「中尉、今夜は私と一緒に食事でもどうかね?」

いつものように何か含みがあるとしか思えない笑顔で、ロイは自分の側近くで書類の提出を待ち     構えている副官に言った。

「しかし、残りの仕事はどうなさるおつもりですか?」

「ふふふ、驚きたまえ。実はもうあと30分もあれば終わりそうなんだ」

なんと珍しいことだろう。
よほどの用事(例えばデートなど)がない限り、いつも見回りの兵士がくるような時間まで終わらないのだ。
「珍しいですね、貴方がこんなに早く仕事を終えるなんて」
「む、失礼な。君を食事に誘うために急いであがらせようと努めたのだぞ」

珍しいことというのは斯くも続けて起こるものだろうか。
普段はポーカーフェイスのロイが、やけに素直だ。

かわいい、リザは思わずそう心の中でつぶやいた。

「そうなのですか。それではお付き合いするより他に仕方ありませんね。早く残りの書類を片付けてしまいましょう。私も手伝います」

今は1900時。
彼の言うとおり本当に30分で終わるのだとしたら8時過ぎには繁華街に着くことができる。

ロイは、リザに食事の誘いを承諾してもらいかなりやる気が沸いているらしい。
いつもの姿からは想像できないほど真剣に手早く書類を捲っている。
嬉しく思う反面、普段からこうであれば苦労しないのに・・・とリザは軽く溜息をつきながらも、自身も久々のロイと二人でプライベートの時間を過ごせることを嬉しく思っていた。
早く終わらせて少しでも彼とゆっくりしたい、そう思っていた。

だが、人生とはそううまくいかないもので。一人の兵士がリザの元に書類を持ってやってきた。

「あら、どうしたの」
「ホークアイ中尉殿、東方司令部のハクロ将軍から、今日中にこの書類を提出するようにとのことであります」

今日中にって・・・軽く見積もってもあと2時間は余裕でかかるような複雑なものである。
ロイは彼が去ったあと、露骨に嫌そうな顔をした。

「全く、ハクロめ・・・こないだセントラル市外で起きた連続放火魔の事件か。これは今週中と聞いていたぞ。セントラルへ招聘された私への嫌がらせか」
「大佐・・・仕方ありませんよ。早く終わらせてしまいましょう?」
「・・・せっかく今日は君とゆっくり語り合えると思っていたのだが」

リザはにわかに頬を染めて答えた。

「それは・・・私も同じです。ですから、急いで終わらせてしまいましょう。二人でやれば、こんなのあっという間ですよ」
「そうだな、君は優秀な副官だからな。よし、さっさと終わらせて出かけるぞ。以前から目をつけていたレストランがあるんだ。なかなかよさそうな雰囲気の所でね。君もきっと気に入るはずだ」

その言葉を聞いてリザもやる気が出てきた。ロイのせっかくの好意を無駄にしたくはない。
彼女は持てる集中力の全てを注ぎ込んで書類作成に取り組んだ。ロイもまた同じだった。



それからどれくらいの時間が経っただろうか。
ようやくその面倒な書類は完成した。時計を見るともう21時を回っている。

「大佐、私はこの書類を提出してから行きますので先に出ていてください」
「ああ、わかった」

彼らは入り口で待ち合わせて、ようやく司令部を後にした。

外はすっかり暗くなっている。やわらかい街灯の明かりが二人の足元を照らす。
頬にあたる風が冷たい。ふと空を見上げると雲がたくさん浮かんでいた。

「久しぶりだな、こうして君と二人で帰るなんて」
「そうですね・・・いつもは仕事の都合もあって車で帰りますからね」
「たまには、こんな時間にこんな風にゆっくり歩くのも悪くないな」
「そうですね・・・」

夜更けの司令部近辺は当然人通りもなく静まりかえっている。
二人はたわいのない話をしながら繁華街へとのんびりと足を運んでいた。

軍人という職業柄、そして部下と上司という関係から、どうしても職場での話はでてきてしまうけれど、それでもロイと過ごせる何気ない日常の時間がリザには何より大切であった。

もちろん、ロイもそう考えているからこそリザを誘うのだが。

二人が繁華街にようやく着いた頃、レストラン街はすでに暗くなっていた。
当然、ロイのお目当ての店もすでに閉店した後で、開いているのはバーや居酒屋などの飲み屋だけだった。

「やれやれ、一足遅かったか・・・」
「レストランはどこも開いていないみたいですね。残念ながら・・・」
「私の行きつけのバーにでもいくかね?」
「いえ、明日は朝から少々ハードなスケジュールなので、お酒はちょっと・・・それに大佐、お腹空いていらっしゃいませんか?ろくに食事もとらずに働き詰めだったように思いますが。ここからなら私の家もそんなに遠くないですし、何か作りますよ」
「え、いいのかい?」
「ええ、構いません。たいしたものは出せないと思いますが、それでもよろしければ」
「いや、全然構わんよ」

久々にリザの手料理が堪能できる。そしてその後はスペシャルなデザートをいただくとするか。

そんなよからぬことを考えていたロイの額に、何か冷たいものが落ちてきた

―雨だ。

「中尉、もしかしてもしかすると、これから一雨くるのではないのだろうか」
「可能性はありますね。先ほど空を見上げたときにずいぶん雨雲が多かったですし・・・急ぎましょう」

二人は早足でひたすら歩いた。が。
その努力もむなしく、雨足はどんどん激しくなり、ついには土砂降りになった。

生憎、二人とも傘を持っていなかった。

「このままだと風邪を引いてしまう。この辺で雨宿りして、少し雨足が弱くなったら帰るとしよう」

二人は一番近くの雑貨屋の軒下で雨が静まるのを待つことにした。

「今日は本当に散々だ。全く、なんてついていない日だ。」
「ええ、でも・・・私はこんな日も嫌いじゃないです。レストランには行けなくなってしまったけど、貴方とこうして同じ時間を多く共有できますから」

普段はめったにそのような言葉を言わないリザに不意打ちをくらい、ロイは思わず赤面してしまった。
心から、彼女を愛しいと思った。

「くしゅんっ・・・す、すみません。嫌だわ、軍服がぐっしょり・・・」

ロイは、リザの肩をさりげなく引き寄せて、自分のコートの中に入れた。

「こうしていれば、寒くないだろ?」
「・・・お言葉ですが大佐、コート濡れてますけど?」

照れを隠すようにして彼女はそっけなくつぶやいた。

「焔の錬金術師のコートだから、速乾性なのさ」
「何ですか、それ」

リザはクスクスと笑った。

「雨の日は焔を出せないのが本当に残念だよ。こんな時に焔が出せれば体はすぐに温まる。それに普段君に無能と言われなくて済むのだが」
「・・・出せなくていいですよ。その代わり私が貴方を温めますから」

そう言ってリザはロイの背中に手を回した。
肩にかけたコートが今にもずり落ちそうになっていたが、二人ともそんなことは気にも留めていなかった。

―雨の日はノー・サンキュー。
だが、こんな幸せな雨の日なら、悪くはないかもしれないな・・・

このまま雨が止まないなら、それはそれでいいかもしれない。
そんなささやかな幸せに浸る二人だった。

夜の街に、しとしとと雨が降り続ける。

まるで彼らを優しく包み込むように。

言い訳

なんか何を書きたかったのか全然わからないですね(汗)

  ロイとリザのキャラソン『雨の日はノー・サンキュー』をお題にしてなんか書きたかったんですよ。

私の頭の中のイメージでは、もっと違う感じなのになかなか文にできないので、今日はノーマルな雨の日でいってみました。・・・こんな駄文に時間かけすぎだから(><) もっと本読もう・・・