クレーム用語の明細書での使用の是非についてのエントリに続き、日本の実務家の方から質問を受けた、ターミナルディスクレーマー (terminal disclaimer) の取り扱いについて、まとめておきたいと思います。
ターミナルディスクレーマーとは、特許または付与予定の特許の所有者(全体または一部)によって提出される声明であり、特許のすべてのクレームの全期間の一部を放棄する (disclaim) ために使用される。
MPEP 804.02 Avoiding a Double Patenting Rejection
自明型ダブルパテント※ (Obviousness-type Double Patenting) の拒絶を解消する手段として用いられるターミナルディスクレーマーですが、これを提出することによるデメリットは広く知られるところだと思います。
A出願 (A特許) を根拠に B出願 がODPで拒絶され、A出願(A特許)に対するターミナルディスクレーマーを提出し、B出願がB特許となる場合:
・特許Bの存続期間が特許Aと揃えられる。Patent Term Adjustment による延長期間も放棄 (In re Cellect (Fed. Cir. 2023/8/28), 過去のエントリ)
・特許Bは特許Aと同時に所有している間のみ権利行使可能 (分離して所有されている期間は権利行使不可)
・ターミナルディスクレーマーは取り下げ不可
ここで、実務家から受けた質問というのは、特許Aが何らかの理由で特許Bが無効とされた場合、特許Bは無効となるのか?という内容でした。
この質問は、2024年にUSPTOが提案したルールにも基づくものと考えられます (Federal Register)。
提案された規則では、ダブルパテントを克服するために、特許権者は、ターミナルディスクレーマー付きの特許が、先行技術に対して最終的に特許無効または無効と判断された特許に1つ以上のターミナルディスクレーマーを通じて結び付けられておらず、かつ結び付けられたことがない場合にのみ、権利行使可能であることに同意する必要がある
ただ、この提案は正式に取り下げられています(Federal Register)。特許の有効性はクレームごとに判断されるべきであり、例えば、特許Aを無効にする引例があったとしても、これが特許Bを必ずしも無効にするとは限らないといった反論がなされたようです。
現状、一の特許が無効になったら、ターミナルディスクレーマーで関連付けられた他の特許も自動的に無効になるというルールはありません(同じ引例で有効性が争われ、結果として無効になる可能性はあります)。従いまして、現状、自動的な共倒れのリスクを危惧してターミナルディスクレーマーの提出を躊躇する必要はありません。
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※発明者または出願人が共通し、クレームが同一の場合には法定型ダブルパテント (Stuatutory Double Patenting)の拒絶理由が通知され、クレームが同一でないものの、一方のクレームに記載された発明に基づき他方のクレームが自明である場合には自明型ダブルパテントの拒絶理由が通知される。前者の拒絶理由はターミナルディスクレーマーの提出では克服できない。後者の拒絶理由に対してとれる対応は、(1)反論(2)補正(3)ターミナルディスクレーマー提出の三つ。
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