thereof/therefor/thereto as legalese (法律用語) | The U.S. Patent Practice

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legalese とは、「(専門家にしか分からない)法律用語」(英辞郎)を意味します。

 

クレームの中で、thereof や therefor、他にも thereto や thereat といった表現を見かけることがあると思います。

 

基本的に、of/for/to/at + that (前に記載した何かを指す) と同義になります。

 

例)polymers and derivatives thereof (ポリマーおよびその誘導体)

 

例)a composition containing ingredients A, B, C, or combinations thereof (成分A、B、C、またはそれらの組み合わせを含む組成物)

 

このような化学・薬学の成分を記載するような文脈で、その何かが明らかな態様で記載されていれば問題ありません。

(なお、combinations thereof というのは定型文のようになっており、これがない場合には組み合わせが権利範囲に含まれないことになります Abbott Labs. v. Baxter Pharm. Prods., Inc. (Fed. Cir. 2003) )

 

問題となるのは、その何かが明確でない場合となります。

 

例)a processor, a memory, and a controller therefor 

 

Google Translateに翻訳させると、「プロセッサ、メモリ、およびそれらのコントローラ」となりましたが、これは正しいでしょうか。このコントローラは、直前のメモリのコントローラなのか、さらに前のプロセッサのコントローラなのか、あるいは両方のコントローラなのか、曖昧です。したがって、審査の段階でこのようなクレーム表現を使用すると、権利範囲が不明確とされ、第112条(b)の明確性要件違反で拒絶されることとなります。

 

一方・・・

 

例)a holder and a cover therefor (ホルダーとそのカバー)

 

このような使用方法であれば、関係性が明らかなので、問題はありません。

 

・・・しかしながら、実際、クレームで様々な限定を記述していくにあたって、上のようにシンプルな表現のみが含まれることは稀で、要素の前後関係が複雑になってくると、曖昧さが生じる可能性があります。

 

審査官によっては、関係が前後関係から明らかなようにみえても、このthereofといった文言(の解釈の幅)に反応して、オブジェクションや112条の拒絶を出してくる方もいます。

 

結局のところ、省略せずに a holder and a cover for the holder などと書き下せばよいのだから、ドラフティングの作法としては、原則としてthereofなどの使用は避けるべき、というのが現在の一般的なプラクティスだと思います(上述のように、複数の成分の組み合わせを記述する場合を除く)。

 

ただ、場合に応じてこの "legalese"を使う人もいるとは思います。かくいう私も使っていた時期がありましたが、今は改心(?)しています。長い構成要素の繰り返しで、クレームが長く冗長にみえることもありますが、そのこと自体が問題となることはないですし、むしろ無用な争点をなくすという観点から、メリットしかないかなと思っています。