クムイウタ/Cocco
¥3,045
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概要: 1998年発表の、Coccoの2枚目のアルバム。Coccoの言わば出世作である「強く儚い者たち」や「Raining」といったシングルを収録しており、Coccoの発表したアルバムの中では2010年現在最高の約88万枚の売り上げを記録している。
総論:
個人的に、初めて聴いたCoccoのアルバムです。ゆえに思いも深いのですが、前作「ブーゲンビリア」もなかなかの良作だったと思っていますが、この作品はいい意味での初期の強いアクと、その後のメロディアスな両方を併せ持つ 稀有な作品だと思います。
Coccoというアーティストを語る上では、その歌詞に注目しがちですが、それは一旦置いておいて(笑)、今回は(というか今までどおり)、アレンジや曲に関しての感想を語りたいと思います
もちろん、Coccoの書く歌詞は、それだけで共感を得たり、何かしら感じるものがあったりするくらい人々を惹きつけるものを持っていると思うのですが、少なくともこのアルバムを聴く限り、それプラス、アレンジの巧さ が際立っているように感じます。
さらに、そのアレンジは、Coccoの歌の世界観や歌声を壊すことなく、むしろそれらをスケールアップさせている大きな要因だとも思うのです。
そう、このアルバムはオバケアルバム です。
抄説: ★は5つが満点で☆は0.5点。さらに違う色のタイトルにクリックしていただくと偏狭な思い入れの記事に飛びます。
1.小さな雨の日のクワァームイ ★★★
いきなり度肝を抜くアカペラ。1分少々の短い歌です。
この頃のCoccoの歌は、歌詞からも分かるとおり、割と激情型雰囲気を醸す歌が多かったように思いますが、この歌は
子守唄のような安らかな声 で歌われます。
アルバムのタイトル「クムイウタ」は琉球方言で「子守唄」だそうなので、それにぴったりです
2.濡れた揺籠 ★ ★☆
ほーら来た、
ロックテイスト 。1曲目の雰囲気をいい意味でぶち壊します。
Coccoのサウンドの特徴の一つとして、
Aメロ(もしくはBメロまで)極力抑えられていて、サビで爆発 って歌が良くあります。
特にこのロックCoccoではそれをよく感じます。たとえば「けもの道」や「星に願いを」など。
この歌も例外ではなく、ゆっくりめのテンポで、Aメロがドラム押しでつなぎでベースとエレキギターが加わる感じ。
決してロック向きの声だとは思わなかったのだけれど、久々に聴いてみると、なんかかっこいいんだよなぁ。
アレンジの上手さでしょうかね
2番のサビ、ベースがウニウニと、これまでのラインとは違うように動きます。
アレンジとプロデューサーはベーシストとしても活躍されている根岸孝旨さん。やっぱりベーシストがプロデュースしていると、ベースとドラム隊が面白いです。
椎名林檎さんの亀田誠治さんしかり
3.強く儚い者たち ★★★★★
「儚い」って「人の夢」って書くんですね・・・なんか物思う深さです。
それはさておき、この歌は放棄したくてもできない部分を指摘しておかねばなりません。
その歌詞
明るい曲調ながら、受け止めたくないかもしれないありがちな現実を、
おとぎ話の人魚が語りかけるように 歌われます。
最初にこの歌詞を見たとき、
Mr.Childrenの「ゆりかごのある丘から」 を想像してしまいました。
しかしあれはマイナーな曲調なのに、こちらは明るめ。
こういった人間の弱さと強さと儚さをある意味で賛美・認めているようで、なかなか熱いです。
なぜだかこの歌を聴くと、沖縄の青い海と島を感じさせます。
アレンジの妙でしょうか。ただ、この曲、Cocco作曲じゃないんですよね。。。うーん、でもCoccoだ。不思議だ
あぁ、語ることが多いので、これはこれだけに限って
のちのちぐちぐち語りたい と思います。
4.あなたへの月 ★★★☆
ピアノとともに、ギターのうなる音、声とともに太いベースと乾いたドラム。
しかし、壊れるようなロックではなく、
割とメロディアスな感じが好き です。
こちらも先述したように、Aメロは控えめで、エレキギターの音がなかなか聴こえてきませんが、その代わり
アコースティックギター がほぼ16分音符でこれでもかといわんばかりに、しかし冷静にかき鳴らされています。
サビをはさんで間奏でもこのアコースティックギター、ソロのような扱いで、聞きほれる音なんだこれが。
一方のエレキギターですが、サビに入る3小節前のド頭からジャーンとコードを鳴らし、サビではアコースティックと同様、かなりいい感じで鳴っています。
サビの前にはピアノの上昇していくメロディで、サビへの盛り上がりに一役買いますが、かなりの高音なので、悲痛感があります。
2番は一旦静かになって、ストリングスのなにやら妙な動き。
しかし、2:37辺りからは
乾いたドラムと、同じコードでしばらく突き抜けるエレキギターが入ってくる とは
サビに入って、2回目の3:22からは
ピアノの踊るような音 が加わってさらにかっこよさを増します。
アウトロのCoccoの声。なんて綺麗なんだろう。たゆたう雰囲気が曲のガチャガチャといい感じに調和して、最後まで聞き逃せません。
5.Rose letter ★★★★
くせになるんです、この歌。
最初はたいして面白いとは思わなかったのに、音の盛り上げ方・使い方がよく分かる のです。
キーキー音の後、ドラムで始まり、歌が乗ってもそのままドラムのみでしばらく続きます。
2回目からはアコースティックギターが入り、さらに続けて1:32からは 「ヒコヒコ」という アコーディオンのような音が右耳に入ってきます。
間奏はくぐもったストリングス。
ラストからはアコースティックギターがより強めに感じられ、3:18からはアコーディオンにかぶさるかのごとくストリングスが「ヒコヒコヒコヒコ」と鳴り、ぐわーっと盛り上がると思いきや、しゅんと静まり返り、冒頭のキーキー音で終わるのです。
メロディ自体はサビがあるのかないのかよく分からない感じですが(失礼!)、
曲の盛り上げにより、かっこよさがあるのです。
6.My Dear Pig ★★★★
保育園でCocco先生が歌っている感じ です。「みんなのうた」ですね。
にしても、アレンジ面白いなぁ。
だって、
豚っ鼻で4拍「フゴフゴ」 いった後、ピアノに乗せて優しい歌声で物語が始まるんですよ
歌詞はなんとなく
映画『ベイブ』のホゲット夫人の気持ち を歌っているみたいです(笑)
間奏はこれまたかわいいリコーダー。
多種多彩ですね。
7.うたかた ★★★
またまた面白いアレンジ。
ここまで聴いてきて、アカペラありロックありポップスあり童謡ありのアレンジの楽しさ。
そしてここへ来て
ストリングスのみの伴奏 です。
このストリングスの生音感、すごく素敵なんだよなぁ。Coccoの歌声ともよく合ってるし。
特に、伸びやかで切なげなその歌声と、ヴァイオリンがよくマッチしているんです。
例えば、3:17のアウトロで、Coccoが「ん~♪」ってハミングでかぶせているんですが、よく合ってるんです。
そういえば、Coccoって、なんか素朴な歌声だなぁと思っていたんですが、実はこのアルバムを聴く限り、
ほとんどビブラートを使ってない 気がします。
だから、技巧派の歌い手っていうよりも、胸にささる感情的な歌い手っていう感じがするのかなぁ。
8.裸体 ★★
実のところ、
さほど重たいCoccoは好きじゃない んです。
この歌ではアルバム初めましての
叫び が聴けます。
この曲がなんだか不気味だなぁと思っていたら、何よりもベースが「ボッボッボー」って全然感情ない感じで演奏されているんですね。
これもアレンジの巧さなんだろうけど、個人的には飛ばしてしまいがちの、箸休め的な歌になってます。
9.夢路 ★★☆
前奏やAメロはなんだかメロウな感じで好きなんですけどねぇ~。
サビがなんとなくパッとしないと思ってしまって 、星は低めです。
同系統の歌に、のちにリリースされる「水鏡」などがあると思うのですが、これらの完成度が高いと思ってしまって、比較すると、この「夢路」は印象が薄いです。
しかし、こういったわりと奇をてらわないアレンジと、標準的な楽器編成は、このアルバムではなかったので逆に新鮮です。
ただ、
間奏のソロ、 ヴィオラかな
これ1本だけでラストのサビまで音が入ってくるので、面白いです。
10.SATIE ★★★★
3拍子の歌って、このアルバムでは初でしょうか。
3拍子で有名なのは、ワルツですが、
ワルツのような華やかな感じでは全然なく、むしろ静かで物憂げな歌 です。
切ない3拍子もなかなかのものです
ブラシを使ったドラム、アコースティックなギターとベースは、人間的で、非常に生きたものを感じます。
間奏はマリンバ で、だんだん盛り上がるCoccoの歌声にかぶさるようにマリンバも、そしてアコースティックギターも盛り上がっていきます。
そして最後は余韻を残して終わる。
11.Raining ★★★★☆
前曲の余韻を残しつつ、ふと目が覚めるようなアコースティックギターの一打ちから始まる、名曲です。
この歌の面白いところは、サビが2回ある といいましょうか。
サビで盛り上げた後、一旦テンション落として、再び盛り上がるっていうサビが印象的です。
さらに、これまでにも増してそのアレンジが(特に音の厚みが)これでもかっ
というくらいに発揮されています。
順を追っていくと、
1番
Aメロ:アコギのみ
Bメロ:+2小節3拍目のみタンバリン
サビ前:+エレキピアノ
サビ:+コーラスとやわらかいエレキギター(右耳)
しずまったサビ:+フルート(ピロピロ)
間奏:+ベースとドラム
2番
Aメロ・Bメロ:バンド+エレキピアノ
サビ:+より大きなアルペジオのエレキギターと控えめなコードを奏でるエレキギター
しずまったサビ:ハーモニクスを使ったギター
もう1回サビ:コードを奏でるエレキギターが強めに演奏され、ストリングスも加入
何本ギター使ってるんだい
さらに
楽器の厚みだけでなく、その使われ方にも凝り が。
特にアウトロなんですが、
ストリングスの「たーららららーららららー」と、Coccoの「トゥルールルルー」というハミングが追いかけっこしている風で、
さらにその上にかぶさるように4:21からはコーラスの
ベルトーン
ベルトーンとは、和音を一気に鳴らすのではなく、単音で音を鳴らしながら、次第に和音となる音が拍をずらして奏でられる演奏方法ですが、ここでは「アーアーアーーアー」とコーラスでベルトーンが使われているのです。
個人的にベルトーンは好きなので(Perfumeでも使われています)痺れます。
さらにそれだけではなくて、4:45あたりからはベースが高音でメロディアスな動きをはじめます。
もう、脳が揺れます。
この歌は、ぜひ大音量でヘッドフォンで、最後の最後まで聴いてほしいです。
最後のサビからの解放感ったらないですから
12.ウナイ ★★★★
大曲のあとは、若干エフェクトをかけたピアノで始まる、
雄大でゆるやかなエンディングを飾る歌 。
6/8拍子でしょうか?
ゆるやかとは言っても、Rainingのような音の重厚感は十分感じられます。
前曲のようなコーラスに守られながら、歌われます。
1番が終わりその途中、
間奏ではオーボエ がソロを担当し、アウトロまで、その切なげな音色は奏でられます。
和製(沖縄製?)エンヤ のような想像をしてしまいます。
サビらしいサビがないんだけれども、それでも一つの名曲を作り上げてしまうアレンジには脱帽です