今回は要約 (Abstract) に関してよくある形式的な要件違反の例のご紹介です。
とはいっても、図面(過去のエントリ「よくある図面の形式的な誤り6選」)ほど項目がないので、要約の基本的な役割を最初にまとめておきたいと思います。
要約の目的は、特許庁および一般大衆が、ざっとした検査 (cursory inspection) で開示された技術の性質と要点を迅速に判断できるようにすることである。
施行規則上このような目的はありますが、実務上、最も広い独立クレームから改行やタブ・インデントなどを取り除き、一文の形式にして作成することがほとんどだと思います。
要約は、審査段階においてクレーム解釈に用いられることはありませんが、訴訟段階では内部証拠 (intrinsic evidence)として参酌される可能性があります。
当裁判所は、発明の範囲を決定するために要約を頻繁に参照してきた。・・・クレームの意味に関して潜在的に役立つ内部証拠 (intrinsic evidence) の情報源を無視することを要求する法的原則は認識していない。
Hill-Rom Company, Inc. v. Kinetic Concepts Inc. (Fed. Cir. 2000)
従いまして、要約書には、クレーム1をより限定するような文言を含まないようにします。
さらに、MPEPは、効果や先行技術との対比の主張をするような文言は、要約に含めてはならないと規定しています。
要約では、発明の主張される利点や推測的な応用について言及したり、発明を先行技術と比較したりしてはならない。
諸々勘案し、結局、余計な文言は入れず、独立クレームのコピーを機械的に作成することになるわけですが、そのようにして作成した要約に関し、よく目にする形式的要件違反の例を挙げておきます。
(1) 法律用語 (legal phraseology) の使用
典型的な例を以下に列挙します
- means (for): 第112条(f)による解釈を適用するために使用される特別な語
- 対策1:動作主体を、複数のmeansから一つのprocessorかcontrollerに変更し、各機能をthat + 動詞の形で書き直す(第112(f)を意図的に使用するのでなければ、クレームの方をこのように書きかえるのが先ですが)
- 対策2:機械的にmeans forをunit that などにする(サポート注意)
- said: 「前記」の意味で使用。
- 対策:theで置き換える。
- comprising, consisting of, wherein: 移行句
- 対策:including, having に置き換える。
- whereinは、単に削除して、その前後で文章を分ける。カンマで区切られた後続の限定も、すべて独立した一文に直す。whereinをin whichに置き換えてもよいが、複数の文に分けたほうが可読性が上がり、ワード数も節約できる(一単語だけですが)
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ご参考までに、関連するエントリへのリンク:「comprising/wherein/configured to 等の用語の明細書での使用」
(2) 文字数オーバー
要約 (Abstract) は、開示内容が許す限り簡潔に記述する必要があるが、150語 (words) 以内が望ましい。
クレームが長い場合、対応に苦労することにある要件です。要約では、クレームほど明確な文言が求められませんので、3単語や4単語に及ぶ長い名前の要素名を削ったり、あまり重要でないと思われる限定をばっさり落としたりして対策します。ちなみに、150語を超えていても指摘されないこともあります(とはいえそれを期待するのは好ましくないです)。
(3) クレームと要約が同一紙面に存在する
翻訳作業の後、特に体裁を整えない場合に、このようなスタイルとなっていることがあります。また、出願後に要約の補正を行う場合についても同様に、応答書や補正クレームから独立した紙面で行う必要があります。これは米国代理人がケアすべき内容ではありますが、ご参考まで。
要約は別紙に、できればクレームの後に "Abstract" または "Abstract of the Disclosure" という見出しを付けて記載する必要がある。要約を記載する用紙には、出願の他の部分やその他の資料を含めることはできない。
(今日のブログの文章を表す画像 by Gemini)