最近、上京時はお台場に宿泊するのがお気に入り。
きっかけは業界の会合。展示会に合わせて、会合がお台場のホテルで開催され、宿泊もセットされていた。
海(綺麗とは言えないが)に囲まれ、朝、夜は人が少なくて静かだ。
羽田やビックサイトへのアクセスも良く、ゆりかもめに乗れば新橋までも近い。
ランニングコースには事欠かない。ランニングしていると様々な発見がある。自由の女神以外にも周辺には様々なモニュメントがある。ホテルからビックサイトまでも時には走る。この探索もまた楽しい。
学生時代に深夜ドライブでお台場に行ったことあったが、当時は夜は真っ暗で何にもない場所だった。レインボーブリッジ開通が1993年(社会人になった年)、フジテレビの移転が1997年(久留米に戻った年)だから、そのはずだ。
宿泊しているホテルでは朝食で通常の和洋バイキングの他に最上階での鮨を選ぶこともできる。 これがまた最高なのだ。
という訳ですっかりお気に入り。
もうしばらく、上京時はお台場探索が続きそうだ。
さて、探索と言えば、久しぶりに素晴らしい良書に巡り合え、読破した。大阪の大型書店で見つけた本だ。
新刊ではない。日本語訳は2019年、そして増補改訂版が昨年出版されている。入山章栄教授の監訳で、冒頭には入山教授のポイント解説が掲載されている。(この解説のお陰で全体像を理解でき、この分厚い本を飽きずに読めた)
また著者はこの分厚い本の読み方として、第一章から順に読む方法と、重要ポイントだけ知りたい読者向けに第二章、第七章、第八章の3つの章を中心に読む方法を示している。
私はまずは後者を選び、後から残りの章も読んでいった。後にオーディオブックでもダウンロードした。本を読んでも尚、オーディオブックを追加で購入したのはこの本は繰り返し何度も読むべき本だと判断したからだ。
この本で成功事例の一つとされるAmazonについては過去、下記の本を読んでブログにまとめていたので、理解が早かった。
ジェフ・ベソスが最高の顧客体験から逆算して、足りない機能や能力を獲得していく考え方はしっかりと頭に残っている。
この本では経営理論として不十分だと断じられている「イノベーションのジレンマ」についても、今年の正月に読んで、まとめていた
そして、本書で失敗事例として出てくるいくつかの企業(ブロックバスター、コダック、ポラロイド、シアーズ)の破綻事例は2年前に以下の本を読み、これもブログにまとめていた。
これら過去の読書が、本書を理解するのに大いに役立った。
(読書は積み重ねだとつくづく思う)
両利きの経営とは、「探索」と「深化」という活動のバランスが高い次元で取れていることを指す。時代を超えて発展し、高い収益性を維持し続けるにはこの両利きの経営を実行できるリーダーシップ、組織、文化が必要であると多くの事例から結論づけているのがこの本だ。
「深化」とは既存のビジネスを深堀し、磨き込んでいく活動で、品質改善、コスト削減や生産性向上、CS向上などがこれにあたる。
「探索」とは自社の既存の認知の範囲を超えて、新たなノウハウや技術、情報を得て行こうとする活動である。簡単に言うと新事業開発であろう。
一般的に企業は、歴史を重ね、成熟すればするほど「深化」に偏っていく。真面目な企業であればあるほど、顧客の声に耳を傾け、事業を持続的に改善する。企業として当然の活動だ。
「深化」すればするほど短期的には成功する。それが組織としての硬直化を生み、「探索」およびそこから生まれるイノベーションの芽を摘んでしまう。
この本では企業が陥りやすいこのパターンの失敗事例を嫌というほど追体験させられる。
では両利きの経営を実装し成功し続けるにはどうしたら良いのか?
詳細はこの分厚い本に書かれているので、読んでもらいたい。
私なりの感想では、両利きの経営に最も重要なのは経営者のリーダーシップである。
企業が両利きである必要性を理解し、時代の変化に合わせて、常に探索の芽を探し、そこにお金や人というリソースを勇気をもって投入し、その後も自ら積極的に関与し続け、ローンチからスケールするまでの、キャッシュを生み出さない期間を、既存事業からの「金喰い虫」との批判から守り続ける。
探索事業がいつでも会社のリソース(顧客基盤や技術・ノウハウ)にアクセスできるようにする。
そして企業が常に「深化」と「探索」がバランスするように組織をつくり変え、その文化を意図的に醸成すること。
シアーズの事例が典型だろう、シアーズは1910年代に地方の農家向けの通販で大成功するが、1920年代に最初の危機に見舞われる。不況で倒産する農家が出始め、カタログ事業の収益が悪化、当時のCEOのロバート・ウッドは地方から都市部へ人口が移動している統計データとモータリゼーションの進展により、人々の購買行動の変化を感じとり、「探索」に転じる。
地域のカタログ配送センターを小売り店舗へと転換したのだ。
新店出店も都会へではなく、自動車社会に対応して駐車場の広い郊外や町外れに集中出店していった。
祖業であるカタログ販売とのカニバリを一切意に介さず断行する。
これが大当たりし小売りの一大帝国を構築するに至る。
日本におけるダイエーよりも遥かに大きい。
ここからシアーズの天下は約40年近くも続く。
しかし、1970年代に入ると、ディスカウントやカテゴリーキラー等の新業態が躍進して、シアーズを脅かし始めるも、当時の経営陣は、これら新業態の躍進も人口統計などの変化も見て見ぬ振りをした。そして新しい業態への探索は行わず、あえて既存事業の効率改善やコスト削減などの「深化」に固執したのだ。その後の歴代の経営陣も同様だ。
コストコを買収する機会さえもあったがスルーしている。
ここからはただ凋落していくだけの歴史となる。
40年もダントツNo1であり続けたら、無理からぬことかも知れない。
対照的にシアーズ同様に1業態からスタートしたウォルマートは既存の物流網、IT、調達力を駆使して、新業態や新市場を探索し続け、今や多くの業態やブランドを保有するに至る。
Amazonの脅威に対しても積極的にオンライン販売に乗り出すなど新市場を探索する為に既存の組織能力をフル活用している。
この本の事例は大企業ばかりだが、「探索」と「深化」は中小企業にこそ重要な概念だと思った。
弊社の祖業は干し椎茸の贈答用の木箱製造である。
木箱の将来性を危惧した先代は一時期はこの製造技術を他の木工製品に横展開しようと、積み木や将棋盤などの玩具を製造してみようと試みていた形跡がある。自宅にはそれら試作品があった。
その後、食品を包むつながりで「包装資材の卸売業」に進出。営業面や仕入面で苦労し、楽ではなかったらしいが、この「探索」で一定の知見を得た。
この包装資材の卸売業はコモディティビジネスで、このビジネスのKFSは営業力。周辺には自社よりも営業力の高い企業がひしめいている事実に気づく。
差別化の為に新事業のアイデアをいくつか探るなかで、包装資材の一部でもあるシール印刷にチャレンジすることを決める。これには大変な苦労があったようだ。
一切の知見のない事業だから仕方ない。当初はたったシール1000枚の印刷を行うのに数百メートルのロスを出す、品質は悪い、製造コストも高い。しかし苦労に苦労を重ねた結果、シール印刷会社として一定の地位を得るに至る。この「探索」でもまた新たな能力を獲得したのだ。
ここから競争上の必要性に駆られて、デザイナーを採用するようになる。この後、オフセット印刷の会社を先方からの要請により買収するのだが、これにはもっと苦労させられることになる。四半世紀以上赤字を垂れ流し続けた。そこでチラシ、冊子、パンフレットなどの商業印刷を捨て、包装資材のカテゴリーの一つである紙器印刷加工に絞る。その真っ只中で私は入社するのだが、当時は今と比べると品質が悪く、販売には苦労させられた。シール印刷よりも遥かに技術的に難易度が高い上に、印刷、抜き、貼りと主要3工程があり、それぞれに熟練の技術を必要としていた。
粘りに粘って、経験者を集め、一流の機械に投資し、機械メーカーからの支援、他社の見学などで徐々に知見を増やしていった。
黒字化の要因は営業面では包装資材、シール印刷での既存マーケットが活用できたこと、そしてデザイン力など既に獲得済みの能力が寄与したことも挙げられるが、何よりも既存事業からのCFによりこの赤字事業に投資を継続できた事が大きい。そしてこの「探索」でもまた新たな能力を獲得した。
包装資材、シール印刷くらいに留まり、「深化」に集中すれば短期的にはもっと利益がでたはずだ。しかし、恐らく今の規模にはとても到達していないだろう。
一方でこれらの主要事業はまだ「深化」を必要としている。
日々強力なコンペティターと激しい競争しているからだ。
「深化」と「探索」のバランスが大事なのであって、探索ばかりやっていたら既存事業の顧客基盤は脆弱になり、技術的にも競合に後れをとってしまう。探索に注ぎ込むCFも早晩枯渇するだろう。
「深化」と「探索」のバランスが大事なのだ。
それに探索に伴う一定量の失敗も許容しなければならないのはAmazonが証明している。
私の代になってからも様々な分野で、常に「探索」は続けている。それらはどちらかというと既存事業のお客様へのお役立ちから始まっている。言い換えれば、これらの探索によって得られた新たな能力を既存事業の深化に使っているとも言える。
モノになったものもあれば、まだまだこれからの分野も多い。現状に満足することなく続けて行かねばならない。
新たな能力の獲得はまた次の探索の糸口になることも実感している。
読後、これまでの我流「探索」の拙い点にも気づかされた。
代表的な例は弊社の探索のほとんどは組織横断型のプロジェクトとして、現業との兼任でスタートしていることだ。
これでは多くの事例が示すように既存事業からの圧力により力を発揮できない。なぜならば評価のほとんどは既存事業での成績となるからだ。思い切って、既存事業の担当から外して、専業でやってもらうか、新規採用して行うかのどちらかが「探索」には必要だと理解した。またそれに応じた評価の仕組みも構築できてない。
丸信の次世代経営陣が読むべき本として推薦すべきかは悩む。
読んで理解できるだろうか、そもそも本が分厚いぞ。
私も語彙が足りず、ネットで調べながらの読書となった。
普段使いしている語彙が稚拙だと思考も稚拙になる。
先に挙げた3冊を読んでなかったら理解するのにもっと苦労しただろう。
しかし、今や「両利きの経営」はちょっとしたビジネスマンなら今や誰でも普段使いしているビジネス用語だ。他のベストセラーに起因する「ボトルネック」、「レッドオーシャン」等に等しい。
いずれにしても現状に満足し、今の延長線上でしか将来を描けないような方は次世代経営陣としては厳しいだろう。
朝のオフィスにて