張弦に関する投稿で前回予告していた、時々見かける修理投稿に思う事。
今回は技術的な内容で専門用語が多く、部品名や用語が技術者でないとわかりづらいかも知れません。また分かりやすいように、イラストは少々極端な形状で書きました。
弦を張り替える作業に於いて、「弦圧を測定したら圧が無くなっていた」または「響板のクラウンが失われ、駒が沈んでしまっている」という事で、それを改善する加工を施した、というものがあります。
(クラウンとは所謂業界用語。ピアノの響板は、中央部分が盛り上がるよう反らせる加工をしますが、その状態をクラウンと呼びます。※1図)
※1図
なぜそう呼ばれるのか、理由はわかりません。どなたかご存知の方がいらしたら、教えていただけると嬉しいです。
では、どのような加工をするのか?ですが、弦を一直線に張ったラインから、駒がしっかりと高い位置になるように、フレームの位置を下げる事で、”響板にしっかりと弦の圧力が掛かる。それによって音が良くなる“ という事です。
昭和時代にたくさんのピアノメーカーが存在していましたが、結構多くの方々が、とにかく張力を上げて駒を高く突き出す事で、音が良くなるのだと信じていました。そういった影響があるのかも知れません。
「張力を上げて、フレームが折れる直前ギリギリの状態で、ピアノは最高の音色になるのだ!」と言う昔のピアノ職人の熱弁を何度か聞かされた事があります。
では、その加工方法とはどのようなものなのか?
ピン板をオリジナルよりも薄く加工する、またはフレームの枕木を薄く削る、そうする事でフレームの位置を下げ、相対的に駒が高い位置になるようにする。(※2図)図のA〜B〜Cの順に加工。
※2図
しかし、少し考えればわかる事ですが、響板のクラウンが失われて駒が落ち込んでいるのなら、もう一度響板を反らせる加工をしなければなりません。フレームを低くしたところで、何も改善していないことは明きらかです。
さらに言えば、本当に響板は沈んでしまっているのか?
ネットで見かける修理の工程では、弦圧計という物を使って測定している方が多いのですが、糸を張って駒の高さを確認しているものもあります。
僕はこの弦圧計という物を持っていませんので、ちょっとだけ使ってみたい気もします(笑)
しかし各ピアノメーカーは、出荷時の弦圧の数値を公表しているのだろうか?
恐らくですが、巷で良いとされる数値に加工しているのだと思います。
響板の反りというか膨らみが、出荷時にどの程度だったのか、正確には分かりません。ですが、ある程度想像することは出来ます。
グランドでは難しいのですが、アップライトであれば、底板を外す事でうち回しが露出しますので、中央部にどれだけの膨らみを持たせているのか、正確に測定出来ます。更にピン板の交換があれば、底板との反対側も測定出来ます。
現在ウチで修理中のピアノのように、親板が接着不良で外れてしまえば、うち回し全体を見ることも出来ます。
前述に戻りますが、経年劣化で響板は沈み込んでしまうのか?ですが、それはもしあったとしても、極めて稀なケースだと思います。
ピアノについてよく語られている、弦を張った状態の張力は20トンにも及び云々、そのような事を聞くと、それだけ大きな力が掛かれば、響板が沈んでしまうのも仕方ないのだろうと何となく思ってしまいますが、支柱やうち回し、そして響棒や響板の構造をよく見れば、響板を沈ませることなどほぼ無理だろう、と言うことです。
また、張力が20トンと言っても、響板に対して20トンの力がのし掛かっている訳ではありません。
次回後編では、何故響板が沈まないのか?、また張力が掛かった時の力の掛かり方や変化について、響板とその周辺部の構造を交えて話していきたいと思います。