Longitude Licensing Ltd. (特許権者) v. Google LLC (Fed. Cir. 2025/4/30) <Nonprecedential>
昨日出た特許適格性に関する判決です。LongitudeがGoogleを特許侵害で訴えたところ、地裁はその特許が特許適格性を欠く(抽象的アイデア)として訴えを却下したため、Longitudeが控訴した事案となります。CAFCは、地裁の判断を支持しました。
Nonprecedentialのため、簡潔にメモしておきたいと思います。
判決文原文
https://www.cafc.uscourts.gov/opinions-orders/24-1202.OPINION.4-30-2025_2506816.pdf
代表クレーム:U.S. Patent No. 7,668,365
32. An image processing method comprising:
(a) determining the main object image data corresponding to the main object characterizing the image;
(b) acquiring the properties of the determined main object image data;
(c) acquiring correction conditions corresponding to the properties that have been acquired; and
(d) adjusting the picture quality of the main object image data using the acquired correction conditions;
wherein each of the operations of the image processing method is executed by an integrated circuit.
短縮訳:(a)画像内の主要なオブジェクトに対応するデータを特定し(b)そのデータのプロパティ(特性)を取得し(c)そのプロパティに対応する補正条件を取得し(d)その補正条件を用いて主要なオブジェクトの画質を調整する画像処理方法。
例えば、以下の図 (Fig. 4) の顔に相当する部分が主要なオブジェクトとなり、その部分のみの画質が色などの特性にあわせて修正されるソフトウェアの発明となります。
Aliceテスト
クレームが特許適格性を有するか否かを判断するため、当裁判所は2段階のAliceフレームワークを適用する。
・・・
第1段階では、「問題となっているクレームが、特許適格性を有しない概念のいずれか(筆者注:自然現象、自然法則、抽象的アイデア)に向けられているかどうかを判断する。
・・・
第2段階では、「各クレームの要素を個別に、また『順序付けられた組み合わせとして』検討し、追加の要素が『請求項の性質を』特許対象とする応用へと変換するかどうかを判断する。
(判決文の一部の意訳)
第1段階についての判断
当裁判所は、データの整理、変更、または操作のみを目的とするクレームは特許適格性がない、と繰り返し判示してきた (Broadband iTV, Inc. v. Amazon.com, Inc. (Fed. Cir. 2024) )
・・・
新たなデータと汎用的なコンピュータ部品を使用して、長年の活動や精神プロセスを単に実装し、これらの構成が実際にクレームされた改善にどのようにつながるかについての説明を欠くクレームは、同様に特許を取得できない抽象的なアイデアに向けられたものである (Trinity Info Media, LLC v. Covalent, Inc. (Fed. Cir. 2023))
(本判決文の一部の意訳)
また、CAFCは、特許適格性が認められなかった2つの事例を挙げ、本件がそれらのケースと類似していると述べています。
1. Hawk Technology Systems, LLC v. Castle Retail, LLC (Fed. Cir. 2023) (以前、研修会やYouTube動画で説明させていただきました)
この事例では、デジタルビデオの受信、表示、変換、保存、および送信ステップを含む方法が、「結果に基づく機能的な言語 (result-based functional language)」で単に記述されているに過ぎないと判断されました。クレームには、パラメータ (parameter) という技術用語が含まれていたものの、クレーム上で、パラメータがどのように使用されて技術的な改善効果につながるのか具体的に表現されていなかったため、発明が抽象的なアイデアに向けられていると判断されました。
本件においても、画像処理がどのように改善されるのかがクレーム上で具体的に示されていないため、発明が抽象的アイデアに向けられていると結論付けられました。
2. Recentive Analytics, Inc. v. Fox Corp. (Fed. Cir. 2025/4/18) (こちらは本ブログでご紹介しました)
こちらのケースは、既存の機械学習モデルを、ライブ番組のスケジューリングに適用し、最適なテレビプログラムを生成する発明に関するものでしたが、CAFCは、既存技術を新しい領域に適用することにより技術的な改善がもたらされるという控訴人の主張を退けました。
本件において、Longitudeは、新しいデータ、すなわち主要なオブジェクトのデータとそのプロパティの利用によって技術的改善がもたらされると主張していましたが、CAFCは、Recentiveの件と同様にこれを退け、「クレームが単なる概念を機能的に説明しているに過ぎず、その概念がどのように実現されるかが開示されていない」と述べました。
第2段階についての判断
一連の補正条件に従ってメインオブジェクトの画像データのプロパティを調整することは、上記のステップ1で特定したように抽象的なアイデアである。これらの要素は、「そのアイデアをはるかに超えるもの」に変換することはできない。Broadband iTV, Inc. v. Amazon.com, Inc. (Fed. Cir. 2024), BSG Tech LLC v. Buyseasons, Inc. (Fed. Cir. 2018)
---判例紹介ここまで---
本件において発明が特許適格性を欠くと判断された大きな要因は、(いつものように)技術的改善(本件では画質向上)をもたらす特徴そのものがクレーム上で具体的に記載されていなかったことになります。上のクレームでは、主要なオブジェクトの画像データのプロパティまで言及されているので、それを使って具体的にどう画素値を変更するのか(例えば、主要なオブジェクトの部分だけの画素値に基づいて何らかの計算をし、それに基づいて各画素値を修正するする?)まで記載されていれば、もしかしたら 抽象的概念の枠を超えられたかもしれません。
ちなみに、今、上述のクレームのままで出願したら、間違いなく101条の拒絶を受けることになると思います。