貴方と私の距離は近くて遠い。

きっと私は、他の誰より貴方の側にいる。

他の誰よりも、長い時間を共有できている。

だから。

目を閉じても正確に貴方を脳裏に描写できるほどに
貴方の姿は私の中に焼きついている。

切れ長の眉。
鋭い光を放つまっすぐな瞳。
シャープな顎。
引き締まった唇。
広い肩幅。
堂々と自信たっぷりに闊歩する背中。

そして。
紅蓮の焔を生み出す大きな手。
私の視線を捕らえて離すことのない、愛しい愛しい貴方の手。

私の五感の全てで貴方を感じていたい。
脳の隅々まで貴方で満たされたい。

その低めで心地よい声も、いつも仄かにただよう石鹸の香も。
良く見ると長いその睫も、柔らかい漆黒の髪も。

私の中に、全部全部閉じ込めてしまいたい。
だって私には、貴方の全てがこんなに大切で愛おしい。

目の前で無防備に寝ているその頬にそっと触れてみる。
広い頬。安らかな寝顔。
私が何を考えているかなんて知る由もなく、安心しきって眠っているのだ。
私はこんなにも、貴方に狂っているというのに。

手を伸ばせば届く距離に居るのに。
触れた頬はこんなに温かいのに。

どうしてこんなに遠いのだろう。

どれほど一緒に居ても。共に夜を過ごしても。
満たされない。満たされるはずがない。

心の奥底は、いつだって貴方に飢えている。
こんなに側にいるのに。貴方の心の奥底に触れられない。

だから。

この思いは胸の底にしまいこんで、貴方の望むとおりの存在となりましょう。
私はただ貴方のためのみに存在するの。
貴方が要らないと思うなら、その時は貴方の紅蓮の焔で焼き殺して。
私の愛したその手に殺されるなら本望だから。

誰より近くて誰より遠い距離。
貴方という人を愛した、私への等価交換。

せめて今この時だけは、何も考えずに貴方のお側に・・・