その日の先輩は少し変だった。
 
いつもなら、他の奴等も一緒に昼飯を食うのに、今日は二人がいい、と言い出した。
 
珍しく誰もいない屋上で、先輩はオレの作った弁当を黙々と食べていた。
 
その後、何を思ったのかいきなり、
 
「完二、えっちぃことしようか」
 
「なっ、ば…、馬鹿野郎っ」
 
なに言ってんすかっ、
 
思わず叫んだオレを無理矢理押し倒し(いつも思うが逆だろ…)先輩は事を始め出した。
 
 
 
「ねー、完二?」
 
その後、なんだかんだでサボって今に至る。
 
先輩は金網の向こうを見ていた。
 
「どーしたんすか?」
 
オレとの距離は約三メートル。
 
「もしさ、」
 
声が震えてるのが、分かった。
 
「もし、あたしが居なくなったら、どうする?」
 
先輩は此方を見ないでそう言った。
 
「…どうゆう意味っすか?」
 
「そのままの意味だよ」
 
やっと振り返った先輩は笑っていた。でも、どこか寂しそうで、オレはあの日が、先輩がまた居なくなる日が来るような気がして、
 
「完二?」
 
「…行くな、」
 
気がつけば、先輩を抱き締めていた。
 
「何処にも行くな、此処にいろ」
 
今度は自分の声が震えていた。
 
それでも、先輩はそんなオレの言葉に小さく頷いて、抱き返してくれた。
 
 
 
 
 
 
 
それから数日後、先輩とジュネスに行ったら、月森先輩と花村先輩に会い、捕まった。(この人達、ホント空気読まねぇよな)
 
 
「そう言えば、志知花先輩って何処の大学行くんすか?」
 
花村先輩が志知花先輩のポテトに手を伸ばしながら聞く。
 
「何校受けたんだっけ?」
 
その花村先輩の手を叩き、今度は月森先輩が問いかけた。
 
「んー、兄さんの勧めてくれたのもいれて、…六かなぁ」
 
「うっそだぁー」
 
笑う花村先輩、でも、志知花先輩と月森先輩は笑っていない。
 
「…まじ?」
 
「うん」
 
うわー、と引く花村先輩。志知花先輩はそんな事を気にも止めてないようだったが。
 
「あ、でも、全部止めた」
 
ズズズッ、と紙コップの中身を啜って志知花先輩は淡々と言った。
 
「…なんて言った?」
 
珍しく、月森先輩が険しい顔をしてる。
 
「だから、全部断ったの。入学拒否?」
 
「志知花がそんな馬鹿だとは思わなかった」
 
先輩をつけろよ、と低く志知花先輩が言う。
 
「え、えっ?たんま!何でっ」
 
状況を理解しきれてない、花村先輩がテーブルを叩く。
 
「なんでって、」
 
聞かれた本人はこれっぽっちも理解できていないオレを見て笑った。
 
「完二が『何処にも行くな、此処にいろ』って言うからさ」
 
「え、あれってそうゆう意味だったんすかっ」
 
数日前のやり取りを思い出し顔が熱くなる。
 
てか、そうゆうこと言わないでくださいよっ、月森先輩がすげー気持ち悪い顔で見てるからっ。
 
「なかなかやるな、完二」
 
「お前、カッコいいよ」
 
「先輩達、笑い堪えきれてねーっす」
 
嫌な笑い声が響くなか、オレは頭を抱えた。
 
それでも、志知花先輩がオレの言葉で、此処に居ることを選んでくれたことを嬉しく思った。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
君の為に、
君との未来の為に。
 
先輩は高校を卒業してすぐ、一人暮らしを始めた。
 
家から出るのがめんどくさいとの理由で翻訳と家庭教師のアルバイトをしているが、ホントに家庭教師のアルバイトの日以外は殆ど家から出なかったりする。
 
「大学、行った方が良かったんじゃないっすか?」
 
「えー、だってあたし、完二に会えないと死ぬしー」
 
そんな言葉に、キュンとしたりしたら、もうこの人のいいようにされるだけだ。
 
 
 
(それでも、いいと思う自分がいたりするんだけどな…)
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
たまにはへたれてばっかじゃない完二が書きたかった。