書評に魔法はない -2ページ目

【書評】チョコレートの世界史

チョコレートの世界史―近代ヨーロッパが磨き上げた褐色の宝石 (中公新書 2088)/武田 尚子

¥819
Amazon.co.jp



カカオの木やカカオ豆の実の成り方をカラー写真で初めて見た。著者は社会学を教える大学教授だ。広範囲にあらゆるアプローチから詳細に述べられているが、著作歴をみるとこの分野の本を書くのは初めてというので驚いた。

序章はカカオの採取からチョコレートが出来るまでの製造プロセスを図表入りで説明。当時の広告や家内工場の写真など挿絵が頻繁にあるのもありがたい。1章以降はチョコレートの発祥地はどこでどのような起源をもって広まったのか紐を解く。「クエーカー教徒はなぜビジネスの成功者が多いのか?」は100へぇーである。チョコレートもコーヒーと同じでやはり宗教的論争や労働問題、戦争の関わりが深い。戦争が進化させるのは何も軍事兵器だけではない。飛行機に乗る操縦者の「居眠り防止チョコレート」潜水艦の「摂氏四十度でも溶けないチョコレート」チョコレートもその場に適応して変化していった。

キットカットの章は、凡百のビジネス書よりよっぽど面白い。当時から購買層を絞っていたキットカットの広告の打ち方は参考になる。そして、ターゲットにした購買層も時代の変遷や所得によって変わるということ。キットカットが最初に狙ったのは意外にもお上品路線だった。

ビジネス書でもあり、歴史書でもあり、科学書でもある。写真、挿絵、図表、グラフがふんだんに使われており読者サービス満点。末尾に日本だけでなく、外国の参考文献の多いところも気に入った。それにしても「読書の合間にキットカット」にのせられて国営百貨店でキットカットのまとめ買いをさせられてしまった。




下記でベトナムのブログランキングの猛烈な争いが行われている。
ランキング上位者には、ほぼ毎日更新している人も多い。

にほんブログ村 海外生活ブログ ベトナム情報へ

【書評】スパイの歴史

スパイの歴史/テリー クラウディ

¥3,990
Amazon.co.jp

同書はベトナムにいる時に日本の友人に買ってきてもらった。
3990円とちょっと高いが、表紙に一目惚れして購入。
450ページ程度のハードカバーで結構分厚い。

著者のテリー・クラウディは軍事史を研究している作家である。
スパイは娼婦と並ぶ最古の職業であり、最古の記録はラムセス二世時代の古代エジプトとヒッタイトのあいだのカデシュの戦い(前1274)まで遡る。
スパイは有史以来裏切り者で道徳的に堕落した者とみなされ悪評にさらされてきた。
2003年のイラク戦争でアメリカ軍を指揮したトミーフランクス大将の言葉がスパイの重要性を印象つける。「情報を得るためには、悪魔と手を結ばざる得ない。あるいは、少なくとも悪魔を雇わざる得ない。彼らと取引をしなくてはならないのだ。」スパイは悪人かもしれないが、戦争に勝つにはスパイは必要であるというのが本書の基本的な立ち位置。

最近のアメリカは、スパイテクノロジーに頼りすぎて人間の諜報員を当てにしなくなっているようだ。実際にCIAには予算の20%しか回らなくなった。残りは、人工衛星や偵察、電子機器による盗聴とテクノロジーに偏っている。著者が911の例から示すとおり、機械から得る情報には限りがあるし膨大であるし、本当に重要な情報は、人間からしか得られないかもしれないというのも納得である。

「諜報責任者に不可欠なのは、間諜を信じるとき、疑うべきときが判別できる能力だ。」
「人間を判断する天賦の才を持つ必要があるのだ。」
「権力のある者でもセックスには勝てない。」
海外でビジネスを始める人間が人物の判断材料や実際に人を使う場合、参考になる部分は多いと思う。後ろに索引があるので、気になった史実や人物から拾い読みするのもあり。

東洋の宝石と言われた川島芳子も歳を取るにつれ男を惹きつけるのが難しくなる。やはり、若くても美人でなければ意味はないと。むべになく断った男をでっち上げの罪で逮捕させたところがプライドの高い美人が歳を取ると怖いなと、妙に印象的であった。

【書評】日本の論点2011

日本の論点2011/文藝春秋編

¥2,980
Amazon.co.jp

Amazoレビューで星一つの方が「論者によって差がありすぎる。」っていうのは仰る通り。確かに、論述のレベルが低すぎたり、明らかに偏っている意見も見受けられる。
しかし、それらを差し引いてもこの量で2980円なら充分安いと言える。
自分が知らない分野において合理的な考えを持っていて面白い論客を発見できて収穫あり。

論文の最後に「著者が推薦する基本図書」でその分野の意見の正当性がある程度予測できる。自分が信頼できない人や土地勘がまったくない分野に関しては、編集部がまとめたデーターファイルだけ読めばいいかも。データーファイルは数字と歴史の成り立ちがわかるしバランスもいい。

【論点28上杉隆】
「起訴後の有罪率が99%を超える捜査機関が、この多様化している現代社会において存在していることが不自然だ。」

【論点5島田裕巳】
「現在の焼き方だと、骨の主たる成分であるリン酸カルシウムがセラミック化し、そのままでは何年経っても土に帰らない状態になる。」散骨すれば、すぐにでも自然に還るかと。

【論点35橘木俊詔】
「経営者の報酬は社員の20倍程度が望ましい。」反対、データーファイルにある久保克行氏の意見の方に分があると思う。
「優秀な外国人経営者を確保するためには、高額な報酬が必要だ。引き下げでなく、経営者の報酬に成果主義をもっと採り入れることで対応するべきだ。」同意。規模の大きい会社はトヨタのように日本人が1億の報酬で非効率な経営にあたるより、日産のゴーン氏のような経営者にグローバルな報酬を与えて経営にあたってもらったほうが株主の利益になると思う。ゴーン氏が株主にもたらした利益は8億9千万以上はあるでしょう。

【論点47福井健策】
「国会図書館で、かつて明治期刊行図書の著作者を調べようとしたことがある。すると、7割強の著者について連絡先はおろか没年すらわからずいつ著作権が切れたか判断がつかなかった。」孤児作品の一部無償化も検討すべきであるには賛成。

【論点48池田信夫】
「地域防災無線は一日一回しか使っていないし、船舶無線やタクシー無線の帯域は半分以上が開いたままだ。土地に例えると、丸の内の一等地で超高層ビルの隣に平屋の一軒家があるようなものだ。」例えがうまいl

全てを読み通すような本ではないと思う。
正論とトンデモ論を見極める力がないとこの本の効用を得るのは難しいかも。
僕のように海外に住んでいて情報ソースが限られている人間にとって、幅広く日本の出来事や論争が把握できてよかった。