本当はずっと前から知っていた。
 
いつもアイツを真っ直ぐに見つめてる彼女の事を。
 
幼い顔がアイツを見付けて、少し赤らむ事も、その周りの俺達を見て悲しそうに沈むことも全部分かってた。
 
そして、彼女がアイツを思うように、アイツも、完二も自分じゃ気がついてないけど、志知花が好きだってことを。
 
 
「志知花ー、一緒に帰ろう」
 
机で眠る志知花を揺する。今日は月曜日だから、完二は学校には、いない。
 
日も落ちかけてて、教室にはオレと志知花だけだった。
 
初めてではない、三年生の教室。
 
いつもは、完二が居るときにしか来ない場所だ。
 
「志知花、起きて」
 
さっきよりも少し強めに揺するけど、起きる気配はない。
 
(前髪、少し延びたな…)
 
彼女の瞼にかかった、前髪を払うと小さくアイツの名前を呟いた。
 
「…志知花は完二しか、見えてないんだよな」
 
自分でも、馬鹿だと思う。
 
「…それでも、志知花が好きなんだ」
 
彼女には、俺の思いなんて、届かない。
 
それでも、傍に居たいと思う俺は、きっと馬鹿なんだろう。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
好きだとは
言えなくて…。
 
眠る君の額にキスを落とす。
 
そんな事したって、魔法はかからないのに。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
完→←夢主←主
 
なんだかんだで夢主が好きな番長だったらいい。
 
 
月森先輩が居なくなってから、一年。
 
花村先輩達も高校を卒業し、オレは三年に進級した。
 
そんなオレには勉強よりも頭を悩ませてるものがある。
 
 
「先輩っ、いつまで寝てんすかっ」
 
一人暮らしには広すぎる1DKのマンション。
 
そう、この部屋の主がオレの頭痛の種だったりする。
 
「んー?…あれ?完二学校はぁ?」
 
もぞもぞと毛布の中から顔を覗かせた志知花先輩を抱き起こす。
 
「今日は午前授業だって昨日言っただろ」
 
「まじかー。…忘れてた」
 
先輩は高校卒業後、大学に行かず此処に残った。
 
オレと居たいからと残ってくれた先輩の気持ちは、そりゃ、死ぬほど嬉しいけどよ、
 
「もうお昼かぁ。完二ー、お昼ご飯ー」
 
オレが甘やかしすぎたのかすっかり引きこもりのダメ人間になってしまった。
 
「今作るって」
 
まぁ、ダメ人間と言っても一応、仕事はしている。
 
家から出たくないからと、翻訳のアルバイト。
 
給料がいいからと、家庭教師。
 
後、時々花村先輩に泣きつかれ、ジュネスの客引き。
 
だからか、それなりに収入はあるみたいだ。
 
「お腹減った…」
 
「先輩が離れればもっと早くできるっす」
 
腰に抱きついたまま、離れない先輩を引きずりながらの調理ももうなれたが、やっぱり、いない方が作りやすい。
 
「えー、ちゅーしてくれたら離れてあげるよ」
 
「先輩いっつもそれ言って離れないからいいっす」
 
ケチ、と先輩はするすると腕を離したが、オレの言葉に機嫌を損ねたりはしてないらしく、鼻歌を歌いながらテレビをつけた。
 
「そー言えば、りせちゃんとか元気?」
 
「相変わらずうるさいっすよ。あ、皿」
 
「はいはい、完二は人使い荒くなったねー」
 
アンタよりましだよ。と思ったが言うのは止めた。(あんまり言うと夜が怖い)
 
「ごっはんー完二ママお手製のお昼ご飯ー」
 
「変な歌作んなっ」
 
「ケチだな、完二は。…あ、忘れてた」
 
最後の皿を運ぼうと振り返ったオレのシャツを先輩が引っ張る。
 
「お帰り」
 
ちゅ、と小さなリップ音に数秒遅れで皿を落としかけた。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
そんな日々を
愛しく思ったりする。
 
 
「あ、完二顔真っ赤」
 
 
してやったりと、笑う先輩。
 
悔しくて空いた手で抱き寄せたけど、きっとそれも計算の内なんだと思う。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
完二は年上に振り回されるといいよwww
 
 
 
その日の先輩は少し変だった。
 
いつもなら、他の奴等も一緒に昼飯を食うのに、今日は二人がいい、と言い出した。
 
珍しく誰もいない屋上で、先輩はオレの作った弁当を黙々と食べていた。
 
その後、何を思ったのかいきなり、
 
「完二、えっちぃことしようか」
 
「なっ、ば…、馬鹿野郎っ」
 
なに言ってんすかっ、
 
思わず叫んだオレを無理矢理押し倒し(いつも思うが逆だろ…)先輩は事を始め出した。
 
 
 
「ねー、完二?」
 
その後、なんだかんだでサボって今に至る。
 
先輩は金網の向こうを見ていた。
 
「どーしたんすか?」
 
オレとの距離は約三メートル。
 
「もしさ、」
 
声が震えてるのが、分かった。
 
「もし、あたしが居なくなったら、どうする?」
 
先輩は此方を見ないでそう言った。
 
「…どうゆう意味っすか?」
 
「そのままの意味だよ」
 
やっと振り返った先輩は笑っていた。でも、どこか寂しそうで、オレはあの日が、先輩がまた居なくなる日が来るような気がして、
 
「完二?」
 
「…行くな、」
 
気がつけば、先輩を抱き締めていた。
 
「何処にも行くな、此処にいろ」
 
今度は自分の声が震えていた。
 
それでも、先輩はそんなオレの言葉に小さく頷いて、抱き返してくれた。
 
 
 
 
 
 
 
それから数日後、先輩とジュネスに行ったら、月森先輩と花村先輩に会い、捕まった。(この人達、ホント空気読まねぇよな)
 
 
「そう言えば、志知花先輩って何処の大学行くんすか?」
 
花村先輩が志知花先輩のポテトに手を伸ばしながら聞く。
 
「何校受けたんだっけ?」
 
その花村先輩の手を叩き、今度は月森先輩が問いかけた。
 
「んー、兄さんの勧めてくれたのもいれて、…六かなぁ」
 
「うっそだぁー」
 
笑う花村先輩、でも、志知花先輩と月森先輩は笑っていない。
 
「…まじ?」
 
「うん」
 
うわー、と引く花村先輩。志知花先輩はそんな事を気にも止めてないようだったが。
 
「あ、でも、全部止めた」
 
ズズズッ、と紙コップの中身を啜って志知花先輩は淡々と言った。
 
「…なんて言った?」
 
珍しく、月森先輩が険しい顔をしてる。
 
「だから、全部断ったの。入学拒否?」
 
「志知花がそんな馬鹿だとは思わなかった」
 
先輩をつけろよ、と低く志知花先輩が言う。
 
「え、えっ?たんま!何でっ」
 
状況を理解しきれてない、花村先輩がテーブルを叩く。
 
「なんでって、」
 
聞かれた本人はこれっぽっちも理解できていないオレを見て笑った。
 
「完二が『何処にも行くな、此処にいろ』って言うからさ」
 
「え、あれってそうゆう意味だったんすかっ」
 
数日前のやり取りを思い出し顔が熱くなる。
 
てか、そうゆうこと言わないでくださいよっ、月森先輩がすげー気持ち悪い顔で見てるからっ。
 
「なかなかやるな、完二」
 
「お前、カッコいいよ」
 
「先輩達、笑い堪えきれてねーっす」
 
嫌な笑い声が響くなか、オレは頭を抱えた。
 
それでも、志知花先輩がオレの言葉で、此処に居ることを選んでくれたことを嬉しく思った。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
君の為に、
君との未来の為に。
 
先輩は高校を卒業してすぐ、一人暮らしを始めた。
 
家から出るのがめんどくさいとの理由で翻訳と家庭教師のアルバイトをしているが、ホントに家庭教師のアルバイトの日以外は殆ど家から出なかったりする。
 
「大学、行った方が良かったんじゃないっすか?」
 
「えー、だってあたし、完二に会えないと死ぬしー」
 
そんな言葉に、キュンとしたりしたら、もうこの人のいいようにされるだけだ。
 
 
 
(それでも、いいと思う自分がいたりするんだけどな…)
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
たまにはへたれてばっかじゃない完二が書きたかった。