comprising/wherein/configured to 等の用語の明細書での使用 | The U.S. Patent Practice

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米国での特許実務に役立つ情報を発信しています。

先日、日本の実務家の方から、以下のようなご相談を受けました。

 

「米国代理人から、明細書中の comprise や wherein といった表現は、すべて include や in which に置き換えるように言われた(が、翻訳者や実務担当者に無用な労力をかけさせたくない)。本当のところはどうなのか。」

 

私は、日本からの出願で、クレームのコピーを要約 (Summary) として明細書中に記載する分には、特に気にする必要はないと考えています。

 

まず、明細書では、Abstractを除き(以下参照)、特定の法律用語/クレーム用語を使用してはいけないといったルールはありません。

要約は物語形式で、通常は1段落に限定し、50~150語程度の長さが望ましい。要約は15行を超えてはいけない。15行または150語を超える要約は、開示内容が許す限り簡潔になっているか確認する必要がある。特許請求項でよく使用される "means"や "said"といった形式や法的表現は避けるべきである。要約は、読者が詳細について特許全文を参照する必要があるかどうかを判断する上で役立つよう、開示内容を十分に説明する必要がある。

MPEP 608.01(b) - Abstract of the Disclosure (Google Translate)

 

米国代理人が気にしているのは主に以下の2点だと思います。

  1. 裁判におけるクレーム解釈への影響の可能性:クレームにおけるcomprisingという表現は、open-ended、すなわち列挙されていない要素の存在が許容される表現だが、明細書中でこの表現を使用しつつ、他の要素の存在を許さないような記述があった場合、そのような記述を根拠に限定的に解釈される可能性がある
  2. そもそも使用する意義なし:当業者視点で記述すべき実施例において、あえてincludeの代わりにcompriseを使用したり、in whichの代わりにwhereinを使用したり、the の代わりにsaidを使用したりする理由がない

それはそうなのですが、冒頭で前提をおかせていただいたように、日本出願を基礎とする米国出願(すなわち翻訳文)では、 comprising や wherein の使用は、Summaryセクション、すなわちクレームのコピーとしての使用に留まるものと思います。

 

クレームの単なるコピーとして使用されるのであれば、限定的解釈の余地はありません。もし限定的解釈の理由があるとすれば、それは明細書中の他の記述か、クレームの文言自体の問題となります。従って、翻訳文作成時や米国出願時、comprising→including, wherein→in which, said→theといった、表現の形式的な修正のためだけにコストや労力を払う価値はないというのが私の考えです。(それよりクレームそのものを直すべき!)

 

関連して、クレームでよく使用される configured toといった表現も修正すべきという代理人もいるようです。

 

確かに、実施例では機能を具体的に記述すべきところ、主体と動詞の間にconfigured toを置く理由はありません。通常、configured toは使用せず、ダイレクトな表現にします。 (例:the device is configured to transmits a signal to . . . )

 

一方で、日本からの出願という観点から、この表現の修正のためだけに割く労力が、得られるメリットを上回るかというと、微妙な気がします。(全ての動作にconfigured toがついているなどの極端なケース除く)

 

米国のアトーニーは、皆言うことが違うというぼやきをよく耳にします。私も、アソシエイトとして多数のアトーニーに従事した経験から、完全に同意いたします (もちろん「皆」ではないです)それってあなたのスタイルですよねと思ったことは少なくありません。もし何か影響の大きな修正提案をなされたら、生成AIに質問しつつ、その根拠について問いただしてみるとよいと思います。

 

関連エントリ:thereofなどの表現をクレームで使用することについての記事です

 
関連エントリ:comprising v. including (クレームと明細書中での使用)