Abstractに関するエントリで、"comprise" は法律用語 (legal phraseology)であるため、Abstractでは "include" に置き換えるという例をご紹介しました。
それでは、クレームの移行句 (transitional phrase、プリアンブルと本体との間に置かれる語) でこれらの用語が使用されたとき、法的な解釈の違いはあるのでしょうか。
結論ですが、法的な違いはないとされており、どちらで記述しても、内包される要素以外の要素の存在を許容する、いわゆるオープンエンド型の表現を指すことになります。
1. A composition comprising (including) A, B, anc C.
→ A, B, C, Dからなるcompositionも権利範囲に含まれる
では、クレームをドラフトする際、好みで選んでよいのか?と言われると、多くの実務家は "comprising" の使用を勧めると思います。これは、Abstractでは "comprising/comprises" が法律用語として記載を許されないにも関わらず、"including/include" では問題がないことにも関係します。すなわち、前者は、オープンエンド型の表現として、多くの審査や裁判を経てその意味が法律上確立されているとまで言えるのに対し、後者はそこまででもない、ということになります。
"including", "containing", または"characterized by"と同義である移行語 "comprising"は、包括的 (inclusive)または制限がなく(open-ended)、追加の、列挙されていない要素または方法のステップを除外するものではない
Gillette Co. v. Energizer Holdings Co. (Fed. Cir. 2005)
. . . 本裁判所は . . . "comprising ... a group of first, second, and third blades" という表現が、4枚刃の安全カミソリ(QUATTRO®など)を包含できるのか、それとも3枚刃の安全カミソリのみに限定されるのかを判断する必要がある。以下に説明するように、本裁判所は、請求項1が、. . . 「オープン」なクレーム用語を使用して、3枚刃のカミソリ以外の主題を包含していると判断する。
"including"が"comprising"と同義であることを判示した事件もご参考までに載せておきます。
Lucent Techs., Inc. v. Gateway, Inc. (Fed. Cir. 2008)
本裁判所は、"including"と"comprising"は一貫して同じ意味を持つと解釈しており、つまり、列挙された要素(すなわち、方法のステップ)は必須であるが、他の要素が追加されてもよいと解釈している
実務家が "comprising" を推すからといって、これまでに使用してきた "including" をすべて修正するほどの問題ではないと思います。しかしながら、新たにクレームをドラフトするのであれば、どちらを使っても同じ意味なのですから、より法的地位が確立されている "comprising" を使用することをお勧めします。
なお、移行句としてではなく、クレーム本体においてこれらの用語が使用された場合の意味解釈についても、基本的には同様の考え方となります。ただ、クレーム本体においては、移行句 "comprising" のあとに、さらに "comprising" (comprises)と続けると文体的にぎこちくなく読みにくいため、"including" (includes) を使用する実務家が多いように思います(私もそうです)。
"comprise"、"include" いずれを使用するにせよ、最も気を付けなければならないのは、明細書で矛盾する記載、すなわち、列挙した要素以外の要素を排除するような記載をしないことになります。明細書中でも、一貫してオープンエンド型で記述し、効果の記載によって要素が限定されないように気を付ける必要があります。
出願人によっては、以下のような定型文を入れているところもあります。あえて定義しなくても、矛盾した記載をしなければよいのですが、他の定型文に追加しておいてもよいかもしれません。
It will understood that the terms "contains", "containing", "includes", "including," "comprises", and/or "comprising," and variations thereof, when used in this specification, specify the presence of stated features, integers, steps, operations, elements, and/or components, but do not preclude the presence or addition of one or more other features, integers, steps, operations, elements, components, and/or groups thereof.