正直に告白するが、、今から10年ほど前、あるスマホゲームで170万くらい溶かしたことがある。
最高の知性、東大法学部を出て大企業の社長を勤めておられた方が、会社のお金を不正流用し100億以上をギャンブルで溶かした事件は記憶に新しい。それに比すれば、器の小さな、可愛いレベルではあるが(もちろん個人のお金です)今振り返ると本当に恥ずかしい。経営者として、一人の大人としてあるまじき失態だ。
なぜ、無趣味で仕事一筋、喫煙やギャンブルとも無縁な真面目な私がそこまで深くのめり込んでしまったのか、、
きっかけは頻繁に表示されるSNS広告だった。たった1回のクリックで歯車が狂い始める。そしてそこには、現実世界とは全く別の「強烈な仮想コミュニティ」と「脳を巧妙にハッキングする仕組み」が存在していたのだ。
プレイヤー同士で国や陣地を持ち、同盟を組み、他者と覇権を競い合うシステム。少しでも目を離せば、他のプレイヤーから攻撃されて自分の築き上げた財産が奪われるリスクが常に潜んでいた。
「今、自国が攻め込まれているのではないか」
「仲間がピンチに陥っているのではないか」
そんな不安から、四六時中ゲームのことが気になって仕方ない。
あの時の私を狂信的に突き動かしていた心理メカニズムはいったい何だったのか。
その答えを、明確な科学的根拠とともに提示してくれたのが、アンデシュ・ハンセン氏の世界的ベストセラー『スマホ脳』だ。2021年に日本でもベストセラーとなったが当時は読まなかった。遅まきながら今月の輪読会で読んだ。これはすべての大人が絶対に読むべき本だ。特に子育て世代は必読書だと思う。(と言っても、うちの社員さんはどうせ読まないからこのブログでも十分なくらい書き残す)
暴走する「ドーパミン」と「扁桃体」
スマホゲームは、人間の脳の構造を極めて巧妙にハッキングするように作られている。
私たちの脳は、「次こそはレアキャラが出るかもしれない」という「予測不能な報酬」に対して、快楽物質であるドーパミンを大量に分泌する。
それに加えて、私がゲームから抜け出せなかった最大の要因は、脳の奥深くにある「扁桃体(へんとうたい)」という器官の働きが大きかった。
扁桃体は、恐怖や不安を感知する「脳の警報システム」で、狩猟採集時代、人間は常に猛獣に襲われる危険や、敵対する部族から攻撃されるリスクと隣り合わせだった。少しでも油断すれば命を落とすため、扁桃体は常に周囲を警戒するように進化したのだ。
ゲーム内で「他者から攻撃されるリスク」に晒されると、私の脳の扁桃体はこれを「現実の生命の危機」と錯覚し、大音量でサイレンを鳴らし続けていたのだ。そして安全性を高める為に「課金」してしまう。夜中も気になって目を覚ましてしまうのは、扁桃体が「寝ている間に襲われるぞ!」と警告を発し、強烈なストレスと不安を生み出していたからだ。ドーパミンの誘惑と、扁桃体の恐怖。この強力な挟み撃ちによって、私は完全にコントロールを失っていたのだ。ドーパミンはギャンブル依存症とも密接な関係がある。
SNSが引き起こす睡眠障害と精神疾患のメカニズム
この「脳のハッキング」は、ゲームに限った話ではない。私たちが日常的に使っているSNSも、同様に精神をむしばむ危険性を孕んでるのだ。
『スマホ脳』では、SNSがうつ病などの精神疾患や睡眠障害を引き起こすメカニズムも詳細に解説されている。
狩猟採集時代、群れの中で生き残るためには、自分が集団の中でどの位置にいるか(社会的地位)を常に把握しておく必要があり、そのため、人間の脳は「他者と自分を比較する」ようにプログラムされている。
しかし現代のSNSでは、世界中の人々の「加工された最高に幸せそうな瞬間(ハイライト)」を24時間見せつけられる。これを真に受けた脳は、「自分は群れの底辺にいる」と錯覚し、精神を安定させる脳内物質である「セロトニン」を低下させてしまうのだ。これが強い劣等感や不安、うつ症状の引き金になりうる。
さらに悪いことに、不安を紛らわそうと夜遅くまでスマホの画面を見続けると、ブルーライトによって脳が「まだ昼間だ」と勘違いし、睡眠を促すホルモン「メラトニン」の分泌をストップさせます。
セロトニンが減って精神が不安定になり、メラトニンが減って眠れなくなる。この負のスパイラルこそが、現代人を精神疾患へと追い込むメカニズムなのだ。
脳を最適化する「心拍数の上がる有酸素運動」
では、この「スマホにハッキングされやすい脳」を守るためにはどうすればいいのか。
著者のハンセン氏は、TEDトークで非常に興味深い解決策を提示しているのぜ、本は読まなくてもこの動画だけは観て欲しい。(参考動画:なぜ脳は運動するようにできているのか / TED)
https://www.youtube.com/watch?v=a9p3Z7L0f0U
彼が強調するのは、「私たちの脳は1万年前の狩猟採集時代から全く進化しておらず、本来、移動(運動)することではじめて最高のパフォーマンスを発揮するようにできている」という事実だ。
特に注目すべきは、「筋トレなどの筋力向上よりも、ランニングやウォーキングといった『心拍数の上がる有酸素運動』のほうが、明確に脳を発達させる」というデータだ。
スウェーデンで行われた120万人規模の徴兵時のデータ分析によると、18歳時点での「知能テスト(IQ)の高さ」と相関があったのは「心肺機能の高さ(有酸素運動の能力)」であり、「筋力の強さ」はIQとの相関が見られなかったそうだ。また、週3回・40分の早歩きを1年間続けたグループは、記憶を司る「海馬」のサイズが2%も大きくなる(物理的に脳が若返る)ことが確認されました。
狩猟採集時代、走る・歩くといった有酸素運動は「獲物を追う」「新しい土地を探索する」という生存に直結する行為だった。だからこそ、脳は「心拍数が上がっている時は、生き残るために新しい情報を記憶し、集中しなければならない」と判断し、自らをフル稼働させるのだ。
東京の人は脳が発達しやすい?(私なりの大胆な仮説)
ここで、私なりに一つの大胆な仮説を立ててみた。
地方(例えば私たちのいる九州)は、完全な車社会だ。どこへ行くにもドア・トゥ・ドアで車を使い、意識しないと1日の歩数が2,000〜3,000歩で終わってしまうことも珍しくない。
一方で、東京に出張するとどうだろう。
羽田で飛行機降りてからモノレールに乗るまでに結構歩き、いくつかの巨大な駅の構内を歩き、階段を昇り降りし、地下鉄を乗り換え、ホテルや訪問先のオフィスまで歩く。特別な運動をしていなくても、気づけば1日で1万歩を軽々と超える。
先ほどの「心拍数の上がる有酸素運動が脳を育てる」という脳科学の知見に照らし合わせると、「日常的に歩かざるを得ない東京の人の方が、車社会の地方の人よりも、自然と脳が刺激され、発達しやすい環境にいるのではないか?」。さらに脳が発達した者同士が競争し、刺激を与え合うのだ。
もちろん学術的な裏付けはないが、あながち間違っていない気がする。だからこそ、地方に住む私たちは、より一層「意識的に歩く時間」を作らなければ、脳の機能が衰えてしまう宿命を背負っているのだ。私が「100キロウォーク」に挑戦し続けているのも、無意識のうちに脳がそれを求めていたからなのかもしれない。
呪縛からの決別
私が10年前のスマホゲーム依存から抜け出せたのは、最終的にゲームのアプリをいきなり削除したからだ。このままでは駄目人間まっしぐらだと、ある日急に思い立ち、「あちらの世界の仲間達」に別れも告げず、強制的に環境を断ち切ったのだ。(ちなみにあちらの世界のリーダーは懐が深く知性も兼ね備えた大学院在学中の方だった)
現代のテクノロジーは便利だが、私たちの「原始的な脳」は、その情報量と巧妙なシステムに太刀打ちできない。
最後にこの本からの学びを自戒を込めて残しておきたい。
1. 寝室にスマホを持ち込まない(目覚まし時計を別に買う)
睡眠を促すホルモンである「メラトニン」の分泌が抑制され、寝付きが悪くなったり、睡眠の質が低下する。 また、スマホを見ることで脳が興奮状態になり、ストレスホルモンである「コルチゾール」が分泌されることも、深い眠りを妨げる原因となる。
2. すべてのプッシュ通知をオフにする
LINE、SNS、ニュースアプリなど、不要なプッシュ通知はすべて切り、スマホの画面を白黒(グレースケール)に設定するのも効果的だそうだ。スマホに自分の時間をコントロールされるのではなく、自分が必要なときだけ見に行く。
脳科学の根拠:ドーパミンと「予測不能な報酬」 人間の脳は、新しい情報や「かもしれない」という期待に対して、快楽物質である「ドーパミン」を分泌する。SNSの「いいね!」や、いつ来るかわからない通知音は、スロットマシンと同じ「予測不能な報酬系」として脳を強く刺激してしまうのだ。 狩猟採集時代、新しい情報(どこに食料があるか、危険がないか)を得ることは生存に直結していたため、私たちの脳は「新しい情報から目をそらせない」ようにプログラムされています。通知をオフにすることで、このハッキングシステムから脳を切り離すことができます。
3. 息が上がるほどの有酸素運動を欠かさない
ランニング、早歩きのウォーキング、サイクリングなど、心拍数が上がる運動(最低でも週に3回、45分程度)を習慣化すべきだ。スマホを手放し、身体を動かす時間を作ることが、スマホの弊害を防ぐ最強の防御策になりうる。非東京在住者は特に心がけたい。
-
脳科学の根拠:BDNF(脳由来神経栄養因子)の分泌とストレス耐性 運動をすると、脳内で「BDNF」というタンパク質が分泌される。これは「脳の肥料」とも呼ばれ、記憶力や集中力をつかさどる海馬の細胞を成長させ、脳の働きを向上させる。 さらに、運動はストレスホルモンである「コルチゾール」の血中濃度を下げる。本来、人間の脳にとってストレスとは「猛獣から逃げる」などの身体的危機であり、「身体を動かす(逃げる・戦う)」ことでそのストレスを解消してきたのだ。現代の動かない生活で溜まったストレスや不安を和らげ、脳の機能を正常に保つためには、物理的な運動が脳科学的に不可欠だ
4. 集中したい時は、スマホを「別の部屋」に置く
勉強、読書、仕事など、何かに深く集中したい時は、スマホをポケットの中や机の上(裏返しにするのもNG)に置くのではなく、物理的に視界に入らない「別の部屋」や「カバンの奥底」にしまう。
早朝会社に着いて、昨日の報告に目を通して、メールなど処理したら、9時からの営業部門とのミーティングまでが読書できる時間なのだが、結構スマホやパソコンに気を取られ、集中できないでいた。この本を読んでからスマホやパソコンのない別のテーブルに移って読むように変えた。
-
脳科学の根拠:ワーキングメモリ(作業記憶)の浪費 人間の脳には、一時的に情報を保ちながら処理する「ワーキングメモリ」というシステムがあるが、その容量には限界がある。 スマホが視界や手の届く場所にあるだけで、脳は無意識のうちに「スマホを見たい」「通知が来るかもしれない」というドーパミンの誘惑と戦うことになり、「スマホを無視する」という行為自体にワーキングメモリの容量を奪われてしうのだ。物理的に隔離することで、この脳の無駄なリソース消費を防ぎ、目の前のタスクに100%の脳の力を注ぐことができる。
5. マルチタスクをやめ、「シングルタスク」を心がける
「テレビを見ながらスマホをいじる」「仕事をしながら頻繁にSNSをチェックする」といった「ながら作業(マルチタスク)」をやめ、目の前の一つのことだけに集中する時間を作る。
WEB会議が増え、会議に参加しながら、メールやチャットが気になってしまい反応したり、返信したりして集中してない時が度々ある。またWEBセミナーは同じ理由で集中できず、得るものが少ないと感じており、リアルセミナーを増やしたのは同様の理由だったのだ。
-
脳科学の根拠:タスクスイッチングと「注意の残骸」 脳科学において、人間の脳は複数の認知作業を同時に処理する「マルチタスク」ができないことが明らかになっている。同時に行っているように見えても、実際には脳が超高速で注意の対象を切り替えているだけ(タスクスイッチング)です。 この切り替えは脳にとって膨大なエネルギーを消費し、ストレスホルモン(コルチゾール)を増加させる。また、AからBへ注意を切り替えても、脳の一部はまだAのことを考えている「注意の残骸」という現象が起きるため、結果的にすべての作業の質と記憶の定着率が著しく低下してしまうのだ。
金曜の営業会議(コロナ禍からリアルからWEB開催に変更している)で、冒頭に私の話す時間だけで良いので、スマホを鞄か引き出しの中にしまい、セカンドモニターも電源落とすよう依頼した。集中して聞いて欲しいからだ。
これらの実践がスマホに奪われた集中力を取り戻し、脳を最高の状態に保つために重要だと思う。私も引き続き、10年前の失態に学び、持ち前の「歩くこと」を大切にしながら、経営の舵取りに向き合っていきたいと思う。
たった一人でも、このブログがゲーム依存症の方の抜け出すきっかけになったら嬉しい。
日曜の早朝
リビングにて
(これから散歩に出かけます)
