(鋼の錬金術師第6巻・初回限定特装版 『焔の錬金術師』0巻 より)



射撃場からズドーン、ズドーンという低い音が響き渡る。

全ての玉が的に正確に当たっているであろうことが、音から推測できる。

きっと、またホークアイ中尉が練習をしているに違いない。

でも、この音はいつもの拳銃じゃない・・・?


お、フュリー曹長とファルマン准尉が戻ってきた。

やはり撃ってたのは中尉だったか。そして拳銃ではなくショットガンの練習、と。

何?いつも以上に鬼気迫る様子で練習してたって?

しかも、近寄りがたい恐ろしい雰囲気だったと?

おかしいな。今日は大佐の仕事がいつもよりずっと早く済んで機嫌がいいはずじゃ・・・

あ、そうか。そうだよな。アホな俺。


平気でいられるはずないだろ、あの人が。

全く、全然素直じゃないのに素直なんスから・・・あなたって人は。



Liar


 小気味よい低い射撃音が辺り一面に響く。

 ここはアメストリス軍東方司令部一画にある射撃場。

 つい先程まで練習に勤しんでいた兵士たちは皆姿を消し、
 誰もいない射撃場でリザは一人恐ろしい形相でひたすらに弾を撃っていた。


 その様子を影からこっそり観察していた・・・はずのフュリーだったが、あっさりと見つかってしまった。

 やはり鷹の目にはかなわない。フュリーはすかさず敬礼をした。


 「あら、フュリー曹長。今日の仕事はもう終わり?ご苦労さま」

「いえ、中尉こそこんな時間までお疲れ様です。さっきまで大佐の書類作成を監視・・・いえ、担当していらっしゃったのに、休む間もなく今度はご自分の訓練だなんて。夕食とらなくて大丈夫ですか?」

「平気よ、ありがとう。それより、あなたこそ昨日は夜勤だったんだから疲れたでしょう。早く帰ってゆっくり休みなさい」

「ありがとうございます。では、お先に失礼いたします中尉」

(大佐のことを口にした瞬間に表情が変わったように見えたのは気のせいかな・・・)


自分に敬礼をして帰って行くフュリーを柔らかい表情で見送るリザだったが、見た目ほど内心は穏やかではなかった。


撃っても撃っても心が晴れない。むしろ余計にいらついてしまう。この気持ちは一体どうしたらよいのか。


そう思いながらも、リザは自分でうまくコントロールできない感情を持て余していた。


(何故こんなにイライラしているの。軍人は常に冷静でいなくてはいけないのに。さっき、大佐がデートのために大急ぎで大量の書類を仕上げたことに腹がたって・・・おかしな私。大佐の仕事が片付くなら理由なんてどうでもいいじゃない。むしろ私にとっても好都合だわ。じゃあどうして・・・なぜ?)


ふと時計をみたらもう夜九時を回っている。


(お腹も空いたしそろそろ帰ろうかしら。)
そう思ってリザが射撃場を出て少し歩いたところで、渡り廊下のすぐ側の道路に一組の若い男女が見つめ合って立っているのを目撃した。


「本当にここでいいのかい?君の家まで送っていこうと思っていたのだが」

「ううん、平気よ。私の家はこの近くだし、この辺りは街灯がよそに比べて明るいから一人で帰れるわ」

「そうか・・・今日は本当に楽しかったよ、アリス」

そう囁きながら女の額にそっと口づけを落とす男。

「そんな・・・私の方こそ急にお誘いしたのに。本当にありがとう、ロイさん」


少し離れているので言っていることはよく聞こえない。

だが、その男はまぎれもなく自分の上司だと確信した。


車を停め、司令部内に入ってきたロイと廊下で出くわした。


「本日は市政の情報収集を行われた後、そのままご自宅に戻られると聞いておりましたが?」

「ああ、そのつもりだったんだが・・・何しろあまりに急いで出かけたものだから、発火布を机にしまったままついつい忘れていてね。家では使わないが念のため取りに来たのさ」

「かわいらしいお嬢さんとご一緒に、ですか」

「何をそんなに怖い顔をしているんだね、君は。こんな時間まで練習ご苦労。早く帰って休みたまえ」

「失礼いたします」


顔色一つ変えない上司と、彼の前では決して本音を出さない部下。


本当の嘘吐きは果たしてどちらであろうか。






あとがき(もどきの言い訳)

  ロイアイ100のお題より。
  ご存知超プレミア本・『ホノレン』からのネタでございます。この貴重な本を貸してくれた友人に感謝。

  ホノレン、アニメでもありましたがアニメと原本ではかなり話が違いますよね。というか、アニメは端折られすぎだし。

  ホノレンの中でも、大佐が花屋の女性とデートすることになってもう帰ろうとしていたその時に、中尉が大量の(ここポイント)書類を持ってきて、「急に書類が送られてきまして。申し訳ありませんが、今日中に目を通しておいてください」と言って大佐のデート妨害をしていたところが激しくツボでした。絶対に今日中に終わらないような量!それって嫉妬心からくるイヤガラセ以外の何でもないじゃん、と。リザさんかわいいですね。大佐は結局意地で書類を仕上げてしまい、中尉はそのあと射撃場で全ての的をきれいに吹っ飛ばすほどまじめに訓練。というかやけになってショットガンぶっ放しているようにしか思えなくて(笑) その時の中尉の心情を勝手に想像して思うままに書きなぐっただけの駄文です。お目汚しごめんなさい。後に加筆修正すると思います。