貴方と私の距離は近くて遠い。

きっと私は、他の誰より貴方の側にいる。

他の誰よりも、長い時間を共有できている。

だから。

目を閉じても正確に貴方を脳裏に描写できるほどに
貴方の姿は私の中に焼きついている。

切れ長の眉。
鋭い光を放つまっすぐな瞳。
シャープな顎。
引き締まった唇。
広い肩幅。
堂々と自信たっぷりに闊歩する背中。

そして。
紅蓮の焔を生み出す大きな手。
私の視線を捕らえて離すことのない、愛しい愛しい貴方の手。

私の五感の全てで貴方を感じていたい。
脳の隅々まで貴方で満たされたい。

その低めで心地よい声も、いつも仄かにただよう石鹸の香も。
良く見ると長いその睫も、柔らかい漆黒の髪も。

私の中に、全部全部閉じ込めてしまいたい。
だって私には、貴方の全てがこんなに大切で愛おしい。

目の前で無防備に寝ているその頬にそっと触れてみる。
広い頬。安らかな寝顔。
私が何を考えているかなんて知る由もなく、安心しきって眠っているのだ。
私はこんなにも、貴方に狂っているというのに。

手を伸ばせば届く距離に居るのに。
触れた頬はこんなに温かいのに。

どうしてこんなに遠いのだろう。

どれほど一緒に居ても。共に夜を過ごしても。
満たされない。満たされるはずがない。

心の奥底は、いつだって貴方に飢えている。
こんなに側にいるのに。貴方の心の奥底に触れられない。

だから。

この思いは胸の底にしまいこんで、貴方の望むとおりの存在となりましょう。
私はただ貴方のためのみに存在するの。
貴方が要らないと思うなら、その時は貴方の紅蓮の焔で焼き殺して。
私の愛したその手に殺されるなら本望だから。

誰より近くて誰より遠い距離。
貴方という人を愛した、私への等価交換。

せめて今この時だけは、何も考えずに貴方のお側に・・・

忙しさにかまけて完全に更新止まってしまいました。


いろいろとネタはあるんですけどね・・・こう、どうにも面白くなくて。結局かけてない状態です。

今月号のガンガンにはリザがでてこないし、どうにも萌えが足りない。そして時間が足りない。


私の頭の中をロイアイ萌えで埋め尽くすような素敵なできごと、起こらないかなあ・・・(←危ない人みたいね)


「中尉、今夜は私と一緒に食事でもどうかね?」

いつものように何か含みがあるとしか思えない笑顔で、ロイは自分の側近くで書類の提出を待ち     構えている副官に言った。

「しかし、残りの仕事はどうなさるおつもりですか?」

「ふふふ、驚きたまえ。実はもうあと30分もあれば終わりそうなんだ」

なんと珍しいことだろう。
よほどの用事(例えばデートなど)がない限り、いつも見回りの兵士がくるような時間まで終わらないのだ。
「珍しいですね、貴方がこんなに早く仕事を終えるなんて」
「む、失礼な。君を食事に誘うために急いであがらせようと努めたのだぞ」

珍しいことというのは斯くも続けて起こるものだろうか。
普段はポーカーフェイスのロイが、やけに素直だ。

かわいい、リザは思わずそう心の中でつぶやいた。

「そうなのですか。それではお付き合いするより他に仕方ありませんね。早く残りの書類を片付けてしまいましょう。私も手伝います」

今は1900時。
彼の言うとおり本当に30分で終わるのだとしたら8時過ぎには繁華街に着くことができる。

ロイは、リザに食事の誘いを承諾してもらいかなりやる気が沸いているらしい。
いつもの姿からは想像できないほど真剣に手早く書類を捲っている。
嬉しく思う反面、普段からこうであれば苦労しないのに・・・とリザは軽く溜息をつきながらも、自身も久々のロイと二人でプライベートの時間を過ごせることを嬉しく思っていた。
早く終わらせて少しでも彼とゆっくりしたい、そう思っていた。

だが、人生とはそううまくいかないもので。一人の兵士がリザの元に書類を持ってやってきた。

「あら、どうしたの」
「ホークアイ中尉殿、東方司令部のハクロ将軍から、今日中にこの書類を提出するようにとのことであります」

今日中にって・・・軽く見積もってもあと2時間は余裕でかかるような複雑なものである。
ロイは彼が去ったあと、露骨に嫌そうな顔をした。

「全く、ハクロめ・・・こないだセントラル市外で起きた連続放火魔の事件か。これは今週中と聞いていたぞ。セントラルへ招聘された私への嫌がらせか」
「大佐・・・仕方ありませんよ。早く終わらせてしまいましょう?」
「・・・せっかく今日は君とゆっくり語り合えると思っていたのだが」

リザはにわかに頬を染めて答えた。

「それは・・・私も同じです。ですから、急いで終わらせてしまいましょう。二人でやれば、こんなのあっという間ですよ」
「そうだな、君は優秀な副官だからな。よし、さっさと終わらせて出かけるぞ。以前から目をつけていたレストランがあるんだ。なかなかよさそうな雰囲気の所でね。君もきっと気に入るはずだ」

その言葉を聞いてリザもやる気が出てきた。ロイのせっかくの好意を無駄にしたくはない。
彼女は持てる集中力の全てを注ぎ込んで書類作成に取り組んだ。ロイもまた同じだった。



それからどれくらいの時間が経っただろうか。
ようやくその面倒な書類は完成した。時計を見るともう21時を回っている。

「大佐、私はこの書類を提出してから行きますので先に出ていてください」
「ああ、わかった」

彼らは入り口で待ち合わせて、ようやく司令部を後にした。

外はすっかり暗くなっている。やわらかい街灯の明かりが二人の足元を照らす。
頬にあたる風が冷たい。ふと空を見上げると雲がたくさん浮かんでいた。

「久しぶりだな、こうして君と二人で帰るなんて」
「そうですね・・・いつもは仕事の都合もあって車で帰りますからね」
「たまには、こんな時間にこんな風にゆっくり歩くのも悪くないな」
「そうですね・・・」

夜更けの司令部近辺は当然人通りもなく静まりかえっている。
二人はたわいのない話をしながら繁華街へとのんびりと足を運んでいた。

軍人という職業柄、そして部下と上司という関係から、どうしても職場での話はでてきてしまうけれど、それでもロイと過ごせる何気ない日常の時間がリザには何より大切であった。

もちろん、ロイもそう考えているからこそリザを誘うのだが。

二人が繁華街にようやく着いた頃、レストラン街はすでに暗くなっていた。
当然、ロイのお目当ての店もすでに閉店した後で、開いているのはバーや居酒屋などの飲み屋だけだった。

「やれやれ、一足遅かったか・・・」
「レストランはどこも開いていないみたいですね。残念ながら・・・」
「私の行きつけのバーにでもいくかね?」
「いえ、明日は朝から少々ハードなスケジュールなので、お酒はちょっと・・・それに大佐、お腹空いていらっしゃいませんか?ろくに食事もとらずに働き詰めだったように思いますが。ここからなら私の家もそんなに遠くないですし、何か作りますよ」
「え、いいのかい?」
「ええ、構いません。たいしたものは出せないと思いますが、それでもよろしければ」
「いや、全然構わんよ」

久々にリザの手料理が堪能できる。そしてその後はスペシャルなデザートをいただくとするか。

そんなよからぬことを考えていたロイの額に、何か冷たいものが落ちてきた

―雨だ。

「中尉、もしかしてもしかすると、これから一雨くるのではないのだろうか」
「可能性はありますね。先ほど空を見上げたときにずいぶん雨雲が多かったですし・・・急ぎましょう」

二人は早足でひたすら歩いた。が。
その努力もむなしく、雨足はどんどん激しくなり、ついには土砂降りになった。

生憎、二人とも傘を持っていなかった。

「このままだと風邪を引いてしまう。この辺で雨宿りして、少し雨足が弱くなったら帰るとしよう」

二人は一番近くの雑貨屋の軒下で雨が静まるのを待つことにした。

「今日は本当に散々だ。全く、なんてついていない日だ。」
「ええ、でも・・・私はこんな日も嫌いじゃないです。レストランには行けなくなってしまったけど、貴方とこうして同じ時間を多く共有できますから」

普段はめったにそのような言葉を言わないリザに不意打ちをくらい、ロイは思わず赤面してしまった。
心から、彼女を愛しいと思った。

「くしゅんっ・・・す、すみません。嫌だわ、軍服がぐっしょり・・・」

ロイは、リザの肩をさりげなく引き寄せて、自分のコートの中に入れた。

「こうしていれば、寒くないだろ?」
「・・・お言葉ですが大佐、コート濡れてますけど?」

照れを隠すようにして彼女はそっけなくつぶやいた。

「焔の錬金術師のコートだから、速乾性なのさ」
「何ですか、それ」

リザはクスクスと笑った。

「雨の日は焔を出せないのが本当に残念だよ。こんな時に焔が出せれば体はすぐに温まる。それに普段君に無能と言われなくて済むのだが」
「・・・出せなくていいですよ。その代わり私が貴方を温めますから」

そう言ってリザはロイの背中に手を回した。
肩にかけたコートが今にもずり落ちそうになっていたが、二人ともそんなことは気にも留めていなかった。

―雨の日はノー・サンキュー。
だが、こんな幸せな雨の日なら、悪くはないかもしれないな・・・

このまま雨が止まないなら、それはそれでいいかもしれない。
そんなささやかな幸せに浸る二人だった。

夜の街に、しとしとと雨が降り続ける。

まるで彼らを優しく包み込むように。

言い訳

なんか何を書きたかったのか全然わからないですね(汗)

  ロイとリザのキャラソン『雨の日はノー・サンキュー』をお題にしてなんか書きたかったんですよ。

私の頭の中のイメージでは、もっと違う感じなのになかなか文にできないので、今日はノーマルな雨の日でいってみました。・・・こんな駄文に時間かけすぎだから(><) もっと本読もう・・・


荒川 弘
鋼の錬金術師(12) 初回限定特装版

ファンのみなさま、もうチェックしましたか? 次巻第12巻は、作者荒川先生の書き下ろし4コマが再編集されたミニブック付き初回限定特装版が発売されます。限定生産品だから、今のうちに予約した方がbetterですよ☆ 6巻以来の初回オマケ、ファンとしては見逃せません。6巻の初回限定おまけ『焔の錬金術師』は手に入らなくて涙を飲んだから今回は絶対ゲットします(><)

なんかヘンなアダルトサイトにトラックバックをつけられて、消しても消してもつけられるのでトラックバック受付をやめました。激しく迷惑です。18禁サイトならともかく、ここはそうゆう趣旨ではありませんので。モラルのない人間がたくさんいる世の中って嫌ですね。私のお気に入りのサイトさんも迷惑しているみたいです。一刻も早く、このような迷惑行為がなくなってくれればよいのですが。(たぶん無理でしょうけど)

(鋼の錬金術師第6巻・初回限定特装版 『焔の錬金術師』0巻 より)



射撃場からズドーン、ズドーンという低い音が響き渡る。

全ての玉が的に正確に当たっているであろうことが、音から推測できる。

きっと、またホークアイ中尉が練習をしているに違いない。

でも、この音はいつもの拳銃じゃない・・・?


お、フュリー曹長とファルマン准尉が戻ってきた。

やはり撃ってたのは中尉だったか。そして拳銃ではなくショットガンの練習、と。

何?いつも以上に鬼気迫る様子で練習してたって?

しかも、近寄りがたい恐ろしい雰囲気だったと?

おかしいな。今日は大佐の仕事がいつもよりずっと早く済んで機嫌がいいはずじゃ・・・

あ、そうか。そうだよな。アホな俺。


平気でいられるはずないだろ、あの人が。

全く、全然素直じゃないのに素直なんスから・・・あなたって人は。



Liar


 小気味よい低い射撃音が辺り一面に響く。

 ここはアメストリス軍東方司令部一画にある射撃場。

 つい先程まで練習に勤しんでいた兵士たちは皆姿を消し、
 誰もいない射撃場でリザは一人恐ろしい形相でひたすらに弾を撃っていた。


 その様子を影からこっそり観察していた・・・はずのフュリーだったが、あっさりと見つかってしまった。

 やはり鷹の目にはかなわない。フュリーはすかさず敬礼をした。


 「あら、フュリー曹長。今日の仕事はもう終わり?ご苦労さま」

「いえ、中尉こそこんな時間までお疲れ様です。さっきまで大佐の書類作成を監視・・・いえ、担当していらっしゃったのに、休む間もなく今度はご自分の訓練だなんて。夕食とらなくて大丈夫ですか?」

「平気よ、ありがとう。それより、あなたこそ昨日は夜勤だったんだから疲れたでしょう。早く帰ってゆっくり休みなさい」

「ありがとうございます。では、お先に失礼いたします中尉」

(大佐のことを口にした瞬間に表情が変わったように見えたのは気のせいかな・・・)


自分に敬礼をして帰って行くフュリーを柔らかい表情で見送るリザだったが、見た目ほど内心は穏やかではなかった。


撃っても撃っても心が晴れない。むしろ余計にいらついてしまう。この気持ちは一体どうしたらよいのか。


そう思いながらも、リザは自分でうまくコントロールできない感情を持て余していた。


(何故こんなにイライラしているの。軍人は常に冷静でいなくてはいけないのに。さっき、大佐がデートのために大急ぎで大量の書類を仕上げたことに腹がたって・・・おかしな私。大佐の仕事が片付くなら理由なんてどうでもいいじゃない。むしろ私にとっても好都合だわ。じゃあどうして・・・なぜ?)


ふと時計をみたらもう夜九時を回っている。


(お腹も空いたしそろそろ帰ろうかしら。)
そう思ってリザが射撃場を出て少し歩いたところで、渡り廊下のすぐ側の道路に一組の若い男女が見つめ合って立っているのを目撃した。


「本当にここでいいのかい?君の家まで送っていこうと思っていたのだが」

「ううん、平気よ。私の家はこの近くだし、この辺りは街灯がよそに比べて明るいから一人で帰れるわ」

「そうか・・・今日は本当に楽しかったよ、アリス」

そう囁きながら女の額にそっと口づけを落とす男。

「そんな・・・私の方こそ急にお誘いしたのに。本当にありがとう、ロイさん」


少し離れているので言っていることはよく聞こえない。

だが、その男はまぎれもなく自分の上司だと確信した。


車を停め、司令部内に入ってきたロイと廊下で出くわした。


「本日は市政の情報収集を行われた後、そのままご自宅に戻られると聞いておりましたが?」

「ああ、そのつもりだったんだが・・・何しろあまりに急いで出かけたものだから、発火布を机にしまったままついつい忘れていてね。家では使わないが念のため取りに来たのさ」

「かわいらしいお嬢さんとご一緒に、ですか」

「何をそんなに怖い顔をしているんだね、君は。こんな時間まで練習ご苦労。早く帰って休みたまえ」

「失礼いたします」


顔色一つ変えない上司と、彼の前では決して本音を出さない部下。


本当の嘘吐きは果たしてどちらであろうか。






あとがき(もどきの言い訳)

  ロイアイ100のお題より。
  ご存知超プレミア本・『ホノレン』からのネタでございます。この貴重な本を貸してくれた友人に感謝。

  ホノレン、アニメでもありましたがアニメと原本ではかなり話が違いますよね。というか、アニメは端折られすぎだし。

  ホノレンの中でも、大佐が花屋の女性とデートすることになってもう帰ろうとしていたその時に、中尉が大量の(ここポイント)書類を持ってきて、「急に書類が送られてきまして。申し訳ありませんが、今日中に目を通しておいてください」と言って大佐のデート妨害をしていたところが激しくツボでした。絶対に今日中に終わらないような量!それって嫉妬心からくるイヤガラセ以外の何でもないじゃん、と。リザさんかわいいですね。大佐は結局意地で書類を仕上げてしまい、中尉はそのあと射撃場で全ての的をきれいに吹っ飛ばすほどまじめに訓練。というかやけになってショットガンぶっ放しているようにしか思えなくて(笑) その時の中尉の心情を勝手に想像して思うままに書きなぐっただけの駄文です。お目汚しごめんなさい。後に加筆修正すると思います。




守りたい人がいて。

守るべき人がいて。


その人が私の全て。

あの人を守るためだけに私は生まれてきたの。


私の存在理由はそれで十分。
他に何もいらない。


私の手は、貴方の敵を撃つためのもの。
私の体は、貴方を守る盾。


この命も、この体も、全て貴方のためだけに存在する。
他に理由なんてないわ。


命尽きるその瞬間まで、私の全てで貴方を守る。

貴方が、貴方だけが私の世界の全てだから。





補足

ロイアイ20のお題より。
“レーゾンデートル”=存在理由
リザの独白調。
彼女の存在理由は、誰よりもリザ自身が一番わかっているはず。
愛する人にその命をも捧げる覚悟で日々生きている。
そんなリザに女性として、そして一人の人間として強い憧れを感じます。

昨日にひきつづき、ロイアイ20のお題の続きです。


抱いて


 -君にきつくきつく抱きしめていて欲しい。

 この心を、私の全てを。

私が私でいられるように。

 自分の存在する理由を見失わなくてすむように。

 明日もまた、前だけを見て。上を目指して進めるように。

 私には、君が必要なんだ・・・



 ―-時々、あなたにぎゅっと抱きしめてもらいたいなんて思うことがある。

 そんなことは許されることではないのだけれど。

 私は貴方の副官。常にあなたを守る盾でいなくてはならない存在。

 貴方にとって、私は捨て駒でなくてはならない。

 貴方に人間として必要とされることなんて考えてはいけないのに。

 それでも。必要とされたい。

 自分の存在の小ささにどうしようもなく泣きたくなる。

 そんなときは、貴方に抱きしめていてほしい。

 貴方に必要とされることだけで生きている私を。



 その日はヒューズの殉職した日だった。

 軍部で彼と関わった人間の誰もが忘れることのできない日である。

 ロイは毎年、この時期がくるとどこか表情に翳りをみせる。

 何年たっても忘れられるはずなどない。

 青春時代を、魂の極限の状態まで追い込まれた、あのイシュヴァールの激戦を共に生き抜いてきた
 かけがえのない親友がこの世から突然消えてしまった日。それも悔やんでも悔やみきれない死に方で。


ロイはこの日は毎年必ず、昼過ぎには仕事を終わらせて夕方にはヒューズの墓参りをする。

執務室を無言ででていくロイにかける言葉を誰も知らなかった。

日が暮れても彼は戻らなかった。夜勤の者以外は皆ぼちぼち家に帰り始め、夜勤のものもそのうちいなく     なり、部屋にはリザだけが一人残り大佐の帰りを待っていた。

 (まだ戻らないのかしら。いつにもまして遅いわ・・・) 
仕事を片付け、一人ぼんやりと読書をしていたリザは少し心配になった。そんなとき、静まりかえった廊下から足音が聞こえた。ロイだ。しばらくして部屋の扉がゆっくりと開いた。          


「大佐、お帰りなさい。この寒空の中、コートも着ずに出かけていらっしゃったのですか?」

室内にいても少し空気が冷たいくらいの季節、ましてや夕刻の屋外。

心配そうな顔をして近づいてきたリザに、ロイが突然覆いかぶさってきた。


「大佐、いきなり何をするんですか?」


驚いたリザはいくぶんか上ずった声で抵抗を試みるが、彼の奇行の原因を即座に理解し、口をつぐんだ。

回された腕の力強さと、肩に乗せられた頭の重さ。髪からはほのかに秋の匂いがする。

こんな状況なのに体は正直で、心拍数がどんどん早くなっている。

軍服から漂うひんやりと冷たい空気。

凍てつく風が吹き抜ける場所にただ一人、何時間も立ち尽くしているロイの姿が容易に想像できた。

彼の心中を察したリザは、脈打つ心臓を落ち着けた。

何と言って慰めたらよいのだろう。

いまの自分には何もできないのだ。

こうしてただ、彼の悲しみを受け止めることしか。


「すまない、中尉・・・しばらく。もうしばらくだけこうしていてくれないか。」


リザは首筋に冷たいものを感じた。

 (泣いているのだ、あの大佐が。

誰にも弱いところを決して見せない彼が。

私の前でだけはそのようなところを見せてくれる。)


 だが、それはいつもではない。

本当に、本当にごく限られたとき。

彼が極限まで追い込まれているときだけ。

リザははやる心臓を抑え、彼を抱きしめ返した。


「大佐、私はいつでも貴方の側にいます。ですから、何でも一人で抱え込まないでください。

貴方の悲しみも苦しみも、全て受け止める覚悟はあります。ですから・・・構わずに雨を降らせて

ください。貴方は雨の日がお嫌いですが、私達人間は雨の日もなくては生きていけませんから。」

そういいながら、リザはゆっくりとロイの黒髪を撫でた。

「だが、雨の日は君に無能と言われてしまうからすきではないな。」


泣いているのを軽口でごまかそうとするロイ。

「無理して冗談をおっしゃらないでください、余計に辛いだけですよ。」


うっすらと潤んだ漆黒の瞳が彼女の鳶色の目を捉えた。

(・・・この迷いの無い真っ直ぐな目。一見感情なんかないように見えて、優しさと愛情に満ちた目。

私は、この目にどれほど救われてきたことだろう。)


ロイは自然に、本当にごく自然にリザに口付けた。

リザは、それを拒まなかった。

それは愛情でもなく同情でもなく。

お互いがお互いを必要としているサイン。

彼らはそのまま、しっかりと抱き合ったまま時がたつのも忘れて窓際に立ち尽くしていた。


「今夜・・・私の家にこないか。一晩中君に側にいてほしい。」

「・・・わかりました。それで貴方が安眠できるのなら。」


その晩、リザは本当にロイが眠れるまでそっと彼を抱きしめていた。


ロイはずっと夢でうなされて泣いていた。

そんな彼をリザは優しく抱きしめ、何度も何度も髪を撫で、寝かしつけた。


――愛しい人。私が命をかけて貴方を守りぬきます。

決して一人にはしません。私もまた、死にませんから。

死なずにいつまでもずっと、こうしていたい。

あなたの側にいて、あなたの心も体も抱きしめていたい。


ロイのぬくもりを全身に感じながら、リザもまた眠りに落ちていった。



お題サイトで素敵なお題を拝借して以前書いた文を第一弾として投稿します。人生初の駄文晒し・・・(笑) お目汚しですが、よろしければどうぞ。登場人物は大佐と中尉。リザの一人称で、なんてことない日常の一コマです。




集中豪雨


 雨の音。それはちょっぴり疎ましくて私をいらいらさせる。

 でも。そんなわずらわしい雨も、たまにはいいのではないかなんて

 考えはじめた今日この頃。

 私の中で何かが変化し始めている。


 ・・・雨の日なんて、じめじめするし洗濯物は外に干せないし、服は濡れるしで

いいことなんて全然ないのに。


 それに何より・・・


 「大佐、午前中にお渡ししたはずの書類のサインを未だに受け取っていないのですが。」

 「ああ、あれか・・・あれはね、なにしろかなりな量なものでなかなか終わらないのだよ。

  もう少し待ってくれたまえ。」


 まただ・・・。

 降り続く雨音とじめじめとした湿気は、この普段有能なはずの上司のやる気を見事なまでに

 削いでくれる。しかも今日は土砂降りときたものだ。

彼でなくたって誰でも仕事に対する意欲を失うことだろう。

しかし、義務は義務である。国から報酬を受け取っている以上、何としてでも彼に仕事をこなして

もらわねばならない。


「もう少しとはあとどれほどの時間でしょうか?すでに4時間ほどお待ち申し上げているのですが。」

「まあまあ、そうあせらずともよいではないか。中尉、君だってこの雨だ、仕事の多さに苦痛を感じないか?」

やはり雨のせいでやる気がないのか。何と正直な上官だろう。

「しかし大佐、お言葉ですが我々の義務と天気はなんら関わりがないかと思われます。義務は義務です。

 貴方は雨の日は室内でも無能でいらっしゃるのですか?」

「・・・言うじゃないか、中尉。」

彼が少し顔色を変えたのを私は見逃さなかった。少し言い過ぎただろうか。

いいえ、私は後悔しないわ。少しきついくらいがこの人には丁度いいのだ。

私はたじろぐことなく真っ直ぐに彼の目を見つめた。


「そう言われるのがお嫌いでしたら早く仕事をなさってください。先延ばしにしたら却ってあとで面倒になります。無能なのは屋外だけにしてください。・・・屋外でしたら、私がなんとかいたしますので。」

「ああわかったわかった。やればいいのだろう?やれば。」

「大佐が書類を全て片付けられたころにはきっと、この豪雨も止んでいますよ。

 後30分ほどしたらコーヒーでもお持ちします。ですから早く終わらせてください。」

「ああ・・・」


そういって彼はようやくペンを片手に書類に目を通しはじめた。

そんな様子を確認してから私は執務室をあとにした。


・・・本当は雨の日は嫌いじゃない。

屋内でも屋外でも、貴方の側にいられるから。

護衛だ、と言って貴方の家まで送っていくこともできる。

いつも側にいるくせに、何を考えているのだろう。

それでも飽きることなく側に居たいなんて。


集中豪雨から貴方を守るのは私の役目。

 誰にも譲ることのできない私だけの仕事。


 だから・・・雨の日は無能でいてください。

 私の存在する価値が、ほんの少しでもあるように。






あとがき(言い訳?)

 やばいくらい意味不明ですね・・・。

リザの一人語り風になってるけど全然面白くない・・・。

 実はこれ、原作フルコンプ記念に書いた初鋼ssなのです。

 これから精進していきたいです。


お題はこちらから拝借しました

http://boy.peewee.jp/fullmetal/20/


初めまして。管理人の葵といいます。


ここは、鋼の錬金術師の創作文ブログサイトです。普通の日記ではなく、管理人のハガレンに関する空想散文(妄想ともいう)が気ままに書き散らされています。鋼の錬金術師のイメージを壊されたくない方、またロイアイ、カップリング小説などの同人的要素を持った言葉に嫌悪感を抱かれる方はお読みにならないほうがよろしいかと思われます。


晒すのもどうかと思うようなつまらない文章になってしまうかもしれませんが、もし興味を抱かれた方はおおらかな心でお付き合い願います。(ちなみに、当ブログはスクエア・エニックス及び原作者とは一切関係がなく、完全な個人サイトなのでどうかご了承願います)