が高くなった分、僅かですが弦長が伸びますので、弦には負担がかかる事になります。その場合、理論的には断線しやすくなるはずです。
また、弦が駒を強く押さえつける事で、振動が良く伝わるということはありませんので、あまり大きく手を加えて、元の形状に変化を与える事は、避けた方が良いと思います。