ちょうど2年前、大西順子が帰ってきた! と日本ジャズ界にとって明るいニュースが飛び込んできた。しかもブルーノートを始めとした各地でライヴ・パフォーマンスを見せてくれるというのだから只事ではなかった。ご多聞に漏れず、いそいそと私もブルーノート名古屋へ足を運んだ一人であった。
その一年後、長いながい沈黙を破り“フラジャイル”以来の新譜を出すというのだからますます尋常ではなかった。“楽興の時 (Musical Moments)”が復帰第一弾で、一聴した内容はというと、復帰作にしては暗く重い新鮮味のない難解なアルバムだった。良かれとボーナス・トラックとして2008年9月の復帰ライヴが収めてあったが、ボーナスとは言い難い単なるオマケでしかない代物であった。期待に膨らんだ私のハートは、多事多難な一枚にポッカリと大きな穴が空けられてしまったようだった。
そして今年復帰第二弾『バロック』を引っ提げ、名門ヴァーブより有為転変のジャズ界に舞い戻ってきた。ここでは旧友のニコラス・ペイトンやジェームス・カーター、ワイクリフ・ゴードンにレジナルド・ビール、更にロドニー・ウィテッカー等が吾勇んで彼女の脇を固めた。
オjリジナル<Tutti>で幕を開けるが、前作を踏襲したサウンドは、数本の管を得て更に不可解な世界に迷い込み悩ませる。はたしてこの手のジャズが持てはやされる時代なのか、はたまた心奪われる者がいるのだろうかと訝しむばかりだ。
とはいいつつ、沈んだ気持ちのまま2曲目のオリジナル<The Mother's>を聴き進めていた矢先のこと、3分と50秒を超えたころから俄かに胸が締めつけられ、5分20秒辺りでアノ順子節が「ねえねえ、私のこと嫌いにならないで」と襟首を掴まれた。このアルバムで最高品質の一曲となる。
その他簡単に曲を追って往くと、<The Threepenny Opera>までが順子作となり、唯一この曲が救う神の如く明るく振る舞っている。ソロで奏でる<Stardust>はライヴでも何度となく弾いてきたのだろう、寛いだ雰囲気のなか、彼女の愉しそうな指の運びが浮かんでくるようだ。
このあと3曲つづいて10分にも及ぶナンバーが待ち構えている。ミンガス作<Meditations For A Paie Or Wire Cutters>における彼女の頼もしいバッキングが危うい平衡感覚を保させていたり、エキゾチックな<Flamingo>は超スローなメロディが、あたかも沈みゆく太陽を留ませようと必死になり、メドレーと思しき<The Street Beat / 52nd Street Theme>は、時代を超越した楽しさと仕掛けがタップリと仕込まれていたり、独奏となるラストの<Memories Of You>は、バロックなる響きそのもの。
前作と比べ物にならないくらいジャケットは悩ましく、アチラ此方と男心を揺さぶるサウンドはもっともっと悩ましいのである。この調子だと次なる作品に待ち惚けを食らいそうだ。
-NO.604-
★ゑびすビルPart1★
今年のゑびすビルは何かと話題に事欠かない。春先の“ブックマーク・ナゴヤ”や先程閉幕した“あいちトリエンナーレ”のサブ会場として重宝されている。春先と違い新しいショップが入っていたし、行けば何かがある、何か待っていてくれるようなそんな予感のもと訪れその期待に応えてくれる。相も変わらないのはエントランスのドアと、入ってすぐに目を惹きつけられる階段脇の賑やかなディスプレイ達。これはキルト地だろうか、ただ糸で可愛らしさを表現した鼠色したネズミ君が居る。



