夏だから、暑いのは仕方ないが、でも暑いものは暑いと思う。
 
 
 
 
「綴ってさぁ、」
 
暑い中、別に好きでもない(どちらかというと、ウザい)奴と何故つるんで仕事をしないとならないのだろう?
 
「…暑いから話しかけないで」
 
「ついこの間まで寒い寒いって騒いでたのに?」
 
「寒いのも暑いのも嫌いなのっ」
 
ふーん、と聞いといて足立は興味無さそうだった。
 
なんでこの男はこんなにウザいんだ?
 
「ね、ホームランバーでも食べよっか?」
 
「…足立の癖に良いこと思いつくな」
 
癖には余計だよ、と暑いのに足立はよく笑う。
 
暑さで少しぼー、とするわたしの手を握り、足立が四六商店まで引っ張って行く。
 
「足立の手、なんかべたべたする…」
 
「うるさいなー、暑いんだから仕方ないじゃん」
 
繋いだ手はべたべたしてて、それでもなんだか懐かしい気がした。
 
「そーいえばさ、」
 
「んー?」
 
暑い日差しの中で、自分達の横を子供が走り去っていく。
 
「昔さ、よく志知花を連れてホームランバー食べにいったなぁーって」
 
自分よりも10歳近く歳の離れた従姉妹の手を、今の足立見たく引いて、四六商店までよく行った。
 
「その時はさ、まだ菜々子ちゃんくらいだったんだよー」
 
「志知花ちゃんは今でも小さいじゃん」
 
「ばっかだな、足立。外じゃあんな可愛い子ぶってるけど家じゃジャージだよ?しかも、学ジャー」
 
みんなそうゆうもんでしょ、って笑う足立の肩を叩いた。
 
「違うって!…いや、わたしもそーだったかも、」
 
「やっぱ一緒なんじゃん」
 
また笑う足立、その背中越しに見えた四六商店。
 
「そんなに怒んなって。ホームランバー奢るからさ」
 
「お前はわたしをどんだけ安い女だと思ってるのさ」
 
「んー、ホームランバー一本分くらい?」
 
暑い中、握ったべたべたの指はいつの間にか絡まっていて、でもそれに気がつかない、わたしだった。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
サボり?いいえ、戦士の休息です。
 
(…綴、いつになったら気が付くんだろ?)
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
いい年した大人に手を繋がせたかっただけです。
 
   
 
 
 
マヨナカテレビに志知花先輩が映った。
 
 
「志知花先輩?」
 
次の日の昼休み、月森先輩達にあれは志知花先輩じゃないかとオレは言った。
 
「えっと、三年の…、名字は七瀬ってゆーんすけど」
 
「あ、もしかして、この間の美術コンクールの?」
 
月森先輩の言葉に俺は首を傾げた。
 
「私も見たよ、確かあの人毎年入賞してるよね」
 
でも、分からないのは花村先輩と里中先輩もみたいだった。
城先輩だけが頷く。
 
「完二?」
 
「…あ、すんません。で、美術コンクールって?」
 
「えっ?七瀬志知花ってお前の知り合いじゃねーの?」
 
花村先輩の言葉に今度は月森先輩が首を傾げた。
 
「や、えっ?」
 
「落ち着け、完二」
 
月森先輩に言われて、一つ深呼吸。
 
「…あー、この学校に同姓同名のやつがいないなら多分オレの知ってる志知花先輩だと思うっス」
 
「なんだよ、たよりげねーなぁー」
 
花村先輩はそう言って笑った。
 
 
それから、志知花先輩の様子を見ている内に色々なことを知った。
 
志知花先輩は美術コンクールでの入賞の他にも、学年での成績も良くて、所謂、優等生だった。
 
そして、そのわりには子供っぽくて、人懐っこい性格。
 
友達も多いみたいで、あの人の周りにはいつも人がいた。
 
 
「はぁ、」
 
「どうした?」
 
思わず出た溜め息に月森先輩が声をかけてくれた。
 
「あ、いや、なんつーか…」
 
一瞬、躊躇って、オレはゆっくり口を開いた。
 
 
 
「そうか、」
 
月森先輩に今思っていたこと、昔の志知花先輩とのことを話した。
 
「オレ、ホントは高校だって、行く気なかったんすよ。でも、志知花先輩が同じ学校ならもっと一緒にいれるって勉強教えてくれて…」
 
それで、オレは先輩ともっと一緒に居たくて、勉強すげー頑張った。
 
「そーいや、最近、志知花先輩の誘い、断ってばっかだった気がすんなぁ。」
 
「そろそろ嫌われるんじゃないか?」
 
「なっ、」
 
 
冗談だって真顔のまま言う月森先輩にさっきとは違った意味でため息が出た。
 
「完二は七瀬さんが好きなんだな」
 
「まぁ、あの人は特別っすから」
 
思い出すのは、そう昔の事ではない日々のこと。
 
小さい先輩がしゃがみこんだオレの頭を撫でてくれたこと。
 
あの暖かな手の感触だ。
 
「…じゃあ、いつも以上に頑張れよ」
 
ぽん、と肩を叩かれ、オレはさっきの月森先輩の言葉を、そして、それに対する自分の返事を思い出して、顔が熱くなった。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
僕の知らない
君がいた。
 
 
今度はちゃんと、先輩に聞きたい。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
—大丈夫?
 
優しくて、暖かい手だった。
 
こんな自分にあの人は手を差し伸べてくれた。
 
真っ直ぐ、オレを見てくれた。
 
 
「みんな嫌いだよ、大嫌いだ」
 
 
だから、きっと、嘘だ。
 
 
「あたしなんて、いらないよ」
 
 
震える声でそう言った先輩を隠すみたいに黒い物が包んでいく。
 
 
「志知花先輩っ」
 
 
名前を呼んで腕を伸ばした。
 
でも、あの人は泣きそうな顔でその手を振り払った。
 
 
「先輩っ…」
 
 
小さな拒絶。
 
 
嘘だ、志知花先輩がオレを置いていくわけない。
 
あの人が、オレを、拒絶するわけない。
 
心の奥で何かが騒ぐ。
 
 
月森先輩達の声が遠く感じた。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
その痛みの意味を、
僕はまだ知らない。
 
 
行くな、と叫んだ自分の声もあの人と同じように震えてた。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
前回の『君を愛するが故に』の完二サイド的な…