Recentitive Analytics, Inc. (特許権者) v. Fox Corp. (Fed. Cir. 2025/4/18) <Precedential>
判決文原文
https://www.cafc.uscourts.gov/opinions-orders/23-2437.OPINION.4-18-2025_2500790.pdf
まず最初に、判決文の結論からの抜粋です。
機械学習は急成長を遂げ、ますます重要になっている分野であり、特許取得可能な技術の改良につながる可能性がある。本日、当裁判所は、汎用的な機械学習を新しいデータ環境に適用することのみを主張し、適用される機械学習モデルの改良を開示していない特許は、§101に基づき特許不適格であるとのみ判断した。
(Google Translate + Post-editing)
本件は、機械学種を使用して、多数のテレビ番組(主にスポーツのライブ中継)をどの放送局で流すかを動的にスケジューリングする発明に関する特許について、101条の特許適格性がないと判断された事案となります。
1つ目の発明:機械学習のトレーニングに関する発明 (US Patent Nos. 11,386,367 and 11,537,960)
(i) 収集ステップ(イベントパラメータと目標(参加者最大化、利益、チケットセールス等)の受信)
(ii) 機械学習モデルの反復的なトレーニングステップ(データ内の関係性の特定)
(iii) 出力ステップ(目標に応じて最適化されたスケジュールの生成)
(iv) 更新ステップ(データ入力の変更を検出し、さらに最適化された新しいスケジュールを反復的に生成する)
2つ目の発明:学習データを使って番組プログラム (network map) を最適化する発明 (US Patent Nos. 10,911,811 and 10,958,957)
(i) 収集ステップ(現在の放送スケジュールを受信する)
(ii) 分析ステップ(プログラムを作成する)
(iii) 更新ステップ(データ入力へのリアルタイムの変更を組み込む)
(iv) 使用ステップ(最適化されたネットワークマップを使用して番組放送を決定する)
どちらのクレームも長いので、ここでは省略します。機会を改めて文言ベースの分析もしてみたいと思います。
両発明ともに、機械学習技術そのものをクレームしたものではなく、これを特定のアプリケーション領域(テレビ番組のスケジューリング)に適用したものとなります。
Mayo/Aliceフレームワーク
Alice判決に基づき、裁判所は§101に基づく特許適格性を判断するために2ステップの分析を行う。
「まず、問題となっているクレームが特許不適格概念 (筆者注:自然法則、自然現象、又は抽象的概念) のいずれかに向けられているかどうかを判断する。」
クレームが特許不適格概念に向けられている場合、裁判所は「各クレームの要素を個別に、そして『順序付けられた組み合わせとして』評価し」、それらが「実質的に当該特許が[特許不適格概念]自体に対する特許よりも著しく高いものとなることを保証するのに十分な」発明概念を有しているかどうかを判断する。
(判決文より抜粋、Google Translate with post-editing)
CAFCによる第1ステップに関する判断
裁判所は、本発明が、機械学習技術そのものに関する発明ではなく、従来からある (conventional) 汎用的な機械学習技術を使用してテレビプログラムを生成するものである点に着目し、明らかに特許適格性のない抽象的概念に向けられたものであると述べています。
また、裁判所は、学習モデルの反復的なトレーニングとリアルタイムでの動的な調整は、機械学習の本質そのものであり、何ら技術的な改善 (technological improvement) をもたらすものではないと述べています。
本発明は、既存の機械学習技術を、従来人の手によって行われていたテレビ番組のプログラムの作成と最適化という新しい環境 (new environment) で利用したに過ぎないとされ、そのような使用によって抽象的なアイデアが非抽象的なものになることはないと判断されました。
当裁判所は、長年にわたり、「抽象的アイデアは、発明を特定の使用分野または技術環境に限定することによって非抽象的になるわけではない」ことを認識してきた。Intell. Ventures I LLC v. Capital One Bank (USA), 792 F.3d 1363, 1366 (Fed. Cir. 2015)
(判決文より抜粋)
裁判所は、上述の人の手によって行われてきた作業の高速化・効率化は、コンピュータの利用によってもたらされるものであり、特許適格性を生むものではないと指摘しています。
当裁判所は、コンピュータ支援方法 (computer-assited methods) の文脈において、そのようなクレームは、単に人間の活動を高速化するという理由だけで、特許法第101条に基づく特許適格性を有しない、と一貫して主張してきた。
CAFCによる第2ステップに関する判断
第1ステップに比べて、第2ステップにおける判断は簡潔です。
クレームの性質を「特許適格性のある応用 (patent-eligible application)」に変換するには、単に抽象的なアイデアを述べて「それを適用する」という言葉を付け加えるだけでは不十分である。
従って、上述の2つの発明に関するクレームのいずれも、機械学習の応用によるテレビプログラムの生成という抽象的なアイデアを「はるかに超える」ものに変えるようなものではない、との判断がなされました。
-判例紹介ここまで-
機械学習を特定分野で利用した特許発明については、既にかなりの数の出願がなされていると思います。特許適格性判断の文脈においては、とある分野における機械学習モデルの利用による人的作業の効率化を主張するべきではなく、学習モデルの改善そのものを主張する必要があります。ここで、学習モデルの改善とは、既存のモデルに対してデータを入力して内部の重み付けパラメータなどのチューニングを行うことではなく、モデルそのものの改善のことを指します。
「本発明において、既知の任意の機械学習モデルを使用することができる」という文言が詳細な説明として適合するような発明には、本事件の判断が適用可能で、適格性のハードルを乗り越えることが難しくなる可能性があります。
今後、審査がどのようになるかわかりませんが、仮に本事件のような理由によって101条の拒絶を受けた場合・・・なかなか厳しいですが、機械学習の利用そのものにはフォーカスせず、モデルへのデータ入力前後の特徴、あるいはその特徴と学習モデルの利用とを組み合わせた特徴で、これらを実行するシステムのパフォーマンスの技術的改善を主張するしかないと思います。
この判決を受け、特許庁が何らかの審査ガイドラインを出すかどうか、今後も状況をモニタしておきたいと思います。