ハイジの退屈日記 パリ・東京 -73ページ目

コペルニクス的イビキ対策

只今、夫ペーターは鼻風邪をひいている。

それゆえに、昨晩、いや今朝ほどか、イビキが激しく

ただでさえ眠りが浅い私としては

耳元でガーガーやられて、煩くて眠れず。


いっそリビングのソファーに移動しようか、とも思ったが

ソファーは冷たいし、パリ晩夏の早朝の部屋は寒い。

耳栓があることを思い出したが

起き上がって、2部屋隣りまで取りに行くのが面倒くさい。


なにゆえにイビキを掻く当人ではなく

横に寝ている被害者の私がこんなに思い煩わなければならないのか?

まこと理不尽ではあるが

熟睡する鼻風邪夫をたたき起こすのも酷だし

心優しき妻である私は

寝返りを打ちながら、ただ悶々と耐えていた。



ハイジの退屈日記 パリ・東京



しかし、ふと、とても単純なことに気づいた。

この不愉快な騒音は耳元にて聞こえるから迷惑なのであって

遠くに聞こえる分には少しはマシなはず。


ということで、私は自らの身体を180度回転させ

夫の耳元に自分の足を置いて

自分の頭を夫の足元に置く、という

つまり、ちょうど上下逆さにして横たわった。


当然

間違っても夫の足のニオイを嗅ぐはめにならぬよう

それをしっかり毛布で覆い

念のため、それに背を向け、横向きになる。


おお、イビキの音も多少とはいえ遠くなり

耳元で聞こえてきた時と比べれば雲泥の差。

これぞ、「コペルニクス的転回!」などと

ひとりほくそ笑み、やっとまどろみに入った。



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しかしその後の夢見が悪かった。


夢の中で

私はリストラの対象になり、ある日会社に行くと

いつもの場所に自分の席がなく

ホコリっぽい狭い部屋の隅っこの、PC1台分の1席に

自分のチームメンバー3名でどうにかして座らなければならないという

そんな境遇に追いやられている夢であった。


コペルニクス的、などと悦に入ったのもつかの間

寝る場所・寝心地の不自由さが

リストラの憂き目にあう、という

まこと情けない夢となって顕れただけであった。


唯一痛快だったのは

その後、朝になって

半分だけ目覚めた夫が、私の頭だと思って足を触り

「なんじゃこりゃ!」と叫んだことだった。

フッフッフ・・・。




凱旋

最近、夫ペーターの密かなキーワードが「凱旋」。


発端は、先月アントワープに一緒に旅行に行った際

帰りにブリュッセルに立ち寄り

彼が20年近く前に、ひとりでブリュッセルに来た時に入ったという

有名ムール貝専門店で食事をした時。

(有名店といっても、観光客が多い、かなり大衆的なお店でした)


当時、パリに住み始めて間もない若きペーターは

まだ貧しくて、倹約旅行ゆえにオーダーするものも

値段を気にして・・という状態だったらしい。


そして先月、私と一緒にその店に入った時に

しきりに懐かしがっていたので、私が、

「立派なオトナになって、妻と一緒にあらためて来られて、『凱旋』だね」

と言ったら、その言葉がかなり琴線に響いたらしく

感無量の面持ちだったのだが

それからというもの、なにかと「凱旋」したがる。



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つい先日も

若い頃に行っていたという

サンジェルマン・デ・プレ近辺で唯一安かったというビストロに

私を連れていこうとしたのだが

その店は残念ながら見当たらず、別のビストロへ。


でも

「サンジェルマン・デ・プレまで妻とランチに来る、というのも『凱旋』」

ということらしい。



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また、一緒に散歩をしていた際に

なんだか妙な歌を、熱心に繰り返し口ずさんでいたため

それはなんぞや、と尋ねたところ

「これね、昔、まだ日本にいた頃にラジオでよく聞いた曲でね、

これを聞きながら、パリに行きたいなーと思ってたの」

という。


彼が覚えているのは「ルールールー ワールド、ワールド」

とそれだけ。


私もちょっと覚えがあるぞ、と思って

ネットで調べたところ、すぐわかりました、

80年代のFM東京の音楽番組「ワールド・オブ・エレガンス 」のテーマ曲。

懐かしいーーー。


アパレル会社のワールドが冠協賛していた番組で

昼下がりのひととき、

細川俊之が語る、ゾクゾクっと寒気を覚える恋のポエムが特徴。

「あなたを見ていると、自分をコントロールできなくなります」

「今だけは、ぼくのために心をください」

などなど。ウッヒ。


ワールド社は、パリのイメージを刷り込もうと腐心していたようで

番組全編には、フランス語のテーマ曲をはじめ

当時の我等日本人が抱いていた

「マロニエ、枯葉、セーヌ川、アラン・ドロン、ジュ・テーム、ネスパ?」

というような「パリの甘く切ない雰囲気」が漂っていたように

確かに記憶している。


若く純朴なペーター青年は

この番組の手中に落ち、

東京一人暮らしの陽に焼けた四畳半のアパートで(これは私の勝手な創作)

パリへの憧れを醸成してらしい。



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前置きが長くなりましたが

この「ワールド・オブ・エレガンス」のテーマ曲をYou Tubeで送ったところ

ペーターは、若かった当時のパリへの憧れ

そして今、パリに23年も住むに至って「夢」を実現したこと

などが、青春時代の数々の思い出と共に蘇り、感無量。


テーマ曲のフランス語の歌詞が今は全部わかる!

ということに、特に感激し

今このテーマ曲に「完全な形」で再会したことを

一種の「凱旋」である、として、歓喜を覚えたようであった。


夫を喜ばせようと

また実はフランス語の学習にもなるので

この曲を何度も歌って覚えた健気な妻(わたくし)。


「神様、どうして私はこの世に生まれたの?

それは君に出会うため

永遠の愛・・・」

云々という、恥ずかしくて静聴するに耐えないような

しかし、実際、とても美しい曲です。



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夫ペーターにしかわからない、

心の旅、「凱旋」はまだまだ続く。



再びパリ

猛暑の東京を発ち、再びパリへ。


パリはすっかり夏の終わり、初秋の雰囲気。

1ヶ月前、6月にいた時より

空が高くなり

太陽の光が穏やかな黄金色に変化し

風に涼気が感じられる。


陽が照っていても

夏の終わりというのは

空高く飛ぶ小型飛行機の音さえノスタルジックに聞こえ

過ぎ去ってしまった日を懐かしむような

切ない空気が漂っている、

ような気がする。


ハイジの退屈日記 パリ・東京


実のところ

空気は夏の終わりではあるが

格好からいうと「初冬」といっても過言ではない。


ヒートテックのタートルネックにウールのカーディガン、

裏付きのトレンチコートにシルクのマフラーを巻いてるんだから。


東京ではタンクトップにショートパンツ姿、

い草のマットの上で、汗だくでゴロゴロしていたのが嘘のよう。



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とはいっても

パリは今からが夏休みの本番の時期。

昨日はセールが最終日という土曜日だったので

市内の繁華街をウロウロとしたのだが

かなり人が少なかった。

もうバカンスに出発した人も多いのでしょう。


フランス人がバカンスに命をかけている、とはよく言われるけれど

確かに

ちょっと哀しげな夏の終わりの兆候を見せる都会のパリに留まるよりも

太陽が燦燦と降り注ぐ真夏のバカンス地に

脱出したいと思うという気持ちはわかるなあ。



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今日は日曜日。

ヨーロッパでは静かな休息の日。

たまに遠くから聞こえてくる教会の鐘の音を聞きながら

夫ペーターと家の近所の丘に散歩に行ったが

女郎花やナデシコなど咲いているし

どう考えてもこれは秋、という風情であった。

風が涼し過ぎて耳が痛くなってきたので

スカーフを真知子巻きにして歩いた。


でも、まあ、いいのです。

こうやって同じ季節なのに天候の違う場所を楽しめるというのは

とても贅沢なことだと思うので。